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第2章 審判の関所
2-16 一風変わったお昼休みは滑り台とともに
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「くまゴロー先生? お昼休みって言ってませんでしたか?」
ミミリは辺りを見渡した後、鋭意作業中のくまゴロー先生を見上げて問いかける。
「えぇ、お昼休みですよ。みんなでお昼ご飯を食べましょう。」
「この場所でですか?」
「えぇ、そうです。楽しそうでしょう」
「えぇと……、ちょっとどんなお昼ご飯か想像できません。」
――青い空に青い芝生。
空には雲一つないが太陽もない。
ジリジリと照るような明るさではなく、ただの明るい青がミミリたちを照らしている。
足下には青々とした芝生。生きのいい色彩に反して匂いはない。
空も芝生もどこか人工的に感じるこの空間。まるでピクニックを演出するために造られたような背景。そして芝生から、「無造作に」ある植物が自生している。なんとも不思議な空間だ。
ここまで考えてから、ミミリはハッと思い出す。
……そうだ、ここはダンジョンの中だった。こんな不思議な滑り台を作ってるのも、きっと不思議が当たり前のダンジョンだからかなぁ。でも、この滑り台とお昼ご飯、なんの関係があるんだろう。
不思議な滑り台。
ミミリがそう表現した滑り台に、今くまゴロー先生は脚立に乗って最後の仕上げを施しているところ。うさみもゼラも、くまゴロー先生に指示されるがまま、滑り台を支える台の部分を製作中だ。
「なかなか、難しいわね」
「うさみ、無理するなよ。うさみには重たいだろうからな」
「あら、ありがと。スケコマシ?」
「……もういっか、俺、スケコマシでも」
不思議な滑り台は竹でできていた。
くまゴロー先生の指揮のもと、サクサクと進められていった滑り台製作。
自生する竹を切り、ゼラは短剣で竹を真っ二つに割って、中に残る節を取り除いた。竹に少し残る節も綺麗に取り除く細やかさ。
そして、うさみの魔法「清浄なる温風」で清めて乾かされ、さらにいくつもの竹が同じ作業、同じ工程を経て準備されていく。
そして今、3本ごとに糸で束ね三脚のようにして芝生に立てる作業の終盤に差し掛かったところ。ゼラたちは今最後の三脚を立て終わり、脚立に乗るくまゴロー先生の胸あたりから出発する滑り台の頂上から続く竹を、順次三脚に乗せていく。竹の最後の真下には、ゼラの胴回り程度の大きさの丸い桶を。丸い桶には、針で刺したような細い穴が何故か無数に空いている。
そうして全部竹を三脚に乗せ終わったのを見守ってから、ミミリはある疑問をくまゴロー先生にぶつける。
「……くまゴロー先生? この細い竹の滑り台で、一体誰が滑るんですか? うさみですか?」
ミミリの質問も当然のもの。竹の大きさは精々ミミリの片手二つ分の大きさくらい。滑れるとしたら、うさみくらいしかいないのだ。
ミミリの質問に、くまゴロー先生は脚立の上から笑って答えた。
「うさみさんが滑るのも楽しそうですが、ミミリさんが今抱き抱えてくださっているそれをここから滑らせるのですよ。厳密には水と一緒に流すのです」
「……え、小麦粉で作った生地をですか?」
ミミリがくまゴロー先生から指示を受けて錬金釜で作った小麦粉の生地。小麦粉、水、塩を混ぜ合わせて練ったもの。かなりの量が必要だということだったので大きさはミミリが抱き抱えて持たなければならないくらいのものになった。
ミミリの質問に、くまゴロー先生は笑って答える。
「えぇ、今日のお昼は流しそうめんです」
「……流し、そうめん⁇」
ミミリは初めて聞くその単語に、頭の中が疑問符でいっぱいになった。
……この、小麦粉の生地を滑り台の上からゴロゴロ転がすのかなぁ?
「いきますよ‼︎ みなさん準備はよろしいですか?」
脚立の上から、くまゴロー先生がミミリたちを見下ろして声をかける。
くまゴロー先生が乗る脚立の隣には、地に打ち立てられた木製の支柱が一本。ちょうどくまゴロー先生の1.5人分くらいの高さのものだ。支柱の頂上には、大きな丸い桶のようなものが乗せられている。
桶の一部に空いた穴から竹の滑り台が緩やかに続く。どういう原理か、頂上から絶えず水が流れ出てくる。
ミミリたちは全員フォークと出汁が入った器を持って待機中。うさみは背丈の事情から、ミミリが【マジックバッグ】の中から出した椅子の上に立って準備万端だ。
「よくわからないけど、準備はできたわ」
「なんだか、わくわくするね! ゼラくん」
「……俺はいろんな意味でドキドキするけどな。……だってあっちにいるのって……」
竹の滑り台の中腹にいるミミリたちは、後方にて準備中のモノたちに目をやった。
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
……あれは、どこからどう見てもモンスターのぷるぷる、だよな?それも6体も。……これは、どういうことなんだ?
ゼラは心の中で自問した。
不思議なのは、ぷるぷるたちが串に刺さった団子のように3体重なって、その最上位にいるぷるぷるが自分たちと同じように何故かフォークと出汁の入った器を持っていること。それが、竹を挟んで向かい合わせに2チームいる。
「……ぷる団子も、おいしそうだなぁ。3色団子に、あん団子かぁ」
ピンク、白、緑色の順で重なるパステルカラーのぷるぷると、初めて見る黒色のぷるぷる。ミミリは団子を彷彿とさせるぷるぷるを見て、思わず心の声を漏らしてしまう。
「ぷぷ……!」
「ぶぶ……!」
ぷる団子たちは6体ともガタガタぷるぷる震えだした。
それもそのはず。
ミミリの今の発言は、どう考えても捕食者のもの。被食者にとっては、残酷かつ冷酷な発言の他ならない。
「……あっ違うよ! 貴方たちをガブッて食べるんじゃなくてね、もし、ぷるゼラチンが手に入ったらっていうお話だよ」
「ぷぷー」
「ぶぶー」
ミミリの説明でぷる団子の震えは止まり、ほっとしたかのようにぷるぷるの身体の緊張が少し緩んだ気がした。
ぷるぷるとは異なり、ミミリの発言にゼラは更に首を傾げる。
「ぷるゼラチンだって、ぷるぷるからしたら恐ろしい話じゃ……」
「アンタ、わかってないわねぇ」
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
「エッ⁉︎ なんかぷるぷるたちにまで俺呆れられてる?」
うさみもぷる団子たちも呆れ顔でゼラを見ている。ぷるぷるは目しかなく表情なんてわからないのに、何故だか呆れている様子が伝わってくるから不思議だ。パステルぷるの黒い瞳も、ダークぷるの白い瞳も、目頭から目尻にかけて不自然に垂れ下がっているように見える。
「呆れ顔っていうより、俺のこと憐れんでないか?」
この地の不思議には慣れたはずが、ゼラにはまだわからないことがたくさんあるようだ。
それはそれとして、ゼラには確認しなければならないことがある。
「……なんでモンスターが食卓にいるんだ?」
「――! ぷぅ……」
「――! ぶぅ……」
「……ゼラくん、そういうこと言ったら、かわいそうだよ? この子達はね、ご飯食べにきただけだからね」
「……コラ! ゼラ! 謝んなさい!」
「エェ……」
ぷる団子たちは、ガタガタぷるぷる震えだした。涙こそ出ていないものの、その姿から哀しみが伝わってくる。
「わああああぁぁ! ゴメン! ゴメンな! 一緒にご飯、食べような?」
「ぷー!」
「ぶー!」
ぷる団子たちの震えがとまり、ゼラとなんとか和解したようだ。ミミリは円満解決の様子を見て、ニッコリ微笑んで胸を撫で下ろした。
「では、行きますよ~! 流しそうめん、始めま~す!」
くまゴロー先生は手を伸ばして、ミミリから預かった小麦粉の大きな生地を丸い桶の中に入れた。
――シュウゥゥ!
「わぁぁ! 桶から湯気が出始めた!」
ミミリは桶を下から見上げて感嘆の声を上げた。おそらくあの桶も錬金術で作られたもの。竹の滑り台に絶え間なく水が流れ出てくることから推察するに、あの桶と支柱には水を生み出す仕組みがある。そして今、桶から湯気が出ているということは、おそらく小麦粉の生地は茹で上げられているのだろう。
「第一陣が行きましたよ! さぁ、頑張ってつかまえてくださいね!」
――ポシュ!
桶から滑り出てきた細長いく白い麺。麺は絡まり合って程よく一つのかたまりとなっている。小麦粉の生地の塊を入れたはずなのに、麺状に飛び出してくる錬金術の不思議。
「わぁ~! 待って~!」
麺はあっという間に、うさみの前を通過し、竹を挟んで向かい合わせの立ち位置にいるミミリとゼラの前を通過し、あっと言う間に流れていった。
「ぷぷー!」
麺はなんとか3色ぷる団子につかまえられた。
3色ぷる団子は慣れた手つきで麺をフォークに絡め、出汁にチョンッとつけてからちゅるちゅるっと麺を吸い込む。
ピンクぷるは美味しそうにぷるぷるっと軽く震えてから、重なり順を変更する。食べ終わったピンクぷるは一番下の土台部分に。そして順番が一つ繰り上がって白ぷるがフォークと器を持ち、次なるそうめんを待ち構えた。
「順番こするんだね! えらいよ。よーし! 次は私もつかまえちゃうよ!」
「みなさん、流しそうめんの仕組み、なんとなくわかりましたね? 次はたくさんいきますから、みなさんつかまえてくださいね!」
脚立の上から、くまゴロー先生は生徒たちに向かって話しかける。楽しんでもらえるか少し不安だったくまゴロー先生は、眼下に広がる熱気あふれた光景に目を細めて喜んだ。
「流しそうめん、初めて経験するけど楽しみながら食べるご飯って最高だな!」
「うんうん! 次こそ私もつかまえるんだ!」
「……精神集中! 私のぬいぐるみ生をかけて、ヤツ(そうめん)を必ず、仕留めてやるわ!」
「楽しんでいただけて、何よりですよ」
――ここは、一風変わったダンジョン、「審判の関所」。
一風変わったダンジョンの、一風変わったお昼休みが、流しそうめんとともに幕を開けた。
……この時のミミリたちは知る由もなかった。
まさかこの流しそうめん大会で、あのような「悲劇」が起ころうとは。
ミミリは辺りを見渡した後、鋭意作業中のくまゴロー先生を見上げて問いかける。
「えぇ、お昼休みですよ。みんなでお昼ご飯を食べましょう。」
「この場所でですか?」
「えぇ、そうです。楽しそうでしょう」
「えぇと……、ちょっとどんなお昼ご飯か想像できません。」
――青い空に青い芝生。
空には雲一つないが太陽もない。
ジリジリと照るような明るさではなく、ただの明るい青がミミリたちを照らしている。
足下には青々とした芝生。生きのいい色彩に反して匂いはない。
空も芝生もどこか人工的に感じるこの空間。まるでピクニックを演出するために造られたような背景。そして芝生から、「無造作に」ある植物が自生している。なんとも不思議な空間だ。
ここまで考えてから、ミミリはハッと思い出す。
……そうだ、ここはダンジョンの中だった。こんな不思議な滑り台を作ってるのも、きっと不思議が当たり前のダンジョンだからかなぁ。でも、この滑り台とお昼ご飯、なんの関係があるんだろう。
不思議な滑り台。
ミミリがそう表現した滑り台に、今くまゴロー先生は脚立に乗って最後の仕上げを施しているところ。うさみもゼラも、くまゴロー先生に指示されるがまま、滑り台を支える台の部分を製作中だ。
「なかなか、難しいわね」
「うさみ、無理するなよ。うさみには重たいだろうからな」
「あら、ありがと。スケコマシ?」
「……もういっか、俺、スケコマシでも」
不思議な滑り台は竹でできていた。
くまゴロー先生の指揮のもと、サクサクと進められていった滑り台製作。
自生する竹を切り、ゼラは短剣で竹を真っ二つに割って、中に残る節を取り除いた。竹に少し残る節も綺麗に取り除く細やかさ。
そして、うさみの魔法「清浄なる温風」で清めて乾かされ、さらにいくつもの竹が同じ作業、同じ工程を経て準備されていく。
そして今、3本ごとに糸で束ね三脚のようにして芝生に立てる作業の終盤に差し掛かったところ。ゼラたちは今最後の三脚を立て終わり、脚立に乗るくまゴロー先生の胸あたりから出発する滑り台の頂上から続く竹を、順次三脚に乗せていく。竹の最後の真下には、ゼラの胴回り程度の大きさの丸い桶を。丸い桶には、針で刺したような細い穴が何故か無数に空いている。
そうして全部竹を三脚に乗せ終わったのを見守ってから、ミミリはある疑問をくまゴロー先生にぶつける。
「……くまゴロー先生? この細い竹の滑り台で、一体誰が滑るんですか? うさみですか?」
ミミリの質問も当然のもの。竹の大きさは精々ミミリの片手二つ分の大きさくらい。滑れるとしたら、うさみくらいしかいないのだ。
ミミリの質問に、くまゴロー先生は脚立の上から笑って答えた。
「うさみさんが滑るのも楽しそうですが、ミミリさんが今抱き抱えてくださっているそれをここから滑らせるのですよ。厳密には水と一緒に流すのです」
「……え、小麦粉で作った生地をですか?」
ミミリがくまゴロー先生から指示を受けて錬金釜で作った小麦粉の生地。小麦粉、水、塩を混ぜ合わせて練ったもの。かなりの量が必要だということだったので大きさはミミリが抱き抱えて持たなければならないくらいのものになった。
ミミリの質問に、くまゴロー先生は笑って答える。
「えぇ、今日のお昼は流しそうめんです」
「……流し、そうめん⁇」
ミミリは初めて聞くその単語に、頭の中が疑問符でいっぱいになった。
……この、小麦粉の生地を滑り台の上からゴロゴロ転がすのかなぁ?
「いきますよ‼︎ みなさん準備はよろしいですか?」
脚立の上から、くまゴロー先生がミミリたちを見下ろして声をかける。
くまゴロー先生が乗る脚立の隣には、地に打ち立てられた木製の支柱が一本。ちょうどくまゴロー先生の1.5人分くらいの高さのものだ。支柱の頂上には、大きな丸い桶のようなものが乗せられている。
桶の一部に空いた穴から竹の滑り台が緩やかに続く。どういう原理か、頂上から絶えず水が流れ出てくる。
ミミリたちは全員フォークと出汁が入った器を持って待機中。うさみは背丈の事情から、ミミリが【マジックバッグ】の中から出した椅子の上に立って準備万端だ。
「よくわからないけど、準備はできたわ」
「なんだか、わくわくするね! ゼラくん」
「……俺はいろんな意味でドキドキするけどな。……だってあっちにいるのって……」
竹の滑り台の中腹にいるミミリたちは、後方にて準備中のモノたちに目をやった。
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
……あれは、どこからどう見てもモンスターのぷるぷる、だよな?それも6体も。……これは、どういうことなんだ?
ゼラは心の中で自問した。
不思議なのは、ぷるぷるたちが串に刺さった団子のように3体重なって、その最上位にいるぷるぷるが自分たちと同じように何故かフォークと出汁の入った器を持っていること。それが、竹を挟んで向かい合わせに2チームいる。
「……ぷる団子も、おいしそうだなぁ。3色団子に、あん団子かぁ」
ピンク、白、緑色の順で重なるパステルカラーのぷるぷると、初めて見る黒色のぷるぷる。ミミリは団子を彷彿とさせるぷるぷるを見て、思わず心の声を漏らしてしまう。
「ぷぷ……!」
「ぶぶ……!」
ぷる団子たちは6体ともガタガタぷるぷる震えだした。
それもそのはず。
ミミリの今の発言は、どう考えても捕食者のもの。被食者にとっては、残酷かつ冷酷な発言の他ならない。
「……あっ違うよ! 貴方たちをガブッて食べるんじゃなくてね、もし、ぷるゼラチンが手に入ったらっていうお話だよ」
「ぷぷー」
「ぶぶー」
ミミリの説明でぷる団子の震えは止まり、ほっとしたかのようにぷるぷるの身体の緊張が少し緩んだ気がした。
ぷるぷるとは異なり、ミミリの発言にゼラは更に首を傾げる。
「ぷるゼラチンだって、ぷるぷるからしたら恐ろしい話じゃ……」
「アンタ、わかってないわねぇ」
「ぷぷー!」
「ぶぶー!」
「エッ⁉︎ なんかぷるぷるたちにまで俺呆れられてる?」
うさみもぷる団子たちも呆れ顔でゼラを見ている。ぷるぷるは目しかなく表情なんてわからないのに、何故だか呆れている様子が伝わってくるから不思議だ。パステルぷるの黒い瞳も、ダークぷるの白い瞳も、目頭から目尻にかけて不自然に垂れ下がっているように見える。
「呆れ顔っていうより、俺のこと憐れんでないか?」
この地の不思議には慣れたはずが、ゼラにはまだわからないことがたくさんあるようだ。
それはそれとして、ゼラには確認しなければならないことがある。
「……なんでモンスターが食卓にいるんだ?」
「――! ぷぅ……」
「――! ぶぅ……」
「……ゼラくん、そういうこと言ったら、かわいそうだよ? この子達はね、ご飯食べにきただけだからね」
「……コラ! ゼラ! 謝んなさい!」
「エェ……」
ぷる団子たちは、ガタガタぷるぷる震えだした。涙こそ出ていないものの、その姿から哀しみが伝わってくる。
「わああああぁぁ! ゴメン! ゴメンな! 一緒にご飯、食べような?」
「ぷー!」
「ぶー!」
ぷる団子たちの震えがとまり、ゼラとなんとか和解したようだ。ミミリは円満解決の様子を見て、ニッコリ微笑んで胸を撫で下ろした。
「では、行きますよ~! 流しそうめん、始めま~す!」
くまゴロー先生は手を伸ばして、ミミリから預かった小麦粉の大きな生地を丸い桶の中に入れた。
――シュウゥゥ!
「わぁぁ! 桶から湯気が出始めた!」
ミミリは桶を下から見上げて感嘆の声を上げた。おそらくあの桶も錬金術で作られたもの。竹の滑り台に絶え間なく水が流れ出てくることから推察するに、あの桶と支柱には水を生み出す仕組みがある。そして今、桶から湯気が出ているということは、おそらく小麦粉の生地は茹で上げられているのだろう。
「第一陣が行きましたよ! さぁ、頑張ってつかまえてくださいね!」
――ポシュ!
桶から滑り出てきた細長いく白い麺。麺は絡まり合って程よく一つのかたまりとなっている。小麦粉の生地の塊を入れたはずなのに、麺状に飛び出してくる錬金術の不思議。
「わぁ~! 待って~!」
麺はあっという間に、うさみの前を通過し、竹を挟んで向かい合わせの立ち位置にいるミミリとゼラの前を通過し、あっと言う間に流れていった。
「ぷぷー!」
麺はなんとか3色ぷる団子につかまえられた。
3色ぷる団子は慣れた手つきで麺をフォークに絡め、出汁にチョンッとつけてからちゅるちゅるっと麺を吸い込む。
ピンクぷるは美味しそうにぷるぷるっと軽く震えてから、重なり順を変更する。食べ終わったピンクぷるは一番下の土台部分に。そして順番が一つ繰り上がって白ぷるがフォークと器を持ち、次なるそうめんを待ち構えた。
「順番こするんだね! えらいよ。よーし! 次は私もつかまえちゃうよ!」
「みなさん、流しそうめんの仕組み、なんとなくわかりましたね? 次はたくさんいきますから、みなさんつかまえてくださいね!」
脚立の上から、くまゴロー先生は生徒たちに向かって話しかける。楽しんでもらえるか少し不安だったくまゴロー先生は、眼下に広がる熱気あふれた光景に目を細めて喜んだ。
「流しそうめん、初めて経験するけど楽しみながら食べるご飯って最高だな!」
「うんうん! 次こそ私もつかまえるんだ!」
「……精神集中! 私のぬいぐるみ生をかけて、ヤツ(そうめん)を必ず、仕留めてやるわ!」
「楽しんでいただけて、何よりですよ」
――ここは、一風変わったダンジョン、「審判の関所」。
一風変わったダンジョンの、一風変わったお昼休みが、流しそうめんとともに幕を開けた。
……この時のミミリたちは知る由もなかった。
まさかこの流しそうめん大会で、あのような「悲劇」が起ころうとは。
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