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うさみち

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第2章 審判の関所

2-7 ぷるぷるペナルティ

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 ぷるぷるというモンスターは、名前の如く、縦に横にとぷるぷる揺れる。
 大きさはミミリの膝下くらい。そのフォルムは美味しそうなおまんじゅうのよう。

 ピンクに黄に水色に……淡い色彩のぷるぷるたちは、どれも透き通っている。
 身体の上部に2つ、控えめな大きさの黒い目があるだけで、鼻も口もない。なのに小気味よく動く様で、ご機嫌そうな印象を受けるから不思議だ。
 なんとも愛らしい見た目のモンスター、ぷるぷるの動きに、ミミリは警戒心を奪われた。

「可愛いすぎる……。おいしそうな、みずまんじゅうみたい……」

「ーー! ミミリ、危ない!」

 ゼラはミミリの手を引いて自分の身体に近づけた。よろめくミミリの細腰に手を添えて、なんとかミミリを受け止める。

 ミミリ目掛けて突進してきたぷるぷるは、体当たりすべくジャンプをするも途端に避けられ対応できず、勢い余ってコロコロぷるぷる転がっていった。

「ありがとう、ゼラくん。危なかったぁ!」
「警戒心、緩めないでいこう! ……うさみ、剣聖の逆鱗かけてくれ! そして2人はドームの中に!」

 ゼラがアルヒから学んだのは、剣技や属性だけではなかったようだ。ゼラは、パーティーの戦闘の指揮を執っている。

 ミミリはゼラの指示どおり、うさみに駆け寄り抱き上げて、身を屈めて待機した。

「ゼラ、ミミリをありがと! 守護神の庇護! そして~! 剣聖の逆鱗! 重複展開、ちょっとキツイかも。これ以上のサポートはないと思ってちょうだい!」
「充分だ!」

 うさみが防御魔法を唱えると、うさみを抱き抱えるミミリの背後に、長剣の柄を両手で持ち、剣先を地面に突き刺した灰色の石像が地面から現れた。
 薄いピンク色をしたドーム型の結界(バリア)の中から、ミミリたちは身を小さくしながらゼラを見ている。

 ドームを円の中心として、周りを囲むぷるぷるたち。

 ゼラは、うさみの魔法、剣聖の逆鱗の効果でゆらめく炎を身に纏った。俊敏さ、脚力、腕力が増す代わりにモンスターの敵対心(ヘイト)を集める諸刃の剣。


 ゼラは、不敵な笑みを勝ち気に浮かべる。

「どこまで俺の力が通用するのか、やってやる‼︎」

 先程のミミリへのタックル未遂から推測するに、スピードはそれほど早くはないがパワーだけはありそうだ。
 ゼラの中で、倒し方のイメージは出来上がっていた。あとはそれを、実行するだけ。

 ゼラは背後をとられないよう、ドームを背にしたのちに、剣聖の逆鱗で強化された脚力を活かして目の前のぷるぷる目掛けて瞬時に距離を詰め、勢いよく切り掛かった。

 ーーシュパッ!

 ぷるぷるの腹部から側面にかけ、勢いよく通り抜ける斬撃。

 ゼラは、ぷるぷるの間を縫うように駆け抜けながら手当たり次第に切ってゆく。

 ーーシュパッ!
 ーーシュパッ!

 透明感ある見た目と斬撃音に反して、切った時の手応えには重みがある。

 口の中に入れたら溶ろけるような柔らかさのゼリーではなく、少し弾力性はあるがそれでいて舌触りがいい、半固形の食べ物のような。

「ーーそうか、みずまんじゅう!」

 ゼラはあまりにしっくりきたので大きな声で言ってしまった。そしてゼラは鼻で笑い、少し首を振りながら小声で自分を否定した。

「……何言ってんだ、俺。相手はモンスターだぞ」

「だよねぇ! みずまんじゅうみたいだよねぇ‼︎」

 ドームの中ゆえ、少しくぐもったように聞こえるミミリの声。
 呟きは聞こえなかったが、大きな声で「みずまんじゅう」と言ったゼラの声は聞こえたミミリ。共感してくれたことを食い気味に喜んでいる。

「恥ずかしいもんだな……」

 ゼラは恥ずかしがりながらも、瞬間的に身を低くする。その瞬間、ぷるぷるがゼラの頭上を通過した。行き場を無くしたぷるぷるはコロコロぷるんと転がってゆく。

「ぷー‼︎」
「ぷー‼︎」
「ぷー‼︎」

 頭上から聞こえるぷるぷるの声。
 降り注ぐぷるぷるの雨を避けるため、ゼラは更に深く腰を下ろし、左足で地面を力強く蹴って、右方へ跳ぶ。そして右足へ力を入れて重心を後ろに傾けながら後方へ飛び退き、右斜め前からくるぷるぷるを避けた。

 50体ともなると全てを視野に入れることは難しいが、アルヒの修行の成果なのか、それとも属性の習得が貢献しているのか、視覚以外の感覚も以前と比べ格段に成長している。
 側面からなのか頭上からなのか。
 迫り来るぷるぷるの気配をゼラは間違いなく感知している。

「ハハッ! 俺、成長してる!」

 ゼラは防戦一方とはならず、避けながらも攻め続ける。避けては一太刀、また一太刀と。
 ゼラが浴びせる剣戟に、ぷるぷるはたちまち切られていく。

「ゼラくん、すごいよ……」

 うさみを抱いて身を屈めていたはずのミミリは、無意識のうちに立ち上がり、ドームの壁に両手をついて食い入るようにゼラの戦闘シーンを見学していた。

「やるじゃない、熱血少年(仮)」

 うさみも魔法を重複展開させながらも、ゼラの戦闘を素直に褒める。

「おっ! 珍しくうさみに褒められてるな。……でも、さぁっ!」

 ゼラは大きく飛び上がり、体重を乗せてぷるぷるの頭上から剣をズブリと刺しながら、うさみの言葉へ苦情を述べる。

「熱血少年(仮)、は余計だろ!」


 ゼラはうさみのからかいに耳を傾ける余裕すらあるようで、会話しながら戦闘するのも容易いようだ。


 ……しかし、そうはうまくいかないのが世の常というもの。

 ミミリはあれだけゼラが切り倒していったにも関わらず、一向に数が減らないぷるぷるに違和感を覚えた。

「ーーあぁっ‼︎」
「エッ⁉︎  何よ、どうしたのっ?」

 ミミリの大きな声に驚いて、うさみはピョンッと飛び上がった。

「見て! あそこ!」

 ミミリがドーム越しに指差したところは、今まさにゼラが斬り払った青いぷるぷる。
 腹部から背面にかけてシュパッと切られたはずなのに、切られたそばから傷はみるみると塞がっていく。

「なっ……、斬撃は効かないってこと?」
 と、うさみは驚くが、ゼラは意外にも冷静だ。


 ゼラは大きく息を吸い、不敵な笑みを浮かべながら、剣先に意識を集中させた。

 ゼラは、習得したばかりの雷属性を短剣に纏わせるため、短剣は自分の手の一部なのだと意識的に誤認する。


 ーーパリパリ‼︎


 突如、短剣は弾ける音とともに、黄色い光を放ち始めた。

「ぷるぷるには悪いけど、雷属性習得の成果、試させてもらうな!」


 ーーザンッ!

 ゼラは雷属性を纏った短剣で、今傷を塞いだばかりの青いぷるぷるを正面から突き、そのまま勢いよく右横に薙ぎ払った。

「ぷぷー‼︎」

 淡い青色が透けるスライム状の身体。
 その体内で激しく散る黄色い火花。

「ぷぷぷー‼︎」

 小さく控えめな黒い目をギュッと瞑(つぶ)って苦しみに耐えるぷるぷる。
 そしてついに目をくるくると回して倒れ、その場にぷるんと溶けて消えた。


 ミミリたちは、
 ・ぷるゼラチン(青)
 を手に入れた。


「やるじゃない! 感電少年(仮)!」
「すごい! すごいよゼラくん‼︎ ……でもちょっとかわいそう……」

 ミミリは見た目が可愛いぷるぷるにすっかり感情移入してしまっている。

「悪いけどうさみ、俺はもう感電しないからな? ……雷様の一撃を除いて。……あとさミミリ、可愛いぷるぷるを切るのは俺だってツライ……。ーー⁉︎」
「ーー‼︎ 嫌な予感しか、しないんだけど」  

 このままゼラが残りのぷるぷるを倒していくのかと思われた瞬間、ゼラとうさみは嫌な予感を感じ取った。

 ぷるぷるは仲間が討伐されたことで怒れる視線をゼラに向けている。
 みずまんじゅうだった愛らしいフォルムは、途端に不機嫌が伺えるほどに、不自然に身体を縦に伸ばした。

 ……やはり、そうはうまくはいかないというのが世の常らしい。

 ぷるぷるたちは、タイミングこそ合ってはいないが、それぞれが縦に大きく伸び縮みし始めた。

「ぷー!」
「ぷぷー!」

 ーーガシャン!
 ーーガシャンガシャン‼︎

 ぷるぷるの異変に呼び起こされたかのように、地面から勢いよく飛び出す黒い物体。

 それは、大きな大砲だった。

 木製の大きな車輪がついた砲台に固定されて、急に出現した黒い大砲。ミミリたちは何門もの大砲に一瞬のうちに囲まれた。

「まさか……」

 遅れてミミリも事態に気づく。

「ぷぷぷー!」
「ぷぷー!」

 ぷるぷるたちは、自ら砲口の中へ入っていく。
 そして、それぞれの砲台に1体ずつ寄り添うぷるぷる。

 ……あれは、砲手?

「ねぇ、まさか、私たち大砲の的になってる?」
「もしかしなくても、そうでしょうね。……ゼラ‼︎」

 ゼラは1人、ドームの外。

「ははは……。どうしよ、俺」

 何門もの大砲の敵対心(ヘイト)を一身に受けるゼラ。
 ゼラの額から、汗がすぅっと、顎を伝った。
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