上 下
11 / 11
本編

10話

しおりを挟む
「最後に、セレナの処遇だが......」

 私はごくり、と息を呑んだ。
 リディアさまに報告をした時から、エドワードさまとサディさまに罰があることは知っていた。
 だけどセレナさまにも何かあるとは聞いていなかった。

「セレナには悪いことをしてしまった。そこで、ガースン公爵家には賠償金を用意しよう。もちろん、家とセレナに送る分は別に用意する」

「......」

 婚約破棄した場合の賠償金は、よくある話だ。
 それも身分が高ければ高いほど、その金額も多くなる。

「しかしそれだけでは不十分だろう。セレナには王家直々に、代わりの婚約者を充てがう準備をしようじゃないか。もしくは——」

 王は玉座から立ち上がる。

「もしくは、まだ気が変わらぬのであれば、王妃となっては貰えないだろうか」

「えっ、それはどう言うことですの」

 セレナさまは、赤く腫れた目を擦りながら答える。
 周囲の家臣やメイドたちもザワついている。

「もちろんエドワードとの婚約はありえない。あやつは王位継承権を剥奪した。それに、それではガースン公爵家の顔に泥を塗ることになるだろう」

 ジョゼフ王は、一人の兵士へと視線を送る。
 すると先程と同じく、部屋から出て行く。

「セレナ、セレナ・ガースンよ。親として、いや王として謝罪をしよう。この度は息子が迷惑をかけてすまなかった」

 ジョゼフ王は、頭を深く下げて、エドワードさまの行いを謝罪した。
 王として、いや一個人としてもここまで真摯に謝罪を出来る人は少ないかもしれない。

 私は、ここまでの謝罪をこれまで見たことはない。
 王という器だからこそなのか、ジョゼフ王だからなのかは分からないけれど、貴族としての品格を感じさせる謝罪だった。

「王さま、頭をお上げになって下さい。確かにエドワードさまの裏切りには、悲しくなりましたが、王は頭を下げてはなりませんわ」

「そう言って貰えるだけでありがたい」

 ジョゼフ王は、下げていた頭を上げた。
 丁度、先程の兵士が戻って来た。

「クリスさまをお連れしました」

「遅れました父上。第二王子クリス・ウィザーズ、入ります」

 兵士が連れて来たのは、第二王子のクリスさまだった。
 クリスさまは、遊び歩いていたエドワードさまとは違って、兵士を率いて武装集団の鎮圧活動をしていた。
 そのため領民からの信頼も厚く、人気も高かった。

 そのクリスさまは、普段は王都にいることはないが、ここにいるということは王が呼び戻したのだろう。

「セレナさん、ですね。お会いしたことはありませんが、話ではよく聞いていました。今回は、このような場で始めて会うことになってしまったのが残念でなりません。私からも謝罪をさせて下さい」

  クリスさまも、王と同じく頭を下げる。

「クリスさま、初めまして。頭をお上げになって下さい」

 クリスさまは、眩しい笑顔を向けながら顔を上げた。

「セレナよ、目の前にいるクリスの婚約者になっては貰えないか。もちろん嫌なら断っても構わない。その場合も賠償金はしっかりと払おう」

「王さま、私は小さい頃から王妃とあれ、と育てられて来ました。今更他家に嫁ぐことや他の生き方を探すことは、考えられませんわ。この話、喜んでお受けします」

「そうか、それは良かった。だが相性問題もあるだろうから、今回で婚約という訳にはいかない。エドワードのこともあるし、クリスの人となりをしっかりと見極めてから、再度決めて欲しい」

「分かりましたわ」

 クリスさまとセレナさまは、互いに見つめあっていた。

「では、これにて処罰、処遇については終了とする」

 ジョゼフ王がそう言うと、兵士たちがサディさまとエドワードさまを抱えて何処かへ運んで行った。
 二人は抵抗することもなく、大人しく連れて行かれた。

 私たち家臣やメイドたちも、王座のある部屋から出て持ち場へと戻って行く。
 これで、今回のエドワード王子とサディさまの件は一件落着となった。

 それからは何の変哲のない日が続き、私はいつも通りメイドのして仕事をする日々が続いた続いた——。




 数年後——。
 王宮のとある一角。

 私は今、隠密活動をしていた。
 周囲にある草木に紛れるように、迷彩柄のメイド服を着て、地面に這いつくばるようにしていた。
 そこに、人の声が聞こえて来た。


 一組の男女が仲睦まじく、手を繋ぎながら歩いて来る。
 二人を追いかけるように、一生懸命後を付けて走る子供の姿もある。

 クリスさまとセレナさまに違いない。

 あの後二人は、無事に婚約をした。
 その一年後には結婚式も上げて、子供も生まれた。
 可愛らしい王子が産まれたと、王宮中の話題になった。

 三人は楽しそうに笑いながら、王宮の外庭を歩いて行く——。

「私、見ちゃいました!」

 これで王国も安泰です——。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

とまとさん
2021.01.08 とまとさん

面白い~!
第三者視点からの婚約破棄。楽しい。

ダイナイ
2021.01.08 ダイナイ

感想ありがとうございます!

まさかこの作品で、感想がもらえるとは思ってなかったので、嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。