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うさみち

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第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ

1-10 【大切な貴方へ】

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 眩い光を放ち浮かび上がった手紙を見上げながら、うさみは両手を宙に掲げた。

「今、察したわ。私が存在する理由。メッセンジャーだなんて、最高の役回りじゃない」

 うさみが掲げた両手から、手紙ごと光が吸収され、代わりにうさみが優しく暖かみを持った光を放ち始めた。
 そして、誰かがうさみを介して、優しい口調で語り始める。


『大切な貴方へ
 ミミリ、アルヒ、お元気ですか?
 身体、壊していないですか。ご飯、元気に食べていますか。楽しく過ごせていますか。

 ミミリ、幼い貴方をアルヒに託して旅に出たこと、どんな理由があろうとも、貴方にとっては許しがたいことだと思うわ。本当にごめんなさい。
 ミミリ、信じてもらえるかどうかはわからないけれど、私たちは一日たりとも貴方を想わなかった日はないわ。今、貴方はどれくらい大きくなったのかしら。好きな食べ物は何? どんな物が好きなの? 今も、うさみが一番の友達なのかしら。貴方のことを考えていると、あっという間に時間が経ってしまうのよ。

 アルヒ、ミミリを預かってくれてありがとう。私に似て、少しお転婆なところがあるかもしれないわ。でも、優しい貴方のことだから、きっと穏やかに成長を見守ってくれているのでしょうね。

 この手紙はゼラっていう男の子に託したの。ミミリと同じくらいの小さな小さな家族のために、一生懸命になれる子よ。
 この手紙を聴いているということは、私の目的は志半ばだということ。ゼラの旅立ちの日までに私がゼラの元へ再び訪れなかった場合は、代わりに手紙を届けてくれるよう頼んだから。貴方との約束を果たすために、引き続き頑張るわ。

 貴方たちのところへ一日でも早く戻れるように、全力を尽くすことを誓います。
 あと、旅の途中で見つけた本やアイテムをゼラに一緒に託します。何かの役に立てることを願って。

 最後に、ミミリ、産まれてきてくれてありがとう。微笑んでくれて、ありがとう。ママとパパを、世界一の幸せ者にしてくれてありがとう。ママもパパも、貴方の幸せを一番に願っているわ。いつの日か、貴方に会うことができたら、許してもらえるかはわからないけど、抱きしめさせてください。

 愛してるわ。ミミリ。
 身体を大事に、アルヒと仲良く過ごしてね。
 ずっとずっと、愛してるわ。』


 手紙の終わりと共に、うさみから発せられた光も収束した。

 うさみの黒いビー玉から、ポロポロと涙が零れ落ちる。

「ミミリ、大丈夫?」

 ミミリは泣きじゃくりながら、うさみを強く抱きしめた。

「うさみ、うさみー! これって、今のって、私のママからの手紙なんだよね、そうだよね⁇」
「そうね、そうみたいね。とても優しい手紙だったわね。ミミリを想う気持ちが溢れていたわ」

 ミミリが遠い昔に自ら蓋をした、両親のことを知りたいという気持ち。アルヒがいて、うさみがいて、それで充分幸せなのだから、両親のことを詮索して大好きな二人を困らせたくないと、自ら蓋をしたこの気持ち。

 いらなくて捨てられたのかもしれないと思ったりもした。望まれなかった子なのかとも。

 ……でもそうではなかった。愛されて産まれてきたんだ。
 ミミリにとっては、それだけで充分だった。

「ミミリ……。なんと申し上げたらよいのか。今まであなたの両親のことを打ち明けもせずに隠し通していたこと、心からお詫び申し上げます」

 アルヒは椅子から立ち上がり、深々と腰を折り謝罪した。ミミリはうさみを抱いたまま、アルヒにぎゅうっとしがみつく。

「謝らないで。アルヒ。何か話せない事情があるってこと、私気づいてたよ。優しいアルヒが、わけもなく内緒にしたりするはずないもん。それにね」

 ミミリはアルヒの胸の中で顔を上げて、アルヒの新緑の瞳をじっと見つめると、自分の泣き顔が映って見えた。アルヒの涙で、自分の顔が歪んで見える。

「それにね。私、アルヒもいてうさみもいるから、いつも楽しくて幸せでさみしくなんかなかったよ。アルヒは私にとってお母さんであり、お姉さんであり大事な家族なの。今まで育ててくれてありがとう! 大好きだよ! アルヒも、もちろん、うさみもね!」

 アルヒは両手でミミリの頬にそっと手を添えて、ミミリの顔を見つめた後、優しくミミリを包み込んだ。

「ミミリ……」

 そんな光景を黙って見守っていた、ゼラとポチ。目にたっぷりの涙を浮かべて。

「俺、もう耐えられない! 泣いていいよな、な? ポチィ~‼︎」

 ゼラがポチにギュウッと抱きつこうとしたが、ポチがさっと避けたため、ゼラはそのまま顔から地面へ突っ伏した。
 ポチはミミリたちの元へ行き、大きな身体でミミリたちを包み込んだ。母犬が仔犬を守るように。

「嘘だろ~。俺だけ蚊帳の外かよ」

 ミミリはゼラがなんだかかわいそうになって、アルヒの腕の中から、ちょいちょいっと手招きをする。

「ゼラくんも、こっち来て、一緒にギューする?」

 ゼラは可愛い少女からのありがたい申し出に、一瞬にして赤面した。ありがたくお受けすることも頭をよぎったが、ただならぬ気配を感じて、手をブンブンと振って急いでお断りする。

「イヤッ! 大丈夫! それはありがたすぎるお話だけど、色々ヤバイ!」

 ……そう、色々ヤバイ。

 ポチにうさみ、それにアルヒまで。
 ミミリの保護者一同の鋭い眼光が、殺気がゼラに向いている。あんな戦いを繰り広げられる猛者たちならば、ゼラを跡形もなく消すことなど容易いだろう。
 ゼラの頭の中で、アルヒの剣技『蒼電一閃(そうでんいっせん)』で散る未来が垣間見えた気がした。

 そんなことが起こっているとは露知らず。

「遠慮しないで、こっちきてギューすればいいのに。あったかいよ?」

 ミミリはダメ押しをする。
 保護者一同の殺気が、より強く濃くなる。ゼラは最早、眼圧だけで押しつぶされそうになっている。

「ダイジョウブダカラ‼︎ (頼むから察してくれ‼︎)」
「そうなの……?」

 ミミリはちょっぴり残念に思ったが、愛されて産まれてきたということを実感して胸がいっぱいなので残念な気持ちはすぐにかき消された。

 手紙を機に、ミミリは自ら蓋をしたもう一つの気持ちと向き合おうと心に決めた。そしてその気持ちに新たな思いも芽吹かせて。

 ……話してみよう、自分から。勇気を出して。

「話したいことがあります」

 口を開いたのは、アルヒだった。
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