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第2章 審判の関所

2-26 最後の審判、卒業試験

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 ――ピロン!
『▶︎『卒業試験 ★★★★☆』

 貴方のパーティーは、『桜舞うグラウンド』へ強制転移されました。ボスモンスター討伐終了まで、この空間から抜け出すことはできません。

 至急、概要を確認してください。

 《概要》
 ▶︎当該ダンジョン、「審判の関所」の最後の審判。締めくくりは、ボスモンスターとの戦闘です。

 《ピロンのワンポイントアドバイス》
 ▶︎パーティー一丸となって強敵に立ち向かいましょう。

 《アイテム制限あり》
 ▶︎チートアイテム「雷様のブレスレット」の使用を禁じます。

 《ボスモンスター》
 ▶︎からくりパペット 1体
 討伐難易度は限りなく高難易度寄りの中難易度です。見習い冒険者にとってはかなり厳しい戦いとなるでしょう。生命の保証はありません。力の限り闘いましょう。


 ……ミミリ、うさみ姉様、ゼラ。
 ご武運を!』

「ありがとう、ピロンちゃん」


 ――桜舞うグラウンド。
 背景には白い壁面に幾つものガラスの窓がある大きな建物。手前には、一本の大きな木。
 ミミリは、桜の木を初めて見た。
 茶の固い樹皮に、太い枝。次第に細くなる枝の先には、愛らしいピンク色の花びらが。
 風がふわっと舞い上がると、ピンクの花びらも宙に舞う。
 茶と灰色と白と。複数色が混じる固い地面に、部分的に茂る青い短草。
 地面にまだらに散りばめられた桜の花びらも、巻き上げるような風とともに再び舞い上がり、夜空に浮かぶ大きな三日月の月明かりを受けて淡く光る。
 今の時刻は朝のはずなのに。
 そんなことは些末さまつでしかない。
 すでに視界は、舞う桜の花びらで埋め尽くされている。時に渦を巻き、柔らかな嵐のよう。
 そんな中、風の収まりとともに桜の嵐の中から現れた1体のモンスター。
 あれがおそらく、本ダンジョンのボスモンスター、『からくりパペット』、その者だろう。


「……目標発見。排除スル」
  
 からくりパペットは、機械人形オートマタだった。発する声は機械的で単調なもの。
 アルヒとは、似て非なる機械人形オートマタ
 身体の構成は全て金属。それも、紫色の。筒状の頭部には黄色の三つ目が横並びで点灯している。
 鼻もなければ口もない。
 2本の腕に、2本の足。関節には金属の球体が。
 光沢のないざらりとした荒い金属で構成された紫色の身体の表面は、部分的に塗料が剥がれて赤い錆が見える箇所も。
 そしてからくりパペットは黄色の三つ目を点滅させ、両手の武器をこちらへ構える。
 右手に持つは蒼の刃広斧。
 左手に持つは紅の刃広斧。

 ――シュウウウウウ!
 からくりパペットは、関節から白い蒸気を上げ始めた。

「ミミリ、うさみ。無理はしない、約束してくれ。そしてなるべく俺の後ろに。うさみ! 剣聖の逆鱗、かけてくれ!」
「うん! でも、ゼラくんも無理しないで」
「……聖女の慈愛! ……剣聖の逆鱗! 必ず私が守ってみせる! 私のぬいぐるみ生を懸けて!」

 うさみの支援魔法により、ミミリたちをじんわりと保護膜が包み込む。そして更にゼラには紅く揺らめく炎が。ゼラは身体能力が向上する。敵対心ヘイトをその身に集中させるという、重い代償を伴って。

 距離にして数十メートル。
 ゼラはジリジリと間合いを測る。

 ……先に動いたのは、からくりパペットだった。

 ――ブシュウウウウウウウ!
 からくりパペットの関節から更に噴き出す白煙ともいえる蒸気。

 ――シュッ! 
霜柱シモバシラ!」
 からくりパペットは右手の蒼斧を勢いよく地面に振り下ろす。

 ――ザクッ、ガガガガ……!
 振り下ろされた斧から、ゼラ目掛けて迫り来る何本もの霜柱が地中から勢いよく湧き上がる。1メートルくらいの高さの太い霜柱は、巻き上げた土埃と大きな音ともに疾風の如く迫ってくる。

 ――キイィィン!
「うあっ……!」

 甲高い音を上げて、急に弾け飛ぶ霜柱。
 冷たい氷の矢になって四方八方へ飛び散った。

「う……、クソ……ッ!」
「ゼラくんっ……!」

 ゼラは身を捩って間一髪霜柱を避けられたかと思ったが、ゼラに最接近したタイミングで弾け飛んだ氷の矢の一部がゼラの左頬を掠めた。
 掠めた頬から滲む血を、ゼラは左手の甲で拭う。

「……ミミリたちはあまり前面に出ないでくれ!」

 ゼラは雷属性を短剣に纏い、からくりパペット目掛けて駆け出した。地から迫り上がった霜柱を避け一気に距離を詰め――

紅柱クレナイバシラ!」

 ――ようとしたものの、駆け寄るゼラの姿を見て瞬時に振り下ろされた紅斧。

「うああああ!」

 からくりパペットの周囲に、噴き上げる火柱。ゼラは危なく火だるまになるところだった。間一髪後退したものの、むせ返るような熱気を吸い込み軽く喉を焼く。ゼラはゴホゴホと咳き込んだ。

「……ゼラッ!」
「……ゼラくんっ!」
「……はぁ、はぁ……。大丈夫だ、なん……とか」

 突如噴き出した火柱によって、地面から突き出した霜柱は溶けて水になった。水捌けが悪い土なのか、辺り一面水溜りが。足場も悪く、遠距離攻撃に適していないゼラにとっては分が悪い。

「これで中難易度かよ…」
「うぅ……。どうしたら……」

「ーー‼︎ みんな! 構えてえええぇ! ……守護神のひ……」

 うさみの叫び声に全員が身構える。うさみの支援魔法も間に合わない中、視界は瞬時に赤と白の2色に染まる。

 ――ビュウウウウ!
 噴き出す火柱の中から、突如痛いほどの突風が。熱気と冷気を帯びた突風は、赤と白の2色で可視化されている。
 飛び交う無数の矢のように、ミミリたちに迫り来る。

 腕で顔を覆い、しばらくこらえるミミリたち。
 突風は、肌が焼かれるような熱さがあるかと思えば、凍てつくような寒さもある。

「キャアアアァァ!」
「ぐうう……! ミミリッ! うさみー!」

 脚力ありなんとか踏ん張って堪えきったゼラを残し、ミミリとうさみは後方へ吹き飛んだ。

 ――ドンッ!
 体重の軽いうさみはグラウンドを囲む石の壁に背を打ちつけた。うさみはパタリと顔面から地へ倒れ込む。
 ミミリは腹部からくの字に曲がり、吹き飛んだ拍子にお尻を強打するも大事には至らなかった。すぐさまうさみに駆け寄り抱き起こす。

「……うさみ! うさみ! 大丈夫?」
「……えぇ、なんとかね。こういう時実感するわ。ぬいぐるみでよかったって。私は無事よ」

「2人とも、防げなくてごめん。……この状況、かなりやばいな」
「ほんとだね」


 ――シュウウウウウ!
 からくりパペットの関節から再び噴き出す蒸気。
 攻撃前に見た蒸気よりも少し抑えられている気がする。もしかしたら、攻撃までのチャージ期間かもしれない。

「ゼラくん! チャンスかもしれない! 攻めてみよう」
「……俺もちょうど思ったところ!」
 と言うよりも前にゼラは既に駆けだしていた。

 ゼラは『体育館』で跳び箱に挑戦した時に学んだ、魔力操作を思い出す。ゼラの身体の中に巡る雷属性を瞬時に足に集中させる。

 そのスピードは、稲妻の如く。

 うさみの支援魔法、剣聖の逆鱗も奏功してゼラは瞬時にからくりパペットとの距離を詰め、雷属性を纏った短剣で一閃した。

 ――ガリッ!
 からくりパペットの、表面の塗料を剥ぐことに成功したゼラは、安全をとって二歩、三歩と後ろに跳躍して距離を取る。

「やった……! ゼラくん、すごいよ!」
「雷属性纏ってても、満足にダメージ与えられないのな」

 ――ブシュウウウウウウウ!
「来るわ! ゼラ、ドームの中に! 守護神の庇護!」

 うさみが防御魔法を唱えると、寄り添うミミリとうさみの背後に、長剣の柄を両手で持ち、剣先を地面に突き刺した灰色の石像が地面から現れた。薄いピンク色をしたドーム型の結界バリアとともに。
 ゼラはドームをするりと通過して、ミミリとうさみを自身の背中の後ろへ追いやった。

 ――ビュウウウウ!
 ミミリたち目掛けて赤と白の突風が。ドーム内にいるミミリたちの視界は、一瞬のうちに色を帯びた突風に覆いつくされた。

「……なんとか、間に合ったわね。良かった。 ―ー‼︎」

 ホッとしたのも束の間、探索魔法まで展開していたうさみがその重圧で一歩うしろにたじろいだ。

「……誰が嘘って言ってよ。……うっ!」

 ――ガァン! ガァン!
 ドームを力任せに叩く音。からくりパペットが直に攻撃しているのか。それとも遠距離攻撃なのか。うさみの探索魔法から推測するに、おそらく前者だ。
 ドームを維持したいうさみと斧でドームを破ろうとするからくりパペットとの力と力のぶつかり合い。

 やがて赤と白の突風で覆われたドームは、グラウンドに吹く巻き上がる風によって視界を取り戻した。
 吹き上げる風で舞う桜の花びら。
 花吹雪の中から現れたのはやはり、からくりパペット。ドームの目の前まで距離を詰めていた。

「「「ーー!」」」

 ミミリたちは息をのむ。

 ――ガァン! ガァン! ガキィン!
 眼前に迫っていたからくりパペットによって、ドームには大きなヒビが入りはじめている。

 ドームを維持できる時間は、もって数十秒。
 ミミリたちは、さらに危険な状況まで追い込まれてしまった。
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