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うさみち

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第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ

1-43(幕間)アルヒとアユムが歩む日々

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「行ってしまいましたね……」

 アルヒはポチの頭に乗ったアユムに手を伸ばす。

「アルヒ、ダッコシテホシイニャ」

 アユムがアルヒの胸目掛けてピョンッと飛び降りると、アルヒは優しく抱きとめる。


 アルヒとアユム、そしてポチと雷竜は、小さくなったミミリたちの背を、見えなくなるまで見送った。

 ……そして、ミミリたちは見えなくなった。

「アルヒ、ナカナイデ。アユム、イッショ、イルヨ?」

 アユムは灰色の手で、アルヒの目から次から次へと流れ落ちる涙を必死に拭き取る。繰り返すうちに、アユムの手はしっとり濡れて重たくなってしまった。
 アルヒはアユムを抱きながら、手のひらでアユムのふわふわな頬をさすって、顔と顔を近づける。

「ありがとうございます、アユム。これから、よろしくお願いしますね」
「ヨロシク、アルヒ」

 アユムは濡れた手でアルヒの両頬を挟み、顔を擦りつけてはゴロゴロと喉を鳴らした。


「さぁ、そろそろわしも行こうかの」

 雷竜は、目を覆いたくなるほどの眩い光を放った。
 アルヒが目を開けた時には、愛らしい猫の姿はなく、そこには雷電石(らいでんせき)のような輝く黄金色の鱗をもつドラゴン、雷属性の頂点、雷様が宙に舞っていた。

 ……バサッ、バサッ!

 飛翔する雷竜。翼を羽ばたかせる風圧で、アユムは思わずウニャアと鳴いた。

「時折覗きにくるから、達者での。小娘たちの様子も適宜報告してやるから、気を落とすでないぞ、緑の。さしずめ、『ドラゴンの郵便屋さん』ってやつじゃ。グワッハハッハハッハ!」

 絶対的強者の優しい心遣いに、アルヒは感謝の念が絶えない。

「ありがとうございます。貴方様も、お達者で」

 雷竜は大きな翼で飛びたっていった。
 雲一つない晴れた空、ミミリの瞳のような大空へ向かって。


 アルヒは雷竜を見送った後、アユムを抱きながらふわっとポチの胸元に抱き着いた。

「さぁ、ポチも行ってください。私は大丈夫ですから。ですが、次は100年間隔ではなくもっと頻繁に会いましょうね」

 ポチはキュウンと鳴いて、アルヒを熱のこもった瞳で見てから、ゆるやかな傾斜を駆け降りて森へと帰っていった。

 そして、雷竜もポチも見えなくなった頃。

「……家に入りましょう、アユム」
「ウン、ハイロウ」

 アルヒとアユムは家へと入った。



 ーー家の中。

 アルヒは目を閉じれば、いや、目を閉じなくても。

 ミミリやうさみ、そしてゼラ。
 愛する家族たちの姿がそこかしこに見えた。

 錬金釜で鼻歌を歌いながら錬成に勤しむミミリ。
 バタークッキー片手にコーヒーを飲むうさみ。
 腕立て伏せをするゼラ。
 うさみは椅子からピョンッとゼラの背にどしっとのしかかって、ゼラはぺしゃんとつぶれ、ミミリは踏み台から降りてうさみを抱き抱えて再び椅子に座らせる。

 ミミリはクスッと笑ってダイニングテーブルから手招きをする。うさみも、そしてゼラも。

 ……こっちに来て、一緒にティータイムしようよ、と。

 アルヒは、よろよろと力なくダイニングテーブルまで歩き、立ったまま、机に突っ伏して声を上げて泣いた。

「ミミリ、うさみ……ゼラッ……。う、う、うああぁぁぁ‼︎」

 そう、ミミリたちの姿は幻。

 アルヒは、心配をかけたくないと、ずっと気を張っていた。1人でも心配しないでください、私は大丈夫です、という姿を見せるためずっとずっと我慢していた。

 ……でも、本当は。
 
 置いていかないで欲しかった。たとえ、山陵を越えて生命活動を停止してガラクタとなったとしても、【マジックバッグ】の中に入って、まだ見ぬ地へ、冒険の旅に連れて行って欲しかった。

 くるしい。
 つらい。
 さみしい。
 さみしい。
 さみしい。

 アルヒは悲しみ渦巻く暗闇の中へ、深く意識を落としていこうとした。
 ……深い、深い、暗闇へ。


 意識的に暗闇へ身を投げようとしたその時、暗闇から引き上げたのは、灰色の手だった。

「アルヒ、マリョク、コメテ?」

 アルヒが目を開けると、テーブルの上にアユムが立っていた。アユムの手には、一枚の紙。

「こ、これは……」

 アユムはニコッと笑って答える。

「ボク、オシゴトデキル。マリョク、コメテ?」


【大切な貴方へ 一枚の便箋 使用条件:生命のオーブで活動する個体と対になって発動する。贈り主と受取主双方が魔力を込めることで手紙が綴られる】


「……ミミリ、いつの間に……」

 アルヒはアユムから手紙を受け取る。

 アルヒは両手で手紙の端を掴み、反発しないよう魔力を流す。すると手紙は宙へ浮かび上がり、眩い光を放ち始めた。

 眩い光を放ち浮かび上がった手紙を見上げながら、アユムは両手を宙に掲げた。
 アユムが掲げた両手から、手紙ごと光が吸収され、代わりにアユムが優しく暖かみを持った光を放ち始めた。

 そして、アユムを介して手紙が綴られはじめた。


『大切な貴方へ

 ミミリだよ。驚いた?
 この錬成アイテムはね、雷電石(らいでんせき)の地下空洞の緑の扉の部屋、錬金釜の隣の棚の上にあった便箋だよ。数冊あったから、全部もらってきちゃった。

 ……あ!盗ってないよ?ちゃんと、ライちゃんに断ってきたからね?

 そうそう、雷様のこと、ライちゃんって呼ぶことにしたんだ。勝手に決めたんだけど、怒るかな。どう思う?旅立ちの日に、呼んでみようと思うの。ライちゃんってカッコ可愛い名前だと思うから、気に入ってくれるといいんだけど。

 あとねあとね!
 実は、というか、もうライちゃんから聞いたかもしれないけど、これからもこの便箋を使って、手紙のやりとりできたらなって思って。

 手紙の運搬に関しては、ライちゃんに郵便屋さんやってねってお願いしてあるから大丈夫だよ。『ドラゴンの郵便屋さん』ってすごくカッコいいよねぇ!

 便箋は、錬金釜の横の棚に置いてきたから、使ってね。

 だからね。
 次の手紙が届くまで、元気に過ごしてね。
 ご飯、食べてね。
 ずっとずっと、泣いてちゃダメだよ。

 そして、私へも手紙書いてね。
 待ってるからね。

 アルヒ、大好きだよ。
 すごくすごく大好きだよ。また、手紙で会おうね。

 アルヒが大好きな、ミミリより』


 手紙の終わりと共に、アユムから発せられた光も収束した。

「ボク、オシゴト、デキタ? ホメテ? アルヒ」

 アユムはテーブルの上で幼い顔をアルヒに向けた。撫でて、褒めてと言わんばかりに。

「最高のメッセンジャーですね。ありがとうございます、アユム」

 感謝の気持ちも込めて、アユムの三角の耳の間を優しく撫でる。たちまちアユムはふにゃあっとなって、撫でるアルヒの手に縋った。

 アルヒが錬成釜の横の棚へ目をやると、そこには確かに錬成アイテム、【大切な貴方へ】が置いてあった。


「さっそくミミリへ手紙を書きましょう。これは、生命活動が停止する時まで生き抜かねばなりませんね。頑張らねばなりません」

 アルヒはミミリがくれた新たな目標に向かって、崩れかけた心を立ち直らせた。


「腹ごしらえをしましょうか、アユム」

 アユムはニコッと笑って、黒いショート丈のエプロンを両手でピンッと引っ張った。

「アユム、ゴハン、ツクレル。キョウハ、ハチミツパンケーキ、ダヨ」
「……お願いします、アユム」


 ーー機械人形(オートマタ)とぬいぐるみの新しい生活。

 アルヒとアユムが歩む日々。

 ミミリからの手紙をキッカケに、二人三脚の生活が、今、優しく幕を開けた。


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