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第2章 審判の関所
2-17 流しそうめん大会の行方
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――ポシュ! ポシュポシュッ!
次から次に流れ出るそうめん。
ミミリもゼラも、ぷる団子たちもなんとかつかまえて、そうめんを堪能する。
――チュルチュルッ!
「おいしい~! 細い麺に出汁が絡んでなんかやみつきになりそう!」
「ほんとだな。喉越しが良くてチュルッと食べられちゃうからどんどん食べられちゃいそうだ」
「ぷー!」
「ぶー!」
参加者は、楽しく美味しく流しそうめんを堪能中。
……たった一人を除いて。
楽しそうな光景を若干恨めしそうに眺めるのは、小さな小さなうさぎのぬいぐるみ。
「……私、難しくて取れないんだけど」
うさみはフォークを握りながら、俯いてふるふると小刻みに震えている。背丈も小さく手足も短いうさみには、流しそうめんの難易度は高いようだ。
「私、いっぱい小麦粉の生地作ったから、まだまだあるから大丈夫だよ、うさみ」
「……頑張るわ!」
――ポシュポシュッ!
うさみは次なるそうめんに狙いを定める。真面目な表情を浮かべてフォークを握る姿はまるで何かのプロ選手のよう。うさみの黒いビー玉の瞳も鋭く光る。
「そうめんッ! 覚悟~‼︎」
青い空から降り注ぐ光がフォークの先端をキラリと光らせる。
うさみは、水色のワンピースから覗かせた短い灰色の手をシュッとそうめんめがけてフルスイングした。
――スカッ!
狙いを定めたはずのうさみのスイングは一歩遅く。
フォークに掻き上げられた滑り台を流れる水が、水飛沫となって斜め向かいのゼラの顔にピシャッとかかる。
「冷てっ」
「……あ、ごめん」
うさみの前を無惨にも通り過ぎていくそうめんたち。そうめんはまたもや、うさみを除く全員につかまえられた。
「……ううぅぅ~」
「うさみ、元気出してね。私がつかまえたそうめん、半分こ」
ミミリはうさみの器の中にそうめんを半分そっと入れてニッコリ微笑む。
「ありがとう、ミミりん~」
ミミリから分けてもらったそうめんを手品のように食べていくうさみ。フォークに絡め取られたそうめんは、うさみの口元でパッと消える。消える前には、チュルチュルッといい音をたてるおまけつき。
うさみはフォークを握る手を片頬にあて、うっとりと小首を傾げて待望のそうめんを堪能した。
「お、お、おいひぃ~」
「ふふふ。おいしいね、うさみ」
「うさみが食べているところを見るとさ、俺もなんだか幸せな気分になれるよ」
「さぁ、流しそうめん、最後ですよ~!」
そうしてうさみが一度も自分でつかまえられないまま無情にも告げられる、流しそうめん終了のお知らせ。
「……今度こそ、自分でつかまえてみせるんだから! 応援してて、ミミリ! 流しそうめんよ、いざ、いざ、尋常に勝負~!」
「うんうん! 頑張ってねうさみ!」
少しお行儀悪くフォークをブンブン振って、スイングの練習をするうさみと、チアリーダーのミミリ。
ゼラは意気込むうさみたちをクスリと笑いながら見守っている。
――ポシュ!
桶から放たれた最後のそうめん。
最後だと思えば、そのそうめんは神々しさすらある。竹を流れる水とその飛沫も、空の光が照ってキラキラと輝いて見える。
うさみは最後のそうめんに全神経を集中させる。
……3、2、1……。
流しそうめん到来までの運命のカウントダウン。一分の狂いも許されない。
……今だわ!
「……流しそうめん、討ち取ったりぃ~!」
うさみはフォークを構えて、全身全霊でフルスイングをキメる。
――スカッ!
「うっ、うさみ……」
うさみを想うミミリは、思わず口元を押さえて声を上げた。
そうめんを諦められないうさみは、尚も追いかけようとする。立ち上がった椅子からさらに身を乗り出し、去りゆくそうめんに向かって短い灰色の手とフォークを伸ばして大声で呼びかけた。
「待てえぇぇい! そうめん!」
「うさみっ! あぶない!」
「……あっ!」
――バシャン!
焦ってミミリが手を伸ばしたが、間に合わなかったうさみの救出劇。
うさみは体制を崩して、そのまま水が流れる竹の滑り台へダイブした。
――ザアァァァ!
……無惨にも、うつ伏せの姿勢でうさみは流れていく。つかまえたかった、そうめんのように。なんと後頭部に、今まで持っていた出汁が入った、器を乗せて……。
「キャアアアァァ! うさみぃぃ!」
「わっ! ぷる団子たち、うさみをつかまえてくれー!」
「ぶくぶくぶく……」
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
任せてくれと言わんばかりに意気込むぷる団子たち。ゆるゆるとした装いではなく、スライム状の身体をピンと張って待ち受ける。
ぷる団子の土台2体は、如何なる動きにも柔軟に対応できる縁の下の力持ちとして。そして、最上部のぷるぷるは、フォークをギュッと握りしめ、今まさにぷる団子たちの元へ流れ着こうとするそれにフォークをシュッとフルスイングした。
3色ぷる団子とあんぷる団子がほぼ同時に放ったフォークの一撃。
――そうめんを討ち取ったのは、あんぷる団子だった。
「ぶぶー!」
あんぷる団子たちから発せられる、勝利の雄叫び。
――チュルチュルッ!
そして勝利の証は、あんぷる団子の最上部にいるダークぷるによって、歓喜とともに食された。
…………バシャン。
歓喜の一方で。
漂流者のうさみは竹の滑り台から流れ落ち、顔面から小さな桶へと突っ込んだ。
「……だ、大丈夫? うさみ?」
「……うさみ、大丈夫か⁉︎」
急いで駆け寄るミミリとゼラ。
うさみはずっしりと重たくなった身体を、短い手を震わせながら何とか起こす。うさみの身体の毛も綿も、ずっしりしっとり重たくなって、ふわふわだった毛並みもどこへやら。
「……」
終始無言のうさみの背後に見えるのは、禍々しくゆらめく闇色の炎。
しかし恐ろしさを感じさせないのは、その頭に器を被っているから。いつもならピンと張っている愛らしい耳も、水を含んでびっしゃりと濡れているため、器の重みで折れてしまって見る影もない。
うさみを初見の者ならば、まさかうさぎだとは思わないだろう。灰色をした何かの生き物が、面白おかしく器を被ってこちらを睨んでいるだけだ。
「……プッ!」
――ピーッピッピ!
堪えきれず思わず吹き出してしまったゼラと、きっと堪えることすらしていないであろうピロンの高笑い。
「……ハッ、やばい! ――うわっ‼︎」
――ゼラの後悔は、時すでに遅し。
うさみはぬるりと桶から出て、頭に被った器を脱いで片手に、一歩一歩ゼラへと近づいていく。
……ズシャ、ズシャ!
重たい足音とともに、一歩、また一歩。
ゼラは、終わった。
ゼラは目を閉じて、心の中で振り返る。
あまりに短かった、己の人生を。
……俺の人生、短かったな。ミミリたちに会えて、幸せだった……。
……もう終わりだ、と思ったその時、現れた救世主。
ミミリは優しくうさみを抱き上げ、【マジックバッグ】から取り出した大きなバスタオルで優しくふんわり包み込む。
うさみの身体を重たくしていた水分がバスタオルに吸収され、うさみの心も軽くなった。
「うさみ、落ち着いて? 大丈夫。煮込みそうめん、作ってあげるからね」
「はぁん、さすが私のミミリ~」
「……た、助かった……」
……助かったと思っていたのは、ゼラだけだったようで。
「はぁ? 何ホッとしちゃってんの? 私を嘲笑ったアンタの罪は消えないわよ? もちろんピロンもね」
「……ひいぃぃぃ~!」
『笑ったのは私ではありません。くまゴローさんです』
「嘘はいけませんよ、ピロンさん」
『……チッ』
「……俺、思うんだけど、ピロンってめちゃくちゃメンタル強いよな。……それがいいことなのかは置いておいて」
ゼラは、ボソッと呟いた。
うさみは濡れた身体をうさみの魔法「清浄なる温風」で清めて乾かし、ミミリが【マジックバッグ】の中から出した丸いテーブルを前にして、椅子にちょこんと座っている。
目の前にはうさみが大好きなコーヒーとバタークッキー。そしてミミリが作ってくれた煮込みそうめんも。
――チュルチュルッ!
「はぁ~! 幸せ~」
「ふふっ、よかった!」
うさみは煮込みそうめんを頬張りながら、うっとりと小首を傾げている。ミミリのお陰で、うさみの機嫌はみるみる直った。
「貴方の体格への配慮が足りませんでした。申し訳ありません、うさみさん」
くまゴロー先生は、テーブルを挟んだ位置から、うさみに申し訳なさそうに謝罪した。目の前には、コーヒーが。くまゴロー先生もうさみと同じくコーヒーが好きなようだ。
「あら、先生が謝ることじゃないわ。私はね、流れそうめんとの次回の闘いに向けて今対策を練ってるところなの。次は絶対、つかまえてやるんだから! だから次回の開催も、期待してるわね?」
「……うさみさん、貴方はやはり素敵な女性です」
「ふ、ふふん」
うさみを優しく見つめるくまゴロー先生と、照れ隠しに顔を背けるうさみ。
2人の間にふわっと香る、桃色の風。
本来であれば心穏やかな光景も、胸中がざわついて仕方のないゼラにとってはそれどころではない様子。
……俺にも、何事にも動じないくらいの強靭なメンタルがあったらなぁ、ピロンみたいな。
ゼラはこれから訪れるうさみからのペナルティにただただ心をざわつかせていた。
そんなゼラを横目で見て少しクスリと笑ったミミリは、ぷる団子フォーメーションを解除したパステルぷる3体とダークぷる3体に、それぞれお土産を手渡した。
「この中にはね、私が焼いたバタークッキーが入ってるから、みんなで仲良く食べてね。喧嘩しちゃだめだよ?」
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
ぷるぷるたちは、嬉しそうにぷるぷる震えながら、お土産片手に去っていった。遠くの方で、蜃気楼のように消えたぷるぷるたち。
やはりここは不思議なダンジョンなのだと、ミミリは再び認識する。
ミミリは、桃色のそよぐ風を浴びるうさみと、胸のざわざわが止まらないゼラを見遣って、クスリと笑って仲裁に入る。
「うさみも、もうゼラくん許してあげてね?」
「……仕方ないわね、ミミリに免じて、許してあげる」
「ありがとう、うさみ、ミミリ~」
「やはり貴方たちは、素敵なパーティーですね」
と、くまゴロー先生も微笑んだ。
うさみに「悲劇」が訪れた波瀾万丈のお昼休み、流しそうめん大会を終えたミミリたちが迎える次なる審判は、『3時間目、体育の時間』。
次なる審判を考えるよりも、今はただ、楽しかったお昼休みの流しそうめん大会の残滓にゆったり浸るミミリたちなのであった。
次から次に流れ出るそうめん。
ミミリもゼラも、ぷる団子たちもなんとかつかまえて、そうめんを堪能する。
――チュルチュルッ!
「おいしい~! 細い麺に出汁が絡んでなんかやみつきになりそう!」
「ほんとだな。喉越しが良くてチュルッと食べられちゃうからどんどん食べられちゃいそうだ」
「ぷー!」
「ぶー!」
参加者は、楽しく美味しく流しそうめんを堪能中。
……たった一人を除いて。
楽しそうな光景を若干恨めしそうに眺めるのは、小さな小さなうさぎのぬいぐるみ。
「……私、難しくて取れないんだけど」
うさみはフォークを握りながら、俯いてふるふると小刻みに震えている。背丈も小さく手足も短いうさみには、流しそうめんの難易度は高いようだ。
「私、いっぱい小麦粉の生地作ったから、まだまだあるから大丈夫だよ、うさみ」
「……頑張るわ!」
――ポシュポシュッ!
うさみは次なるそうめんに狙いを定める。真面目な表情を浮かべてフォークを握る姿はまるで何かのプロ選手のよう。うさみの黒いビー玉の瞳も鋭く光る。
「そうめんッ! 覚悟~‼︎」
青い空から降り注ぐ光がフォークの先端をキラリと光らせる。
うさみは、水色のワンピースから覗かせた短い灰色の手をシュッとそうめんめがけてフルスイングした。
――スカッ!
狙いを定めたはずのうさみのスイングは一歩遅く。
フォークに掻き上げられた滑り台を流れる水が、水飛沫となって斜め向かいのゼラの顔にピシャッとかかる。
「冷てっ」
「……あ、ごめん」
うさみの前を無惨にも通り過ぎていくそうめんたち。そうめんはまたもや、うさみを除く全員につかまえられた。
「……ううぅぅ~」
「うさみ、元気出してね。私がつかまえたそうめん、半分こ」
ミミリはうさみの器の中にそうめんを半分そっと入れてニッコリ微笑む。
「ありがとう、ミミりん~」
ミミリから分けてもらったそうめんを手品のように食べていくうさみ。フォークに絡め取られたそうめんは、うさみの口元でパッと消える。消える前には、チュルチュルッといい音をたてるおまけつき。
うさみはフォークを握る手を片頬にあて、うっとりと小首を傾げて待望のそうめんを堪能した。
「お、お、おいひぃ~」
「ふふふ。おいしいね、うさみ」
「うさみが食べているところを見るとさ、俺もなんだか幸せな気分になれるよ」
「さぁ、流しそうめん、最後ですよ~!」
そうしてうさみが一度も自分でつかまえられないまま無情にも告げられる、流しそうめん終了のお知らせ。
「……今度こそ、自分でつかまえてみせるんだから! 応援してて、ミミリ! 流しそうめんよ、いざ、いざ、尋常に勝負~!」
「うんうん! 頑張ってねうさみ!」
少しお行儀悪くフォークをブンブン振って、スイングの練習をするうさみと、チアリーダーのミミリ。
ゼラは意気込むうさみたちをクスリと笑いながら見守っている。
――ポシュ!
桶から放たれた最後のそうめん。
最後だと思えば、そのそうめんは神々しさすらある。竹を流れる水とその飛沫も、空の光が照ってキラキラと輝いて見える。
うさみは最後のそうめんに全神経を集中させる。
……3、2、1……。
流しそうめん到来までの運命のカウントダウン。一分の狂いも許されない。
……今だわ!
「……流しそうめん、討ち取ったりぃ~!」
うさみはフォークを構えて、全身全霊でフルスイングをキメる。
――スカッ!
「うっ、うさみ……」
うさみを想うミミリは、思わず口元を押さえて声を上げた。
そうめんを諦められないうさみは、尚も追いかけようとする。立ち上がった椅子からさらに身を乗り出し、去りゆくそうめんに向かって短い灰色の手とフォークを伸ばして大声で呼びかけた。
「待てえぇぇい! そうめん!」
「うさみっ! あぶない!」
「……あっ!」
――バシャン!
焦ってミミリが手を伸ばしたが、間に合わなかったうさみの救出劇。
うさみは体制を崩して、そのまま水が流れる竹の滑り台へダイブした。
――ザアァァァ!
……無惨にも、うつ伏せの姿勢でうさみは流れていく。つかまえたかった、そうめんのように。なんと後頭部に、今まで持っていた出汁が入った、器を乗せて……。
「キャアアアァァ! うさみぃぃ!」
「わっ! ぷる団子たち、うさみをつかまえてくれー!」
「ぶくぶくぶく……」
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
任せてくれと言わんばかりに意気込むぷる団子たち。ゆるゆるとした装いではなく、スライム状の身体をピンと張って待ち受ける。
ぷる団子の土台2体は、如何なる動きにも柔軟に対応できる縁の下の力持ちとして。そして、最上部のぷるぷるは、フォークをギュッと握りしめ、今まさにぷる団子たちの元へ流れ着こうとするそれにフォークをシュッとフルスイングした。
3色ぷる団子とあんぷる団子がほぼ同時に放ったフォークの一撃。
――そうめんを討ち取ったのは、あんぷる団子だった。
「ぶぶー!」
あんぷる団子たちから発せられる、勝利の雄叫び。
――チュルチュルッ!
そして勝利の証は、あんぷる団子の最上部にいるダークぷるによって、歓喜とともに食された。
…………バシャン。
歓喜の一方で。
漂流者のうさみは竹の滑り台から流れ落ち、顔面から小さな桶へと突っ込んだ。
「……だ、大丈夫? うさみ?」
「……うさみ、大丈夫か⁉︎」
急いで駆け寄るミミリとゼラ。
うさみはずっしりと重たくなった身体を、短い手を震わせながら何とか起こす。うさみの身体の毛も綿も、ずっしりしっとり重たくなって、ふわふわだった毛並みもどこへやら。
「……」
終始無言のうさみの背後に見えるのは、禍々しくゆらめく闇色の炎。
しかし恐ろしさを感じさせないのは、その頭に器を被っているから。いつもならピンと張っている愛らしい耳も、水を含んでびっしゃりと濡れているため、器の重みで折れてしまって見る影もない。
うさみを初見の者ならば、まさかうさぎだとは思わないだろう。灰色をした何かの生き物が、面白おかしく器を被ってこちらを睨んでいるだけだ。
「……プッ!」
――ピーッピッピ!
堪えきれず思わず吹き出してしまったゼラと、きっと堪えることすらしていないであろうピロンの高笑い。
「……ハッ、やばい! ――うわっ‼︎」
――ゼラの後悔は、時すでに遅し。
うさみはぬるりと桶から出て、頭に被った器を脱いで片手に、一歩一歩ゼラへと近づいていく。
……ズシャ、ズシャ!
重たい足音とともに、一歩、また一歩。
ゼラは、終わった。
ゼラは目を閉じて、心の中で振り返る。
あまりに短かった、己の人生を。
……俺の人生、短かったな。ミミリたちに会えて、幸せだった……。
……もう終わりだ、と思ったその時、現れた救世主。
ミミリは優しくうさみを抱き上げ、【マジックバッグ】から取り出した大きなバスタオルで優しくふんわり包み込む。
うさみの身体を重たくしていた水分がバスタオルに吸収され、うさみの心も軽くなった。
「うさみ、落ち着いて? 大丈夫。煮込みそうめん、作ってあげるからね」
「はぁん、さすが私のミミリ~」
「……た、助かった……」
……助かったと思っていたのは、ゼラだけだったようで。
「はぁ? 何ホッとしちゃってんの? 私を嘲笑ったアンタの罪は消えないわよ? もちろんピロンもね」
「……ひいぃぃぃ~!」
『笑ったのは私ではありません。くまゴローさんです』
「嘘はいけませんよ、ピロンさん」
『……チッ』
「……俺、思うんだけど、ピロンってめちゃくちゃメンタル強いよな。……それがいいことなのかは置いておいて」
ゼラは、ボソッと呟いた。
うさみは濡れた身体をうさみの魔法「清浄なる温風」で清めて乾かし、ミミリが【マジックバッグ】の中から出した丸いテーブルを前にして、椅子にちょこんと座っている。
目の前にはうさみが大好きなコーヒーとバタークッキー。そしてミミリが作ってくれた煮込みそうめんも。
――チュルチュルッ!
「はぁ~! 幸せ~」
「ふふっ、よかった!」
うさみは煮込みそうめんを頬張りながら、うっとりと小首を傾げている。ミミリのお陰で、うさみの機嫌はみるみる直った。
「貴方の体格への配慮が足りませんでした。申し訳ありません、うさみさん」
くまゴロー先生は、テーブルを挟んだ位置から、うさみに申し訳なさそうに謝罪した。目の前には、コーヒーが。くまゴロー先生もうさみと同じくコーヒーが好きなようだ。
「あら、先生が謝ることじゃないわ。私はね、流れそうめんとの次回の闘いに向けて今対策を練ってるところなの。次は絶対、つかまえてやるんだから! だから次回の開催も、期待してるわね?」
「……うさみさん、貴方はやはり素敵な女性です」
「ふ、ふふん」
うさみを優しく見つめるくまゴロー先生と、照れ隠しに顔を背けるうさみ。
2人の間にふわっと香る、桃色の風。
本来であれば心穏やかな光景も、胸中がざわついて仕方のないゼラにとってはそれどころではない様子。
……俺にも、何事にも動じないくらいの強靭なメンタルがあったらなぁ、ピロンみたいな。
ゼラはこれから訪れるうさみからのペナルティにただただ心をざわつかせていた。
そんなゼラを横目で見て少しクスリと笑ったミミリは、ぷる団子フォーメーションを解除したパステルぷる3体とダークぷる3体に、それぞれお土産を手渡した。
「この中にはね、私が焼いたバタークッキーが入ってるから、みんなで仲良く食べてね。喧嘩しちゃだめだよ?」
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
ぷるぷるたちは、嬉しそうにぷるぷる震えながら、お土産片手に去っていった。遠くの方で、蜃気楼のように消えたぷるぷるたち。
やはりここは不思議なダンジョンなのだと、ミミリは再び認識する。
ミミリは、桃色のそよぐ風を浴びるうさみと、胸のざわざわが止まらないゼラを見遣って、クスリと笑って仲裁に入る。
「うさみも、もうゼラくん許してあげてね?」
「……仕方ないわね、ミミリに免じて、許してあげる」
「ありがとう、うさみ、ミミリ~」
「やはり貴方たちは、素敵なパーティーですね」
と、くまゴロー先生も微笑んだ。
うさみに「悲劇」が訪れた波瀾万丈のお昼休み、流しそうめん大会を終えたミミリたちが迎える次なる審判は、『3時間目、体育の時間』。
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