21 / 41
第21話 遅くなった、若菜の告白 side若菜
しおりを挟む「ねぇ、いい加減気になるから聞いておきたいんだけれど……若菜ちゃんが鈴木と付き合う前、好きだった男って、誰?」
「え……」
先輩に、気づかれてしまった。
どうしよう。嘘はつけないし、もう逃れられない。
でも、雅貴の前で言っていいものか……。
私はチラリと雅貴を見た。
何も言わない雅貴。
でも……雅貴と仲良しだからこそ感じる。
『言っていいよ』、『自分で言いな』って。
言ってみよう。正直に。
私はすうっと深呼吸する。
「あの……。私……直樹先輩がずっと好きでした。ずっとずっと、ずっと前から」
先輩の、複雑そうな顔。
嬉しそうな、悔しそうな、そんな顔。
……雅貴は?
やっぱり、聞きたくなかったよね。
少しだけ目線を下に落とした雅貴を見ると、胸が痛くなる。
先輩は大分間を開けてから、話を続けた。
「……そっか……。でも今は、鈴木が好きなんだよね?」
「はい。狡いけど、雅貴も好きです」
ーー雅貴も。なんて狡い言い方。どっちも好きだなんて、欲張りなこと言ってる。優柔不断は人を傷つけるってことはわかってる。でも、これは私の正直な気持ち。
「じゃあ、俺にもまだチャンスはあるってことかな?」
「……」
雅貴の前で、はい、なんてとても言えない。
「本当、佐々木の言うとおり早く告白すれば良かったよ。いい歳して緊張なんかしてないで。時間を巻き戻せるなら、巻き戻したいよ。……ふ、なんて言ってもしょうがないけどね。
でも、好きな人が営業課長とかじゃなかっただけマシかな」
先輩はパチリとウインクした。
「ふふふっ」
「あー。やめてください先輩。想像したくもないっす」
あぁ。先輩のこういうところに惹かれているの。
険悪なムードでも、一瞬のうちにみんなを笑顔に変えてしまう機転とパフォーマンス。素敵だなって、すごいなって、ずっと思ってた。
それは、今もそう思う。
雅貴もそう。本人は気づいていないけどそういうところがある。例えば仕事で失敗したとき。「それ以上気にすんな」って言ってくれる、優しさと包容力があるの。親友だった時から、雅貴のそういうところが素敵だなって思ってた。
あぁ、私、なんて浮気性なんだろう。
ここで雅貴が話題を戻した。
「3時間ずつのデートでどうですか。条件として、人目のあるところでデートすること。これは、お互い若菜に手は出さないようにって意味ですね。
俺が求めるのは、それだけです。」
「乗った」
「あの……」
「「あ! ごめん」」
私が色々と考えているうちに、どんどんと話が進んでしまった。
でもこんな提案してもらって、いいのかな。
「いいんですか? こんなに……私ばっかりいい思いして。こんなに優柔不断で、迷惑かけてるのに」
「いいんだよ。若菜ちゃん。言っとくけど、これは俺が望んでいることだ。寧ろ、付き合わせてごめん。……俺が手を出さずに2人を見守れたならよかったんだけどさ。……できなくてごめん。俺、本気なんだ」
「直樹先輩……」
会社の人にはとても言えない、私たちだけの秘密の共有。それに、2人はとっても人気だから、女性社員から恨みを買うに違いない。
本当に、私だけこんな思いをしていいのかな。
「それで若菜ちゃんは、どこに行きたい? どこでも連れてってあげるよ?」
ーーデート。……デートにふさわしい場所……。
それならーー!
「私、ネズミの国ランドに行きたいです!」
ネズミの国ランドとは、通称、夢の国。
女の子だけでない、男性にも熱狂的なファンが多いテーマパーク。私の大好きなクマのキャラクター、タフィーとその仲間たちがいるところ。
先輩はポチポチッとスマホをいじる。
「良かった。明日ちょうど空いてる。日曜日なのに珍しいな。チケット、とっちゃうね」
「あの……お金払います!」
「俺も……! いくらですか?」
先輩はクスリと笑う。
「今回のところはいいよ、後輩くんたち。俺こう見えて営業成績トップで稼いでるから。俺の、オゴリってことで。まぁ、自分から提案したことだしね。若菜ちゃんにも感謝してるし、鈴木にも。……チャンスをくれて、ありがとう」
「「ありがとうございます」」
私も雅貴も、ペコリと頭を下げる。
ーーネズミの国ランドのチケットって高いのに。……せめて、当日は私が何かお支払いしなくちゃ。
先輩はいいよって言ってくれそうだけど、なにもかもお世話になれないよ。
実は、こんなふうに先輩が雰囲気づくりをしてくれるのは、今に始まった話じゃない。
前にも、営業課の人たちが喧嘩した時、二人の肩をポン、と叩いて、
「まあまぁ、お前ら疲れてるんだよ。よしっ! 今日は飲みだ! 一緒に飲みに行こうぜ! 腹割って話そう。奢らないけどな! ははは」
って言って、飲みに出掛けて。
次の日には喧嘩した2人は和解してた。
それを、ちょうど15時のお茶汲みの時に目撃した私。……思い返せば、まだ私が新入職員だったあの頃。
なんて素敵な先輩なんだろうって、思ったなぁ。
そこからかもしれない。先輩の大人な、包容力溢れるところに惹かれていったのは。
「明日は気合い入れて行こうってことで、若菜ちゃんちに6時に迎えに来るけど平気? 俺が車出すからさ」
「ありがとうございます、大丈夫です」
「鈴木は?」
「俺も乗せてもらえるんすか?」
「ふはっ! 当たり前だろ? なんで1人だけ乗せないとかイジワルしなきゃいけないんだよ。行き帰りは3人行動な」
「お世話になります」
「どういたしまして」
ーーそうだ、明日はネズミの国ランド!
私は楽しみすぎて、体がふるふるって震えてきた。何を持って行こう。
「デートとかはおいておいて、私、明日が楽しみです! 何持って行こう……。カチューシャ持って行こうかな。あと、タフィーのぬいぐるみと……」
「いや、デートとかはおいておかないで欲しいんだけど……」
「ダメです先輩。こうなった若菜は聞く耳持ちません」
ーー何のカチューシャがいいかな。タフィー? それとも猫のジェラーティー?
パーク内に持って行くぬいぐるみはもちろんタフィーでしょ!
普段街中でぬいぐるみ持って歩いてたら変な人だけど、それが許されるのがネズミの国ランド!
可愛いもの好きな私が、童心にかえれる、夢の国。楽しみで仕方ないよ。
「あっ、私カチューシャ3個あるので、お2人もつけますか?」
「「や、いいかな……」」
「え~! 絶対可愛いのに~! はっ! こんなこと言ったら、まるで私がカチューシャつけて行ったら私可愛い! みたいな話になっちゃいますよね⁉︎ 今の、ナシで!」
「可愛いよ、若菜」 「若菜ちゃん可愛すぎるよ」
「ええっ! やめてくださいっ」
私は照れ隠しにコホンと咳払いする。
ーーいけない。これはデートの話だった。ダメよ若菜。しっかりしなさい。
「とりあえず、明日は頑張りましょうね! タフィーとその仲間たちのショーは絶対見なきゃですよっ! お2人に私が夢の国の魅力をプレゼンしますから」
「あはははっ、若菜ちゃんがエスコートしてくれるの?」
「俺、エスコートしたかったんだけど」
「ああ、そうか……そういった問題が発生するんですね」
「「あははははは」」
「ちょっとー、笑わないでくださいよッ」
ーーいつもお世話になってる分、ちゃんと初めての人でも楽しめるように、要点に絞って案内しますからね!
でも、タフィーシアターは絶対行く。これは確定! これだけは譲れないのでお願いしなきゃ。
ーーあ……。
でも、初めてとは限らないんだ。2人とも。
有名なデートスポットだもん。今までの彼女さんと、行ったことあるよね。
ちょっと、心がチクリとする。
ショックを受けていい立場じゃないくせに。
私はふと、直樹先輩を見る。
ーー私。
改めて思うけど、先輩への告白、拒絶せずに受け入れてもらえたんだなぁ。
でもね。もっと早く告白していれば付き合えてたかもしれないのに、今と変わってたかもしれないのに……なんていうふうには、思えないの。
先輩も好き。
だけど同じくらい、今は雅貴も好きだから。
こんなに狡い私だけど、2人とちゃんと向き合わなきゃいけない。
そして、自分の心とも。
どっちのほうが好きなの?
どっちと過ごしたほうが普段の自分でいられるの?
それを見極めるために、セッティングしてもらったようなデートなんだから。
夢の国は楽しみだけれど、私はもっと、しっかりしなくちゃ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる