37 / 41
第37話 急展開 side若菜
しおりを挟む私は葵にこってこてに絞られた。
最近の子(言い方がおばさん)ってすごいのね。
まぁ、葵は同い年だけれど。
私はやっぱり、ちゃんとお付き合いしてからじゃないと、最後までは無理だなぁって昨日で実感した。でも、お酒飲んで失敗して、2人を煽ってしまったのは私だから、何も文句は言えないし、とっても反省してる。
つまりは、葵のお説教は私の耳をただ右から左に通過しただけであって、心には響いていない(失礼)。
ただ、昨日の自分の行いは、心から反省してる。
◇
「若菜、営業のほうで朝礼だって。行こ」
「進藤くんが入社したばかりだし……何かの人事異動でもあるのかなぁ?」
部屋に入ると、何やらすでに騒めいていた。
やっぱり今日の朝礼がみんな気になるんだ。
「今日はみんなに大事な発表がある。来なさい、吉野くん」
「はいっ」
ーーえ? 直樹先輩?
「ついに昇進かな」
「営業成績トップだもんな」
みんな好き勝手に騒いでるけど、私もそう思った。だって営業職でトップの売り上げ件数を誇る先輩だもの。
「残念なお知らせがある。吉野くんだが、明日をもって退職することになった」
「「「ええええええ」」」
ーーえ、退……職? しかも、明日?
「急な発表となってしまいすみません。急遽叔父の会社を継ぐこととなり、海外に行くことになりました。皆様には大変お世話になりました。もう明日しか一緒に仕事ができませんが、どうぞ仲良くしてやってください。よろしくお願いします」
ーー嘘、だよね。
昨日、何にも言ってなかったのに。
もしかして、大変な時に助けてくれた叔父さんたちに何かあったのかな。
それにしても、海外だなんて。
「以上、朝礼を終わりとする。席に戻りたまえ」
「皆さん、お時間いただいてありがとうございました」
事務職の子には泣き始める子もいた。
佐々木先輩も泣いている。知らなかったんだ。
佐々木先輩にも話す余裕ないくらい、急な出来事だったのかな……。
「若菜、知ってた?」
葵の問いに、私は首だけ振る。
知らなかった。
けれど……。
ずっと好きだった吉野先輩。私はただただ見てただけだったけど。
吉野先輩からも特に今までそんな素振りもなかったのに、こんなに急にアピールしてくるなんてどうしてなんだろうって、ずっと思ってた。
もしかしたら、少し前から叔父さんたちのどちらかが体調崩されてたのかもしれない。
「若菜、どうするの?」
「…………」
「聞いてごめん」
「大丈夫。気にしないで」
◇
その日の夜。
先輩が買ってきてくれた夕飯を食べた後、正式に話があった。もちろん私の隣には、雅貴がいる。
「若菜ちゃん、鈴木。昨日話せなくてごめん。急遽叔父さんが入院してしまって、俺も混乱してて、上手く話せなかった」
「まさか、昨日ですか? 入院の連絡あったの」
「そうなんだ。2人が寝た後にね」
「本当に急だったんですね」
「体調は前から崩していたから、ちょっと前から打診はあったんだ。だから課長にも話してあったし、事前に辞表は出していたから、会社関係は大丈夫」
先輩は、珍しく俯いてから、一口お茶を飲んだ。
「若菜ちゃん、俺は、君を愛してる。できれば、結婚前提に付き合って……ついてきてほしい。海外へ」
「えっ……。私が、ですか……」
「そう、君だ」
「あの……」
先輩は、私の話を遮るように話を続けた。
「チケットは、2枚取ってある。3日後の12時、空港のロビーで待ってる。来てくれるのなら、絶対幸せにするし、後悔させないし、苦労もさせない」
「あの……」
「ごめん、緊張していてね。返事は3日後まで、お預けにしてほしい」
「吉野先輩、俺はどっちにしろ見送りに行きますよ。若菜のことは置いておいて、俺のことをめげずに育ててくれた先輩の門出ですから」
「ありがとう、鈴木」
私は雅貴の様子が見たくて隣を見る。
俯くでもなく、喋ることもなく。
……私のことを止めることもしない。
私の決断を、尊重してくれるんだね。
「さぁ、送っていくよ。明日も仕事だからな。たった1日だったけれど、一緒に住んでくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました。あと、2人に言いたいことが……。昨日は暴走してごめんなさい……」
「はは。可愛かったし、幸せだったよ、俺は」
「俺は若菜に公の場で酒は飲ませねぇと思ったけどな」
「ぐっ…」
悔しいけど、雅貴の言うとおりだ。
お酒に呑まれたのは、私だもの。
「じゃあ、出発するから荷物を取ってきてくれるかな?」
「車にエンジンかけて待ってるから」
「はい」
◇
私は、二階へと続く階段を登りながら、雅貴に聞く。
「雅貴、何も言わないんだね。止めることも、行けっていうことも」
雅貴は、振り返らない。
「若菜の人生に関わる重要な決断だからな。(仮)の彼氏とはいえ、他人が口を出すことじゃねぇよ」
「そっか……」
◇
私たちは先輩に送ってもらって家に着いた。
最後に、先輩は一言、私に告げる。
「待ってるから。若菜ちゃん。空港で」
「……」
雅貴も隣で私を見ている。
私は、何も言えなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる