見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

文字の大きさ
上 下
9 / 207
第1章 まだ見ぬ世界へ想いを馳せる君へ

1-8 記念日

しおりを挟む
 聞きたいことはたくさんあるけれど、まずは落ち着いて、諸々整えてからにしようということになり、橋を渡ってミミリたちの家がある方の川沿いへ場所を移した。

 ミミリは【マジックバッグ】から手際良く、まるで初めからピクニックをするつもりだったのかと思うようなレジャーグッズを出して少年をもてなした。

 君も一緒に休んだらどうかと誘ってみたものの、私は大丈夫と元気いっぱいに答えてくれたので、少年はミミリの好意をありがたく受け取ることにした。

 少年は【マジックバッグ】なるものを初めて見た。

 小さなバッグの許容量を明らかに超えた品々が、しかもパンやスープはアツアツのまま出てくることに驚いたが、そもそも、うさぎのぬいぐるみが喋って動いて魔法を使うくらいなのだから自分の常識で物事を考えることを放棄した。

 それに、こんなにたくさんの品々を運んでさぞ重たかったろうとも思ったが、ミミリは怪力とは程遠い容姿であるため、何かうまいことできているんだろう、そういった一切合切の辻褄を合わせるものが錬金術というものなんだろう、と変に納得できた。

 今は、【マジックバッグ】から出してもらった木の椅子に座って、美味しいパンとスープをいただいた後、清涼感のあるミンティーと共に、これまた美味しい【アップルパイ】に舌鼓を打っている。

 ……うさぎのぬいぐるみと丸いテーブルを囲んで。

 うさぎのぬいぐるみがフォークを使って【アップルパイ】を口に運んでは手品のように消えていくが、あまりに美味しそうに頬に手を当てうっとりして見えるので、ぬいぐるみも人並みに食事をしているんだろうと解釈することにした。

 ここは、今まで少年が生きてきた世界とは全く別次元の世界なのだと、そう考えることにした。


 うさみは、美味しい【アップルパイ】を堪能しながら、少し離れたところでポチの身体を洗ってやっている、ミミリとアルヒを眺めている。

「クリーンルームに走って行って何を取ってきたのかと思えば、【シャボン石鹸】とタオルだったのね。ミミリってば、準備いいんだから。

 ……それにしても。

『濡れて薄ら透けた服を肌に吸い付かせ、陽の眩しさに手をかざしながら、犬の身体を洗うために甲斐甲斐しく奉仕する美女2人。
 背景にはすがすがしいほど青い空に青々と葉をつけた木々。
 獰猛だった犬も可愛い少女と美しい少女、そして豊かな自然に囲まれて身も心も洗練されたのだろう。薄汚れた衣を脱ぎ捨て、今、まさに本来の姿を取り戻そうとしている。
 さあ! そんな今日を名付けよう。
 俗世へ還ってきたポチ記念日と‼︎』

 ンッフフフ。たまらんわぁ」

 うさみのメンタルケアは上々なようで、両手で頬杖をつきながら。ふるふると満足気にしっぽを震わせた。

 御自身の世界に浸りながら、【アップルパイ】もすすんでいるようで。

「……アノ、大丈夫デスカ」

 うさみの趣味の世界に引き気味、ではなく完全に引いた少年の問いにうさみは、

「うるっさい。コシヌカシ」

 と毒づいて一蹴し、黒いビー玉の目でキッと少年をねめつけた。

「コシヌ……⁉︎」
「あぁん⁇」

 少年は反論しようと思ったが、うさみに気圧され、何も言えなくなった。

「……カシはあまりにもひどいなと思ったんですけど……。……いえ、なんでも。スミマセン」
「よろしい」

 ……このうさぎのぬいぐるみ、めちゃくちゃコワイ。


「お~い! うさみ! 終わったよぉ~! 乾かして~!」

 ミミリはブンブンと両手を振ってうさみを呼ぶ。
 ポチはブルブルッと身体を震わせ、ポチが払った水飛沫と【シャボン石鹸】の泡をミミリとアルヒが浴びてしまい、キャッキャやめてとなかなかに楽しそうである。

「いい眺めねぇ。……清浄なる温風、ミンティーを添えて」

 うさみが【ミンティーの結晶】を一粒空へ放り投げると、結晶は一瞬にして粉砕され、粉末となって温風に乗りミミリたちを優しく包み込む。
 ミミリたちは清涼感のある温風に包まれ、あっという間にふんわりと乾いてしまった。身体も洗いあげたかのようなさっぱりとした仕上がり。

「ありがと~‼︎」

 ミミリはブンブンとうさみに手を振ったあと、フワフワの毛並みになったポチにしがみついている。

 モンスターの返り血で固まった赤黒い毛が嘘のよう。ハチミツ色のフワフワの毛並みが蘇り、陽の光が反射して毛に光の輪が見える。

 アルヒはミミリたちを見て、とても嬉しそうに微笑んでいる。

「すっげぇ……。魔法、って本当にすごいな。アルヒさんの剣技といい、ミミリちゃんは錬金術士だって言うし……。世界は広いや」
「私たちがすっっごく可愛いらしくて、おまけに有能だからって、腰抜かさないでよね、コシヌカシ! それに、こんな簡単な魔法で驚かないでよね。こんな魔法あったら便利だな~って思いつきで作っただけだし」
「創作魔法……。それって逆にすごいことなんじゃないのか?」

 少年の魔法の知識は乏しいが、少なくともうさみが使うような魔法は見たことがない。
 特にモンスター、いや、モンスター改めポチに放った攻撃魔法のようなものは。
 だからおそらく、うさみの魔法は素晴らしいのだろう、創作魔法は途方もないような偉業なのだろうと想像できた。

 そもそも、魔法を使える人間は特別な存在なのだと聞いたことがある。それこそ、大きな街で重用され重宝され、崇められることもあるほどの存在であると。

 少年の人生において、魔法を使える人間と出会ったのはうさみが二人目であった。まぁ、うさみは人ではないことはさておき。それほど魔法使いは稀有な存在であるのだ。

 ……そういえば、錬金術士と出会うのは初めてだな、とふと考えた。

 うさみは、少年の言葉にうーんと唸り、ふぅむ、と少し考え込んで口元に手をやった。

「……創作魔法、ねぇ。私が作った魔法だけじゃなくて、元々知ってた魔法もあるような気がするんだけど……、私自身よくわからないのよねぇ。なんで私が魔法が使えるのか、そもそもなんで動けるのかも。私の存在する理由が、わからないのよ」

 そう言って、うさみはピョンっと椅子から飛び降りた。

 出会い頭から、常に勝気なうさみの小さな背中が、心なしか丸まって見えて、少年は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。出会って間もない間柄だというのに、越えてはいけない一線を越えてしまったに違いない。

 懸念したとおり、うさみは俯いて、フルフルと肩を震わせている。

「あのさ、なんて言うか、その、余計なこと言っちゃったみたいで。ごめ……」

「でもよ?」

 うさみは少年の言葉を遮って、振り返ってパチリとウインクした。

「わからないことだらけでも、人生楽しまなきゃ損よねん? 人生って言うかぬいぐるみ生? ま、いっかいっか。……そんなことより、うずうずしてもう、身体の震えが止まらなーーーい! 誰も私を止められなーーーーい‼︎」 

 うさみはミミリたちに向かって両手を広げて駆け出した。

「私も混ぜて~! ポチー! モフモフさせなさーいっ‼︎」
「グルルルルルルルル!」

 ポチはとっても嫌そうだ。

 ……ていうか。

「身体が震えてたの、そうゆうこと~⁉︎」

 少年は呆気に取られるも、思わずツッコミを入れ吹き出してしまった。

 うさみはポチの意向も少年のツッコミも気にしない様子で、うきうきを止めることができずに耳もしっぽもパタつかせている。
 ミミリとアルヒは、迫り来る恐怖に嫌がるポチを宥(なだ)めるのに必死そうだ。

 うさみは、そうだ、と走りながら振り返り、手をこちらへ突きつけた。

「私たちみたいな美少女3人ついでにポチに出会えた今日はアンタにとって記念日よ! ありがたく心に刻みなさい!」

 うさみはフフンと笑ってピョンピョン元気に駆けてゆくが、迎えるポチの不機嫌が過ぎて、その対比に思わずお腹を抱えて笑ってしまった。

「……とんっでもねぇうさぎ」

 ……考え方も、生き様も。

「きーこーえーてーるーわーよー‼︎」

 遠くからうさみがこちらを睨んでいる。

 ……うさみって、やっぱりめちゃくちゃコワイ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ヴァンパイアハーフにまもられて

クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。 ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。 そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。 ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。 ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。

転生チートがマヨビームってなんなのっ?!

児童書・童話
14歳の平凡な看板娘にいきなり“世界を救え”とか無茶ブリすぎない??しかも職業が≪聖女≫で、能力が……≪マヨビーム≫?!神託を受け、連行された神殿で≪マヨビーム≫の文字を見た途端、エマは思い出した。前世の記憶を。そして同時にブチ切れた。「マヨビームでどうやって世界を救えっていうのよ?!!」これはなんだかんだでマヨビーム(マヨビームとか言いつつ、他の調味料もだせる)を大活用しつつ、“世界を救う”旅に出たエマたちの物語。3月中は毎日更新予定!

処理中です...