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うさみち

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第2章 審判の関所

2-3 ▶︎『錬金術士ルート ★★★★☆』

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 夜だからなのかも。
 そんな可能性もあった。

 地層に空いた大きな空洞、このダンジョン、「審判の関所」をうさみの魔法、「灯(とも)し陽(ひ)」の穏やかな光で照らすことができなかったのは。

 審判の関所の底知れぬ闇に、穏やかな光では太刀打ちできなかったのかも、と。

 でも、そうではなかった。

 与えられた選択肢の中から進みたいルートを選ばない限り、灯(とも)し陽(ひ)の穏やかな光はもちろん、森に差し込む陽の光すらも、このダンジョンの内部を照らすことができないようだ。

 ルートを選択した今、審判の関所は、内包する先の見えない闇から、その姿を変えようとしている。


 ーーピロン!

『▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆

 パーティーのルート選択を承りました。


 ……選択されたルートを準備中です。

 ……選択されたルートを準備中です。

 そのまましばらくお待ちください』


 ダンジョンの入り口の先が見えない暗闇が、ぐにゃりと渦巻く。

 まるで、どろりとした黒色の水の中に、黄色と赤の絵の具をぽたりと垂らして、木のロッドでぐるぐると、時計回りにかきまぜたように。


 中心には、隊長のミミリを。
 右隣には、副隊長のうさみを。
 左隣には、隊員のゼラを。

 ミミうさ探検隊は、ダンジョンと向かい合い、変わりゆくその内部を見て、ゴクリと息を飲んだ。

 緊張感と高揚感。
 そして同じぐらいの恐怖心。
 ゼラは、ブルッと身体を震わせた。

「あら、怖いの? コシヌカシ」

 ゼラはからかいの言葉を投げたうさみをチラリと見てから、改めてダンジョンを見据えた。

「まさか! 武者震いだ!」

 ゼラの少し震える拳には気づかず、ミミリは前だけを見て言う。

「ふふ、すごいなぁ。ゼラくんは。私はちょっと怖いよ」

 そして一拍間を置いて、晴れた空色の大きな瞳をキラキラと輝かせて、顔を少し紅潮させてミミリは言った。

「ーーでも、それ以上に、楽しみでもあるの!」


 ーーピロン!

『大変長らくお待たせいたしました。ルートの準備が整いました。


 《貴方のパーティーが選択したルート》

 ▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆


 心の準備はよろしいですか?
 ご健闘をお祈りいたします。

 さあ、行ってらっしゃい。

 ーーよい冒険を!』


 ぐるりぐるりと渦巻いていた黒、赤、黄の中心に、純白がぽたりと落とされて、渦は途端に逆回転に。

 次第に純白の範囲が大きくなって、入り口の一面が純白に変わった時、途端に現れた鉄の扉。扉の上方には、すりガラスの小さな四角い小窓が空いている。
 そして小窓の下に付いているフックには、木製のプレートが提げられていた。

 左右に軽く揺れるプレートには、

『錬金術士ルート』

 と太い黒字で書かれている。


 うさみは左上のミミリの横顔を見上げて、いつもどおりの強気で言う。

「さぁ、隊長? 号令をお願いします」

 ゼラも同様に、ミミリの左頬を見て隊長に言う。

「やっぱり、隊長が言わないと締まらないよなっ⁉︎」


 ミミリは大きく、とても元気に頷いた。
 そして、ミミリとダンジョンの間、ミミリの目線の少し上に浮かぶ、濁った水色のポップアップもチラリと見て。

「案内ありがとう、ピロンちゃん」

 ポップアップにお礼を言った後、ミミリは左手を大きく空に向かって上げながら拳を握って号令をかけた。


「よーし! じゃあ、行っくよ~? ミミうさ探検隊、しゅっぱーつ‼︎」
「「おー‼︎」」


 鉄の扉の中央の左側、外端付近に突起した、丸い鉄の取手を右手で握り、ミミリは左側から右側へと胸を開くように押し開けた。

 開けた瞬間から漏れ出したのは、雷電石(らいでんせき)の光のような、黄とも金とも言えないような眩しい光。鮮烈で鋭い光は、ミミリたちの背後の森の木々をも強く照らす。

 ミミリたちは扉の向こう、光の世界へと消えていった。

 ポップアップを、その場に残して。



 ーーピロン!

『十数年前にこのダンジョンに現れて以来、このダンジョンに挑む者はおりませんでした。

 私はしがないポップアップ。

 審判の関所とともに在る私は、ダンジョンの挑戦者なくして存在しないも同義。
 挑戦者のいない日々は私にとってはただの無。
 無、無、無、ただ、それだけ。

 虚無の日々を何の感情もなく過ごすことが本来のポップアップの生き様なのかもしれません。

 私はしがないポップアップ。

 おそらくポップアップとしては変わり者なのでしょう。
 次なる来訪者を、心を焦がして待ち続けていました。


 私の新しい家族。

 ……名前を授けてくれて、嬉しかった。

 貴方たちの冒険が最善となっていただければ、私は私の案内人としての存在意義に、更なる価値を見出すことができるでしょう。

 しかしながら、審判は公平、厳正に。

 いかなる事情があろうとも、審判は公平に下すようご主人様から仰せ遣っています。

 ……ですが大目に見ますけれどね。

 なぜなら私は天邪鬼なピロンちゃんですから』


 ーーシュンッ‼︎

 ピロンは思いの丈を書き綴ると、ポップアップを真横に細長く糸のように引き伸ばして、シュンッと消えた。



 ーーそして場面はダンジョンへ。

 ミミリたちは今、机に向かって筆記テストを受けている。

「ふえぇぇ、間違ったらどうしよう~‼︎」

 ミミリは【筆マメさんの愛用ペン】を握りながら、半ベソをかいて天井を仰いだ。

 左隣には、目の前のテストに目を見開いて固まるゼラと。
 右隣には、考えることを放棄してテストの余白に落書きを描くうさみと。


 波乱が巻き起こる気しかしない、3人編成のパーティーの、初めてのダンジョン攻略が始まった。

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