イケメン二人に溺愛されてますが選べずにいたら両方に食べられてしまいました

うさみち

文字の大きさ
上 下
36 / 41

第36話 急展開

しおりを挟む

 始業のチャイムが鳴った。
 若菜も水澤さんからしっかりこってり絞られてきたことだろう。
 まぁ、水澤さんに絞られたからって、若菜のことだから、昨日の夜以上のことを求めるのは無理そうだけど。恋愛に疎い若菜が、俺たちのために進もうとしてくれてることはわかるから。つい「絞ってやってくれ」なんて言ったけれど、本当は頑張ってくれてるな、って思ってる。

「あー、みんな前に集まってほしい」

 毎朝恒例の朝礼だ。
 営業課長の号令のもと、俺ら営業職は席を立った。

「入りたまえ」

 今日は営業職だけじゃないみたいだ。若菜たち事務職もズラズラと入ってきた。
 すっきりした顔をしている水澤さんと対照に、ずーんとした表情をしている若菜。あんなに青ざめた顔しちゃって。ごめんな、若菜。

 事務職がーーいや、若菜が部屋に入ってきたと同時に、いろめき立つ営業職のフリーども。

「チッ」

 もう朝礼は始まってるとはいえ、気づいてしまった俺は舌打ちを我慢できなかった。最小限の音に留めたつもりだけれど。
 おそらくは、若菜のパンツルックだろう。若菜は一際、注目を集めている。その気持ちもわかるけどな。……あれだけ可愛いんだから。

 ーー本当は誰にも見せたくない。ベットフレームに手錠をつけて、部屋に閉じ込めてしまいたい……。そして無抵抗な若菜を、めちゃくちゃにしたい。

 俺は気になり先輩の方を見てみるが、さすが先輩、ポーカーフェイスは崩さない。というよりかは、若菜ではなく課長を見ている。先輩を見て俺はようやく思い出す。
 そうだ、今は朝礼だったのだと。

「今日はみんなに大事な発表がある。来なさい、吉野くん」
「はいっ」

「ついに昇進かな」
「営業成績トップだもんな」

 とみんな好き勝手に騒いだが、俺もそう思った。なんせ俺も仕事のうえでは尊敬している吉野先輩が呼び出されたのだから。

「残念なお知らせがある。吉野くんだが、明日をもって退職することになった」
「「「ええええええ」」」

 部屋の中が、どよめき立つ。

「急な発表となってしまいすみません。急遽叔父の会社を継ぐこととなり、海外に行くことになりました。皆様には大変お世話になりました。もう明日しか一緒に仕事ができませんが、どうぞ仲良くしてやってください。よろしくお願いします」

 ーー嘘、だろ?
 昨日とか、何も言ってなかったじゃないか。
 昨日話してくれた、ご両親を亡くされた時に助けてくれた叔父さんが体調でも崩されたんだろうか……。

 俺は、いろいろな出来事に辻褄が合った。

 (仮)とはいえ、俺という彼氏がいる若菜に強引に迫ってきていること。そのうえ告白したこと……。急に3人で住もうとか言い出したのも。昨日だって若菜をめちゃくちゃにしようとしてたこと。

 気遣いができる先輩がたとえ若菜を愛しているからって、そこまでするのか、とも思っていたんだ。
心の片隅で……。

 もしかして、叔父さんがもともと体調を崩していて、心の準備をしておいてくれ、と言われたから若菜へのちょっと強引とも思えるアピールを始めたんじゃないか?

 そう考えれば、辻褄が合う。
 逆の立場だったら、俺でも同じことをしたかとしれない。ーーだって、一度限りの人生なんだから。

 ーー若菜、若菜は……大丈夫だろうか。

 若菜は俯いているだけで、泣いてはいなかった。
 そうだよな、若菜。
 プライベートでは泣き虫だけど、仕事とプライベートは分けられるヤツだもんな。偉いよ。

「以上、朝礼を終わりとする。先に戻りたまえ」
「皆さん、お時間いただいてありがとうございました」

 事務職の社員は、泣きながら事務室へ戻ってく人もいた。……多分、好きなんだろうな、先輩が。佐々木先輩も、泣いていた。

 ーー佐々木先輩も知らされてなかったってことか。本当に急な出来事だったんだな。


 自席に戻る過程で、俺は先輩にポン、と肩を叩かれた。

「ちょっと先外せるか?」
「もちろんです」

 ◇

 俺たちは空いている会議室に入り、鍵をかけた。

「ごめんな、鈴木」

 重たい空気の中、先に話し始めたのは先輩だった。

「仕事辞めること、話してくれなかったことですか?」
「それもそうだけど……若菜ちゃんのことだよ」
「先輩の境遇聞いて、何となく推測できちゃいました。叔父さん、もしかして少し前あたりから体調崩されてたんじゃないですか?」

 先輩は、ポケットに手を突っ込み、フーッと息を吐く。

「ご明察。さすが、鈴木だよ。ちょっと前から体調崩しててね。経営して会社の権利を俺に戻したいっていう話が浮かび上がったんだ」

 ーーやっぱりそうか、と俺は思う。
 先輩の家が、どう考えても大地主の家だったからだ。ご両親は会社経営者だったのか。しかも、海外の。

「本来は、(仮)とはいえ、彼氏のいる若菜ちゃんに迫っていい理由なんて、俺にはなかったんだ。……だけど、一度きりの人生だから、後悔したくなくてね」
「わかります。俺でもそうしたと思いますよ。だから、その話はいいんです。俺が聞きたいのは……」

 先輩は壁に背をついて俺を見る。

「若菜ちゃんをどうするのかだろ? その話の前に言いたいことがあって。実は、課長には前々から話してあってね。叔父が倒れた場合、会社を急遽やめることになるって。社会人なら言うべきだろ? 最低でも1ヶ月前には」
「そうっすよね」
「でも、その頃はまだ実感がわかなかった。あの、若かった叔父さんが? ってね。でも、本格的に通院始めたって連絡があって。それからなんだ。若菜ちゃんにアピールさせてもらい始めたのは」
「そうだったんすね」

 ーー一応、先輩の中にはあったんだな、やっぱり。俺や若菜への申し訳なさが。

「それで、いつ発つんですか」
「チケットが取れたんだ。3日後だよ」
「3日後⁉︎  叔父さん、そんなに体調悪いんですか? ……あ、すみません」
「いいんだよ。驚くのだって当然だから。何せ一番驚いているのは俺だからね」
「もしかして、取ったチケット2枚、ですか?」
「そのとおりだよ」
「それを予め、若菜ちゃんに話す前に、鈴木に話させてもらった。聞いてくれてありがとう、鈴木。
 ……やめろって、止めないんだな」

 俺は、少し間を開けて答える。

「仕方ないですよ。俺は若菜の幸せを優先したいですから。ついて行くのか行かないのかを、決めるのは本人だ」
「鈴木……ありがとう。若菜ちゃんのためにしてる鈴木の判断だっていうのは重々承知のうえだ。それでも、ありがとう」
「仕事は……どうするんすか。引き継ぎ諸々」
「俺はさ、極端な話するけど、いつ死んでもいいような仕事を徹底してるんだ。吉野が急に休んだ、死んだ、吉野がいなきゃわからないっていう仕事の仕方が嫌いでね。いついなくなったとしても、誰にでもわかるようにまとめてあるから、大きくは迷惑をかけないつもりだ。担当変えの際の顧客対応は迷惑かけるけど」
「それは誰にでもあることですから」
「まぁ、な……。それに、俺の背中を見て育ってくれた可愛い後輩が引っ張って行ってくれると思ってる。な、鈴木?」
「かいかぶりすぎっすよ」

 俺は先輩がなでなでしてくれてる手をサッと振り払った。

「若菜にはいつ言うんすか? 今日の夜、鈴木の前で。嫌だろ? 自分の知らないところで進められるの」
「そうっすね……できれば」
「それでその後、家に送っていくよ。1日だけとはいえ、一緒に住めて楽しかった」
「荷造りがありますもんね。わかりました」

「じゃあ俺、先戻ります」
「ああ。……ごめん。ありがとうな」

 俺は会議室を後にした。
 多分、今先輩は泣いているから。
 もっとずっと、ここにいたいっていう気持ちが嫌っていうほど伝わってきたから。
 苦しい気持ちは、痛いほどわかるから。
 


 それにーー俺は今、若菜がどういった決断を下すのかで頭がいっぱいだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...