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第22話 3人デート
しおりを挟むーーピンポーン。
午前6時。若菜の家のインターホンが鳴る。
俺は少し前に着いて、若菜と一緒に先輩を待っていたところだった。
ネズミの国ランドまで一緒に車に乗せてもらえるとはいえ、本当はこの可愛い若菜を先輩に見せたくない。
白のオフショルダーのトップスに、黒のフレアスカート、タフィーの仲間のうさぎのステラシーの肩掛けバッグに、ステラシーのカチューシャ、白のスニーカー。
メイクは、仕事よりもバッチリだけど、それでも濃すぎない清楚さがあり、甘く優しい香水の匂いがする。
ーー可愛すぎるだろ。
かくいう俺は、というと。
わ、笑わないでくれよ?
ネズミの国ランドの多種多様なキャラクターの顔が全面に描かれたTシャツに、ジーパン、スニーカー。
これでも一生懸命考えたんだ。
女の子だけでなく、男もネズミの国に染まってしまえばカップルっぽく見えるかなって。恥ずかしいけど、これは若菜により喜んでもらえるかどうかの頭脳戦でもある。
ーーガチャリ、と玄関が開く。
「おはよ~、若菜ちゃん、鈴木、準備はできてる? 体調は大丈夫かな?」
「おはようございますっ! 体調はバッチリです。今日はよろしくお願いします。直樹先輩」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。若菜ちゃん、とっても可愛いよ。それに鈴木も」
「私は普通ですけど、雅貴は可愛いよね」
「……ま、まじか……。アリガトウゴザイマス?」
ーーはっ、恥ずい……。
先輩は爽やかなコーディネートだった。水色のスプライトTシャツに、白の短パン、白のスニーカー。オシャレ男子がよくファッション雑誌で着ていそうな服装だ。
ーー俺は……ネズミの国に染まった俺は、しくじったかもしれない……。
いや、うじうじしてても仕方ねぇ! 腹括るか!
「俺も若菜みたいに、カチューシャ現地で買おうかなぁ」
などと言ってみる。
すると、若菜はこれでもかというほど、嬉しそうに顔を綻ばせた。
ーー若菜が喜ぶんなら喜んで染まってやる。俺は夢の国の住人だッ!
「私の、貸そうか?」
「いや、俺、現地で若菜に選んでほしい」
「うんっ、わかったぁ」
先輩はなんて思ってるんだろう。始終爽やかな先輩のクールな顔色を読むのはなかなか難しい。
「じゃあ決まったことだし、出発しようか」
◇
道中はそれはそれは盛り上がった。主に若菜がネズミの国ランドのキャラクターの魅力を話し、俺も先輩も一生懸命で可愛い若菜に釘付けだった。
時間が経つのは早いもので、あっという間に入場ゲートの前だ。
「はい、2人のチケット」
「「ありがとうございます」」
何も言わずにサラリと渡す先輩。こういうところが、同性として尊敬するんだ。
「若菜ちゃん、デートの順番なんだけど……」
「はい。私はどちらでも」
「鈴木は? 俺もどっちでもいいです」
「じゃあ俺は後攻でいいかな? 3時間ずつって決めたけど、2人で昼ごはんも食べたいだろ? だから14時頃、入場ゲート付近で集合でどうかな?」
「わかりました。でもそれじゃあ先輩の時間が短くないっすか?」
「実は……」
クール×爽やかな先輩らしくない、なぜだか恥ずかしそうな顔。珍しく、顔を真っ赤にしている。さすが先輩、身体はもじもじさせてはないけれども。
「あのさ、最初のちょこっとだけでいいんだけど、3人でデートしたくって。その……」
「どうかしましたか?」
若菜の無垢な瞳に、さっと目を逸らす吉野先輩。
顔を背けながら、ボソリと言った。
「俺にも、選んでほしいんだ。その……カチューシャを」
「もちろんですっ!」
若菜は満面の笑みになる。
ポーカーフェイスに見えて、先輩も気にしてたのか。1人だけカチューシャがないことに。
「じゃっ、行きましょうっ!」
「……キャッ!」
ショップに行こうとした若菜の、手を奪って握る俺。もちろん、手を絡めさせて。
それを見た先輩も、すかさず若菜の手を握った。
若菜を真ん中にして、左右に男2人。
周囲から見れば異様な光景だろう。
ーーでも、いいんだ。なんと思われたって。
なりふりなんか構っていられない。
これは俺と先輩の、戦いでもあるんだから。
◇
「一体何種類あるんだよ……」
「もしかして全種類あるのかなぁ。どう思う? 鈴木」
「さぁ……俺もあんまり詳しくないんで」
俺も先輩も呆然としていた。
ただ1人だけ、若菜だけはご満悦だ。
「あぁっ、どれがいいかなぁ~。でも、すっごく悩むだろうなって思ったけど、案外すぐに決まりそう」
若菜は俺にクマっぽいカチューシャを差し出した。
「雅貴はこれどーお? 雅貴ってクマっぽいから、クマのシェリーの彼氏の、タフィーだよ」
ーーおお、クマか……。
若菜にカチューシャを選んでもらったーーチョロい俺は、それだけで舞い上がる気持ちだった。ここにいるのが俺だけだったら、もしかしたら抱きしめていたかもしれない。
「よし! つけてみるか……。どう? 似合うかな?」
聞きながらも、自分で鏡を見てみる。
驚くことに意外と似合ってるかもしれない。
ただ、恥ずかしさは尋常ではない。
「先輩はこれ、どうですか? タフィーと仲良しの男の子、猫のジェラーティーで。先輩の今日の爽やかな服装によく似合うと思います」
「そ、そうかなぁ?」
先輩も言われるがままつけてみる。
めちゃくちゃ似合ってる。
ーーこの人、イケメンすぎんだろ。
ていうか、若菜のセンスがいいのか。
爽やかな先輩の格好に、柔らかい青をした猫耳がよく映えてる。先輩が1人で歩いていたら、行き交う女子に声をかけられそうな気さえする。
「わぁっ! 2人とも、とっても似合ってますよ♡ 可愛すぎます!」
「「あ、ありがとう」」
羞恥心から、若菜に目を合わせてにお礼を言えない俺たち。よく考えてみると、レジに買いに行くのも少し恥ずかしいかもしれない。
そう思っていたら、若菜が俺たちのカチューシャをすっと取り上げた。
「私、カチューシャ買ってきますね。2人への、お礼の気持ちです。受け取ってくださいね?」
若菜はトコトコとレジへ走って行った。
多分、これは若菜の配慮だ。レジに買いに行きずらい男の心境を察してのことだろう。
俺は先輩と顔を見合わす。
先輩の顔は紅潮していた。おそらく、俺も。
きっと同じこと考えている。
ーーこういう、気遣いができる若菜に惚れたんだ、って。
「お待たせしました。つけてみてください。……わぁ! 2人ともピッタリ。可愛いです」
「「そ、そうかな……」」
若菜に言われたせいか、ネズミの国ランドの効果か。似合ってるんじゃないか、という気持ちばかりか、自信までわいてくる。
このネズミの国ランドは、周りを見渡せばカップルやファミリーばっかりだ。意識してみれば、その殆どがカチューシャをつけている。みんな幸せそうに夢の国を楽しんでいる。
ーーそうだ、俺も楽しまなくちゃ。俺の今後が決まる、重要なひとときなんだから。失敗は許されない。
「じゃあ先輩、若菜と先に周ってますね」
「ああ、いってらっしゃい」
「行こう、若菜」
俺は若菜の手を引いた。
「うんっ」
自然と絡め合う指。
今までは俺から絡めていたのに、今日の若菜はいやに積極的だ。
「今日は楽しもうね、雅貴」
若菜はにこりと、甘く微笑んだ。
ーー可愛い。
「さぁ、どこから行こうか。まずは……」
俺は◯ーグル先生で予習してきたんだ。それを今生かす時!
……と思ったら、若菜は俺の手を引いて走り出した。
「ちょっ! 若菜? 走ったら危ないって」
「大丈夫っ! まずはタフィーマニアに行こうっ! タフィーの専門ショップがあるの!」
俺は思わず、ククク、と笑ってしまう。
「ん? どうしたの雅貴」
「いや、今日は若菜がエスコートしてくれるんだったな、と改めて思って」
「そうだよっ! 私に任せておいてっ」
ちょっとドヤ顔の若菜。
本当に好きなんだな、ネズミの国ランドが。
「どこへでもお供しますよ、お姫様?」
ーーどこまでも、どこにでも、ついて行くよ。
俺は元気いっぱいで天真爛漫な若菜が、この上なくーー大好きなんだ。
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