17 / 41
第17話 ナンナノコレハ side若菜
しおりを挟む甘い甘い、夢を見た。
多分、高熱で頭がぼーっとしてたせい。
夢だからいいやって思って、あの夜から忘れられない、雅貴とのキスを、せがんでみたの。
「お願い、キスして。やめないで」
……って。
そしたら、何度も何度も求めてくれた。
雅貴を感じるたび、甘くきゅうんとした感覚が身体中を駆け巡って。
そう。
息継ぎを忘れるくらい、ギュッと雅貴にしがみついてた。
あまりに気持ちよくて、夢の中のくせに、そのまま私、眠ったみたい。
そうそう。
キスする前の夢は、面白い夢だった。
まず、目を開けたらそこに、雅貴がいたの。
なんと、おじやまで作ってきてくれて。
夢だっていうのに、とっても美味しそうな匂いがして。
ーーあぁ、夢の中でもこんなに大切にしてくれるんだなって思ったら、私のイタズラ心が顔を出してきて。
ーー思うがままに、甘えちゃった。
夢だからいいやって。
「あーん」って、ご飯たべさせてって言って、「熱いからふーふーして?」って言ったらふーふーもしてくれて。
でね。おかしいの。
雅貴ってば、恥ずかしそうに「あーんっ」って言って食べさせてくれた。それも、すごく微妙そうな顔しながら。
そしてその後、キスをしたの。
雅貴のキスは、溶けるように気持ちかった。
強く強く抱きしめてくれて、それも。何度も。
私は止められなくなって、夢中で雅貴の首にしがみついてキスしてた。
なんて夢みちゃったんだろう。
とってもとっても、いやらしい夢。
雅貴には、絶対に内緒にしなくっちゃ。
「んん~!」
私は寝たまま両手をギューっとのばす。
ーーボコッ。
「ん?」
何かにぶつかって、左手が痛い。
ベッドフレームかなぁ。
と思って横を見たら、
「ま、雅貴っ⁉︎」
ーーえっ、ちょっと待って。
なんでなんで? どうなってるの?
「ったく、痛ってぇなぁ。殴ることないだろ?」
「まさ……たか? え? なに? 夢?」
「まぁ、予想してはいたけどさ。若菜、昨日のこと覚えてないんだろ?」
ーー昨日の、こと……?
「えぇと、営業課長に呼ばれて、そのまま倒れて……たしか、直樹先輩がここまで送ってくれて……」
「直樹、先輩……?」
「うん。そう。今度からそう呼んでほしいって言われて」
「……あ、そ」
雅貴はベッドから降りた。
そしてベッドの脇に背をつけて。私には背中を向けている。
「雅貴……?」
「ゴメン。やっぱり複雑なんだわ。若菜が吉野先輩を好きだってことは。ずっと前から知ってた。でも……吉野先輩が佐々木先輩を好きだっていう勘違いから始まった関係じゃん? 俺たち」
「……うん」
「昨日、告白されたんだろ? 吉野先輩から」
「……うん」
「俺としてはさ、いつフッてくれてもいいっていう条件付きで始まった恋愛だけど、俺のことちょっとは好きでいてくれんのかなって、期待してたわけ。だから、急に直樹先輩とか聞くと……くるわ」
「ごめ……」
「謝る必要はない。元々は俺の横恋慕だからな。……けど」
けど、と言って急に雅貴は振り返った。
そして振り向きざまに、私の唇にそっと触り、私の口の中に雅貴の指を入れてくる。
「んんっ! まさ……」
「なぁ? 昨日のことちっとも覚えてないわけ?」
「あ……ん……」
雅貴の指が、私の口を弄ぶ。
「あんなにキス、しただろ? 俺たち」
「んん……?」
ーーえええええええええええ!
「あ……雅貴、ちょっと待って! あれ、夢じゃなかったの?」
「夢だと思ってんの? あんなに、せがんできたくせに」
ーーちょ、ちょ、ちょちょちょ! 待ってええ!
「私、ふーふーして食べさせてって言った?」
「言った」
「あーんしてって言った?」
「言った」
「……ギューしてキスしてって言った?」
「言った。むしろ俺がギューされた」
「ーー! き、気持ちいいからやめないでって」
「言った」
「ひやあああああああ」
私は両手で顔を隠す。
ーー恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
随分リアルな夢だなって思ったけど、夢じゃなかったなんて! ……ナンナノコレハ。
「あのさ」
雅貴は平静を崩すこともなく、優しく微笑んで頭を撫でてくれる。
「若菜が俺と吉野先輩に揺れてもいいんだ。もともと、俺は部外者だったのに、今は同じ土俵に乗れてるんだしな。……けど、俺だって嫉妬はするんだぜ? わかる、よな?」
「はい……」
そうだ。
私は狡い女。
みんなから人気者の2人の間で揺れ動いてる、優柔不断なサイテーな女……。
「ごめんなさい。急に、直樹先輩、なんて呼んで」
雅貴はフーッと息をする。
「ま、職場で急に聞く分に比べたらマシだったな。俺も心の準備したかったから。そういう意味では、感謝だよ、若菜」
「まさ……たか……」
私は急に涙が止まらなくなった。
なんでこんなに、優しいの?
私こんなに、狡い女なのに。
「あのね、自分の気持ちがわからないの」
「……うん」
「先輩のことは、ずっとずっと好きだった」
「……知ってる」
「でもね……」
「ん?」
私は雅貴の優しい瞳を見てハッキリと言う。
「狡いけど、優柔不断だけど。今は、雅貴も、同じくらい……大好き」
雅貴は、クスリと笑う。
「ーー知ってる。昨日、あんなにたくさん、キスしたもんな? 気持ちいいって。な?」
「からかわないでよぅ」
「からかってんだよ。……てか俺の、照れ隠し」
雅貴は、私のおでこにキスをする。
「好きだよ、若菜。いいんだよ、自分の気持ちに正直になって。てかさ、1週間前までは俺、圏外だったんだから、大躍進だよな」
と言って、笑ってみせる優しい雅貴。
好きって気持ちが、溢れてくる。
でも、最近まで吉野先輩が大好きだった私が、こんなに簡単に、気持ち変えていいものなの?
もしまた、やっぱり吉野先輩の方が好きってなったら、それこそ雅貴を傷つけるし、多分もう、雅貴とは親友でもいられなくなる。
だから。
優柔不断で時間かかるトロい私だけど、自分の気持ちと、後悔ないように向き合わなきゃダメだ。
どっちつかずなことをするのが一番、みんなに迷惑がかかるから。
最速で最短で、気持ちを確かめるためにも。
自分自身と向き合わなきゃ。
「なぁ、若菜?」
「え?」
「ちょっと話変えるんだけど」
「……うん」
「俺、褒めてくれてもいいんだぜ?」
「そ、そだよね! おじや、作ってくれてありがとう。介抱もしてくれてありがとう」
「……そうじゃなくて」
「え?」
雅貴はベッドに頬杖をつきながら、可愛い顔をして私を見上げてくる。爽やかなイケメンに見つめられると、いくら仲が良くたってさすがに照れる。
「俺、昨日ずーーーーーーっとお姫様の言うこと聞いてたわけ。気持ちいいからやめないで、抱きしめてーっていう、お姫様のワガママ」
ーー身体から火が吹き出しそうにあつくなる。
「い、言わないで~」
「あのさ、一般的な話な? 好きな女の子にそんなこと言われてみ? 普通、最後までイタダキマスするからな?」
「う……はい」
「でも俺は耐えたわけ」
「ううう。はい」
「褒めて? 若菜」
「どうやって?」
雅貴は急に立ち上がって、ベッドに横たわる私の上で四つん這いになる。
「ご褒美、ちょうだい? てか、嫌って言わせねぇから」
雅貴は、私の首を強く吸った。
「あ……ん!」
「今日は離さないから」
「雅貴……、それ、私へのご褒美だよ……」
「煽るなよ、これ以上。我慢できなくなる」
「だっ……て」
私たちは、甘い甘い、土曜日を過ごした。
……はずだった。
あの、インターホンが鳴るまでは。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる