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第2章 審判の関所
2-2 案内人は、空気が読める?
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ーーそして夜は明け。
暁光が山稜の地層に反射して、反射された光は白色(はくしょく)を帯び、寝ぼけ眼のミミリの瞳を刺激した。
「うぅ、眩しい……」
ミミリはその眩しさに思わず目を覆う。
森のピンと張った空気を肌で感じ、そして青々とした草木の匂いが鼻腔を通り抜ける。
森で迎える2回目の朝。
……厳密には、3回目。
ミミリは以前、ポチとこっそり朧月夜に冒険に出かけ、そのまま朝を迎えてしまったことがある。
内緒だったはずの冒険はもちろんバレて、帰宅後うさみにこってり叱られたのだが。
でもポチとの冒険は非公式なので、公には2回目だ。
ーー初めて迎えた朝は、「ガラスの砂地」だった。
山陵の一部の苔むした岩肌から、翡翠色の滝壺に吸い込まれるように落ちてゆく優しい清流。
滝壺を囲んで、芸術作品のように並べられた大小の石。
さらにその周りを囲む、色彩豊かなガラスの砂。
陽の光は木漏れ日となってあたり一面に差し込み、ガラスの砂に反射してキラキラと眩く光り輝かせる。
そしてその光を浴びるのは、愛しい愛しい、新緑のボブヘアを片耳にかけた、美しい少女。エメラルドグリーンのイヤリングの金のフレームもキラリと光らせて。
ーーまさに、輝く夜明けだった。
ミミリは、かの日、かの人に思いを馳せて瞳を閉じ、名残惜しむ自身の想いを受け止めた。
ふぅ、と軽く息を吐きながら、自分の左耳につけたエメラルドグリーンのイヤリングにそっと触れる。
……そして、ゆっくり心を今に向けて。
ミミリは草木生い茂る森と今出てきたばかりの小屋を背に、
「おはよう~! うさみ、お疲れ様っ!」
と宵の番のうさみに朝の挨拶をした。
そして一歩遅れて、小屋から出てきたゼラも、グーッと背を伸ばし森の朝靄をすぅっと味わった。
「ん~! いい空気だな。おはよう!」
ゼラとミミリの挨拶に、焚き火から離れたところで椅子に腰掛けるうさみは振り返って返事をする。
「おっはよ~ん! お互い生きてて何よりね!」
朝から元気な2人の姿を見て、うさみは軽い口調に反してそっと胸を撫で下ろした。
アルヒが不在の中、宵の番を無事に乗り越えることができたためだ。
いや、言い改める必要がある。なぜなら、アルヒの不在はすでに通常運転なのだから……。
簡単に朝食を済ませ、ポップアップと再び向き合うミミリたち。
昨夜のポップアップは薄い青色をしていたが、今朝のポップアップは透けてはいるが濁った水色だった。
まるで陽が差す天候下において、より見えやすくなるように、外部環境に合わせて配色を変えているかのようだ。
その細やかな配慮は、ポップアップの領分を超えていた。
ポップアップを擬人化するならば、さしずめ「空気が読めて、仕事ができる案内人」といったところ。
しかし、空気が読めるはずのポップアップは、何やら不穏な空気を放っていて……?
ーーピロォォォォン‼︎
『審判の関所を前に野営をするなんて。普通は眠気をこらえて中に入るでしょうに』
ポップアップは怒っていた。
「エッ⁉︎ なんか怒ってるよ?」
ただただ驚くミミリを横目に、うさみは恐れおののいた。
「こっこっこっ怖いんだけどおぉぉ~‼︎」
うさみはミミリの膝下から、珍しく両手を上げて抱っこ抱っことミミリを求めた。
ミミリはガタガタ震えるうさみを抱き上げて、柔らかく小さな背中をトントンさする。
「珍しいなうさみ。小さな子みたいじゃないか。俺が抱っこしてやろうか?」
「ううううるさいわよ!」
ゼラはここぞとばかりにうさみをからかう。普段、ゼラが受けているうさみからの扱いにやりかえすように。
……無論ゼラは、この時の振る舞いを後に激しく後悔することになる。
ーーピロオォォン‼︎‼︎
『無視しないでください』
「ほらあぁぁぁ‼︎コイツ喋るし私たちのこと認識してるうぅぅ‼︎」
うさみはミミリの胸に埋めた。
ーービロオオォォォン‼︎‼︎
『うさぎのぬいぐるみが喋って動くほうがよほど怖い』
ポップアップは赤くなった。
うさみはミミリの腕の中から、明らかな怒りの音を上げて反論する、赤色のポップアップに綴られた黒文字をチラリと見て、うわぁぁん、と泣いた。黒文字から、不気味にたらぁ~っと黒のインクが滲むよう。
勝ち気なうさみが珍しく弱気になるほど、2人の相性は最悪なようだ。
「おっ、おいうさみ、泣くなって」
さすがのゼラも、慌ててフォローを入れるが、睨みながらうさみは言う。
「コイツは怖いけどアンタは怖くないんだからね。先程の振る舞い、覚えてなさい⁉︎」
「……やべ、調子乗り過ぎた」
ゼラは早速、先程の振る舞いを後悔した。
「まっ、まぁまぁ、みんなケンカしないで?ねっ?」
ーービロオォォン‼︎‼︎
『そこのぬいぐるみが不躾な物言いを改めれば考えなくもないのですが』
「コイツのほうが生意気じゃない。うぅぅ。なんとかしなさいよ! ゼラ!」
「いや、なんとかしなさいって言われても、今俺は過去に戻ってやり直したいくらいで」
ミミリは、怒れるポップアップと、恐怖と怒りで震えるうさぎのぬいぐるみと、激しい後悔の念を抱く人間の仲裁をしようとしたが、どうにもこうにもうまくいかない。
ミミリはついに、天を仰いで助けを求めた。
「うわーん。アルヒー‼︎」
ーーピロン!
『アルヒ?』
『アルヒって言いましたか?』
「アルヒ」、という単語で怒れるポップアップの赤色は、次第に収まっていく。
『そういえば、貴方のイヤリングはアルヒ姉様の物に似ていますね』
「え?アルヒ姉様? ……っていうことは、貴方ももしかして作られたの?」
ミミリの問いに、ポップアップは落ち着きを取り戻して、色も濁った水色へと戻った。
ポップアップは白色の文字で返答する。
『作られた、そう発言なさるということは、貴方は色々とご存知なようですね。見たところ人間の貴方とアルヒ姉様の関係をお聞きしても?』
「家族だよ。大事な大事な、家族。うさみも、ゼラくんもね」
ミミリはアルヒを想ってニコリと微笑む。
顔を綻ばせた拍子の振動で、左耳のエメラルドグリーンのイヤリングの金のフレームが、キラリと光った。
ーーピロン!
『イヤリングを託された貴方が言うのであれば、そうなのでしょう。認識を改めます。アルヒ姉様の家族は私の家族』
「ということは、私もアンタの家族になるわね」
『残念ながら』
「ッ! コイツ‼︎」
いがみ合ううさみたち。
だが恐ろしいポップアップの由来は錬金術であるとわかった今、うさみは次第に調子を取り戻していく。
「言わせてもらうけどね。私はアンタが言うアルヒ姉様のお姉さん的存在よ?」
ーーピッピッピッ!
『ご冗談を』
「冗談じゃないわよね。そうでしょ、ゼラ? ……てかアンタ、ふっふっふ。みたいに笑ったでしょ⁉︎」
ーーピッ‼︎
「鼻で笑うんじゃないの!」
先程の振る舞いに対する挽回の機会を与えられたゼラは、突然のことで言葉を詰まらせた。
「いやあ、見た目や実稼働年数は置いておいて、精神年齢で言うと……」
「ゼ~ラ~?」
「うっ。ミミリはどう思う?ミミリにとって、うさみとアルヒさん、どっちがお姉さん的存在なんだ?」
困った時のミミリへの会話のパス。
ミミリはゼラからのパスに嫌がる節もなく、うぅ~んと少し考えて。
「私にとって、かぁ。うさみのほうがお姉さんかな?」
ミミリは更に言葉を続けようとしたが、ミミリの言葉を遮ってうさみは言う。
ミミリの腕から、ピョンと降り立って、それはもう驚くくらいに偉そうに、ぴーんと胸を張って。
「ふふん。うさみ姉様って呼んでもいいのよ?」
ーーーーーーぴろおぉぉん⁇
驚きを隠せないポップアップは、変な音を鳴らして歪んだ文字を殴り書いて訴えた。
『信じられない、そんなまさか』
ポップアップには、整理するための時間が必要だったようだ。少し間を置いてから、割り切ったかのように冷静に文字を綴り始める。
『しかし年長者は敬わねば。よろしくお願いします。うさみ姉様。そして、ミミリ。ゼラ』
「いいのよん。こちらこそよろしくねん」
衝撃の展開に、ゼラはミミリの耳に顔を近づけて、ヒソヒソ声でミミリに質問する。
「なぁ、うさみのほうがお姉さんって本気で言ってるのか?」
ミミリもゼラにつられて、ヒソヒソ声で返答する。
「うん、そうだよ? だって私にとってでしょ? アルヒはどちらかというと、お姉さんよりはママみたいな」
「あ、そゆこと……」
ゼラは先程のやりすぎた振る舞いを激しく後悔したが、ミミリのファインプレーで事なきを得たので、もうそっとしておくことにした。
ーーそして、やっと本題へ。
ミミリは漸(ようや)く、《免責同意書》の署名欄に、魔力を込めた右手の人差し指で名前を書く。
『《免責同意書》
私は、上記注意事項を全て確認し了承致しました。当該ダンジョンにおいて受けた損害は、私の過失の有無によらずいかなる責任も問いません。
署名欄:見習い錬金術士 ミミリ』
ーーピロン……。
『錬金術士、やはり。ご主人様に似た、懐かしい雰囲気を感じました。』
「アルヒからもよく言われたなぁ」
「ほんとね……」
ミミリもうさみも、離れていても心を一つにしているかの人に想いを馳せた。
ーーピロン‼︎
『ルートを選択してください。
▶︎戦闘ルート:アタッカー向き 難易度★★★★☆
▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆
▶︎文武両道ルート:充実したクリア報酬をGETしたい貴方向き ★★★★★』
「それはもちろん、ルートは一択!」
ーーピッ!
『▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆』
ミミリは魔力を込めた右手の人差し指で錬金術士ルートを選んで押した。
暁光が山稜の地層に反射して、反射された光は白色(はくしょく)を帯び、寝ぼけ眼のミミリの瞳を刺激した。
「うぅ、眩しい……」
ミミリはその眩しさに思わず目を覆う。
森のピンと張った空気を肌で感じ、そして青々とした草木の匂いが鼻腔を通り抜ける。
森で迎える2回目の朝。
……厳密には、3回目。
ミミリは以前、ポチとこっそり朧月夜に冒険に出かけ、そのまま朝を迎えてしまったことがある。
内緒だったはずの冒険はもちろんバレて、帰宅後うさみにこってり叱られたのだが。
でもポチとの冒険は非公式なので、公には2回目だ。
ーー初めて迎えた朝は、「ガラスの砂地」だった。
山陵の一部の苔むした岩肌から、翡翠色の滝壺に吸い込まれるように落ちてゆく優しい清流。
滝壺を囲んで、芸術作品のように並べられた大小の石。
さらにその周りを囲む、色彩豊かなガラスの砂。
陽の光は木漏れ日となってあたり一面に差し込み、ガラスの砂に反射してキラキラと眩く光り輝かせる。
そしてその光を浴びるのは、愛しい愛しい、新緑のボブヘアを片耳にかけた、美しい少女。エメラルドグリーンのイヤリングの金のフレームもキラリと光らせて。
ーーまさに、輝く夜明けだった。
ミミリは、かの日、かの人に思いを馳せて瞳を閉じ、名残惜しむ自身の想いを受け止めた。
ふぅ、と軽く息を吐きながら、自分の左耳につけたエメラルドグリーンのイヤリングにそっと触れる。
……そして、ゆっくり心を今に向けて。
ミミリは草木生い茂る森と今出てきたばかりの小屋を背に、
「おはよう~! うさみ、お疲れ様っ!」
と宵の番のうさみに朝の挨拶をした。
そして一歩遅れて、小屋から出てきたゼラも、グーッと背を伸ばし森の朝靄をすぅっと味わった。
「ん~! いい空気だな。おはよう!」
ゼラとミミリの挨拶に、焚き火から離れたところで椅子に腰掛けるうさみは振り返って返事をする。
「おっはよ~ん! お互い生きてて何よりね!」
朝から元気な2人の姿を見て、うさみは軽い口調に反してそっと胸を撫で下ろした。
アルヒが不在の中、宵の番を無事に乗り越えることができたためだ。
いや、言い改める必要がある。なぜなら、アルヒの不在はすでに通常運転なのだから……。
簡単に朝食を済ませ、ポップアップと再び向き合うミミリたち。
昨夜のポップアップは薄い青色をしていたが、今朝のポップアップは透けてはいるが濁った水色だった。
まるで陽が差す天候下において、より見えやすくなるように、外部環境に合わせて配色を変えているかのようだ。
その細やかな配慮は、ポップアップの領分を超えていた。
ポップアップを擬人化するならば、さしずめ「空気が読めて、仕事ができる案内人」といったところ。
しかし、空気が読めるはずのポップアップは、何やら不穏な空気を放っていて……?
ーーピロォォォォン‼︎
『審判の関所を前に野営をするなんて。普通は眠気をこらえて中に入るでしょうに』
ポップアップは怒っていた。
「エッ⁉︎ なんか怒ってるよ?」
ただただ驚くミミリを横目に、うさみは恐れおののいた。
「こっこっこっ怖いんだけどおぉぉ~‼︎」
うさみはミミリの膝下から、珍しく両手を上げて抱っこ抱っことミミリを求めた。
ミミリはガタガタ震えるうさみを抱き上げて、柔らかく小さな背中をトントンさする。
「珍しいなうさみ。小さな子みたいじゃないか。俺が抱っこしてやろうか?」
「ううううるさいわよ!」
ゼラはここぞとばかりにうさみをからかう。普段、ゼラが受けているうさみからの扱いにやりかえすように。
……無論ゼラは、この時の振る舞いを後に激しく後悔することになる。
ーーピロオォォン‼︎‼︎
『無視しないでください』
「ほらあぁぁぁ‼︎コイツ喋るし私たちのこと認識してるうぅぅ‼︎」
うさみはミミリの胸に埋めた。
ーービロオオォォォン‼︎‼︎
『うさぎのぬいぐるみが喋って動くほうがよほど怖い』
ポップアップは赤くなった。
うさみはミミリの腕の中から、明らかな怒りの音を上げて反論する、赤色のポップアップに綴られた黒文字をチラリと見て、うわぁぁん、と泣いた。黒文字から、不気味にたらぁ~っと黒のインクが滲むよう。
勝ち気なうさみが珍しく弱気になるほど、2人の相性は最悪なようだ。
「おっ、おいうさみ、泣くなって」
さすがのゼラも、慌ててフォローを入れるが、睨みながらうさみは言う。
「コイツは怖いけどアンタは怖くないんだからね。先程の振る舞い、覚えてなさい⁉︎」
「……やべ、調子乗り過ぎた」
ゼラは早速、先程の振る舞いを後悔した。
「まっ、まぁまぁ、みんなケンカしないで?ねっ?」
ーービロオォォン‼︎‼︎
『そこのぬいぐるみが不躾な物言いを改めれば考えなくもないのですが』
「コイツのほうが生意気じゃない。うぅぅ。なんとかしなさいよ! ゼラ!」
「いや、なんとかしなさいって言われても、今俺は過去に戻ってやり直したいくらいで」
ミミリは、怒れるポップアップと、恐怖と怒りで震えるうさぎのぬいぐるみと、激しい後悔の念を抱く人間の仲裁をしようとしたが、どうにもこうにもうまくいかない。
ミミリはついに、天を仰いで助けを求めた。
「うわーん。アルヒー‼︎」
ーーピロン!
『アルヒ?』
『アルヒって言いましたか?』
「アルヒ」、という単語で怒れるポップアップの赤色は、次第に収まっていく。
『そういえば、貴方のイヤリングはアルヒ姉様の物に似ていますね』
「え?アルヒ姉様? ……っていうことは、貴方ももしかして作られたの?」
ミミリの問いに、ポップアップは落ち着きを取り戻して、色も濁った水色へと戻った。
ポップアップは白色の文字で返答する。
『作られた、そう発言なさるということは、貴方は色々とご存知なようですね。見たところ人間の貴方とアルヒ姉様の関係をお聞きしても?』
「家族だよ。大事な大事な、家族。うさみも、ゼラくんもね」
ミミリはアルヒを想ってニコリと微笑む。
顔を綻ばせた拍子の振動で、左耳のエメラルドグリーンのイヤリングの金のフレームが、キラリと光った。
ーーピロン!
『イヤリングを託された貴方が言うのであれば、そうなのでしょう。認識を改めます。アルヒ姉様の家族は私の家族』
「ということは、私もアンタの家族になるわね」
『残念ながら』
「ッ! コイツ‼︎」
いがみ合ううさみたち。
だが恐ろしいポップアップの由来は錬金術であるとわかった今、うさみは次第に調子を取り戻していく。
「言わせてもらうけどね。私はアンタが言うアルヒ姉様のお姉さん的存在よ?」
ーーピッピッピッ!
『ご冗談を』
「冗談じゃないわよね。そうでしょ、ゼラ? ……てかアンタ、ふっふっふ。みたいに笑ったでしょ⁉︎」
ーーピッ‼︎
「鼻で笑うんじゃないの!」
先程の振る舞いに対する挽回の機会を与えられたゼラは、突然のことで言葉を詰まらせた。
「いやあ、見た目や実稼働年数は置いておいて、精神年齢で言うと……」
「ゼ~ラ~?」
「うっ。ミミリはどう思う?ミミリにとって、うさみとアルヒさん、どっちがお姉さん的存在なんだ?」
困った時のミミリへの会話のパス。
ミミリはゼラからのパスに嫌がる節もなく、うぅ~んと少し考えて。
「私にとって、かぁ。うさみのほうがお姉さんかな?」
ミミリは更に言葉を続けようとしたが、ミミリの言葉を遮ってうさみは言う。
ミミリの腕から、ピョンと降り立って、それはもう驚くくらいに偉そうに、ぴーんと胸を張って。
「ふふん。うさみ姉様って呼んでもいいのよ?」
ーーーーーーぴろおぉぉん⁇
驚きを隠せないポップアップは、変な音を鳴らして歪んだ文字を殴り書いて訴えた。
『信じられない、そんなまさか』
ポップアップには、整理するための時間が必要だったようだ。少し間を置いてから、割り切ったかのように冷静に文字を綴り始める。
『しかし年長者は敬わねば。よろしくお願いします。うさみ姉様。そして、ミミリ。ゼラ』
「いいのよん。こちらこそよろしくねん」
衝撃の展開に、ゼラはミミリの耳に顔を近づけて、ヒソヒソ声でミミリに質問する。
「なぁ、うさみのほうがお姉さんって本気で言ってるのか?」
ミミリもゼラにつられて、ヒソヒソ声で返答する。
「うん、そうだよ? だって私にとってでしょ? アルヒはどちらかというと、お姉さんよりはママみたいな」
「あ、そゆこと……」
ゼラは先程のやりすぎた振る舞いを激しく後悔したが、ミミリのファインプレーで事なきを得たので、もうそっとしておくことにした。
ーーそして、やっと本題へ。
ミミリは漸(ようや)く、《免責同意書》の署名欄に、魔力を込めた右手の人差し指で名前を書く。
『《免責同意書》
私は、上記注意事項を全て確認し了承致しました。当該ダンジョンにおいて受けた損害は、私の過失の有無によらずいかなる責任も問いません。
署名欄:見習い錬金術士 ミミリ』
ーーピロン……。
『錬金術士、やはり。ご主人様に似た、懐かしい雰囲気を感じました。』
「アルヒからもよく言われたなぁ」
「ほんとね……」
ミミリもうさみも、離れていても心を一つにしているかの人に想いを馳せた。
ーーピロン‼︎
『ルートを選択してください。
▶︎戦闘ルート:アタッカー向き 難易度★★★★☆
▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆
▶︎文武両道ルート:充実したクリア報酬をGETしたい貴方向き ★★★★★』
「それはもちろん、ルートは一択!」
ーーピッ!
『▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆』
ミミリは魔力を込めた右手の人差し指で錬金術士ルートを選んで押した。
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