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第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ
1-37 黄金色のドラゴンの正体
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ゼラとうさみも、遅れて扉の中に入っていった。うさみは未だ警戒しており、黄金色のドラゴンを睨みながら、ゼラの手をギュッと握って離さない。
ドラゴンはうさみを見下ろし、フンッと鼻を鳴らして笑った。
「そんなに警戒せんでも取って食ろうたりせん。それにうぬは綿じゃろうて。食う部分なんぞありゃせんわ。じゃが……」
ドラゴンはうさみから視線を外し、鼻先から出る長い髭を鋭い鉤爪でつかみながら、ゼラをジッと見て値踏みする。
「しかし……小童はなかなかにそそるのう。小童を踊り食うのも一興じゃ」
「ーー‼︎」
「聖女の慈愛‼︎」
うさみはパーティー全員に保護魔法をかける。そして、すかさずゼラの前に立ちはだかり、全身の毛を逆立てて、フーフーと息を荒立て威嚇した。
ミミリも駆け寄ってドラゴンとゼラたちの間に割って入り、ドラゴンの顔を見上げてお願いする。
「ドラゴンさん、ゼラくんを食べないでください。ゼラくんは固くて美味しくないです!」
意外にも、当事者である固い少年は、慌てふためくことなくドラゴンに交渉を試みる。
しかし下手に出ることはなく、先程よりも語気を強め、そして普段の口調に戻して楯突いた。
「俺を食うのなら、ミミリたちに手を出さないって約束してくれるよな。だけど俺、ただで食われてやる気ないから。弱肉強食の世の中なんだから、全力で闘って負けたら食われてやるよ。最後まで抵抗するけどな!」
と言って、ゼラは腰にくくった鞘から短剣を引き抜いた。
「ドラゴンさん、ゼラくん食べたら怒るから!」
ミミリは両手両足を目一杯に広げて、ドラゴンの前に立ち塞がった。
ドラゴンは鋭い眼光でミミリたちを威圧する。
ドラゴンの目に見えない威圧が重力となって、ミミリたちの肩にズシリとのしかかる。ミミリは自身の体を支えきれずによろめくが、それでもドラゴンから目を離さなかった。
ーーーー両者の間に流れる沈黙の間。
「グワッハハッハハッハ!!」
静寂を破ったのはドラゴンの笑い声だった。
笑い声でさえも、空気が震える。
ミミリたちは震え上がる気持ちと身体を、無理矢理抑え込むのに必死だった。
弱みを見せたらすぐさま狩られる。
その一心で、虚勢を張るのに全力を注いだ。
「なかなか肝の座ったヤツらじゃ。のう、緑の」
アルヒは困り顔で、ドラゴンに苦言を呈した。
「お戯れはどうかお控えください。踊り食いだなんて、貴方様の趣味ではないでしょう」
アルヒの言葉にドラゴンは少し拗ねた風を出すが、バツが悪そうに話題を変えた。
「フン、退屈凌ぎに冗談を言っただけじゃ。して、ソータは今日はおらんのか」
「は……? たい……く……つしの……ぎ?」
うさみは恐怖とは別の震えが込み上げた。苛立ちと言う名の震えが。
「……退屈凌ぎでそんな怖いこと言ったわけ⁉︎ 許せない。もう、遠慮してやらないんだからッ!」
うさみは怒りながら毒づいた。
怒れるうさみの傍らで、「ソータ」、という言葉を聞いて、アルヒの顔は一瞬で曇る。
「ソータ」、おそらく、アルヒとポチのご主人様のスズツリー=ソウタさんのことだろう、とミミリは思案を巡らせた。
「……私が不甲斐ないばかりに、ご主人様は現在行方不明なのです……」
俯きながら話したアルヒに、ドラゴンはただならぬ出来事を察する。
ドラゴンは雷電石(らいでんせき)が輝く天井を仰いで目を細めてから、
「……詳しく申してみよ」
と低い声で説明を求めた。
アルヒは、100年余りスズツリー=ソウタが失踪していることをドラゴンに説明した。
するとドラゴンは、鼻先の長い髭を鋭い鉤爪でいじりながら腑に落ちないとばかりにグルルル、と低く唸った。
うさみはドラゴンの唸り声に、フルフルと身体を震わせる。それに苛立ちと怒りも抑えることができない。
「も~がまんできない!」
うさみは堪忍袋の緒が切れて、声色低く、睨んで話した。
「あの~いちいち怖いんですけど。それに私、アンタのこと許せないんですけど!」
耐えきれなくなったうさみは、ドラゴンに物申した。
「うさみ⁉︎」
ゼラはうさみの態度にギョッとする。
とはいえ、ゼラはゼラで先程悪態をついたばかりではあるが。
うさみの小生意気な態度はドラゴンの逆鱗に触れるかと思いきや、意外にもドラゴンは好意的だった。
「本当に面白き者どもよの。うぬらには畏怖というものが存在せんのか」
うさみはいつもの調子を敢えて意識する。
左手は腰に。右手はドラゴン目掛けて突き上げて。
「怖いに決まってんじゃない! でも、アンタからしたらぬいぐるみの私だって怖いかもしれないしね! だけど、異種族だからって偏見はよくないと思うのよね。一歩踏み出さなきゃ関係性なんて変わらないでしょ? ……でもね、それはそれとして、傷つけたことゼラに謝ってよね⁉︎」
ドラゴンはキョトンと目を丸くして、そして再び大きく笑った。
響き渡る大音量。
ミミリたちは耳というより、最早体が痛かった。
「……だから笑い声もこわいって‼︎」
うさみのツッコミにも、ドラゴンは上機嫌だ。
「面白いことを言いよるの、綿よ。種族の垣根を超えた関係性の構築、とな。ソータ以来久しく聞いたわ。緑のの言うとおり、小童を踊り食うなどは冗談じゃったが、……ふむ、小童よ、先程うぬを傷つけたこと、謝罪しよう」
「俺はうさみに治してもらったし、大丈夫だ。俺もうさみも、初対面なのに礼を欠いたからな。それについては、俺もごめん。でも、過ぎたことだし、これで忘れよう!」
ゼラは血を噴き出すほどに傷付けられたというのに、もう忘れたかのように振る舞った。
「小童、見事じゃ」
ゼラの器の大きさに、ドラゴンはゼラを認めざるを得なかった。
「よかったぁ」
ミミリとアルヒは円満に事が収まって、ホッと胸を撫で下ろした。
うさみは、ドラゴンがゼラに謝罪したことでひとまず溜飲が下がったが、触れずにはいられないのは、ドラゴンの言葉のうちの1つの単語。
「……綿ぁ⁉︎ たしかに私は綿だけど! せめて可愛いぬいぐるみって言いなさいよね⁉︎」
うさみの発言に、ゼラは思わずツッコんだ。
「……可愛いって自分で言うのは余計だろ?」
「うっるさいわよ、この、しっぽマニア!」
「はぁ⁉︎ ……しっぽマニアじゃ……」
と、ゼラが言いかけたところで、ミミリがドラゴンに忠告した。
「ドラゴンさん、しっぽをゼラくんから隠してください! ゼラくんはしっぽマニアなんです!」
ミミリはしっかり自分のワンピースの猫のしっぽを押さえている。
「……⁉︎ お~い、ミミリィ~」
ゼラの絶望的な表情を見て、再びドラゴンはけたたましい音量で大笑いした。
「うぬら、本当に面白き生き物よの」
そして話は本題へ。
ドラゴンは、スズツリー=ソウタの行方不明の不審点を腑に落ちないとばかりに語った。
「しかし、本当に解せぬな。ソータが緑のを置いていなくなるとは」
アルヒは悲しそうに相槌を打つ。
「私に愛想を尽かし、出て行かれたのであれば良いのです。何事もなく幸せにお過ごしであれば、私は何も言うことはありません。ですが、そう思う一方で窮地に立たされていらっしゃるのではないかと、不安が拭い去れないのです」
ドラゴンは、地に鋭い鉤爪を立て、ギリギリと土を抉って憤慨した。
「彼奴は、優しすぎるきらいがあるからの。さんざ、一思いにやってやれ、苦しまないように仕留めるのも優しさじゃと説いたというんに、隙を見せたんじゃなかろうな」
「……?」
ミミリは、ドラゴンの発言に既視感を覚えた。
どこかで、聞き覚えのある……いや、見覚えのある言葉。
……一思いにやってやれ?苦しまないように?
このフレーズが、頭の中でリフレインする。
そしてミミリの頭の中に、ある一文がポン、と浮かんだ。
『一思いにヤッてやれよ?苦しまないようにな。それこそ、○○の思し召しだからな。笑』
「……ああ~‼︎ あああ~~‼︎ 『たのしい錬金術~戦闘入門編~』~‼︎」
ミミリはピンときた自分の考えに驚いて大きな声を上げた。
「エェッ⁉︎ なによどうしたの⁇」
ミミリの反応に、アルヒを除くその場の全員が驚いた。
ミミリは一定程度の確信を持って、ドラゴンの正体、頭の中に思い浮かんだフレーズの○○に当てはまる部分の名前を言い当てる。
「……貴方、雷様⁉︎」
一同が驚く中、ドラゴンはフン、と鼻を鳴らして胸を張る。
「いかにも。わしは雷属性の頂点じゃな。雷竜と申す。ソータはワシを雷様と呼んでいたがな」
「えぇ⁉︎」
うさみもゼラも、驚きを隠せない。
「……っていうか、なんでミミリわかったの?」
「うぅ~んとね、ヒントがあったからかな?」
と答えながら、【マジックバッグ】からある錬成アイテムを取り出して雷様に差し出した。
【雷様の思(おぼ)し飯(メシ) 電撃(小)】
「これ、どうぞ? 最近錬成したばかりなの」
「おぉ、でかしたぞ小娘! これじゃこれじゃ。爪の先ほどの大きさでも、パンチが効いていてたまらんのじゃ~」
ピギーウルフの肉を【魅惑の香辛料】と【雷電石(らいでんせき)の粉末】で漬け込んで、よく味が染みたところで、【火薬草の結晶】の火力を活かして外はカリッと、中はレアに焼き上げた逸品。
本来は戦闘用の錬成アイテムだが、雷様はきっとお気に召すだろうという狙いのもと、ミミリは雷様に差し出した。
ミミリの狙いどおり、雷竜は目の色を変えて喜んだ。
よっぽど嬉しかったのか、すぐに食べずに眺めている。
ドラゴンは、刺激的な飯(メシ)の対価にと、鉤爪に引っ掛けた金属製の輪をミミリに差し出した。
輪にはミミリの手のひらに収まりそうな金のプレートがついている。
小さな金のプレートには、絵が刻まれている。
幸せの象徴、四葉のクローバーが。
「緑の間の鍵をやろう。小娘に適したアイテムがある。持っていくが良い」
ドラゴンはうさみを見下ろし、フンッと鼻を鳴らして笑った。
「そんなに警戒せんでも取って食ろうたりせん。それにうぬは綿じゃろうて。食う部分なんぞありゃせんわ。じゃが……」
ドラゴンはうさみから視線を外し、鼻先から出る長い髭を鋭い鉤爪でつかみながら、ゼラをジッと見て値踏みする。
「しかし……小童はなかなかにそそるのう。小童を踊り食うのも一興じゃ」
「ーー‼︎」
「聖女の慈愛‼︎」
うさみはパーティー全員に保護魔法をかける。そして、すかさずゼラの前に立ちはだかり、全身の毛を逆立てて、フーフーと息を荒立て威嚇した。
ミミリも駆け寄ってドラゴンとゼラたちの間に割って入り、ドラゴンの顔を見上げてお願いする。
「ドラゴンさん、ゼラくんを食べないでください。ゼラくんは固くて美味しくないです!」
意外にも、当事者である固い少年は、慌てふためくことなくドラゴンに交渉を試みる。
しかし下手に出ることはなく、先程よりも語気を強め、そして普段の口調に戻して楯突いた。
「俺を食うのなら、ミミリたちに手を出さないって約束してくれるよな。だけど俺、ただで食われてやる気ないから。弱肉強食の世の中なんだから、全力で闘って負けたら食われてやるよ。最後まで抵抗するけどな!」
と言って、ゼラは腰にくくった鞘から短剣を引き抜いた。
「ドラゴンさん、ゼラくん食べたら怒るから!」
ミミリは両手両足を目一杯に広げて、ドラゴンの前に立ち塞がった。
ドラゴンは鋭い眼光でミミリたちを威圧する。
ドラゴンの目に見えない威圧が重力となって、ミミリたちの肩にズシリとのしかかる。ミミリは自身の体を支えきれずによろめくが、それでもドラゴンから目を離さなかった。
ーーーー両者の間に流れる沈黙の間。
「グワッハハッハハッハ!!」
静寂を破ったのはドラゴンの笑い声だった。
笑い声でさえも、空気が震える。
ミミリたちは震え上がる気持ちと身体を、無理矢理抑え込むのに必死だった。
弱みを見せたらすぐさま狩られる。
その一心で、虚勢を張るのに全力を注いだ。
「なかなか肝の座ったヤツらじゃ。のう、緑の」
アルヒは困り顔で、ドラゴンに苦言を呈した。
「お戯れはどうかお控えください。踊り食いだなんて、貴方様の趣味ではないでしょう」
アルヒの言葉にドラゴンは少し拗ねた風を出すが、バツが悪そうに話題を変えた。
「フン、退屈凌ぎに冗談を言っただけじゃ。して、ソータは今日はおらんのか」
「は……? たい……く……つしの……ぎ?」
うさみは恐怖とは別の震えが込み上げた。苛立ちと言う名の震えが。
「……退屈凌ぎでそんな怖いこと言ったわけ⁉︎ 許せない。もう、遠慮してやらないんだからッ!」
うさみは怒りながら毒づいた。
怒れるうさみの傍らで、「ソータ」、という言葉を聞いて、アルヒの顔は一瞬で曇る。
「ソータ」、おそらく、アルヒとポチのご主人様のスズツリー=ソウタさんのことだろう、とミミリは思案を巡らせた。
「……私が不甲斐ないばかりに、ご主人様は現在行方不明なのです……」
俯きながら話したアルヒに、ドラゴンはただならぬ出来事を察する。
ドラゴンは雷電石(らいでんせき)が輝く天井を仰いで目を細めてから、
「……詳しく申してみよ」
と低い声で説明を求めた。
アルヒは、100年余りスズツリー=ソウタが失踪していることをドラゴンに説明した。
するとドラゴンは、鼻先の長い髭を鋭い鉤爪でいじりながら腑に落ちないとばかりにグルルル、と低く唸った。
うさみはドラゴンの唸り声に、フルフルと身体を震わせる。それに苛立ちと怒りも抑えることができない。
「も~がまんできない!」
うさみは堪忍袋の緒が切れて、声色低く、睨んで話した。
「あの~いちいち怖いんですけど。それに私、アンタのこと許せないんですけど!」
耐えきれなくなったうさみは、ドラゴンに物申した。
「うさみ⁉︎」
ゼラはうさみの態度にギョッとする。
とはいえ、ゼラはゼラで先程悪態をついたばかりではあるが。
うさみの小生意気な態度はドラゴンの逆鱗に触れるかと思いきや、意外にもドラゴンは好意的だった。
「本当に面白き者どもよの。うぬらには畏怖というものが存在せんのか」
うさみはいつもの調子を敢えて意識する。
左手は腰に。右手はドラゴン目掛けて突き上げて。
「怖いに決まってんじゃない! でも、アンタからしたらぬいぐるみの私だって怖いかもしれないしね! だけど、異種族だからって偏見はよくないと思うのよね。一歩踏み出さなきゃ関係性なんて変わらないでしょ? ……でもね、それはそれとして、傷つけたことゼラに謝ってよね⁉︎」
ドラゴンはキョトンと目を丸くして、そして再び大きく笑った。
響き渡る大音量。
ミミリたちは耳というより、最早体が痛かった。
「……だから笑い声もこわいって‼︎」
うさみのツッコミにも、ドラゴンは上機嫌だ。
「面白いことを言いよるの、綿よ。種族の垣根を超えた関係性の構築、とな。ソータ以来久しく聞いたわ。緑のの言うとおり、小童を踊り食うなどは冗談じゃったが、……ふむ、小童よ、先程うぬを傷つけたこと、謝罪しよう」
「俺はうさみに治してもらったし、大丈夫だ。俺もうさみも、初対面なのに礼を欠いたからな。それについては、俺もごめん。でも、過ぎたことだし、これで忘れよう!」
ゼラは血を噴き出すほどに傷付けられたというのに、もう忘れたかのように振る舞った。
「小童、見事じゃ」
ゼラの器の大きさに、ドラゴンはゼラを認めざるを得なかった。
「よかったぁ」
ミミリとアルヒは円満に事が収まって、ホッと胸を撫で下ろした。
うさみは、ドラゴンがゼラに謝罪したことでひとまず溜飲が下がったが、触れずにはいられないのは、ドラゴンの言葉のうちの1つの単語。
「……綿ぁ⁉︎ たしかに私は綿だけど! せめて可愛いぬいぐるみって言いなさいよね⁉︎」
うさみの発言に、ゼラは思わずツッコんだ。
「……可愛いって自分で言うのは余計だろ?」
「うっるさいわよ、この、しっぽマニア!」
「はぁ⁉︎ ……しっぽマニアじゃ……」
と、ゼラが言いかけたところで、ミミリがドラゴンに忠告した。
「ドラゴンさん、しっぽをゼラくんから隠してください! ゼラくんはしっぽマニアなんです!」
ミミリはしっかり自分のワンピースの猫のしっぽを押さえている。
「……⁉︎ お~い、ミミリィ~」
ゼラの絶望的な表情を見て、再びドラゴンはけたたましい音量で大笑いした。
「うぬら、本当に面白き生き物よの」
そして話は本題へ。
ドラゴンは、スズツリー=ソウタの行方不明の不審点を腑に落ちないとばかりに語った。
「しかし、本当に解せぬな。ソータが緑のを置いていなくなるとは」
アルヒは悲しそうに相槌を打つ。
「私に愛想を尽かし、出て行かれたのであれば良いのです。何事もなく幸せにお過ごしであれば、私は何も言うことはありません。ですが、そう思う一方で窮地に立たされていらっしゃるのではないかと、不安が拭い去れないのです」
ドラゴンは、地に鋭い鉤爪を立て、ギリギリと土を抉って憤慨した。
「彼奴は、優しすぎるきらいがあるからの。さんざ、一思いにやってやれ、苦しまないように仕留めるのも優しさじゃと説いたというんに、隙を見せたんじゃなかろうな」
「……?」
ミミリは、ドラゴンの発言に既視感を覚えた。
どこかで、聞き覚えのある……いや、見覚えのある言葉。
……一思いにやってやれ?苦しまないように?
このフレーズが、頭の中でリフレインする。
そしてミミリの頭の中に、ある一文がポン、と浮かんだ。
『一思いにヤッてやれよ?苦しまないようにな。それこそ、○○の思し召しだからな。笑』
「……ああ~‼︎ あああ~~‼︎ 『たのしい錬金術~戦闘入門編~』~‼︎」
ミミリはピンときた自分の考えに驚いて大きな声を上げた。
「エェッ⁉︎ なによどうしたの⁇」
ミミリの反応に、アルヒを除くその場の全員が驚いた。
ミミリは一定程度の確信を持って、ドラゴンの正体、頭の中に思い浮かんだフレーズの○○に当てはまる部分の名前を言い当てる。
「……貴方、雷様⁉︎」
一同が驚く中、ドラゴンはフン、と鼻を鳴らして胸を張る。
「いかにも。わしは雷属性の頂点じゃな。雷竜と申す。ソータはワシを雷様と呼んでいたがな」
「えぇ⁉︎」
うさみもゼラも、驚きを隠せない。
「……っていうか、なんでミミリわかったの?」
「うぅ~んとね、ヒントがあったからかな?」
と答えながら、【マジックバッグ】からある錬成アイテムを取り出して雷様に差し出した。
【雷様の思(おぼ)し飯(メシ) 電撃(小)】
「これ、どうぞ? 最近錬成したばかりなの」
「おぉ、でかしたぞ小娘! これじゃこれじゃ。爪の先ほどの大きさでも、パンチが効いていてたまらんのじゃ~」
ピギーウルフの肉を【魅惑の香辛料】と【雷電石(らいでんせき)の粉末】で漬け込んで、よく味が染みたところで、【火薬草の結晶】の火力を活かして外はカリッと、中はレアに焼き上げた逸品。
本来は戦闘用の錬成アイテムだが、雷様はきっとお気に召すだろうという狙いのもと、ミミリは雷様に差し出した。
ミミリの狙いどおり、雷竜は目の色を変えて喜んだ。
よっぽど嬉しかったのか、すぐに食べずに眺めている。
ドラゴンは、刺激的な飯(メシ)の対価にと、鉤爪に引っ掛けた金属製の輪をミミリに差し出した。
輪にはミミリの手のひらに収まりそうな金のプレートがついている。
小さな金のプレートには、絵が刻まれている。
幸せの象徴、四葉のクローバーが。
「緑の間の鍵をやろう。小娘に適したアイテムがある。持っていくが良い」
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