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第3章 人と人とが行き交う街 アザレア
3-18 あわあわ! パニック
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――雲一つない、月明かりが美しい夜空。
夜空に吸い込まれるように垂直に立ち昇るのは、密かに揺らぐ、一筋の光。まるで、シャボン玉の表面を虹色が覆うように、一筋の光も、時折虹のような光を放っている。
揺らぎは意識しなければ、星の光と思うかもしれない。産まれてからずっとアザレアに住むバルディでさえ、シャボンの実の存在に気づかないくらいなのだから、それは些細で軽微な揺らぎなのだろう。
偶然にも揺らぎを発見することができたミミリたちは、うさみの魔法、灯し陽の灯りと柔らかな月明かりを頼りに揺らぎの真下を目指している。
目的地は割とすぐ近くにある。
しかし、今のミミリは、それどころではない。
……ううう……。ど、どうしよう……。
ミミリは、身体のある部分にぎゅううううう~っと力を入れて、ただひたすらに耐えている……というよりは、願っている。
……ううう、ううう~。お腹、鳴りそうだよう。
ミミリは、お腹にギュッと力を入れて、空腹の時が過ぎ去るのを心の底から願っている。
思えば、身分証を受け取ってすぐに採集依頼に出発してしまったので、もう夜だというのに主だった食事といえば、酔い覚ましに飲んだレモン水だけだった。
……ううう。鳴らないで、鳴らないで~!
――ぐうううう~。
静かな森に響き渡る、お腹の音。
ミミリの歩みは、ピタリと止まる。
ゼラとうさみは、すかさずミミリのフォローに回った。
「お腹空いたよな、ミミリ。俺もお腹ペコペコだから、気にしなくて大丈夫だぞっ」
「まぁたゼラはストレートにっ。アンタは紳士的なフォローを学んだほうがいいって何度も言ってるでしょう? くまゴロー先生をお手本にしなさいって」
「……もん……」
「「ミミリ……?」」
ミミリは歩みを止め、俯いたまま顔を上げない。何やら少し呟いたようだが、消え入るような声なので何も聞き取れなかった。
審判の関所で見たいつぞやの光景と重なるが、異なる点はミミリの様子。恥じらいよりも、怒りが勝っているように見える。
「……わ、私のお腹の音じゃ、ないもん……」
「「エッ⁉︎ じゃ、じゃあ……」」
うさみとゼラは、気まずそうに小さく手を上げた犯人を見た。
「あ、ごめん、俺なんだけどさ。言うタイミングを完全に逃しちまって」
バルディは固まって動かないミミリを見て、冷や汗をかいた。温厚な子が怒るとこれほどまでに怖いのか、と思うほどにミミリから怒りの感情が溢れ出ている。
うさみは、サッとゼラの背後に回り込み、短い手でゼラのふくらはぎをギュッと掴んで、カタカタと震えている。
「もっ、もう、ゼラくんなんて! ゼラくんなんて~!」
「お、俺だけ⁉︎」
「ゼラくんなんて~!」
……ゴクリ。
思わずゼラは生唾を飲んだ。
審判の関所の時よりも怒っているミミリが言う言葉は一体何なのか。
もう嫌! なのか。大嫌い! とか?
どちらにせよ、ゼラは耐えられそうにない。
ミミリの発言を、ゼラだけでなくうさみも、そしてバルディも待っている。
緊張感あふれる場面でミミリが発したのは――
ーーきゅるるるる~!
お腹の音だった。
「ふっ、ふううう~……!」
ミミリはお腹を両手でぎゅうっと押さえ、ぎゅうっと口を結んでいるものの、行き場のない羞恥心が小さな泣き声とともに溢れてしまう。
「あわわわ、ミミリ、ごめんな、ごめん~!」
ゼラのフォロー虚しく、ささくれだったミミリの心は落ち着かない。
ぷるぷるのように、ふるふる震えるミミリをフォローしたのは、年長者のバルディだった。
「ミミリちゃんはお腹の音まで可愛らしいんだな。お姫様かと思ったよ。それに引き換え、俺のデッカイ腹の音聞いたろ? グオオオオオオオオー! ってさ。モンスターかと思っただろ?」
「ふふっ!」
まず、クスリと笑ったのはうさみだった。うさみは、バルディが創り出した雰囲気に隠れるのをやめ、ひょっこり出てきてミミリの胸に飛び込んだ。
「うさみちゃんのお腹も、きゅるるって鳴るんだろうな。お姫様たちはお腹の音さえ愛らしいからな」
「そうよん。きゅるる~って、まるで音楽を奏でるように鳴るのよん」
「ふふふ……。そうだよねえ。うさみのお腹の音は、とっても可愛いよね」
ミミリの心は、バルディの機転のおかげですっかり丸くなった。
「さあ、そうと決まれば早速採集作業だ! サクッと済ませて、美味しい夕飯、みんなで作ろうぜ!」
「そうね! そうしましょ~!」
和やかな場で、すっかり心の置いてけぼりを食らったゼラ。
「俺も、フォロー、したんだけどな……」
ちょっぴり拗ねたゼラの心は、ミミリの心優しいフォローだった。
「大丈夫だよ、ゼラくん。一生懸命励ましてくれようとしたの、わかってるよ。ちょっと、拗ねちゃってごめんね。お詫びに美味しいご飯、作るからね? 行こっ!」
ミミリはゼラの手を引いて、バルディの元へ足速に向かう。
うさみはミミリに抱かれながら、ゼラの表情に釘付けだ。
……幸せそうな顔しちゃって、まったく。
月明かりに照らされたゼラの顔は、お腹を鳴らして恥ずかしがるミミリと同じくらい赤かった。
◆ ◆ ◆
揺らぎを意識しなければ、この場所には絶対に訪れることはなかっただろうと思えるほどの、森の中とは思えない鋭角な谷の底に、この場所はあった。
揺らぐ虹の光の下、白い幹を彩る実。
見た目は赤く、まぁるい実。ミミリが手を伸ばせば実をもぎ取れるような高さの木に、鈴なりに赤い実はなっていた。
シャボンの実をつけた数本の木を隠すように背の高い木々が距離を空けて大きな円を描き囲んでいる。円の中央にあるシャボンの木は、周りを囲む背の高い木に邪魔されずに月の光を浴びている。
ミミリたちが眺める間にも、パチン、パチンと実は弾け、弾けたそばから虹を纏った幻想的な揺らぎが天を目指して立ち昇る。
「綺麗……!」
「ほんとだな」 「ほんとね……」
ミミリは幻想的な雰囲気を醸し出すシャボンの木に心を奪われながらも、採集作業の手順を頭の中で振り返っていた。
実はミミリは、初めてシャボンの木を目にするし、当然ながら採集するのも初めてだった。
今でこそ、冒険を楽しんでいるミミリだが、ゼラと出会う前は恐怖心もあって川向こうへなど行くことはできなかった。そのため、必要な錬金素材アイテムは主にアルヒが採集してきてくれるのが日常化しており、シャボンの実も例外ではなかった。
ミミリが考えている間にも、パチンと実は弾け、小指の先ほどに小さく白い実がポロポロと地へ零れ落ちてゆく。
「ミミリ、採集作業って俺でも手伝えるのかな」
「私は応援してるわん! 背が届かないし」
ミミリは、アルヒに聞いた手順を反芻しながら、確認も込めてアウトプットする。
「ええとね、確か、実をもぐ時には手のひらに魔力で薄い膜を作って……、そう、しずく草の採集みたいに。……じゃないと……」
「「じゃないと……?」」
「たしか、パァン! って勢いよく弾けて、辺り一面泡だらけになるんだって。たった1つの実が弾けただけでも、大変なことになるみたいだよ」
――パァン!
実が勢いよく弾ける音が、静寂な森に響き渡った。そしてたちまち、ぷくぷくと泡が増殖し、辺り一面に泡だらけの世界になっていく。
「あわわわわ~! 何だコレ! 泡だらけになっていくぞ!」
泡の世界の中心で、あわあわと慌てふためくバルディ。
思えばバルディはミミリたちの会話に参加していなかった。まるでミミリの話が前フリであったかのように、更に泡の世界は広がっていく。
「ひぃぃぃやぁぁー! 濡れる! 泡で毛が濡れるうううううー!」
「うっ、うさみ! 飛びつく場所を変えてくれ! うさみのお腹で前が見えない!」
「ひえええええスケコマシー!」
「いや、理不尽だろ……、と言いたいところだけどうさみのお腹すごくモフモフし……」
「闘神のじゅ……」
「ダメだうさみ! 重力魔法で俺が潰れたらうさみまで泡の中だぞ!」
「ひいいいいーやああああー! 助けてミミり~ん!」
うさみの悲痛な叫びに応えたいのは山々だが、ミミリは二次被害を防ぐのに手一杯だ。
「ごめんね、うさみ! 実が不自然に弾けてしまった場合は、同じ木になる実をもいでしまわないと残りの実も全部弾け……アッ! バルディさん! ストップ! ストップ~!」
「え……?」
ミミリの話を聞いて手伝わねばと残る実に手を伸ばした矢先、急に止められて驚くバルディ。
泡の世界の中心でミミリに目を向けたバルディは、静止した拍子でつるっと足元を泡に掬われ、止めたはずの指先がチョンッと実に触れてしまう。
「あ……」
「え……?」
――パァン!
――――――パァンッ!
――パァン!
一度弾けたシャボンの実は止まるところを知らず、無情にも新たなる連鎖を生んでいく。
「ひぃぃやぁぁ~!」
「前がっ! 前が見えないッ! ……あ、クシャミ出そう」
「うああああ! ごめんみんな、コレ、俺のせいだろ」
ーークシュン!
「きゃああー! ゼラ私のお腹にクシャミしたわねっ!」
「ごめん! だけどうさみがモゾモゾ……は、は、は」
「クシャミ禁止~!」
あわあわの中、あわあわと慌てふためく採集作業。
「あわあわの中、みんな大パニックだけど、なんだか楽しいっ!」
ミミリは思わず、クスリと笑う。
辺り一面、泡世界。
ーーぷかり。
ーーーーーーぷかり。
絶えずぷかりと浮かび上がるシャボン玉を背景に、ドタバタハプニングの採集作業をするというのもまた、趣があるというもの。
今日の採集作業は、『あわあわ! パニック』としてミミリの冒険の記録の1ページに刻まれることとなる。
ーーそして。
後にこの冒険の記録に描かれた画伯うさみによる挿絵もまた、『あわあわ! パニック』そのものだった。
夜空に吸い込まれるように垂直に立ち昇るのは、密かに揺らぐ、一筋の光。まるで、シャボン玉の表面を虹色が覆うように、一筋の光も、時折虹のような光を放っている。
揺らぎは意識しなければ、星の光と思うかもしれない。産まれてからずっとアザレアに住むバルディでさえ、シャボンの実の存在に気づかないくらいなのだから、それは些細で軽微な揺らぎなのだろう。
偶然にも揺らぎを発見することができたミミリたちは、うさみの魔法、灯し陽の灯りと柔らかな月明かりを頼りに揺らぎの真下を目指している。
目的地は割とすぐ近くにある。
しかし、今のミミリは、それどころではない。
……ううう……。ど、どうしよう……。
ミミリは、身体のある部分にぎゅううううう~っと力を入れて、ただひたすらに耐えている……というよりは、願っている。
……ううう、ううう~。お腹、鳴りそうだよう。
ミミリは、お腹にギュッと力を入れて、空腹の時が過ぎ去るのを心の底から願っている。
思えば、身分証を受け取ってすぐに採集依頼に出発してしまったので、もう夜だというのに主だった食事といえば、酔い覚ましに飲んだレモン水だけだった。
……ううう。鳴らないで、鳴らないで~!
――ぐうううう~。
静かな森に響き渡る、お腹の音。
ミミリの歩みは、ピタリと止まる。
ゼラとうさみは、すかさずミミリのフォローに回った。
「お腹空いたよな、ミミリ。俺もお腹ペコペコだから、気にしなくて大丈夫だぞっ」
「まぁたゼラはストレートにっ。アンタは紳士的なフォローを学んだほうがいいって何度も言ってるでしょう? くまゴロー先生をお手本にしなさいって」
「……もん……」
「「ミミリ……?」」
ミミリは歩みを止め、俯いたまま顔を上げない。何やら少し呟いたようだが、消え入るような声なので何も聞き取れなかった。
審判の関所で見たいつぞやの光景と重なるが、異なる点はミミリの様子。恥じらいよりも、怒りが勝っているように見える。
「……わ、私のお腹の音じゃ、ないもん……」
「「エッ⁉︎ じゃ、じゃあ……」」
うさみとゼラは、気まずそうに小さく手を上げた犯人を見た。
「あ、ごめん、俺なんだけどさ。言うタイミングを完全に逃しちまって」
バルディは固まって動かないミミリを見て、冷や汗をかいた。温厚な子が怒るとこれほどまでに怖いのか、と思うほどにミミリから怒りの感情が溢れ出ている。
うさみは、サッとゼラの背後に回り込み、短い手でゼラのふくらはぎをギュッと掴んで、カタカタと震えている。
「もっ、もう、ゼラくんなんて! ゼラくんなんて~!」
「お、俺だけ⁉︎」
「ゼラくんなんて~!」
……ゴクリ。
思わずゼラは生唾を飲んだ。
審判の関所の時よりも怒っているミミリが言う言葉は一体何なのか。
もう嫌! なのか。大嫌い! とか?
どちらにせよ、ゼラは耐えられそうにない。
ミミリの発言を、ゼラだけでなくうさみも、そしてバルディも待っている。
緊張感あふれる場面でミミリが発したのは――
ーーきゅるるるる~!
お腹の音だった。
「ふっ、ふううう~……!」
ミミリはお腹を両手でぎゅうっと押さえ、ぎゅうっと口を結んでいるものの、行き場のない羞恥心が小さな泣き声とともに溢れてしまう。
「あわわわ、ミミリ、ごめんな、ごめん~!」
ゼラのフォロー虚しく、ささくれだったミミリの心は落ち着かない。
ぷるぷるのように、ふるふる震えるミミリをフォローしたのは、年長者のバルディだった。
「ミミリちゃんはお腹の音まで可愛らしいんだな。お姫様かと思ったよ。それに引き換え、俺のデッカイ腹の音聞いたろ? グオオオオオオオオー! ってさ。モンスターかと思っただろ?」
「ふふっ!」
まず、クスリと笑ったのはうさみだった。うさみは、バルディが創り出した雰囲気に隠れるのをやめ、ひょっこり出てきてミミリの胸に飛び込んだ。
「うさみちゃんのお腹も、きゅるるって鳴るんだろうな。お姫様たちはお腹の音さえ愛らしいからな」
「そうよん。きゅるる~って、まるで音楽を奏でるように鳴るのよん」
「ふふふ……。そうだよねえ。うさみのお腹の音は、とっても可愛いよね」
ミミリの心は、バルディの機転のおかげですっかり丸くなった。
「さあ、そうと決まれば早速採集作業だ! サクッと済ませて、美味しい夕飯、みんなで作ろうぜ!」
「そうね! そうしましょ~!」
和やかな場で、すっかり心の置いてけぼりを食らったゼラ。
「俺も、フォロー、したんだけどな……」
ちょっぴり拗ねたゼラの心は、ミミリの心優しいフォローだった。
「大丈夫だよ、ゼラくん。一生懸命励ましてくれようとしたの、わかってるよ。ちょっと、拗ねちゃってごめんね。お詫びに美味しいご飯、作るからね? 行こっ!」
ミミリはゼラの手を引いて、バルディの元へ足速に向かう。
うさみはミミリに抱かれながら、ゼラの表情に釘付けだ。
……幸せそうな顔しちゃって、まったく。
月明かりに照らされたゼラの顔は、お腹を鳴らして恥ずかしがるミミリと同じくらい赤かった。
◆ ◆ ◆
揺らぎを意識しなければ、この場所には絶対に訪れることはなかっただろうと思えるほどの、森の中とは思えない鋭角な谷の底に、この場所はあった。
揺らぐ虹の光の下、白い幹を彩る実。
見た目は赤く、まぁるい実。ミミリが手を伸ばせば実をもぎ取れるような高さの木に、鈴なりに赤い実はなっていた。
シャボンの実をつけた数本の木を隠すように背の高い木々が距離を空けて大きな円を描き囲んでいる。円の中央にあるシャボンの木は、周りを囲む背の高い木に邪魔されずに月の光を浴びている。
ミミリたちが眺める間にも、パチン、パチンと実は弾け、弾けたそばから虹を纏った幻想的な揺らぎが天を目指して立ち昇る。
「綺麗……!」
「ほんとだな」 「ほんとね……」
ミミリは幻想的な雰囲気を醸し出すシャボンの木に心を奪われながらも、採集作業の手順を頭の中で振り返っていた。
実はミミリは、初めてシャボンの木を目にするし、当然ながら採集するのも初めてだった。
今でこそ、冒険を楽しんでいるミミリだが、ゼラと出会う前は恐怖心もあって川向こうへなど行くことはできなかった。そのため、必要な錬金素材アイテムは主にアルヒが採集してきてくれるのが日常化しており、シャボンの実も例外ではなかった。
ミミリが考えている間にも、パチンと実は弾け、小指の先ほどに小さく白い実がポロポロと地へ零れ落ちてゆく。
「ミミリ、採集作業って俺でも手伝えるのかな」
「私は応援してるわん! 背が届かないし」
ミミリは、アルヒに聞いた手順を反芻しながら、確認も込めてアウトプットする。
「ええとね、確か、実をもぐ時には手のひらに魔力で薄い膜を作って……、そう、しずく草の採集みたいに。……じゃないと……」
「「じゃないと……?」」
「たしか、パァン! って勢いよく弾けて、辺り一面泡だらけになるんだって。たった1つの実が弾けただけでも、大変なことになるみたいだよ」
――パァン!
実が勢いよく弾ける音が、静寂な森に響き渡った。そしてたちまち、ぷくぷくと泡が増殖し、辺り一面に泡だらけの世界になっていく。
「あわわわわ~! 何だコレ! 泡だらけになっていくぞ!」
泡の世界の中心で、あわあわと慌てふためくバルディ。
思えばバルディはミミリたちの会話に参加していなかった。まるでミミリの話が前フリであったかのように、更に泡の世界は広がっていく。
「ひぃぃぃやぁぁー! 濡れる! 泡で毛が濡れるうううううー!」
「うっ、うさみ! 飛びつく場所を変えてくれ! うさみのお腹で前が見えない!」
「ひえええええスケコマシー!」
「いや、理不尽だろ……、と言いたいところだけどうさみのお腹すごくモフモフし……」
「闘神のじゅ……」
「ダメだうさみ! 重力魔法で俺が潰れたらうさみまで泡の中だぞ!」
「ひいいいいーやああああー! 助けてミミり~ん!」
うさみの悲痛な叫びに応えたいのは山々だが、ミミリは二次被害を防ぐのに手一杯だ。
「ごめんね、うさみ! 実が不自然に弾けてしまった場合は、同じ木になる実をもいでしまわないと残りの実も全部弾け……アッ! バルディさん! ストップ! ストップ~!」
「え……?」
ミミリの話を聞いて手伝わねばと残る実に手を伸ばした矢先、急に止められて驚くバルディ。
泡の世界の中心でミミリに目を向けたバルディは、静止した拍子でつるっと足元を泡に掬われ、止めたはずの指先がチョンッと実に触れてしまう。
「あ……」
「え……?」
――パァン!
――――――パァンッ!
――パァン!
一度弾けたシャボンの実は止まるところを知らず、無情にも新たなる連鎖を生んでいく。
「ひぃぃやぁぁ~!」
「前がっ! 前が見えないッ! ……あ、クシャミ出そう」
「うああああ! ごめんみんな、コレ、俺のせいだろ」
ーークシュン!
「きゃああー! ゼラ私のお腹にクシャミしたわねっ!」
「ごめん! だけどうさみがモゾモゾ……は、は、は」
「クシャミ禁止~!」
あわあわの中、あわあわと慌てふためく採集作業。
「あわあわの中、みんな大パニックだけど、なんだか楽しいっ!」
ミミリは思わず、クスリと笑う。
辺り一面、泡世界。
ーーぷかり。
ーーーーーーぷかり。
絶えずぷかりと浮かび上がるシャボン玉を背景に、ドタバタハプニングの採集作業をするというのもまた、趣があるというもの。
今日の採集作業は、『あわあわ! パニック』としてミミリの冒険の記録の1ページに刻まれることとなる。
ーーそして。
後にこの冒険の記録に描かれた画伯うさみによる挿絵もまた、『あわあわ! パニック』そのものだった。
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