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エドガーのその後 責任の取り方
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クローラ公爵領にある屋敷の一室。
そこに、コートネイ男爵とクローラ公爵そして僕がいた。
部屋にはデイジーはおらず、男三人しかいなかった。
「クローラ公爵、この度の件を何と謝罪すれば良いか......うちのデイジーが、とんでもないことをしてしまい申し訳ありません」
「いや良いコートネイ男爵、謝罪の必要はない。悪いのは私の息子エドガーの方ですよ」
コートネイ男爵。
デイジーの父親とは思えないほどの良識人であり、人柄も悪くない。
周囲からの評判も良く、良き統治者として領民からも好かれているとうわさされている。
「うちのデイジーが、公爵家のエドガーさまとの婚姻などと恐れ多くて、とても出来ません。どうか、今回の件はなかったことにしていただきたい」
「いやいや、そういうわけには行きませんよ男爵。悪いのはわがクローラ公爵家です。それに、一貴族の令嬢に手を出しておいて、放っておくなど言語道断《ごんごどうだん》」
男爵と父が、先ほどからやり取りをしているが、両者互いに自分の意見を曲げようとはしていない。
「エドガーにはしっかりと責任を取らせ、デイジー令嬢との婚約は継続させるつもりです」
「いやいや、そういうわけには行きません公爵。そもそもうちのデイジーは、まともな教育をさせてはいません」
「それはどういう意味かね?」
「デイジーはもともとは、コートネイ男爵家の遠縁の親族の家に嫁がせるつもりでした。そのため教育は、その家で行わせるつもりだったのです」
なるほど。
デイジーのあの教養の無さと、マナーのなって無さの理由がようやく分かった。
貴族としての教育を受けていないのであれば、今までの言動は仕方のないものかもしれない。
「ですので、デイジーは公爵家に相応しくはありません。公爵夫人が務まるようには思えません。今回の件はどうか、なかったことにしてもらいたい」
「男爵、そこを含めてわがクローラ公爵家で責任を取りましょう。デイジー令嬢の教育は、当家でしっかりと行うので、婚約の継続をお願いしたい」
男爵と父の目からは、火花が飛び散っているようにすら見える。
そんな風に、違いの意見を一切譲らない。
「いやいや......」
「いやいやいや......」
こんなやり取りを続けて、意見は平行線をたどっている。
「コートネイ男爵、父上」
僕は、二人に声をかけた。
デイジーはこのまま何もしなければ、男爵の言う通りに、コートネイ男爵家の遠縁の親戚に嫁ぐことになるだろう。
だけど、それは彼女の幸せなのだろうか。
手放そうとした縁だが、僕とデイジーは一度は真実の愛で結ばれた関係だ。
放っておいていいはずもない。
「エドガー、お前の出る幕はない。黙って見ていなさい」
アシュトン公爵家のローラとの一件以降、父の僕へと評価はとても低いものとなった。
公爵家での僕は発言権を失い、信用もなくしていた。
だが、最近は父にしっかりと従い、行動も改めることで信用を取り戻しつつある。
今の僕の言葉なら、父にも聞いてもらえるかもしれない。
「父上、発言の許可を頂きたい」
「そこまで言うか、なら言ってみるが良い」
父の視線は、厳しいものであった。
下手なことを言えば、許さないと目で語っている。
「コートネイ男爵、デイジーとの婚約の継続をお願いしたいです。どうか、お許しをいただきたい」
えっ、と驚いた顔をしている男爵。
父上も、少し驚いた顔をしていた。
「元はと言えば、僕が招いた問題であり責任は全て僕にあります。デイジーには罪はありません。責任を取って、デイジーとの婚約を継続するつもりです」
「よく言ったぞエドガー。お前の成長を見られるとはな」
父は、僕の発言にとても喜んでいる。
僕は、男爵に頭を下げながらお願いした。
「お辞めになってくださいエドガーさま。分かりました、分かりましたから。そこまで言うのなら、うちのデイジーをお願いします」
おおっ、と父と僕は喜んだ。
「ただし、デイジーにはしっかりと教育を受けさせた後に、公爵家へと嫁がせます」
「いや男爵、教育についても僕が責任を持ちます。必ず、デイジーを人前に出しても恥ずかしくないようにしてみせます」
その後の男爵の抵抗が続きつつも、最終的には僕の意見を認めてくれた——。
こうして、デイジーはクローラ公爵家に花嫁修行として、教育とマナーを身に付けることとなった。
◇
デイジーがクローラ公爵家に来た初日のこと。
「いやですわ、エドガーさま」
「え......」
「どうして私が、勉強をしなくてはいけないのですか。そんなものは、小さい頃に嫌と言うほどしましたわ」
「デイジー、それは最低限のものに過ぎないんだ。僕も一緒に付き合うから、勉強をしようじゃないか」
「私は勉強などしたくはありませんっ! そんなことよりエドガーさま、前のようにお出かけしましょう」
デイジーは、勉強をしたくないと駄々をこね始めた。
まるで、教育を受け始める前の貴族の子供のように。
男爵に言った手前、後に引くことは出来ない。
だけど、本当に大丈夫だろうか——。
そこに、コートネイ男爵とクローラ公爵そして僕がいた。
部屋にはデイジーはおらず、男三人しかいなかった。
「クローラ公爵、この度の件を何と謝罪すれば良いか......うちのデイジーが、とんでもないことをしてしまい申し訳ありません」
「いや良いコートネイ男爵、謝罪の必要はない。悪いのは私の息子エドガーの方ですよ」
コートネイ男爵。
デイジーの父親とは思えないほどの良識人であり、人柄も悪くない。
周囲からの評判も良く、良き統治者として領民からも好かれているとうわさされている。
「うちのデイジーが、公爵家のエドガーさまとの婚姻などと恐れ多くて、とても出来ません。どうか、今回の件はなかったことにしていただきたい」
「いやいや、そういうわけには行きませんよ男爵。悪いのはわがクローラ公爵家です。それに、一貴族の令嬢に手を出しておいて、放っておくなど言語道断《ごんごどうだん》」
男爵と父が、先ほどからやり取りをしているが、両者互いに自分の意見を曲げようとはしていない。
「エドガーにはしっかりと責任を取らせ、デイジー令嬢との婚約は継続させるつもりです」
「いやいや、そういうわけには行きません公爵。そもそもうちのデイジーは、まともな教育をさせてはいません」
「それはどういう意味かね?」
「デイジーはもともとは、コートネイ男爵家の遠縁の親族の家に嫁がせるつもりでした。そのため教育は、その家で行わせるつもりだったのです」
なるほど。
デイジーのあの教養の無さと、マナーのなって無さの理由がようやく分かった。
貴族としての教育を受けていないのであれば、今までの言動は仕方のないものかもしれない。
「ですので、デイジーは公爵家に相応しくはありません。公爵夫人が務まるようには思えません。今回の件はどうか、なかったことにしてもらいたい」
「男爵、そこを含めてわがクローラ公爵家で責任を取りましょう。デイジー令嬢の教育は、当家でしっかりと行うので、婚約の継続をお願いしたい」
男爵と父の目からは、火花が飛び散っているようにすら見える。
そんな風に、違いの意見を一切譲らない。
「いやいや......」
「いやいやいや......」
こんなやり取りを続けて、意見は平行線をたどっている。
「コートネイ男爵、父上」
僕は、二人に声をかけた。
デイジーはこのまま何もしなければ、男爵の言う通りに、コートネイ男爵家の遠縁の親戚に嫁ぐことになるだろう。
だけど、それは彼女の幸せなのだろうか。
手放そうとした縁だが、僕とデイジーは一度は真実の愛で結ばれた関係だ。
放っておいていいはずもない。
「エドガー、お前の出る幕はない。黙って見ていなさい」
アシュトン公爵家のローラとの一件以降、父の僕へと評価はとても低いものとなった。
公爵家での僕は発言権を失い、信用もなくしていた。
だが、最近は父にしっかりと従い、行動も改めることで信用を取り戻しつつある。
今の僕の言葉なら、父にも聞いてもらえるかもしれない。
「父上、発言の許可を頂きたい」
「そこまで言うか、なら言ってみるが良い」
父の視線は、厳しいものであった。
下手なことを言えば、許さないと目で語っている。
「コートネイ男爵、デイジーとの婚約の継続をお願いしたいです。どうか、お許しをいただきたい」
えっ、と驚いた顔をしている男爵。
父上も、少し驚いた顔をしていた。
「元はと言えば、僕が招いた問題であり責任は全て僕にあります。デイジーには罪はありません。責任を取って、デイジーとの婚約を継続するつもりです」
「よく言ったぞエドガー。お前の成長を見られるとはな」
父は、僕の発言にとても喜んでいる。
僕は、男爵に頭を下げながらお願いした。
「お辞めになってくださいエドガーさま。分かりました、分かりましたから。そこまで言うのなら、うちのデイジーをお願いします」
おおっ、と父と僕は喜んだ。
「ただし、デイジーにはしっかりと教育を受けさせた後に、公爵家へと嫁がせます」
「いや男爵、教育についても僕が責任を持ちます。必ず、デイジーを人前に出しても恥ずかしくないようにしてみせます」
その後の男爵の抵抗が続きつつも、最終的には僕の意見を認めてくれた——。
こうして、デイジーはクローラ公爵家に花嫁修行として、教育とマナーを身に付けることとなった。
◇
デイジーがクローラ公爵家に来た初日のこと。
「いやですわ、エドガーさま」
「え......」
「どうして私が、勉強をしなくてはいけないのですか。そんなものは、小さい頃に嫌と言うほどしましたわ」
「デイジー、それは最低限のものに過ぎないんだ。僕も一緒に付き合うから、勉強をしようじゃないか」
「私は勉強などしたくはありませんっ! そんなことよりエドガーさま、前のようにお出かけしましょう」
デイジーは、勉強をしたくないと駄々をこね始めた。
まるで、教育を受け始める前の貴族の子供のように。
男爵に言った手前、後に引くことは出来ない。
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