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第2章 審判の関所

2-1 審判の関所

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 ーーーーピロン!

『貴方の選択次第で行き先が変わります。
 好きなルートを選んで審判の関所のクリアを目指してください。

 ただし、審判の関所の挑戦にあたっては、下記注意事項の全てに了承いただいたうえで、免責同意書への署名が必要となります。予めご了承ください。

 《注意事項》
 1.途中でルートの変更はできません。
 2.同一パーティーが選ぶことのできるルートは1つのみです。
 3.難易度が高いほど、審判の関所のクリア報酬が優遇されます。
 4.途中リタイアは認められません。
 5.生命の保障はありません。

 《免責同意書》
 私は、上記注意事項を全て確認し了承致しました。当該ダンジョンにおいて受けた損害は、私の過失の有無によらずいかなる責任も問いません。

 署名欄:

 ルートを選択してください。
 ▶︎戦闘ルート:アタッカー向き 難易度★★★★☆
 ▶︎錬金術士ルート:錬金術士向き 難易度★★★★☆
 ▶︎文武両道ルート:充実したクリア報酬をGETしたい貴方向き ★★★★★』


「わぁっ! ビックリしたぁ! なんなの、これ……」

 ミミリは、ピロン!という耳触りがいい音とともに、突如眼前に現れたポップアップにたじろいだ。
 
 両隣のゼラとうさみの反応を確認するに、自分1人だけが幻覚を見ているわけではないということがわかり、その点については安心した。
 アルヒたちとの悲しい別れに、泣きすぎてついに幻覚を見てしまったのかと思ったからだ。
 ミミリは驚きで涙が引っ込んだ。


 ーー少し前のこと。
 ミミリたちは山陵の地層に一箇所だけ空いている空洞、「審判の関所」と呼ばれるダンジョンへ辿り着いた。
 山陵の向こう側へ行きたければ、このダンジョンを踏破する必要があるとアルヒから聞いたからだ。

 地層に空いた大きな空洞。
 白と薄茶と灰色の。
 質感違う、いくつかの層。
 これは岩や石、砂などで構成されているのだろうか。それらが幾重にも層状に重なって、固結した大きな地層となっている。

 日が完全に落ち、うさみの魔法、灯(とも)し陽(ひ)の灯りを頼りにここまでやってきたミミリたち。
 幸いにもモンスターとエンカウントすることはなかったが、それでも距離の都合上、日のあるうちに訪れることは叶わなかった。

 地層は灯(とも)し陽(ひ)の暖色の灯りに照らされているものの、元来の地層の暗めの配色が奏功して夜の森に一層溶け込んで、ミミリたちの恐怖心に拍車をかけた。

 ダンジョンの入り口から感じる不穏な気配。
 そして、闇。

 入り口からダンジョンの内部を覗き見ようと試みるも、何かの力で灯りすら差し込まないよう細工がしてあるのか、目の前にある空洞はただの闇だった。

 意を決してダンジョンへ一歩踏み入れようとした時に唐突に現れた薄い青色、透き通ったポップアップ。
 書かれた文章は白色の文字で綴られていた。
 ポップアップは夜の森でも映えるよう、ご親切に薄ら発光している。

 ミミリは眼前に現れた「審判の関所」の説明事項、ポップアップに触ろうと試みたが、触ること叶わず手は行き場を無くして空を切った。

 なんとも不思議なポップアップにルートを選べと半ば強制されているため、ミミリはパーティーメンバーに意見を求めるため左右を見遣る。
 うさみたちは、ポップアップから発せられる青白い光で頬を寒色に染めていた。


「ねぇ、ルートを選んでくださいって言われてるけどどうしよう……。なんだか怖いことも書いてあるね」
「そうね。死んでも文句言いませんってことに同意させて署名を求めるだなんて。これは脅し文句か真実か。いずれにせよ尋常じゃないわね」
「いや、案外良心的かもしれないぞ? 説明なしにいきなり理不尽な扱い受けるよりはマシじゃないか?」

 ミミリの相談に、冷静に事態を分析しようとするうさみと、意外にもポップアップの内容に好意的なゼラ。

 ルート選択は置いておいて、2人とも突如現れたポップアップが良い契機になったようだ。名残惜しさから止めることができなかった啜り泣きが止み、目の前のポップアップを通じて、冒険へ心を向けることができるようになったからだ。


「まぁ、脅し文句であれ真実であれ、ここを通過しない限り山陵の向こう側へ行けないとなると、ダンジョンに入らない、という選択肢はなくなるわね。消去法だけど」

 うさみは短い腕を組んで、唸りながら最善を模索して……いると思いきや、急に俯き震えだした。

 ……どうやら、どうしても譲れない点があるようで。

「ねぇっ! おかしくない⁉︎ なんで魔法使いルートがないわけぇ? ぬいぐるみルートとか、美少女ルートとか、そういうのすらあってもいいところよねぇ? ねえ、ゼラ?」

 うさみは、ミミリを挟んで高圧的にゼラに質問を投げつける。うさみは自身が望む答えを待つ姿勢。ゼラの中でうさみに真っ向から意見するという選択肢は消去された。

「そういうのを無茶振りっていう……まぁ、魔法使いルートはあってもよさそうだけどなぁ。その点は同意。な、ミミリ?」

 ゼラは、うさみの質問にいくつも指摘したい点があったが言及するのを避け、とりあえずミミリに会話のトスを上げるという無難な選択肢を取った。
 冒頭で若干の反論はしてみたものの、それもゼラにとっては勇気ある文句。後々のうさみからの口撃が怖いのだ。

「うんうん、そういうルートもあってもいいのにねぇ。ぬいぐるみルートとか想像しただけで楽しそうなのにね。可愛いぬいぐるみに囲まれてモフモフしたりね~! うさみならもちろん、文句なしでダンジョンクリアだよね!」
「さっすが私のミミりん、わかってるぅ~!」

 さすがミミリ、といううさみの言葉に、ゼラは心の中で強く同意した。
 ゼラが上げた会話のトスを、ミミリは見事にうさみの心にアタックを決めてくれた。
 ミミリとうさみはむぎゅっと抱きつき合い、幸せなひとときを堪能中。
 ゼラはなんとか首の皮一枚繋がった。


「話を元に戻そう。どのルートに進もうか。俺としては報酬を狙うよりも、安全な道を選びたい。だって俺たち、見習い冒険者だろ?」

 ゼラの意見は正論で。
 揉めることなくルートは2択に絞られた。
 更にゼラは言葉を続ける。それはもう、意気揚々と。

「俺としては錬金術士ルート一択だな。この冒険は、ミミリが始めた冒険だろ? もちろん、俺自身の冒険でもあるけどさ。うさみはどう思う?」
「うん、私も異論ないわ。この冒険は私たちみんなが主役だけど、それでも旅立ちのきっかけはミミリがもたらしてくれたものだからね」

 ゼラもうさみも、森に佇むダンジョンに恐怖心を、これから始まる冒険に高揚感を。対局にいるようで共存している2つの感情をもってミミリに視線を向けて答えを求めた。

 ミミリは左右のかけがえのない仲間を交互に見て、力強く、そして笑顔で頷いた。

「ありがとう! そうやって、言ってくれてすごく嬉しいよ。2人がいいなら、錬金術士ルートにしてみよう! でもその前に……」
「「…その前に?」」
「【マジックバッグ】の中から~!」
「「中から~?」」
「小屋を出して~! ひと休み!」
「「エッ⁉︎」」

 うさみとゼラは盛大な肩透かしを食らった。

「ダンジョン、入らないの?」
「入らないの~。今日はもう遅いし、とりあえず休もっ? だって言うでしょ? 冒険には休息が必要だ~! って」
「まだ始まってもないじゃない」
「いーのいーのっ」

 驚いて質問するうさみに、ミミリはのほほんと答える。


 そして【マジックバッグ】の中から先日と同じ小屋を片手でエイッと出した。

「今日の火の番は私からやるね~! でもその前にご飯食べよっ! すっかり遅くなっちゃたから、消化のいいものね!」

 ゼラとうさみが呆気にとられているのも気にもせず。ミミリは楽しげに野営の準備を始めていった。

 ゼラはククッと笑って隣の仲間に同意を求める。

「ミミリのこういうところ、俺、すっごいなぁって感心するんだよな。そう思わないか?」
「ほんとよね。さっすが私のミミりんだわ」

 うさみも隣の仲間に心から共感した。


 ーー審判の関所を目の前に、野営することに決めたミミリたち。
 普通のパーティーなら、とうにダンジョンに足を踏み入れているはずが、そうはならないのがミミうさ探検隊。
 いい意味で、ゆるふわパーティーだ。

 穏やかに夕食準備が進められる中、目の前の冒険者に二の足を踏まれたダンジョンこと、審判の関所。

 まるで不満を訴えるかのように、ポップアップは闇夜の中で、ゆらりと怪しく光るのだった。
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