見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

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第2章 審判の関所

2-15 2時間目、実技の時間

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 『2時間目 実技の時間 ~好きなレシピで錬成してみよう~』

 くまゴロー先生は、緑色の板書に書いた文字を指差しながら、ミミリたちに質問をする。

「2時間目の授業は自習に近いですね。好きなアイテムを使って錬成してみようというものです。ただしノルマがあります。1つの錬金素材アイテムから、最低3つの錬成アイテムを作ってください」
「……それってかなり難しいノルマよね?」
「えぇ、これも審判の1つですから」

 うさみは魔法使いであるため、錬金術を熟知しているわけではない。
 しかし、ミミリと長く暮らしてきた以上最低限の知識はある。1つの錬金素材アイテムから複数の錬成アイテムを派生させることが、錬金術への深い造詣を要するものであることがわかる程度には。

「……できなかったらどうなりますか」
と、ゼラは神妙な面持ちで質問をする。

 ゼラの錬金術の知識はないに等しい。
 そんなゼラの脳裏によぎるのは、ノルマ失敗のペナルティ。

 また『三日月の反省部屋』に飛ばされてモンスターとの戦闘を強要されるのではないかという懸念がゼラの不安をかき立てる。
 うさみは特に、強力な支援魔法の重複展開でMPが 0に近いはず。休憩もなしに再び戦闘が始まったら、かなりの苦戦を強いられるだろう。

「お察しのとおり、ペナルティは免れませんね」

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 ミミリは着席しながら、胸に手を当てて俯きながら息遣い荒く呼吸している。

「ミ、ミミリ? 大丈夫?」
「ミミリ、具合悪いのか?」

 ミミリの息遣いは、体調不良を思わせるほどに荒く大きい。

「ごめんな、ミミリ。背負わせて」

 ゼラがミミリ対して思う気持ちは、うさみも一緒。
 2人とも、パーティーの中でこのノルマを請け負うことができるのは見習い錬金術士のミミリだけという状況に、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「せっ、先生! くまゴロー先生! ……はぁっ、はぁっ……」
と、ミミリは息遣い荒いままに先生に向かって勢いよく左手を挙げた。

「はい、ミミリさん」

 ミミリの荒い息遣いにも、くまゴロー先生は全く動揺していない様子。にこやかにミミリの挙手に応えて発言を促した。

「……ドキドキが、ドキドキが止まらないんです! 早く、錬成していいですか……。はぁっ、はぁっ」
「「……え?」」


「「……」」


「……俺、めちゃくちゃ心配したんだけど」
「……もちろん私もよ」

 くまゴロー先生はフフッと笑って、
「では、実技の時間を始めましょうか」
と、授業開始の言葉を告げた。


「もうっ、ダメ。ドキドキが止まらないよ! ぷるゼラチンを使ったレシピが、頭の中で運動会してるよ! 早く作ってって、ぷるぷるが走ってくるよ」

「……うん、作るの応援してるわね。お絵描きしないで、ちゃんと見てるから」
「……手伝うことあったら、遠慮なく言ってな」

「うん! うん! ありがとうね!」

 ミミリのワンピースの猫のしっぽはブンブンと高速で揺れ、ふんすっ!と意気込む鼻息からも大興奮していることがよくわかる。

 ミミリは【マジックバッグ】の中から錬金釜と木のロッド、そして箱に詰まったぷるゼラチンを意気揚々と取り出した。そして愛用している踏み台も。

「よ~し! やるよぉぉ! まずはもちろん、【ぷるみずまんじゅう】からッ!」
「「……だよね。知ってた」」



 ミミリは釜へポイポイッと錬金素材アイテムを入れていく。……それはそれは、満面の笑顔を浮かべながら。

「メシュメルの実の粉末、ぷるゼラチン、【ミール液】、それと水……! そして、ひたすら掻き混ぜる~! 量は通常の3倍量で! はあぁ楽しいよう!」

 ミミリは初めて錬成するアイテムのレシピとは思えないくらいに手際がいい。
 MPを強めに込めて、錬金釜の温度を上げながら絶えずロッドで掻き混ぜる。粘りが出て、半透明になってきたら温度を下げて少し練る。

「出来たよ! あとは、冷やすだけ! ――錬成完了!……1/3だけ、回収!」
「……嘘だろ、早ッ!」

 ミミリは【マジックバッグ】の中から、シルバートレイと小さな丸い容器を数個取り出した。錬成完了の合図とともに、容器の中へ均等に注がれていく【ぷるみずまんじゅう】。
 そして容器を乗せたシルバートレイごと、ゼラにハイッと手渡すミミリ。

「ゼラくん、お手伝いお願いします! あの氷水が入ったボウルに容器を入れて、【ぷるみずまんじゅう】を冷やしてあげてね」

 ゼラが指示された方へ視線をやると、ゼラの机にはすでに氷水を張って待機している大きなボウルがあった。

「……早っ! いつの間に! ……てか俺、気づかなかったけど」

「さぁ、このまま次のレシピだよ!」
「すごっ! さすがミミリだわ」


 ミミリのワクワクも、アイテム錬成も止まらない。


「錬金釜に更に足すのは、くまゴロー先生からもらった良質なはちみつ。そして、ほんの少しのレモン果汁!」

 ミミリは再び錬金釜にMPを込めていく。軽く混ぜ合わせたのちに、【マジックバッグ】の中から、いくつもの小さな丸い窪みがある長方形の鉄板を取り出した。大きさはミミリの肩幅くらい。

「――錬成完了、また1/3だけ、回収!」

 錬成完了の合図とともに、錬金釜の中から鉄板の窪み目掛けて回収されていく錬成アイテム。
 鉄板の窪みは、回収された錬成アイテムによって均等に埋められた。

「ゼラくん、お手伝いお願いします! 私の机の上に置いてある【冷却マット】の上にこの鉄板を置いて、【はちみつぷるんグミ】、冷やし固めてね!」
「了解! またミミリの机の上にいつのまにか【冷却マット】が用意されてるけど、俺はもう驚かないんだ」
「いい助手してるわ、頑張りなさい! ゼラ」
「言われなくてもな」

「さぁ、最後のレシピだよ!」

「……目を見張るほどの、連続錬成。即興とは思えませんね」

 くまゴロー先生の驚きも気にせず、ミミリは粛々と最後の錬成に進んでいく。

「最後の錬成は、刺激的だよ~?」

 ミミリは【マジックバッグ】へ木のロッドをしまい、両手に【絶縁の軍手グローブ】をはめてから、雷のロッドと【雷電石らいでんせきの粉末】を取り出した。
 そして1/3にまで減った錬成途中の錬金釜の中身に、惜しげもなくガラスの小瓶に入れた【雷電石らいでんせきの粉末】を振りかけていく。

「雷のロッドで感電することはないけど、軍手グローブは念のためね!」

 ……バチバチッ!

 錬金釜の中で、弾けるような雷の音がする。

「ひぃやぁ~」

 うさみは思わず、短い灰色の両手で頬を抑える。
 うさみの頭の中で蘇る雷電石らいでんせきの地下空洞での刺激的な生活。

 全身毛と綿でできているぬいぐるみのうさみは、静電気を帯電しやすい。地下空洞の中では歩くたびに蓄電し、うさぎではない別の海の生き物のようにボンッと顔を膨らませていた。

「ふふっ! うさみ、今はちゃんと可愛いうさちゃんのままだから大丈夫だよっ!」
「さすが私のミミりん。乙女心わかってるぅ~!」

 錬金釜の中では、惜しげもなく振りかけられた雷電石らいでんせきの粉末がぷるゼラチンと程よく均一に混ざったころ。ミミリは珍しく勝気にフフッと微笑んだ。

「ーー錬成終了! ぜーんぶ回収ッ!」

 錬金釜の中から浮かび上がる、球状の錬成アイテム。まぁるいフォルムは生きたぷるぷるを彷彿とさせる。しかし、可愛いわけではなく。

 半透明に透けた球状の内部で、まるでぷるぷるが感電しているかのように、雷鳴が激しく血走っている。
 ミミリは、球状の錬成アイテムを【マジックバッグ】へ収納した。


【ぷる砲弾(雷)(試作品) 電撃(???) 特殊効果:ぷる砲弾を模した戦闘用アイテム。投げた際にふわっとはちみつが香ってモンスターを油断させる(予定)】


「……くまゴロー先生、錬成終わりました!」

 ミミリは顔を蒸気させ、声も興奮気味に呼気を帯びた。
 ミミリはやり切った清々しい表情を浮かべる。手にはじんわり、汗をかいていた。

「ミミリさん。流れるような錬成もさることながら、錬成アイテムから派生させ、アレンジレシピのように3種即興で完成させるとは。……正直、ペナルティも想定していましたが……」
「先生、うちのミミリをすごいと思いませんか?」
「あらヤダ。ゼラってば。ミミリだからね」
ミミリな?」


「……先生、どうですか?」

 ミミリの質問に、くまゴロー先生はミミリの連続錬成を頭の中で振り返る。

 ぷるゼラチンから錬成した【ぷるみずまんじゅう】。派生させた【はちみつぷるんグミ】。そして更に派生させた【ぷる砲弾(雷)】。

 流れるような錬成に、派生レシピも素晴らしい。何より心躍るのは、生き生きと錬成する、その姿。

「……素晴らしい。もちろん合格です!」
「わぁぁ! ありがとうございます!」

 くまゴロー先生は嬉しそうに拍手した。
 助手のゼラも、応援係のうさみも一緒にうさみに拍手を贈る。

「すごいわ、さすが私のミミりん」
ミミリな?」
「えへへ……ありがとう。」

 ミミリはほわっといつもどおりの優しい表情で謝辞を伝える。


「最後に1つ、確認せねば。……ミミリさんは、本当に『見習い』錬金術士ですか?」
「はいっ! 『見習い』錬金術士のミミリです!」


 ミミリは自信を過信することなく、笑顔で謙虚に『見習い』錬金術士と名乗った。
 それを聞いて、くまゴロー先生はクスッと笑みをこぼした。

「なんて謙虚な、なんて有望な『見習い』生徒でしょうか」

 かくして、2時間目の実技の授業もつつがなく、とても謙虚に幕を閉じた。
 
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