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第2章 審判の関所
2-5 入学テスト
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「逞しい手足、ぽってりとしたお腹。茶色の毛に映えるっ白なワイシャツに黒いネクタイ。知的な黒縁眼鏡まで~!」
うさみは椅子に腰かけながら、テーブルに短い手を置いて頬杖をつく。
教室の真ん中に横並びで置いてあった、3つの学習机と対になった椅子。ミミリたちは、3人とも着席した。
面白いのは、机と椅子がミミリたちそれぞれの体格に合った規格だということ。
うさみは身体に見合った小さな椅子と机にちょこんと座って、うっとりと森のくま先生に熱い視線を送っている。
「やっぱり、乙女が心ときめく言葉をくれるって、大人よねぇ」
うさみが言う乙女とは、うさみ自身のこと。そして心ときめく言葉とは、あのキザなセリフだろう。「大人」という表現を敢えて使うのも、ゼラを意識してのこと。
教室に入る前、ゼラのことを「お子ちゃま」とからかっていたが、まだからかい足りなかったようだ。
「お子ちゃまで悪かったな!」
ゼラは放っておこうかとも思ったが、やはり一言物申さないと気が済まなかった。
「あら、自覚あるのねん」
「~‼︎」
ゼラは言って後悔した。
うさみに言葉の応酬で勝てるはずもなかったというのに。ゼラは、もう放っておこうと心に決めた。
そんな2人に挟まれるも、ミミリは全く気にしない。優良生徒は背筋を伸ばして、教壇に立つくま先生をじっと見ている。
「さぁ、入学テストを始めます。今貴方たちの机の上に置いてある紙は、錬金術に関する問題用紙です。」
ミミリは視線を机に落とす。
そこには、ミミリの両手より少し大きな、一枚の白紙。おそらく問題は裏面に書いてあるのだろう。ミミリは、初めて受けるテストなるものに緊張を隠せない。
「うぅぅ。緊張するよう。ゼラくんと、うさみはどう?」
「……俺、錬金術の知識、皆無だけど」
「……」
ミミリの右隣に座るうさみは、くま先生に夢中で話を聞いてすらいない。
「テストを始める前に、何か質問はありますか?」
教団に立つくま先生は、目の前の背の高い机に抱えていた壺を置いた。
背景には緑色をした大きな長方形の板。くま先生の腰上か頭の少し上までの大きさで、壁に備え付けられているようだ。板の底辺には小物置のような幅の狭い板が直角に出ており、白や赤、黄色をした長細い何かが置いてある。
その緑色の板には、『森のくま先生の錬金術士の錬成学校~入学テスト~ 新入生を歓迎します! ようこそ、ミミリさん、うさみさん、ゼラくん』と記されていた。
ミミリはこの教室に備え付けられたものは初めて見るが、推測するに緑の大きな板は板書。そしてカラフルな長細い何かはインクと羽ペンの役割をするものだろうと考えた。
「ーーハイッ! 質問です‼︎」
ミミリは、初めて見る品々の用途に思案を巡らせるのがいっぱいで少し遅れてしまったが、手を挙げて元気よく質問をした。
元気いっぱいのミミリの左半身を窓から差しこむ明るい光が照らす。
窓はミミリの左側、ミミリが入ってきた教室の入り口のから考えると正面の位置にある。
窓の外に見えるのは、ただのくすんだ青色。
緑のアーチで感じた柔らかい光もなければ、草木一つ見えない。外の様子を不自然に隠すかのような一面の青色から、ただ明るい光を感じるだけ。
「普通、外の景色見えるだろ……」
ミミリもうさみも特に違和感がないようだが、錬金術や魔法に馴染みがないゼラは、やはりどうも落ち着かなかった。
「はい、どうぞ。ミミリさん」
「その壺の中には、何が入っていますか?」
「……テストに関する質問じゃないんかい!」
ゼラは思わずツッコミを入れたが、くま先生は妙に誇らしげ。意気揚々と質問に答えた。
「非常に良い質問ですね! 加点をあげたいくらいです。この壺の中にははちみつが入っていますよ。入学テストをクリアできたら、【はちみつキャンディー】の錬成レシピをあげましょう!」
「わぁーい! テスト頑張らなきゃ!」
「はぁん、さすが先生。太っ腹……」
くま先生の回答に、ミミリのやる気は益々増して、うさみの熱気も益々増した。
「さあ、それではテストを始めましょう。合図とともに裏面の問題に取り掛かってください。インクと羽ペンの代わりに【筆マメさんの愛用ペン】が置いてあるので、それを使って書いてください」
【筆マメさんの愛用ペン 最高品質 特殊効果:筆圧に応じて、ペンの先端から勝手にインクが出てくる。たまにインクの補充は必要だが、書いた後自分の手のひらで擦ってしまっても滲まない優れもの。よく文字を書く筆マメさんにオススメ】
「さあ! 初めッ!」
ミミリたちは、一斉に問題用紙を裏返した。
『森のくま先生の錬金術士の錬成学校~入学テスト~
名前:
第一問(記述問題)
汎用性の高い【ミール液】を錬成するために必要な錬金素材アイテムの名前は?
答:
第二問(記述問題)
戦闘アイテムにおいて使用頻度の高い【睡眠薬】。必要な錬金素材アイテムの名前は?
答:
第三問(択一問題)
アイテム錬成には、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。では、次のうち不要なものは?
1 温度管理
2 MP管理
3 工程管理
4 探究心
5 熱い心
答:
第四問(択一問題)
味覚だけでなく嗅覚、視覚、心をも虜にする【魅惑の香辛料】。次の錬金素材アイテムに加えて、後一つ必要なものは?
・魅惑のスパイス(赤)
・魅惑のスパイス(黄)
・魅惑のスパイス(オレンジ)
・【ミール液】
・?????
1 【雷電石の粉末】
2 【火薬草の結晶】
3 【ミンティーの結晶】
4 【しずく草の原液】
5 【陽だまりの薬湯】
答:
問題は以上です。お疲れ様でした!』
「ふえぇぇ、間違ったらどうしよう~‼︎」
ミミリは【筆マメさんの愛用ペン】を握りながら、半ベソをかいて天井を仰いだ。
そんなミミリの声を聞いて、ゼラはハハハッと高笑いした。
「すごい! ゼラくんわかるの?」
カンニングと言われないように、ミミリはゼラのテストではなく、ゼラの表情のみを見るよう意識して顔を向けた。
しかし、ゼラは高笑いに反した姿勢。背を丸め、顔には薄ら脂汗をかいている模様。
「いち……もん……たり……とも……わからネェッ‼︎」
左隣には、目の前のテストに目を見開いて固まるゼラと。
「ミミりん、頼んだわよ~ん」
右隣には、考えることを放棄してテストの余白にくま先生の落書きを描くうさみと。
波乱が巻き起こる気しかしない、3人編成のパーティーの、初めてのダンジョン攻略。最初の試練は、入学テスト。
のんびりモードでテストを解くミミリたち。緊張感など、まるでない。
しかし、ミミリたちは気がつくべきだった。
青い色をした窓が、実はどんどん深い紺に変わっていっていることを。そして、窓の向こう側。家の周りに、たくさんのモンスターが集まってきていることを。
くま先生は窓の外へと意識を向ける。
黒縁眼鏡のフレームは、キラリと怪しく光るのだった。
うさみは椅子に腰かけながら、テーブルに短い手を置いて頬杖をつく。
教室の真ん中に横並びで置いてあった、3つの学習机と対になった椅子。ミミリたちは、3人とも着席した。
面白いのは、机と椅子がミミリたちそれぞれの体格に合った規格だということ。
うさみは身体に見合った小さな椅子と机にちょこんと座って、うっとりと森のくま先生に熱い視線を送っている。
「やっぱり、乙女が心ときめく言葉をくれるって、大人よねぇ」
うさみが言う乙女とは、うさみ自身のこと。そして心ときめく言葉とは、あのキザなセリフだろう。「大人」という表現を敢えて使うのも、ゼラを意識してのこと。
教室に入る前、ゼラのことを「お子ちゃま」とからかっていたが、まだからかい足りなかったようだ。
「お子ちゃまで悪かったな!」
ゼラは放っておこうかとも思ったが、やはり一言物申さないと気が済まなかった。
「あら、自覚あるのねん」
「~‼︎」
ゼラは言って後悔した。
うさみに言葉の応酬で勝てるはずもなかったというのに。ゼラは、もう放っておこうと心に決めた。
そんな2人に挟まれるも、ミミリは全く気にしない。優良生徒は背筋を伸ばして、教壇に立つくま先生をじっと見ている。
「さぁ、入学テストを始めます。今貴方たちの机の上に置いてある紙は、錬金術に関する問題用紙です。」
ミミリは視線を机に落とす。
そこには、ミミリの両手より少し大きな、一枚の白紙。おそらく問題は裏面に書いてあるのだろう。ミミリは、初めて受けるテストなるものに緊張を隠せない。
「うぅぅ。緊張するよう。ゼラくんと、うさみはどう?」
「……俺、錬金術の知識、皆無だけど」
「……」
ミミリの右隣に座るうさみは、くま先生に夢中で話を聞いてすらいない。
「テストを始める前に、何か質問はありますか?」
教団に立つくま先生は、目の前の背の高い机に抱えていた壺を置いた。
背景には緑色をした大きな長方形の板。くま先生の腰上か頭の少し上までの大きさで、壁に備え付けられているようだ。板の底辺には小物置のような幅の狭い板が直角に出ており、白や赤、黄色をした長細い何かが置いてある。
その緑色の板には、『森のくま先生の錬金術士の錬成学校~入学テスト~ 新入生を歓迎します! ようこそ、ミミリさん、うさみさん、ゼラくん』と記されていた。
ミミリはこの教室に備え付けられたものは初めて見るが、推測するに緑の大きな板は板書。そしてカラフルな長細い何かはインクと羽ペンの役割をするものだろうと考えた。
「ーーハイッ! 質問です‼︎」
ミミリは、初めて見る品々の用途に思案を巡らせるのがいっぱいで少し遅れてしまったが、手を挙げて元気よく質問をした。
元気いっぱいのミミリの左半身を窓から差しこむ明るい光が照らす。
窓はミミリの左側、ミミリが入ってきた教室の入り口のから考えると正面の位置にある。
窓の外に見えるのは、ただのくすんだ青色。
緑のアーチで感じた柔らかい光もなければ、草木一つ見えない。外の様子を不自然に隠すかのような一面の青色から、ただ明るい光を感じるだけ。
「普通、外の景色見えるだろ……」
ミミリもうさみも特に違和感がないようだが、錬金術や魔法に馴染みがないゼラは、やはりどうも落ち着かなかった。
「はい、どうぞ。ミミリさん」
「その壺の中には、何が入っていますか?」
「……テストに関する質問じゃないんかい!」
ゼラは思わずツッコミを入れたが、くま先生は妙に誇らしげ。意気揚々と質問に答えた。
「非常に良い質問ですね! 加点をあげたいくらいです。この壺の中にははちみつが入っていますよ。入学テストをクリアできたら、【はちみつキャンディー】の錬成レシピをあげましょう!」
「わぁーい! テスト頑張らなきゃ!」
「はぁん、さすが先生。太っ腹……」
くま先生の回答に、ミミリのやる気は益々増して、うさみの熱気も益々増した。
「さあ、それではテストを始めましょう。合図とともに裏面の問題に取り掛かってください。インクと羽ペンの代わりに【筆マメさんの愛用ペン】が置いてあるので、それを使って書いてください」
【筆マメさんの愛用ペン 最高品質 特殊効果:筆圧に応じて、ペンの先端から勝手にインクが出てくる。たまにインクの補充は必要だが、書いた後自分の手のひらで擦ってしまっても滲まない優れもの。よく文字を書く筆マメさんにオススメ】
「さあ! 初めッ!」
ミミリたちは、一斉に問題用紙を裏返した。
『森のくま先生の錬金術士の錬成学校~入学テスト~
名前:
第一問(記述問題)
汎用性の高い【ミール液】を錬成するために必要な錬金素材アイテムの名前は?
答:
第二問(記述問題)
戦闘アイテムにおいて使用頻度の高い【睡眠薬】。必要な錬金素材アイテムの名前は?
答:
第三問(択一問題)
アイテム錬成には、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。では、次のうち不要なものは?
1 温度管理
2 MP管理
3 工程管理
4 探究心
5 熱い心
答:
第四問(択一問題)
味覚だけでなく嗅覚、視覚、心をも虜にする【魅惑の香辛料】。次の錬金素材アイテムに加えて、後一つ必要なものは?
・魅惑のスパイス(赤)
・魅惑のスパイス(黄)
・魅惑のスパイス(オレンジ)
・【ミール液】
・?????
1 【雷電石の粉末】
2 【火薬草の結晶】
3 【ミンティーの結晶】
4 【しずく草の原液】
5 【陽だまりの薬湯】
答:
問題は以上です。お疲れ様でした!』
「ふえぇぇ、間違ったらどうしよう~‼︎」
ミミリは【筆マメさんの愛用ペン】を握りながら、半ベソをかいて天井を仰いだ。
そんなミミリの声を聞いて、ゼラはハハハッと高笑いした。
「すごい! ゼラくんわかるの?」
カンニングと言われないように、ミミリはゼラのテストではなく、ゼラの表情のみを見るよう意識して顔を向けた。
しかし、ゼラは高笑いに反した姿勢。背を丸め、顔には薄ら脂汗をかいている模様。
「いち……もん……たり……とも……わからネェッ‼︎」
左隣には、目の前のテストに目を見開いて固まるゼラと。
「ミミりん、頼んだわよ~ん」
右隣には、考えることを放棄してテストの余白にくま先生の落書きを描くうさみと。
波乱が巻き起こる気しかしない、3人編成のパーティーの、初めてのダンジョン攻略。最初の試練は、入学テスト。
のんびりモードでテストを解くミミリたち。緊張感など、まるでない。
しかし、ミミリたちは気がつくべきだった。
青い色をした窓が、実はどんどん深い紺に変わっていっていることを。そして、窓の向こう側。家の周りに、たくさんのモンスターが集まってきていることを。
くま先生は窓の外へと意識を向ける。
黒縁眼鏡のフレームは、キラリと怪しく光るのだった。
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