見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

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第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ

1-9 女神様と交わした約束

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 腹ごしらえとポチの身だしなみも整え終わり、おまけにうさみのモフモフチャージも無事に終えたので、より落ち着ける場所でゆっくり話そうと、ミミリたちは家の庭で仕切り直すことにした。

 丸いテーブルを囲んで、椅子に腰掛け、ポチも近くにおすわりして話し合いに参加している。

 ポチの配慮によるものなのかは確信が持てないが、どうやら大きい体を活かしてミミリたちの日除けになってくれているようだ。

 反面、少年とうさみはポチの日傘の範囲外なのでジリジリと肌が焼かれている。
 うさみはのんびり日向ぼっこ気分で陽を浴びているようだが、少年もできればポチの日傘に入りたい派なので、チラリとポチを見てみたが、少年と目が合った瞬間に、ポチの口角が少し上がった気がした。
 少年は、コイツは間違いなく根に持つタイプだ、とポチを心の中で低評価した。


「まず、お礼が遅くなってすみません。先程は、危ないところを助けてもらってありがとうございました。俺の名前はゼラ。15歳です」

 金の短髪に端正な顔立ち。ポチと似た赤い瞳を持つ少年。両膝に握り拳を置き、丁寧に頭を下げた。

 ミミリも慌ててお礼を言う。

「私こそ、お礼が遅くなってごめんなさい。お兄さん、ピギーウルフから守ってくれようとしたでしょ? 本当にありがとう! あと、頭からお水かけちゃってごめんなさい。……身体、寒いよね?」

 すっかり忘れてた、とうさみは魔法でゼラの身体を乾かしてやる。

「……うわっ! 魔法みたいだ‼︎ ……いや、何言ってんだ俺、魔法だよな。おかげで干したての布団にくるまってるみたいにフワッと乾いちゃったよ。ありがとう、うさみさん」
 
 ゼラは瞬間的に乾いてしまった手品のような所業に驚きつつも、それでも謝意は忘れない。

「あと、ミミリちゃん、川の水のすごい力で助けてくれようとしたんだよな?ありがとう。錬金術士って機転が利くんだな」

 そしてミミリにも。ゼラは心からの感謝を伝えた。

 ミミリは、みんなに心配を掛けてしまったという点において、一連の行動を反省していたため、思いがけず褒められてたちまち顔を赤らめた。

「あのさ、話の途中なんだけど……。話の腰折っちゃうんだけどぉぉ」

 うさみは両手でわしゃわしゃと頬を掻きむしる。

「むず痒いのよぉぉ。さん、とか、ちゃん、とか何て言うの? えぇと、敬称⁉︎ そういうのやめてさ、敬称略にしない? 私はうさみ、この子はミミリ。この子はアルヒで、ワンコロはポチ! 同じ釜の飯、もとい、同じ釜の【アップルパイ】を食べた仲なんだから、もっと気軽にしない?」

「グルル……‼︎」

 ワンコロという単語がお気に召さなかったのか、ポチは唸り声にて抗議をするも、ミミリが【アップルパイ】を差し出してすかさずフォローしたので、なんとか腹の虫が治まったようだ。そしてこれでこの場の全員が、めでたく『同じ釜の【アップルパイ】を食べた仲』になった。

「私も、お兄さんのこと、ゼラくんって呼んでもいいかな。そう呼ぶと、なんだかとっても、親しくなれる気がするから」

 ミミリの申し出に、もちろん!と、満面の笑みでニカッと笑って応えたゼラを、なんだか太陽みたいな人だな、とミミリは思った。

「俺も、ミミリって呼ばせてもらうな。あと、うさみにポチな。……ただ、アルヒさんのことは気安く呼んでいいのかどうか」

 ゼラは、大きく深呼吸し、アルヒのエメラルドグリーンのイヤリングを再認識して、深々と頭を下げた。

「アルヒさん、昔、俺の家族は女神様に救われました。女神様から聞いたんです。同じイヤリングを分かち合った、女神様にとって恩人のような友人がいると。恩人の恩人は俺にとって大恩人なんです。だから、感謝しています」

 そして一間置いて、話の本題が明かされた。

「……俺は、女神様との約束を果たすためにここに来ました」

 アルヒは、ハッとして、胸元の服をギュッと掴み、同じイヤリング…と呟いた。

「アルヒのイヤリング、左耳だけだもんね。私、オシャレで片耳だけ着けてるのかなと思ってたんだけど、お友達の女神様と分けっこしてたんだね!」
「そう、なの、です……」

 アルヒは顔を陰らせて、考え事をしながらミミリの質問に答えたようだった。

「…アルヒ?」

 ミミリは、心配そうにアルヒを見つめる。

「ゼラ、アンタがアルヒを見ては女神様、って度々呟いてたから、私はてっきりアルヒの見た目が女神様みたいで美しいって思っての発言だと思ってたわ。コシヌカシのくせに、見る目あるなーなんて思ってたんだけど?」

 うさみは両手を軽く開いて、片肩をすくめた。

「っだから、コシヌカシじゃ……ま、とりあえずいいか。俺、アルヒさんがピギーウルフをドカーンと倒したとき、アルヒさんのイヤリングがキラッと光って見えてさ。昔俺の家族を救ってくれた女神様! ……と思ったんだけど、落ち着いて考えたらアルヒさんは剣士で、女神様は魔法使いだったなぁってさ」
「なるほどね、ゼラにとってその恩人は女神様のような存在ってことね」

「……あの‼︎」

 ガタン、とアルヒの椅子が後ろへ倒れた。
 ゼラの言葉に、アルヒが珍しく大声を上げて咄嗟に立ち上がり、前屈みになった拍子で。

 今にも泣きだしそうな表情で、珍しく取り乱しているアルヒに、ミミリたちは動揺して、ポチもキュウンと鳴いて、鼻頭をアルヒの頭に擦り付けた。

「……今、その女神様たちはご健在でしょうか。どこで何をしていますか。ゼラ、何でもいいのです。何か、何か知っていることを教えてください!」

「アルヒ、大丈夫?」
 ミミリは優しくアルヒの肩を触る。
 アルヒは、取り乱してしまったことを詫び、落ち着いて座り直して、緊張した面持ちでゼラの答えを待つ。

 ゼラは大きく息を吸って、アルヒの問いに申し訳なさそうに答える。

「ごめんなさい。知らないんだ、俺も。……昔、俺がもっと幼かった頃、俺の家族が病になって。薬を買うお金もなくてさ、仕方なく、……ちょっと悪いことしようと思ったんだ。そしたら、その時に村へやってきた女神様と騎士様が悪いことをしようとしてた俺を叱って、止めてくれた。そして、女神様は事情を汲んで、俺の家族の病を魔法で治してくれたんだ」
「……そうですか……。現在不明……そう、ですか……」

 アルヒは、残念そうに肩を落とした。

「優しい方たちなんだね、ね、アルヒ?」

 アルヒは、ハイ、と頷いた。

「なるほどね。ゼラもなかなかの苦労人てわけね。それで、ゼラはその女神様との約束を果たすために来たって言ってたけど?」

 ゼラは大きく頷く。

「そうなんだ。女神様は、恩人のところへ大事なモノを託してきたんだって教えてくれた。俺がもっと大きくなって村を出たいと思う日が来た時。もし、それまでに俺のところへもう一度、女神様たちが現れなかった場合は、代わりに恩人のところへ行ってほしいと頼まれたんだ。いくつかの、預かり物も受け取った」

 ゼラは黒のマントを脱いで、肩に掛けていた革の袋から木のテーブルに預かり物を並べた。


 ・【再会のチケット 普通 使用済み 使用条件あり:使用者が、目的地の座標や対象者の詳細情報を認識していない場合は到着地点に誤差がでる】
 ・【忍者村の黒マント 普通 特殊効果:モンスターや探索魔法で認識されにくくなる】
 ・『楽しい錬金術~戦闘入門編~』
 ・【生命のオーブ 神秘なる力 割れた】
 ・騎士の短剣

「アルヒ、これって……!」
「えぇ、錬成アイテムに、錬金術の本ですね。見覚えがあります。……ポチも、そうでしょう?」

 ポチは、クゥーンと鳴いて同意した。

 ゼラは、「あとさ」と言ってズボンのポケットから、小さな紙を取り出した。

 ゼラの手のひらで小さく収まるくらいの、折り畳まれた紙。ゼラが広げて見せると片手くらいの大きさになるが、何も書いていないただの紙に見える。

「これも錬金術で作ったアイテムなのかな。手紙って言ってたけど。何も書いてないから、俺にはさっぱりわからなくて」

【大切な貴方へ 一枚の便箋 使用条件:生命のオーブで活動する個体と対になって発動する。贈り主と受取主双方が魔力を込めることで手紙が綴られる】

「……手紙、お預かりします」

 アルヒはゼラから手紙を受け取る。

「ミミリ、しずく草の魔力操作は覚えていますね?」
「……うん。でも、どうして?」

 ミミリの問いに、アルヒは涙を浮かべながら答える。

「この手紙はおそらく、私と貴方へ宛てられたもの。……一緒に、読みましょう?」
「私に⁇ 女神様が⁇」

 見ず知らずの女神様がどうして私に、と思いながら、ミミリはしずく草の採集で培った魔力操作を思い浮かべる。

 両手で手紙の端を掴み、反発しないよう魔力を流すと、手紙は宙へ浮かび上がり、眩い光を放ち始めた。

 ーー女神様に綴られた手紙が、今、紐解かれてゆく。
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