10 / 21
9話 来訪者と悩み
しおりを挟む
アレックスに誘われて、馬に乗り二人で湖を見た翌日。
告白をされた時は、まさかと驚いてしまいましたけど、嬉しかったという気持ちもありました。
「はぁ......」
アレックスはとても優しく、博識で格好も良いです。
それに一緒にいて、何気ないことでも笑いあえて、落ち着きます。
本音だけを言うのなら、私はすぐにでも同じ気持ちだと伝えたかったです。
だけど、それは出来ませんでした。
家と家とのことでもあり、政治的な影響も考えなければなりません。
それに、王子ともなるとそう簡単な話ではありません。
「アレックスさま......私はどうしたら」
公爵家という身分だけを見るのなら、王子のアレックスに嫁ぐことは、おかしいことではありません。
身分だけを見るのなら。
私は、元々婚約者がいて、しかも婚約破棄をされた身です。
エドガーの一方的な破棄でも、周囲が何を考えているのかは分かりません。
そんな女がアレックスに近付いて、婚約者にでもなれば王子、いや王家に迷惑をかけることになってしまいます。
「もう、嫌になって来ますわ」
コンコン
「お嬢さま、失礼します」
「あら、どうしたの」
部屋の扉がノックされた。
「お嬢さまにお客さまが来ているのですが......」
「お客さま? どなたかしら」
執事は何か言い澱むような感じでした。
誰が来たのでしょうか。
もしかして、アレックスでしょうか。
「その、エドガーさまがいらっしゃっています」
「エドガー!? なんで?」
王都の屋敷に来たのは、なんとエドガーでした。
今更、何をしに来たのでしょうか。
◇
執事に案内されて、応接間へと向かいました。
「ローラ久しぶりだな」
「ええ、エドガー」
もう婚約者ではないので、敬称をつける必要はないでしょう。
エドガーと私は、公爵家同士で身分は変わりません。
エドガーは、どこかムッとした表情になりました。
「それで、屋敷には何をしに来たのですか? 何かようでもありますの?」
「ああ」
「出来れば、こういった訪問は辞めてほしいですわ。公爵家を通してもらわなければ、デイジーにも悪いです」
「ああ、デイジーはもう良いんだ」
デイジーはもう良い?
お茶会では、あんなに仲の良さを見せびらかしていたのに、どういうことでしょうか。
「それよりも君はどうなんだ」
「どうとは?」
「アレックス王子とのことだ。お茶会では、仲よさそうにしていたではないか」
エドガーに見られていることは、知っていました。
けど、わざわざ言いに来ることですか?
「婚約破棄から日もそう経っていないが、君は僕との婚約中にアレックス王子と仲良くなっていたのか?」
「そんなことはありませんっ! それを言うなら、エドガーあなたのことでしょう!」
エドガーは、めちゃくちゃなことを言って来ました。
まるで、自分のことを忘れて人が悪いかのように言って来ました。
「それに、あなたには関係のないことでしょう?」
「あぁ、だけど君は僕の婚約者だろう?」
は?
えっ?
私には、エドガーの言っていることの意味が分かりませんでした。
「元、婚約者ですわ。それにエドガーは真実の愛を見つけたのでしょう?」
「そのことか。真実の愛? そんなものは幻想だったよ」
エドガーはどこか吹っ切れたように、言ってきました。
「信じられるものは公爵家という身分と、政略結婚を目的とした君との婚約だけだ」
「婚約は破棄されましたわ、エドガーあなたによって。それに私は——」
言いかけた所で、口をふさいだ。
この先は、今言って良いことではないと思いました。
「それになんだ。アレックス王子がいる、か?」
「そんなことは言っていませんわ」
「君は本当に、アレックス王子と釣り合うとでも思っているのか。公爵家という身分こそあれど、その身は婚約破棄された令嬢に過ぎないのだぞ。それでも本当に王子との婚姻を結ぶに値するとでも?」
「な、先程から何を言っているのですか! 婚約破棄はあなたからしたことでしょう」
エドガーは、めちゃくちゃなことを言って来ます。
だけど、それはどこか私に突き刺さる言葉でもありました。
「それで、僕が来た要件だったな。僕は君との婚約破棄の取り消しを言いに来たんだ。だから君は僕の婚約者で、アレックス王子の婚約者ではない」
それに、と続けて言いました。
「君は本当に、アレックス王子と対等だと言えるのか? 本当に、隣に立つ資格があると言えるのか?」
「そ、それは......」
私は、エドガーの言葉に何も言い返せませんでした。
「婚約破棄取り消しについては、クローラ公爵家から正式にアシュトン公爵家に婚約破棄は誤情報であったと伝えておこう。ローラ、君は僕の婚約者なんだ。そのことを、心に刻んでおくことだね」
誤情報?
なんですか、それ。
私は言い返さずに、口をパクパクとしていた。
エドガーは好き放題に話すだけ話して、帰って行ってしまいました。
彼の言ったことは、どれもめちゃくちゃで筋が通ってはいませんでした。
直接屋敷に来ることもそうですし、婚姻関係にない男女が会うことも、良いこととは言えません。
ですが、エドガーが放った言葉は私の胸に突き刺さったのだけは事実です。
「私は、アレックスさまの隣に立つ資格はあるのでしょうか——」
告白をされた時は、まさかと驚いてしまいましたけど、嬉しかったという気持ちもありました。
「はぁ......」
アレックスはとても優しく、博識で格好も良いです。
それに一緒にいて、何気ないことでも笑いあえて、落ち着きます。
本音だけを言うのなら、私はすぐにでも同じ気持ちだと伝えたかったです。
だけど、それは出来ませんでした。
家と家とのことでもあり、政治的な影響も考えなければなりません。
それに、王子ともなるとそう簡単な話ではありません。
「アレックスさま......私はどうしたら」
公爵家という身分だけを見るのなら、王子のアレックスに嫁ぐことは、おかしいことではありません。
身分だけを見るのなら。
私は、元々婚約者がいて、しかも婚約破棄をされた身です。
エドガーの一方的な破棄でも、周囲が何を考えているのかは分かりません。
そんな女がアレックスに近付いて、婚約者にでもなれば王子、いや王家に迷惑をかけることになってしまいます。
「もう、嫌になって来ますわ」
コンコン
「お嬢さま、失礼します」
「あら、どうしたの」
部屋の扉がノックされた。
「お嬢さまにお客さまが来ているのですが......」
「お客さま? どなたかしら」
執事は何か言い澱むような感じでした。
誰が来たのでしょうか。
もしかして、アレックスでしょうか。
「その、エドガーさまがいらっしゃっています」
「エドガー!? なんで?」
王都の屋敷に来たのは、なんとエドガーでした。
今更、何をしに来たのでしょうか。
◇
執事に案内されて、応接間へと向かいました。
「ローラ久しぶりだな」
「ええ、エドガー」
もう婚約者ではないので、敬称をつける必要はないでしょう。
エドガーと私は、公爵家同士で身分は変わりません。
エドガーは、どこかムッとした表情になりました。
「それで、屋敷には何をしに来たのですか? 何かようでもありますの?」
「ああ」
「出来れば、こういった訪問は辞めてほしいですわ。公爵家を通してもらわなければ、デイジーにも悪いです」
「ああ、デイジーはもう良いんだ」
デイジーはもう良い?
お茶会では、あんなに仲の良さを見せびらかしていたのに、どういうことでしょうか。
「それよりも君はどうなんだ」
「どうとは?」
「アレックス王子とのことだ。お茶会では、仲よさそうにしていたではないか」
エドガーに見られていることは、知っていました。
けど、わざわざ言いに来ることですか?
「婚約破棄から日もそう経っていないが、君は僕との婚約中にアレックス王子と仲良くなっていたのか?」
「そんなことはありませんっ! それを言うなら、エドガーあなたのことでしょう!」
エドガーは、めちゃくちゃなことを言って来ました。
まるで、自分のことを忘れて人が悪いかのように言って来ました。
「それに、あなたには関係のないことでしょう?」
「あぁ、だけど君は僕の婚約者だろう?」
は?
えっ?
私には、エドガーの言っていることの意味が分かりませんでした。
「元、婚約者ですわ。それにエドガーは真実の愛を見つけたのでしょう?」
「そのことか。真実の愛? そんなものは幻想だったよ」
エドガーはどこか吹っ切れたように、言ってきました。
「信じられるものは公爵家という身分と、政略結婚を目的とした君との婚約だけだ」
「婚約は破棄されましたわ、エドガーあなたによって。それに私は——」
言いかけた所で、口をふさいだ。
この先は、今言って良いことではないと思いました。
「それになんだ。アレックス王子がいる、か?」
「そんなことは言っていませんわ」
「君は本当に、アレックス王子と釣り合うとでも思っているのか。公爵家という身分こそあれど、その身は婚約破棄された令嬢に過ぎないのだぞ。それでも本当に王子との婚姻を結ぶに値するとでも?」
「な、先程から何を言っているのですか! 婚約破棄はあなたからしたことでしょう」
エドガーは、めちゃくちゃなことを言って来ます。
だけど、それはどこか私に突き刺さる言葉でもありました。
「それで、僕が来た要件だったな。僕は君との婚約破棄の取り消しを言いに来たんだ。だから君は僕の婚約者で、アレックス王子の婚約者ではない」
それに、と続けて言いました。
「君は本当に、アレックス王子と対等だと言えるのか? 本当に、隣に立つ資格があると言えるのか?」
「そ、それは......」
私は、エドガーの言葉に何も言い返せませんでした。
「婚約破棄取り消しについては、クローラ公爵家から正式にアシュトン公爵家に婚約破棄は誤情報であったと伝えておこう。ローラ、君は僕の婚約者なんだ。そのことを、心に刻んでおくことだね」
誤情報?
なんですか、それ。
私は言い返さずに、口をパクパクとしていた。
エドガーは好き放題に話すだけ話して、帰って行ってしまいました。
彼の言ったことは、どれもめちゃくちゃで筋が通ってはいませんでした。
直接屋敷に来ることもそうですし、婚姻関係にない男女が会うことも、良いこととは言えません。
ですが、エドガーが放った言葉は私の胸に突き刺さったのだけは事実です。
「私は、アレックスさまの隣に立つ資格はあるのでしょうか——」
2
お気に入りに追加
1,165
あなたにおすすめの小説
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
【完結】どうぞお気遣いなく。婚約破棄はこちらから致しますので。婚約者の従姉妹がポンコツすぎて泣けてきます
との
恋愛
「一体何があったのかしら」
あったかって? ええ、ありましたとも。
婚約者のギルバートは従姉妹のサンドラと大の仲良し。
サンドラは乙女ゲームのヒロインとして、悪役令嬢の私にせっせと罪を着せようと日夜努力を重ねてる。
(えーっ、あれが噂の階段落ち?)
(マジか・・超期待してたのに)
想像以上のポンコツぶりに、なんだか気分が盛り下がってきそうですわ。
最後のお楽しみは、卒業パーティーの断罪&婚約破棄。
思いっきりやらせて頂きます。
ーーーーーー
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる
迷い人
恋愛
お爺様は何時も私に言っていた。
「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」
そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。
祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。
シラキス公爵家の三男カール。
外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。
シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。
そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。
でも、私に愛を語る彼は私を知らない。
でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。
だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。
なのに気が付けば、婚約を??
婚約者なのだからと屋敷に入り込み。
婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。
そして……私を脅した。
私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる