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本編
5話
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ゴンッ、と大きな音が鳴る。
「痛っ!」
頭から、ジンジンとした痛みが伝わって来た。
その痛みから、目に涙が浮かぶ。
「頭、ぶつけちゃいましたよ......」
誰もいるわけではないけれど、自然と声が出てしまう。
それくらいの衝撃を、先程受けてしまったのだ。
まだジンジンと響いて来る痛みを我慢して、前へと進むことにした。
今いる場所は、赤子が手をつきながら歩く姿勢で、大人一人やっと通れるくらいの広さしかない。
そんな中、手と膝をうまく動かしながら、慎重に進んで行く。
何故こんなに狭いのか。
ここが、王宮にある隠し通路の一つだからだ。
天井裏にあり、一部の者しか知らない所。
そんな狭く進みづらい場所を、私は一生懸命進んでいた。
決して、仕事をサボっているわけではない。
「......」
頭に気を付けながら進んでいると、何かが聞こえて来る。
何だろうと思って、声が聞こえて来る方へと更に進む。
「遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ」
ドキッ、と心臓が高鳴る。
よいしょ、よいしょ、とやっと移動して来たばかりなのだ。
丁度、部屋の真上に来たあたりで、先程の男性の声が聞こえた。
私がここにいることがバレている......?
周囲をキョロキョロと見て、誰もいないことを確認する。
どういうことなのか確認せねば、と思い僅かに空いた穴から部屋を見下ろす。
「遅れて申し訳ありませんわ、エドワードさま」
男性とは別の女性の声を聞いて、安堵する。
どうやら、私が見つかったわけではないようです。
女性の声は聞き覚えがある。
間違いなく、この前見かけたセレナさまだろう。
エドワードさまと呼ばれた男性は、第一王子でセレナさまの婚約者だ。
部屋を確認してみると、これでもかというほど豪華な作りになっている。
メイドであれば出入りしている部屋なので、よく見ている。
真下にあるこの場所は、エドワード王子の部屋だ。
私はどうやら、エドワードさまとセレナさまが会話している所に来てしまったみたいです。
コンコン、と扉を叩くノックオンが聞こえた。
「入ってくれ」
「エドワードさま......? 確か、二人だけのはずでは......?」
「遅れましたわ、エドワードさま」
「いや、良いタイミングだ」
もう一人、部屋へと入って来た女性がいた。
その女性も、見覚えがある。
あの顔は、サディさまに間違いない。
「エドワードさま? これはどういうことですの? 二人で話しがしたいと言っていたはずでは......?」
「いや、サディも呼びつもりだったから問題はない」
セレナさまは、混乱した様子だ。
元々、二人だけのはずが、サディさまもいる状況らしい。
「セレナ、今日は君に言いたいことがあって来てもらった。君との婚約を破棄したい」
「な、何ぃぃぃいいい!?」、と口を押さえながら叫んでしまった。
私はまたしても、とんでもない場面に出くわしてしまったみたいです。
これからどうなってしまうのでしょう——。
「ん? 気のせいか」
私が叫んでしまったせいで、三人は天井を見ている。
だけど、気のせいということになり、何とか見つかることはなかった。
「ど、どういうことですのエドワードさま。婚約はお家同士のお約束で、破棄なんて、そんな......」
「もちろん、ここでの発言は正式なものではない。後で正式に発表するつもりだ」
「何故なのか聞いてもよろしいですか......?」
セレナさまは、暗い声でそう言った。
婚約者のエドワードさまに、いきなり婚約破棄を言われたのだから、それも仕方ない。
「何故、か......」
「ぐす、ぐす......」
サディさまが突然泣き始める。
「セレナ、サディに何か言うことはあるか?」
「い、いえ。サディさんはどうして泣いているのですか?」
「き、貴様っ! どの口がそれを言うかっ!」
エドワードさまは、大声をあげて激怒した。
その声のデカさに、私だけでなく、セレナさまも驚いている様子だ。
エドワードさまは普段温厚な人で、大声を出している所は見たことがない。
「セレナさんにとって私は、その程度ということでしたのね......」
「ど、どういうことですの?」
「まだ惚けるつもりかっ! セレナ、貴様がサディさんを虐めて居たことは、知っているんだぞ」
「えっ」
「普段からのいじめに加えて、この前は人気のない所でサディさんを押し飛ばしたらしいじゃないか」
「え、それは私ではありませんわ。サディさんのやったことではありませんかっ!」
「そうやってすぐに人のせいにする! 貴様の常套手段らしいな。サディさんの功績を横取りし、自身の犯した罪を他人に被せる、断じて許さん」
「そ、そんな。サ、サディさん、これはどういうことですの」
セレナさまがサディさまの方を向くと、エドワードさまの背後で笑っていた。
その顔は、エドワードさまからは見えない。
「え、エドワードさまは騙されていますわ! その人は嘘を付いています!」
「まだ言うのか貴様っ! もう出て行けっ! 顔なんか見たくもないわ」
「ど、どうしてですの」
セレナさまは泣き出してしまった。
それでもエドワードさまは、サディさまを庇うように立ち、サディさまを部屋から追い出してしまう。
「サディさん、これで大丈夫ですよ。また何かあれば、この僕に言ってくださいね」
「はい、エドワードさま」
サディさまは、エドワードさまに抱き着いた。
丁度天井裏から見えたその顔は、ほくそ笑んでいるようだった。
「これは、とんでもないものを見てしまいましたね......」
「痛っ!」
頭から、ジンジンとした痛みが伝わって来た。
その痛みから、目に涙が浮かぶ。
「頭、ぶつけちゃいましたよ......」
誰もいるわけではないけれど、自然と声が出てしまう。
それくらいの衝撃を、先程受けてしまったのだ。
まだジンジンと響いて来る痛みを我慢して、前へと進むことにした。
今いる場所は、赤子が手をつきながら歩く姿勢で、大人一人やっと通れるくらいの広さしかない。
そんな中、手と膝をうまく動かしながら、慎重に進んで行く。
何故こんなに狭いのか。
ここが、王宮にある隠し通路の一つだからだ。
天井裏にあり、一部の者しか知らない所。
そんな狭く進みづらい場所を、私は一生懸命進んでいた。
決して、仕事をサボっているわけではない。
「......」
頭に気を付けながら進んでいると、何かが聞こえて来る。
何だろうと思って、声が聞こえて来る方へと更に進む。
「遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ」
ドキッ、と心臓が高鳴る。
よいしょ、よいしょ、とやっと移動して来たばかりなのだ。
丁度、部屋の真上に来たあたりで、先程の男性の声が聞こえた。
私がここにいることがバレている......?
周囲をキョロキョロと見て、誰もいないことを確認する。
どういうことなのか確認せねば、と思い僅かに空いた穴から部屋を見下ろす。
「遅れて申し訳ありませんわ、エドワードさま」
男性とは別の女性の声を聞いて、安堵する。
どうやら、私が見つかったわけではないようです。
女性の声は聞き覚えがある。
間違いなく、この前見かけたセレナさまだろう。
エドワードさまと呼ばれた男性は、第一王子でセレナさまの婚約者だ。
部屋を確認してみると、これでもかというほど豪華な作りになっている。
メイドであれば出入りしている部屋なので、よく見ている。
真下にあるこの場所は、エドワード王子の部屋だ。
私はどうやら、エドワードさまとセレナさまが会話している所に来てしまったみたいです。
コンコン、と扉を叩くノックオンが聞こえた。
「入ってくれ」
「エドワードさま......? 確か、二人だけのはずでは......?」
「遅れましたわ、エドワードさま」
「いや、良いタイミングだ」
もう一人、部屋へと入って来た女性がいた。
その女性も、見覚えがある。
あの顔は、サディさまに間違いない。
「エドワードさま? これはどういうことですの? 二人で話しがしたいと言っていたはずでは......?」
「いや、サディも呼びつもりだったから問題はない」
セレナさまは、混乱した様子だ。
元々、二人だけのはずが、サディさまもいる状況らしい。
「セレナ、今日は君に言いたいことがあって来てもらった。君との婚約を破棄したい」
「な、何ぃぃぃいいい!?」、と口を押さえながら叫んでしまった。
私はまたしても、とんでもない場面に出くわしてしまったみたいです。
これからどうなってしまうのでしょう——。
「ん? 気のせいか」
私が叫んでしまったせいで、三人は天井を見ている。
だけど、気のせいということになり、何とか見つかることはなかった。
「ど、どういうことですのエドワードさま。婚約はお家同士のお約束で、破棄なんて、そんな......」
「もちろん、ここでの発言は正式なものではない。後で正式に発表するつもりだ」
「何故なのか聞いてもよろしいですか......?」
セレナさまは、暗い声でそう言った。
婚約者のエドワードさまに、いきなり婚約破棄を言われたのだから、それも仕方ない。
「何故、か......」
「ぐす、ぐす......」
サディさまが突然泣き始める。
「セレナ、サディに何か言うことはあるか?」
「い、いえ。サディさんはどうして泣いているのですか?」
「き、貴様っ! どの口がそれを言うかっ!」
エドワードさまは、大声をあげて激怒した。
その声のデカさに、私だけでなく、セレナさまも驚いている様子だ。
エドワードさまは普段温厚な人で、大声を出している所は見たことがない。
「セレナさんにとって私は、その程度ということでしたのね......」
「ど、どういうことですの?」
「まだ惚けるつもりかっ! セレナ、貴様がサディさんを虐めて居たことは、知っているんだぞ」
「えっ」
「普段からのいじめに加えて、この前は人気のない所でサディさんを押し飛ばしたらしいじゃないか」
「え、それは私ではありませんわ。サディさんのやったことではありませんかっ!」
「そうやってすぐに人のせいにする! 貴様の常套手段らしいな。サディさんの功績を横取りし、自身の犯した罪を他人に被せる、断じて許さん」
「そ、そんな。サ、サディさん、これはどういうことですの」
セレナさまがサディさまの方を向くと、エドワードさまの背後で笑っていた。
その顔は、エドワードさまからは見えない。
「え、エドワードさまは騙されていますわ! その人は嘘を付いています!」
「まだ言うのか貴様っ! もう出て行けっ! 顔なんか見たくもないわ」
「ど、どうしてですの」
セレナさまは泣き出してしまった。
それでもエドワードさまは、サディさまを庇うように立ち、サディさまを部屋から追い出してしまう。
「サディさん、これで大丈夫ですよ。また何かあれば、この僕に言ってくださいね」
「はい、エドワードさま」
サディさまは、エドワードさまに抱き着いた。
丁度天井裏から見えたその顔は、ほくそ笑んでいるようだった。
「これは、とんでもないものを見てしまいましたね......」
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