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第2章 審判の関所
2-9 同じ轍を踏んだらダメでしょ
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「……ミミリ? 今、このタイミングでぷるゼラチンの話?」
「うん、そーだよ?」
ゼラはミミリがてっきりうさみの複雑な胸中をくま先生に物申すものかと思っていたので、盛大な肩透かしを食らった気分だった。
当事者のうさみなら尚のことだろう。
その虚脱感たるや、想像に難しくない。
ゼラは哀れな気持ちでミミリ越しにうさみを見る。すると、やはりうさみは大きく頷いていた。ゼラがミミリにやんわりと指摘したことに対する同意だろう。ゼラはますますうさみの心に寄り添った。
「やっぱり、うさみもそう思うでしょ? ぷるゼラチン返してほしいって」
ミミリはミミリで、大きく頷くうさみは自分に同意してくれているものだと思っている。
……ここは、ミミリの年上の立場から優しく教えてあげないとな。
「あのさミミリ、うさみは……」
「そう! 返してほしいわ。ぷるゼラチン」
「そう、うさみは返してほしいんだよな。ぷるゼラチン。……って、エェッ⁉︎」
「だよねぇ。ということで、返してください、先生!」
ゼラは予想外の展開に驚きを隠せない。
さっきは確かに、うさみは複雑な表情を浮かべていたはずだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここで口を挟むのはルール違反かもしれないけど、それでも思考が追い付かない。うさみは、思ってることいつもみたいに言わなくていいのか?」
いつものうさみなら、あーだこーだ納得いくまで持論を展開しただろう。
それでもうさみに横暴さを感じないのは、彼女の心根の優しさが、言葉の端々から感じ取られるから。
言いたいことをズバッと言っても好感度は高い。それはうさみの天性の才能だ。
「あぁ、いいのいいの。確かに再会した時はちょっと複雑な気持ちだったけどねん」
「じゃあ、一言物申さなくていいのか?」
「いーのいーの」
うさみはミミリを見ながら、ふふっと微笑む。
「だってミミリは、私のことちゃーんとわかってくれてるもの。ぜーんぶね! それに……」
そして、うさみは勝気に小鼻を上げて、胸を張ってくま先生にウインクする。
「私は『三日月の反省部屋』でちゃんと反省してきたわ。なのにまだ反省が足りない~とか言う器の小さい男だとしたら、こっちから願い下げよ?」
くま先生は挑戦的だが可愛らしいうさみに目を細める。
「やはり貴方は魅力的な女性ですね」
「まっ、まぁね……」
うさみは、照れ隠しにそっぽを向いた。
ゼラがうさみを見ると、灰色の耳がこれでもかとパタパタと動いていた。
そんなうさみに思わずゼラも、
「たしかにうさみは、魅力的だな」
と言ったので、ミミリはクスッと笑って喜んだ。
ーーそして、くま先生による授業は再び始まった。
「まず、『三日月の反省部屋』での講評を行いましょう」
ミミリたちは、再び椅子に座り受講の体制をとった。
緑の板書を背景に、教壇にはくま先生。
くま先生は目の前の教卓に何かが入った木の箱をゴトンと置いた。
「まず、うさみさん。保護魔法や防御魔法など、パーティーへの支援魔法が見事でした。貴方の活躍なくして攻略は不可能だったでしょう」
「あ、ありがとうございます」
くま先生に褒められ、嬉しさが隠せないうさみは耳をパタパタと震わせた。その仕草が可愛らしく、ミミリはどうしても笑ってしまう。
「次にゼラくん、素晴らしい立ち回りでしたよ。パーティーの指揮も的確でした。特に雷属性を纏った剣技は見事でした。誰に師事したかお伺いしても?」
「アルヒさんです!」
ゼラの答えに、くま先生は目を丸くする。
「なるほどですね。納得の立ち回りでした。」
どうやら、ピロンに続きくま先生もアルヒと面識があるようだ。
このダンジョン、「審判の関所」の案内人がスズツリー=ソウタに作られたピロンであるということは、このダンジョン自体も彼に作られたものであるという可能性がある。若しくは後発的に関与しているのかもしれない。
つまるところ、このダンジョンの関係者であるくま先生も、アルヒと面識があっても何ら不思議ではないということだ。
ミミリたちは特に驚きもしなかった。
「最後に……」
くま先生は、含みを持たせて教卓に両手を突き、ミミリをじーっと見つめる。
「ミミリさん!」
「は、はいぃっ‼︎」
ミミリはくま先生の目力に圧倒されて、声が裏返った。ワンピースの猫の尻尾もぴーんと真っ直ぐ姿勢を正す。
「最後のアレはなんだったんですか⁇」
「あ、アレ? ぷるゼラチンが欲しいって言ったことですか?」
「ミミリ、一旦ぷるゼラチンから離れようか」
ゼラはクスクス笑ってミミリに言う。
授業中でもミミリの頭の中はみずまんじゅうでいっぱいのようだ。
幸いにもミミリは授業を受けようとする姿勢は見られるので、気持ちが少しみずまんじゅうに傾いているくらいでは、まさかペナルティが生じることもないだろう。
「貴方が気にしている、ぷるゼラチンはこの箱に回収してありますよ。講評の後お返ししますのでご心配なく」
「よかったぁ~」
「……そうではなくて!」
「ハッ、ハイィ‼︎」
くま先生の大きな声に、ミミリはビクッと背筋を正す。
くま先生は振り返って緑の板書の小物受けから白色の細長い物を取り、情熱的に板書を始めた。ミミリがこの教室に初めて入った時に推測したとおり、細長い物は羽ペンの役割を果たす物らしい。
『金+赤=感電??』
くま先生は方程式を書いた後、2本の下線を勢いよく引いた。
「どうやって2つの光で感電させたのですか? しかも、ぷるぷるの表皮に穴が開くほどの高電圧と見受けられました。一体、どうやって⁉︎」
先生は言いながら、ペンを持ち替え、何色ものペンを使って簡略な絵を描いていく。
人物2人にうさぎが1匹、そして囲う二重のピンクのドーム。ドームから上に向かって放たれた黄色と赤色の線画。
そして、2色の線画の頂上に向かって、周囲から弧を描いて集まるたくさんの白の線画。ぷる砲弾を現しているのだろう。
そして黄と赤と白が一点に集まったところを、くま先生は右手の拳を握ってバァンと叩く。
ミミリは緑の板書に穴が開くのではないかとヒヤリとしながら問いに答えた。
「えっと、錬成アイテムと錬金素材アイテムです。」
「ですから、何と何なのです⁇」
先生の疑問には、うさみもゼラも興味津々だった。2人とも、現場にいたもののアレが何なのか検討もつかなかったからだ。
「ミミリ、私も知りたいわ」
「俺も。新しいアイテムなのか?」
全員がミミリに釘付けになる中で、注目され慣れていないミミリは少し恥ずかしそうにゆっくりと話し始める。
「赤い光を放ったアイテムは、【火薬草の結晶】です。反復練習して魔力の上限値を上げようとしていた時に、MPを込めすぎて危なく爆発しそうになったものを寸前で止めた物です。中でも小粒の物を選びました」
「ちょっ……ミミリ怖い話してるわね」
「うっ……そのおかげか今では上手に錬成できるようになったよ」
くま先生はミミリの回答に首を捻る。
「なるほど、爆発寸前ということは、結晶の形は保たれてはいるが脆く壊れやすかったはず。投げ上げられる過程で赤い筋を描いたのも、結晶の一部が粉塵となって舞い落ちていたのでしょう。しかし、それでは電力は伴わない」
ミミリは先程よりも声量を抑えて話し始める。ゆえに、全員がミミリの話に尚のこと傾聴した。
「えっと、金色は雷電石(らいでんせき)です。【雷電石(らいでんせき)の粉末】を作るためにゴリゴリ押し潰してる途中で……」
「閃いた新しいアイテムってことか⁉︎」
食い気味に質問するゼラと目が合い、ミミリはフッと視線を逸らした。
「……ミミリ?」
ゼラはあまりにも不自然に目を逸らしたミミリに違和感を覚え、ミミリの顔を覗き込もうと身を乗り出した。
するとミミリは着席したままゼラに背を向け、うさみの方へと身体を向ける。
そして、聞こえるか聞こえないかの音量でポソポソと話し始めた。
「……お腹が、空いて……」
「……? なんだ? 聞こえない? もう一度言ってくれ」
「……だから、お腹が、空いて……」
「ごめん、聞こえない」
ミミリの小さな声のせいもあるが、背を向けられているゼラは尚更聞こえず、何度も聞き返した。
うさみは、ゼラに「もうやめておきなさい」と身振り手振りで伝えられるよう試みるが、小さなうさみはミミリの身体に隠れてゼラの視界に入らない。
「ミミリ、ごめん、もう一度……」
「だっ、だからぁ! お腹が空いてたの! 錬成途中でお腹が空いたから、粉末にする直前に中断してオヤツ食べてたのッ! だから、雷電石(らいでんせき)も脆くなってたから、ぷる砲弾の衝撃で【火薬草の結晶】の火力も借りて、勢いよく砕けて感電させられたの~‼︎」
「あぁ、オヤツのために中断したのか。ミミリらしい。ーーハッ‼︎」
ミミリはぷるぷるのように、ぷるぷるぷるぷる震えだした。
うさみはミミリの姿を見て、短い灰色の手で額を抑えながら、ゼラの言葉にため息をつく。
「まったく、これだからお子ちゃまは……」
「もっ、もう、ゼラくんなんて、ゼラくんなんて~!」
ミミリは目をうるっと潤ませながら、顔を赤らめてゼラに向き直った。頬は、メリーさんのようにぷくっと膨らませている。
……あ、この光景、さっき見た……。
ゼラは激しく後悔した。
「あぁ、もう、手遅れよ……」
うさみは、ガタガタと震えだす。
「もう、ゼラくんなんか‼︎ 今日のオヤツ、1個もあげないんだからねッ!」
ミミリはぷるぷる震えながら、怒り口調でそう告げた。
「ーー‼︎ 1個も、くれないなんて」
「アンタ詰んだわね。……同じ轍を踏んだらダメでしょ」
「うさみ! 詰むとか言うなぁっ‼︎」
「むぅ~‼︎」
「ごめん! ミミリさん! 許してください‼︎」
授業中だというのに、教室は混乱を極めた。
場を収めたのは、くま先生のキザなセリフ。
「ミミリさん、探究心や追求心は錬金術士にとって成長するために欠かせないものです。途中で錬成をやめたとしても、貫ける貴方は素晴らしい。」
と言って、くま先生はミミリとうさみ、双方に目を向ける。
「それに、可愛らしいお嬢さん方が愛らしく食事をする姿を想像しただけで、私の胸は高鳴ります」
「「せん……せい……‼︎」」
乙女2人とくま先生の間にやさしく香る桃色の風。
ゼラは1人蚊帳の外で、
「クサすぎるだろ、そのセリフ……」
とボソッと呟いた。
「うん、そーだよ?」
ゼラはミミリがてっきりうさみの複雑な胸中をくま先生に物申すものかと思っていたので、盛大な肩透かしを食らった気分だった。
当事者のうさみなら尚のことだろう。
その虚脱感たるや、想像に難しくない。
ゼラは哀れな気持ちでミミリ越しにうさみを見る。すると、やはりうさみは大きく頷いていた。ゼラがミミリにやんわりと指摘したことに対する同意だろう。ゼラはますますうさみの心に寄り添った。
「やっぱり、うさみもそう思うでしょ? ぷるゼラチン返してほしいって」
ミミリはミミリで、大きく頷くうさみは自分に同意してくれているものだと思っている。
……ここは、ミミリの年上の立場から優しく教えてあげないとな。
「あのさミミリ、うさみは……」
「そう! 返してほしいわ。ぷるゼラチン」
「そう、うさみは返してほしいんだよな。ぷるゼラチン。……って、エェッ⁉︎」
「だよねぇ。ということで、返してください、先生!」
ゼラは予想外の展開に驚きを隠せない。
さっきは確かに、うさみは複雑な表情を浮かべていたはずだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここで口を挟むのはルール違反かもしれないけど、それでも思考が追い付かない。うさみは、思ってることいつもみたいに言わなくていいのか?」
いつものうさみなら、あーだこーだ納得いくまで持論を展開しただろう。
それでもうさみに横暴さを感じないのは、彼女の心根の優しさが、言葉の端々から感じ取られるから。
言いたいことをズバッと言っても好感度は高い。それはうさみの天性の才能だ。
「あぁ、いいのいいの。確かに再会した時はちょっと複雑な気持ちだったけどねん」
「じゃあ、一言物申さなくていいのか?」
「いーのいーの」
うさみはミミリを見ながら、ふふっと微笑む。
「だってミミリは、私のことちゃーんとわかってくれてるもの。ぜーんぶね! それに……」
そして、うさみは勝気に小鼻を上げて、胸を張ってくま先生にウインクする。
「私は『三日月の反省部屋』でちゃんと反省してきたわ。なのにまだ反省が足りない~とか言う器の小さい男だとしたら、こっちから願い下げよ?」
くま先生は挑戦的だが可愛らしいうさみに目を細める。
「やはり貴方は魅力的な女性ですね」
「まっ、まぁね……」
うさみは、照れ隠しにそっぽを向いた。
ゼラがうさみを見ると、灰色の耳がこれでもかとパタパタと動いていた。
そんなうさみに思わずゼラも、
「たしかにうさみは、魅力的だな」
と言ったので、ミミリはクスッと笑って喜んだ。
ーーそして、くま先生による授業は再び始まった。
「まず、『三日月の反省部屋』での講評を行いましょう」
ミミリたちは、再び椅子に座り受講の体制をとった。
緑の板書を背景に、教壇にはくま先生。
くま先生は目の前の教卓に何かが入った木の箱をゴトンと置いた。
「まず、うさみさん。保護魔法や防御魔法など、パーティーへの支援魔法が見事でした。貴方の活躍なくして攻略は不可能だったでしょう」
「あ、ありがとうございます」
くま先生に褒められ、嬉しさが隠せないうさみは耳をパタパタと震わせた。その仕草が可愛らしく、ミミリはどうしても笑ってしまう。
「次にゼラくん、素晴らしい立ち回りでしたよ。パーティーの指揮も的確でした。特に雷属性を纏った剣技は見事でした。誰に師事したかお伺いしても?」
「アルヒさんです!」
ゼラの答えに、くま先生は目を丸くする。
「なるほどですね。納得の立ち回りでした。」
どうやら、ピロンに続きくま先生もアルヒと面識があるようだ。
このダンジョン、「審判の関所」の案内人がスズツリー=ソウタに作られたピロンであるということは、このダンジョン自体も彼に作られたものであるという可能性がある。若しくは後発的に関与しているのかもしれない。
つまるところ、このダンジョンの関係者であるくま先生も、アルヒと面識があっても何ら不思議ではないということだ。
ミミリたちは特に驚きもしなかった。
「最後に……」
くま先生は、含みを持たせて教卓に両手を突き、ミミリをじーっと見つめる。
「ミミリさん!」
「は、はいぃっ‼︎」
ミミリはくま先生の目力に圧倒されて、声が裏返った。ワンピースの猫の尻尾もぴーんと真っ直ぐ姿勢を正す。
「最後のアレはなんだったんですか⁇」
「あ、アレ? ぷるゼラチンが欲しいって言ったことですか?」
「ミミリ、一旦ぷるゼラチンから離れようか」
ゼラはクスクス笑ってミミリに言う。
授業中でもミミリの頭の中はみずまんじゅうでいっぱいのようだ。
幸いにもミミリは授業を受けようとする姿勢は見られるので、気持ちが少しみずまんじゅうに傾いているくらいでは、まさかペナルティが生じることもないだろう。
「貴方が気にしている、ぷるゼラチンはこの箱に回収してありますよ。講評の後お返ししますのでご心配なく」
「よかったぁ~」
「……そうではなくて!」
「ハッ、ハイィ‼︎」
くま先生の大きな声に、ミミリはビクッと背筋を正す。
くま先生は振り返って緑の板書の小物受けから白色の細長い物を取り、情熱的に板書を始めた。ミミリがこの教室に初めて入った時に推測したとおり、細長い物は羽ペンの役割を果たす物らしい。
『金+赤=感電??』
くま先生は方程式を書いた後、2本の下線を勢いよく引いた。
「どうやって2つの光で感電させたのですか? しかも、ぷるぷるの表皮に穴が開くほどの高電圧と見受けられました。一体、どうやって⁉︎」
先生は言いながら、ペンを持ち替え、何色ものペンを使って簡略な絵を描いていく。
人物2人にうさぎが1匹、そして囲う二重のピンクのドーム。ドームから上に向かって放たれた黄色と赤色の線画。
そして、2色の線画の頂上に向かって、周囲から弧を描いて集まるたくさんの白の線画。ぷる砲弾を現しているのだろう。
そして黄と赤と白が一点に集まったところを、くま先生は右手の拳を握ってバァンと叩く。
ミミリは緑の板書に穴が開くのではないかとヒヤリとしながら問いに答えた。
「えっと、錬成アイテムと錬金素材アイテムです。」
「ですから、何と何なのです⁇」
先生の疑問には、うさみもゼラも興味津々だった。2人とも、現場にいたもののアレが何なのか検討もつかなかったからだ。
「ミミリ、私も知りたいわ」
「俺も。新しいアイテムなのか?」
全員がミミリに釘付けになる中で、注目され慣れていないミミリは少し恥ずかしそうにゆっくりと話し始める。
「赤い光を放ったアイテムは、【火薬草の結晶】です。反復練習して魔力の上限値を上げようとしていた時に、MPを込めすぎて危なく爆発しそうになったものを寸前で止めた物です。中でも小粒の物を選びました」
「ちょっ……ミミリ怖い話してるわね」
「うっ……そのおかげか今では上手に錬成できるようになったよ」
くま先生はミミリの回答に首を捻る。
「なるほど、爆発寸前ということは、結晶の形は保たれてはいるが脆く壊れやすかったはず。投げ上げられる過程で赤い筋を描いたのも、結晶の一部が粉塵となって舞い落ちていたのでしょう。しかし、それでは電力は伴わない」
ミミリは先程よりも声量を抑えて話し始める。ゆえに、全員がミミリの話に尚のこと傾聴した。
「えっと、金色は雷電石(らいでんせき)です。【雷電石(らいでんせき)の粉末】を作るためにゴリゴリ押し潰してる途中で……」
「閃いた新しいアイテムってことか⁉︎」
食い気味に質問するゼラと目が合い、ミミリはフッと視線を逸らした。
「……ミミリ?」
ゼラはあまりにも不自然に目を逸らしたミミリに違和感を覚え、ミミリの顔を覗き込もうと身を乗り出した。
するとミミリは着席したままゼラに背を向け、うさみの方へと身体を向ける。
そして、聞こえるか聞こえないかの音量でポソポソと話し始めた。
「……お腹が、空いて……」
「……? なんだ? 聞こえない? もう一度言ってくれ」
「……だから、お腹が、空いて……」
「ごめん、聞こえない」
ミミリの小さな声のせいもあるが、背を向けられているゼラは尚更聞こえず、何度も聞き返した。
うさみは、ゼラに「もうやめておきなさい」と身振り手振りで伝えられるよう試みるが、小さなうさみはミミリの身体に隠れてゼラの視界に入らない。
「ミミリ、ごめん、もう一度……」
「だっ、だからぁ! お腹が空いてたの! 錬成途中でお腹が空いたから、粉末にする直前に中断してオヤツ食べてたのッ! だから、雷電石(らいでんせき)も脆くなってたから、ぷる砲弾の衝撃で【火薬草の結晶】の火力も借りて、勢いよく砕けて感電させられたの~‼︎」
「あぁ、オヤツのために中断したのか。ミミリらしい。ーーハッ‼︎」
ミミリはぷるぷるのように、ぷるぷるぷるぷる震えだした。
うさみはミミリの姿を見て、短い灰色の手で額を抑えながら、ゼラの言葉にため息をつく。
「まったく、これだからお子ちゃまは……」
「もっ、もう、ゼラくんなんて、ゼラくんなんて~!」
ミミリは目をうるっと潤ませながら、顔を赤らめてゼラに向き直った。頬は、メリーさんのようにぷくっと膨らませている。
……あ、この光景、さっき見た……。
ゼラは激しく後悔した。
「あぁ、もう、手遅れよ……」
うさみは、ガタガタと震えだす。
「もう、ゼラくんなんか‼︎ 今日のオヤツ、1個もあげないんだからねッ!」
ミミリはぷるぷる震えながら、怒り口調でそう告げた。
「ーー‼︎ 1個も、くれないなんて」
「アンタ詰んだわね。……同じ轍を踏んだらダメでしょ」
「うさみ! 詰むとか言うなぁっ‼︎」
「むぅ~‼︎」
「ごめん! ミミリさん! 許してください‼︎」
授業中だというのに、教室は混乱を極めた。
場を収めたのは、くま先生のキザなセリフ。
「ミミリさん、探究心や追求心は錬金術士にとって成長するために欠かせないものです。途中で錬成をやめたとしても、貫ける貴方は素晴らしい。」
と言って、くま先生はミミリとうさみ、双方に目を向ける。
「それに、可愛らしいお嬢さん方が愛らしく食事をする姿を想像しただけで、私の胸は高鳴ります」
「「せん……せい……‼︎」」
乙女2人とくま先生の間にやさしく香る桃色の風。
ゼラは1人蚊帳の外で、
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