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第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ
1-21 夢の中のメリーさん?
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「うう~目を瞑(つぶ)ったら寝ちゃいそう……。それになんか……、誰かが呼んでる気がする~。あはは、もしかしてメリーさんかなぁ」
【睡眠薬】を目下錬成中のミミリは、眠気と戦ってはいるものの、どうしてもフラフラうとうとしてしまう。
踏み台に乗って釜の中をずっと見続けながら、木のロッドでひたすらかき混ぜているからだろうか。
それとも誘眠(ゆうみん)剤の素を少し吸い込んでしまったからだろうか。
はたまた釜から立ちのぼる【ミール液】の甘い香りを間近で感じているからだろうか。
ミミリの眠気はどんどん深まっていくようで…。
「4034、4044、4045……」
そんなミミリを、ゼラは腕立て伏せをしながら心配そうに見ている。
背中にはうさみを重石として乗せて。
「なぁ。ミミリの様子、おかしくないか?それとも錬金術士が錬成に没頭すると、あんな感じになるのか?テンションが変に振り切れるみたいな。……405……あれ?いくつだったっけ?」
「ハイ、ペナルティ。…闘神(とうしん)の重責(じゅうせき)」
「グエッ! 重たっ!」
うさみは重力の魔法を自分にかけることで、ゼラの重石役として特訓に付き合っている。
「レディーの体重は本来秘密なのよ? それを無神経に重たいって言うの禁止ね。ハイ、ペナルティ。…闘神(とうしん)の重責(じゅうせき)」
ゼラにかかる負荷が更に増す。
「グエッ! ……おも……いえ、何でもないです」
「ちょっと癇(かん)に障るけど、まぁいいでしょう。……ミミリは今日【睡眠薬】を作るぞ~って意気込んでたじゃない?」
「あぁ、確か【メリーさんの枕】を作るためにはまず、【睡眠薬】が必要なんだっけ。……1、2、3……」
ゼラは続きを数えるのをやめて、初めから数えることにした。
ゼラの熱血教師であるアルヒは今、ポチと一緒に外へパトロールをしに行ってくれている。
パトロールに一緒に行くと申し出たものの、今日の悪天候を配慮して、身体を休めるようにと言い残して出かけていってくれた。
「すごい雨ね。アルヒたち、大丈夫かしら」
今日は本当に天気が悪い。横殴りの雨が、窓をしつこく叩いている。
アルヒの心遣いはありがたいが、限られた時間を大切にするためにも、お言葉に甘えるわけにはいかない。
家の中でもできることは何かないかと考えた結果、ゼラは腕立て伏せで自主練をすることにしたのだ。
ありがたいことに、うさみはゼラの特訓に付き合ってくれるということで重石役を買って出てくれたわけだが、実はこれは建前で、重石役という大義名分を盾に取り、いたぶることが目的ではないかとゼラは思った。
……とても口には出せないが。
「……そうそう。【睡眠薬】っていうくらいだから、作り手は特に眠くなりそうよね?私もそれは思ったんだけど」
「うん。……36、37……」
「濃ゆ~い」
「うん?」
「濃っゆ~いコーヒーを飲んだのよ! ゴクゴクーッとたっぷりね! 眠気に打ち克つんだ~って言って。止めようと思った時には遅かったわ」
「ん~。それは特に問題じゃないような。それとも飲み合わせが悪いってっていうか、ホラ、コーヒーの成分と錬成アイテムの何かの成分が身体の中でケンカしてるみたいな、そういうのあるのかな」
「確かに一理あるわね。で、その結果があれ?」
「そう」
ミミリは相変わらず、フラフラうとうとしながら、釜をひたすらかき混ぜている。
「……メリーさんが1体、メリーさんが2体、メリーさんが3体……。ふわぁぁ。眠た……い……」
ミミリは、このところ、錬金術が楽しくて仕方ない。
もちろん以前から錬金術は大好きだが、今はそれ以上に。
新しい錬成アイテムを作りたい、作ったアイテムを試してみたいという思いが強まって、寝る間を惜しんで錬成することもしばしばある。
……でもなんだか……。
ミミリは釜をまぜる木のロッドが異様に重たく感じるようになってきた。
……これってもしかして、筋肉痛なのかな。
やっぱり私って、体力が足りないんだ。いつもより長い時間、採集作業するだけで身体が筋肉痛になっちゃうなんて。
頑張ってもっとたくさん身体を動かして、筋肉つけなきゃ。なんだっけ、本に書いてあった言葉。食っちゃ寝は牛になる、だっけ……。
釜の中をぐるぐるかき混ぜているのか、それともミミリがぐるぐるかき混ぜられているのか。次第にミミリの目の前がぐるぐると渦を巻くようになってきた。
途端、視界がグニャリと大きく歪む。
「なんか、ぐるぐる、するかも……」
ミミリは釜をかき混ぜる手を止めて、木のロッドに縋って目を閉じた。目を瞑(つぶ)ってもなお、暗闇の中で何かがぐるぐると渦を巻いている気がする。
「え? 大丈夫⁉︎ ……闘神(とうしん)の重責(じゅうせき)、解除。ミミリ、ちょっと休憩したほうがいいわよ」
「そうしよう。俺もちょうど休憩したいところだったんだ。ミミリほど上手にはできないけど、なんか軽食作ってみるよ。ミミリ、何が食べたい?」
ゼラはタオルで汗を拭きながら、微笑んでミミリに気遣いの言葉をかける。
「わぁ、嬉しいなぁ……えっと、はちみつパンケーキ……。……ごめん、やっぱりぐるぐるするかも……。あれ、今度は目の前、真っ白……」
ミミリは立っていることが難しくなって、片足をふいに踏み台から踏み外してしまった。ミミリの身体がグラッと傾く。
「ミミリ‼︎」
……ドサッ。
間一髪、ゼラは身を挺して、倒れるミミリを抱き止めた。一歩遅かったら、床へ頭から倒れ込んでいたかもしれない。
「あっぶね……。ーー‼︎ ミミリ、身体めちゃくちゃ熱いぞ⁉︎」
「受け止めてくれて、ありがと、ゼラく……」
「ミミリ! ミミリ‼︎」
ミミリはそのまま意識を失った。
ーーーー真っ暗な空間。
なぜか、身体が、痺れて動かない。
なのに、顔だけ、勝手に右を向いてしまう。
「~~‼︎ ~~‼︎」
……なにか、聞こえる気がする。
「……くれ‼︎」
……え、なに?
「……てくれ‼︎」
……え、なに??聞こえない。
真っ暗な空間に歪(いびつ)な切れ目がすうっと入り、切れ目の端から濃い紫色のナニカがゾワゾワ出てくる。
切れ目から見えるのは、引き込まれそうな、深い闇。
……怖い‼︎
「……助けてくれ‼︎」
いきなり、闇の中からナニカの手首が出てきた。
……つかまれる‼︎‼︎
ミミリは恐怖でギュッと目を瞑(つぶ)った。
「ミミリ‼︎ ……ミミリ‼︎」
「ーー‼︎」
ミミリは、ハッと目を開けた。
目を開けると、心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいるアルヒとうさみと目が合った。
背景には見慣れた天井。どうやら、誰かがミミリの部屋まで運んでくれたらしい。いつの間にか、自分のベッドで寝ていたようだ。
「あれ……? 夢、だったんだ……。怖かった……」
「すごくうなされていましたよ。こんなに泣いて、汗もかいて……」
アルヒは冷たいタオルで、優しくミミリの汗と涙を拭(ぬぐ)った。
「もう! 心配したんだから! 急にミミリ、倒れちゃうんだもん」
うさみはそう言うと、ミミリの枕横へポスッと座る。
眼前に、うさみの白いふわふわなしっぽが現れる。
「ごめんね、二人とも、心配かけて」
「そんなにうなされて一体どんな夢見たの?」
「うぅ~ん」
……暗いところで、誰かに何か、言われたような。頭にぼんやりもやがかかって、思い出そうとしても思い出せない。さっきはすごく、鮮明だった気がするのに。
「なんだったかなぁ。もう忘れちゃった」
「メリーさんに襲われる夢でも見たんじゃない? ミミリ、釜で錬成している間、ずーっとメリーさんって言ってたわよ?」
「エッ⁉︎ ほんと⁇ 全然覚えてないよ。恥ずかしいなぁ。……うーん、でも、そう言われると、メリーさんの夢だったのかなぁ」
「人間が睡眠時に見る夢とは、往々にしてそのようなものであるらしいですよ。疲れが溜まっていたのでしょう。さぁ、【ひだまりの薬湯】を飲んでください。熱もきっと下がりますよ」
「ありがとう、アルヒ」
アルヒはミミリの上半身を抱き抱えて起こした。
ミミリが暖かい薬湯を一口飲んで、枕をクッションとして背で挟み壁に寄りかかると、アルヒは優しくミミリの頭を撫でてくれた。
「……へへへ。なんだか甘えんぼになったみたいで、恥ずかしいけど、嬉しいなぁ。へへへ」
「あらミミリ? ポヤ~ンとするのも今だけよ? 治ったらちゃんっとお説教しますからね! 私だけじゃなくて、アルヒからもね?」
「うぅぅ。そうだよね…」
……コンコン。
ミミリの部屋のドアのノック音。
「入っていいか~?」
どうぞ、と声をかけると、腰下に黒いショート丈のエプロンを着けたゼラが部屋に入ってきた。
アツアツのはちみつパンケーキをトレーに乗せて。
はちみつの甘くて優しい香りが部屋にほわっと漂う。
「おっ! ミミリ、目が覚めたか? よかった、急に倒れたから心配したよ」
「うん、ありがとう。ごめんね、心配かけて」
「俺もごめんな。様子おかしいの気がついてたのに、もっと早くに止めてやれなくて。はちみつパンケーキ作ってきたからな。他にも食べたいものあったら作るよ。何か食べたいもの、飲みたいもの、リクエストあるか?」
「あら、コシヌカシ。料理ほんとにできたのね? それに気遣いもできるじゃない、見直したわ」
「見直したんならそのあだ名、そろそろ返上していいか? 熱血少年(仮)のほうがまだマシなんだけど」
「ふふっ。みんな優しい。ありがとうね」
ミミリは思わず、側にいたうさみをギュウッと抱きしめた。うさみはミミリに抱きしめられ、ムギュウッと身体が圧縮される。
「ミミリ、く、ぐるしいっ」
「わぁっ、ごめんうさみ」
「少しは元気になってくれてよかった」
でも、とゼラは言葉を続ける。
「ミミリ、感謝してくれる分、早く治してくれたら嬉しいな。そのほうが早く説教できるだろ?俺があれほど昨日、川から早く上がるようにって……っていう話をしなきゃいけないからな」
「うぅぅ。ごめんなさい」
ミミリはしょんぼりして、ベッドの中へと潜っていった。
ベッドの中でミミリは先程見た夢のことを考える。
……なんだか、すごく、怖かったんだよね。今ではもう、思い出せないけれど。
ミミリはベッドに潜りながら、掛け布団の端をキュッと掴んだ。
【睡眠薬】を目下錬成中のミミリは、眠気と戦ってはいるものの、どうしてもフラフラうとうとしてしまう。
踏み台に乗って釜の中をずっと見続けながら、木のロッドでひたすらかき混ぜているからだろうか。
それとも誘眠(ゆうみん)剤の素を少し吸い込んでしまったからだろうか。
はたまた釜から立ちのぼる【ミール液】の甘い香りを間近で感じているからだろうか。
ミミリの眠気はどんどん深まっていくようで…。
「4034、4044、4045……」
そんなミミリを、ゼラは腕立て伏せをしながら心配そうに見ている。
背中にはうさみを重石として乗せて。
「なぁ。ミミリの様子、おかしくないか?それとも錬金術士が錬成に没頭すると、あんな感じになるのか?テンションが変に振り切れるみたいな。……405……あれ?いくつだったっけ?」
「ハイ、ペナルティ。…闘神(とうしん)の重責(じゅうせき)」
「グエッ! 重たっ!」
うさみは重力の魔法を自分にかけることで、ゼラの重石役として特訓に付き合っている。
「レディーの体重は本来秘密なのよ? それを無神経に重たいって言うの禁止ね。ハイ、ペナルティ。…闘神(とうしん)の重責(じゅうせき)」
ゼラにかかる負荷が更に増す。
「グエッ! ……おも……いえ、何でもないです」
「ちょっと癇(かん)に障るけど、まぁいいでしょう。……ミミリは今日【睡眠薬】を作るぞ~って意気込んでたじゃない?」
「あぁ、確か【メリーさんの枕】を作るためにはまず、【睡眠薬】が必要なんだっけ。……1、2、3……」
ゼラは続きを数えるのをやめて、初めから数えることにした。
ゼラの熱血教師であるアルヒは今、ポチと一緒に外へパトロールをしに行ってくれている。
パトロールに一緒に行くと申し出たものの、今日の悪天候を配慮して、身体を休めるようにと言い残して出かけていってくれた。
「すごい雨ね。アルヒたち、大丈夫かしら」
今日は本当に天気が悪い。横殴りの雨が、窓をしつこく叩いている。
アルヒの心遣いはありがたいが、限られた時間を大切にするためにも、お言葉に甘えるわけにはいかない。
家の中でもできることは何かないかと考えた結果、ゼラは腕立て伏せで自主練をすることにしたのだ。
ありがたいことに、うさみはゼラの特訓に付き合ってくれるということで重石役を買って出てくれたわけだが、実はこれは建前で、重石役という大義名分を盾に取り、いたぶることが目的ではないかとゼラは思った。
……とても口には出せないが。
「……そうそう。【睡眠薬】っていうくらいだから、作り手は特に眠くなりそうよね?私もそれは思ったんだけど」
「うん。……36、37……」
「濃ゆ~い」
「うん?」
「濃っゆ~いコーヒーを飲んだのよ! ゴクゴクーッとたっぷりね! 眠気に打ち克つんだ~って言って。止めようと思った時には遅かったわ」
「ん~。それは特に問題じゃないような。それとも飲み合わせが悪いってっていうか、ホラ、コーヒーの成分と錬成アイテムの何かの成分が身体の中でケンカしてるみたいな、そういうのあるのかな」
「確かに一理あるわね。で、その結果があれ?」
「そう」
ミミリは相変わらず、フラフラうとうとしながら、釜をひたすらかき混ぜている。
「……メリーさんが1体、メリーさんが2体、メリーさんが3体……。ふわぁぁ。眠た……い……」
ミミリは、このところ、錬金術が楽しくて仕方ない。
もちろん以前から錬金術は大好きだが、今はそれ以上に。
新しい錬成アイテムを作りたい、作ったアイテムを試してみたいという思いが強まって、寝る間を惜しんで錬成することもしばしばある。
……でもなんだか……。
ミミリは釜をまぜる木のロッドが異様に重たく感じるようになってきた。
……これってもしかして、筋肉痛なのかな。
やっぱり私って、体力が足りないんだ。いつもより長い時間、採集作業するだけで身体が筋肉痛になっちゃうなんて。
頑張ってもっとたくさん身体を動かして、筋肉つけなきゃ。なんだっけ、本に書いてあった言葉。食っちゃ寝は牛になる、だっけ……。
釜の中をぐるぐるかき混ぜているのか、それともミミリがぐるぐるかき混ぜられているのか。次第にミミリの目の前がぐるぐると渦を巻くようになってきた。
途端、視界がグニャリと大きく歪む。
「なんか、ぐるぐる、するかも……」
ミミリは釜をかき混ぜる手を止めて、木のロッドに縋って目を閉じた。目を瞑(つぶ)ってもなお、暗闇の中で何かがぐるぐると渦を巻いている気がする。
「え? 大丈夫⁉︎ ……闘神(とうしん)の重責(じゅうせき)、解除。ミミリ、ちょっと休憩したほうがいいわよ」
「そうしよう。俺もちょうど休憩したいところだったんだ。ミミリほど上手にはできないけど、なんか軽食作ってみるよ。ミミリ、何が食べたい?」
ゼラはタオルで汗を拭きながら、微笑んでミミリに気遣いの言葉をかける。
「わぁ、嬉しいなぁ……えっと、はちみつパンケーキ……。……ごめん、やっぱりぐるぐるするかも……。あれ、今度は目の前、真っ白……」
ミミリは立っていることが難しくなって、片足をふいに踏み台から踏み外してしまった。ミミリの身体がグラッと傾く。
「ミミリ‼︎」
……ドサッ。
間一髪、ゼラは身を挺して、倒れるミミリを抱き止めた。一歩遅かったら、床へ頭から倒れ込んでいたかもしれない。
「あっぶね……。ーー‼︎ ミミリ、身体めちゃくちゃ熱いぞ⁉︎」
「受け止めてくれて、ありがと、ゼラく……」
「ミミリ! ミミリ‼︎」
ミミリはそのまま意識を失った。
ーーーー真っ暗な空間。
なぜか、身体が、痺れて動かない。
なのに、顔だけ、勝手に右を向いてしまう。
「~~‼︎ ~~‼︎」
……なにか、聞こえる気がする。
「……くれ‼︎」
……え、なに?
「……てくれ‼︎」
……え、なに??聞こえない。
真っ暗な空間に歪(いびつ)な切れ目がすうっと入り、切れ目の端から濃い紫色のナニカがゾワゾワ出てくる。
切れ目から見えるのは、引き込まれそうな、深い闇。
……怖い‼︎
「……助けてくれ‼︎」
いきなり、闇の中からナニカの手首が出てきた。
……つかまれる‼︎‼︎
ミミリは恐怖でギュッと目を瞑(つぶ)った。
「ミミリ‼︎ ……ミミリ‼︎」
「ーー‼︎」
ミミリは、ハッと目を開けた。
目を開けると、心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいるアルヒとうさみと目が合った。
背景には見慣れた天井。どうやら、誰かがミミリの部屋まで運んでくれたらしい。いつの間にか、自分のベッドで寝ていたようだ。
「あれ……? 夢、だったんだ……。怖かった……」
「すごくうなされていましたよ。こんなに泣いて、汗もかいて……」
アルヒは冷たいタオルで、優しくミミリの汗と涙を拭(ぬぐ)った。
「もう! 心配したんだから! 急にミミリ、倒れちゃうんだもん」
うさみはそう言うと、ミミリの枕横へポスッと座る。
眼前に、うさみの白いふわふわなしっぽが現れる。
「ごめんね、二人とも、心配かけて」
「そんなにうなされて一体どんな夢見たの?」
「うぅ~ん」
……暗いところで、誰かに何か、言われたような。頭にぼんやりもやがかかって、思い出そうとしても思い出せない。さっきはすごく、鮮明だった気がするのに。
「なんだったかなぁ。もう忘れちゃった」
「メリーさんに襲われる夢でも見たんじゃない? ミミリ、釜で錬成している間、ずーっとメリーさんって言ってたわよ?」
「エッ⁉︎ ほんと⁇ 全然覚えてないよ。恥ずかしいなぁ。……うーん、でも、そう言われると、メリーさんの夢だったのかなぁ」
「人間が睡眠時に見る夢とは、往々にしてそのようなものであるらしいですよ。疲れが溜まっていたのでしょう。さぁ、【ひだまりの薬湯】を飲んでください。熱もきっと下がりますよ」
「ありがとう、アルヒ」
アルヒはミミリの上半身を抱き抱えて起こした。
ミミリが暖かい薬湯を一口飲んで、枕をクッションとして背で挟み壁に寄りかかると、アルヒは優しくミミリの頭を撫でてくれた。
「……へへへ。なんだか甘えんぼになったみたいで、恥ずかしいけど、嬉しいなぁ。へへへ」
「あらミミリ? ポヤ~ンとするのも今だけよ? 治ったらちゃんっとお説教しますからね! 私だけじゃなくて、アルヒからもね?」
「うぅぅ。そうだよね…」
……コンコン。
ミミリの部屋のドアのノック音。
「入っていいか~?」
どうぞ、と声をかけると、腰下に黒いショート丈のエプロンを着けたゼラが部屋に入ってきた。
アツアツのはちみつパンケーキをトレーに乗せて。
はちみつの甘くて優しい香りが部屋にほわっと漂う。
「おっ! ミミリ、目が覚めたか? よかった、急に倒れたから心配したよ」
「うん、ありがとう。ごめんね、心配かけて」
「俺もごめんな。様子おかしいの気がついてたのに、もっと早くに止めてやれなくて。はちみつパンケーキ作ってきたからな。他にも食べたいものあったら作るよ。何か食べたいもの、飲みたいもの、リクエストあるか?」
「あら、コシヌカシ。料理ほんとにできたのね? それに気遣いもできるじゃない、見直したわ」
「見直したんならそのあだ名、そろそろ返上していいか? 熱血少年(仮)のほうがまだマシなんだけど」
「ふふっ。みんな優しい。ありがとうね」
ミミリは思わず、側にいたうさみをギュウッと抱きしめた。うさみはミミリに抱きしめられ、ムギュウッと身体が圧縮される。
「ミミリ、く、ぐるしいっ」
「わぁっ、ごめんうさみ」
「少しは元気になってくれてよかった」
でも、とゼラは言葉を続ける。
「ミミリ、感謝してくれる分、早く治してくれたら嬉しいな。そのほうが早く説教できるだろ?俺があれほど昨日、川から早く上がるようにって……っていう話をしなきゃいけないからな」
「うぅぅ。ごめんなさい」
ミミリはしょんぼりして、ベッドの中へと潜っていった。
ベッドの中でミミリは先程見た夢のことを考える。
……なんだか、すごく、怖かったんだよね。今ではもう、思い出せないけれど。
ミミリはベッドに潜りながら、掛け布団の端をキュッと掴んだ。
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