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9話 来訪者と悩み

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 アレックスに誘われて、馬に乗り二人で湖を見た翌日。
 告白をされた時は、まさかと驚いてしまいましたけど、嬉しかったという気持ちもありました。

「はぁ......」

 アレックスはとても優しく、博識で格好も良いです。
 それに一緒にいて、何気ないことでも笑いあえて、落ち着きます。
 本音だけを言うのなら、私はすぐにでも同じ気持ちだと伝えたかったです。

 だけど、それは出来ませんでした。
 家と家とのことでもあり、政治的な影響も考えなければなりません。
 それに、王子ともなるとそう簡単な話ではありません。

「アレックスさま......私はどうしたら」

 公爵家という身分だけを見るのなら、王子のアレックスに嫁ぐことは、おかしいことではありません。
 身分だけを見るのなら。

 私は、元々婚約者がいて、しかも婚約破棄をされた身です。
 エドガーの一方的な破棄でも、周囲が何を考えているのかは分かりません。

 そんな女がアレックスに近付いて、婚約者にでもなれば王子、いや王家に迷惑をかけることになってしまいます。

「もう、嫌になって来ますわ」



 コンコン


「お嬢さま、失礼します」
「あら、どうしたの」

 部屋の扉がノックされた。

「お嬢さまにお客さまが来ているのですが......」
「お客さま? どなたかしら」

 執事は何か言いよどむような感じでした。
 誰が来たのでしょうか。
 もしかして、アレックスでしょうか。

「その、エドガーさまがいらっしゃっています」
「エドガー!? なんで?」

 王都の屋敷に来たのは、なんとエドガーでした。
 今更、何をしに来たのでしょうか。



 ◇



 執事に案内されて、応接間へと向かいました。

「ローラ久しぶりだな」
「ええ、エドガー」

 もう婚約者ではないので、敬称をつける必要はないでしょう。
 エドガーと私は、公爵家同士で身分は変わりません。

 エドガーは、どこかムッとした表情になりました。

「それで、屋敷には何をしに来たのですか? 何かようでもありますの?」

「ああ」

「出来れば、こういった訪問は辞めてほしいですわ。公爵家を通してもらわなければ、デイジーにも悪いです」

「ああ、デイジーはもう良いんだ」

 デイジーはもう良い?
 お茶会では、あんなに仲の良さを見せびらかしていたのに、どういうことでしょうか。

「それよりも君はどうなんだ」

「どうとは?」

「アレックス王子とのことだ。お茶会では、仲よさそうにしていたではないか」

 エドガーに見られていることは、知っていました。
 けど、わざわざ言いに来ることですか?

「婚約破棄から日もそう経っていないが、君は僕との婚約中にアレックス王子と仲良くなっていたのか?」

「そんなことはありませんっ! それを言うなら、エドガーあなたのことでしょう!」

 エドガーは、めちゃくちゃなことを言って来ました。
 まるで、自分のことを忘れて人が悪いかのように言って来ました。

「それに、あなたには関係のないことでしょう?」

「あぁ、だけど君は僕の婚約者だろう?」

 は?
 えっ?
 私には、エドガーの言っていることの意味が分かりませんでした。

「元、婚約者ですわ。それにエドガーは真実の愛を見つけたのでしょう?」

「そのことか。真実の愛? そんなものは幻想だったよ」

 エドガーはどこか吹っ切れたように、言ってきました。

「信じられるものは公爵家という身分と、政略結婚を目的とした君との婚約だけだ」

「婚約は破棄されましたわ、エドガーあなたによって。それに私は——」

 言いかけた所で、口をふさいだ。
 この先は、今言って良いことではないと思いました。

「それになんだ。アレックス王子がいる、か?」

「そんなことは言っていませんわ」

「君は本当に、アレックス王子と釣り合うとでも思っているのか。公爵家という身分こそあれど、その身は婚約破棄された令嬢に過ぎないのだぞ。それでも本当に王子との婚姻を結ぶに値するとでも?」

「な、先程から何を言っているのですか! 婚約破棄はあなたからしたことでしょう」

 エドガーは、めちゃくちゃなことを言って来ます。
 だけど、それはどこか私に突き刺さる言葉でもありました。

「それで、僕が来た要件だったな。僕は君との婚約破棄の取り消しを言いに来たんだ。だから君は僕の婚約者で、アレックス王子の婚約者ではない」

 それに、と続けて言いました。

「君は本当に、アレックス王子と対等だと言えるのか? 本当に、隣に立つ資格があると言えるのか?」

「そ、それは......」

 私は、エドガーの言葉に何も言い返せませんでした。

「婚約破棄取り消しについては、クローラ公爵家から正式にアシュトン公爵家に婚約破棄は誤情報であったと伝えておこう。ローラ、君は僕の婚約者なんだ。そのことを、心に刻んでおくことだね」

 誤情報?
 なんですか、それ。
 私は言い返さずに、口をパクパクとしていた。

 エドガーは好き放題に話すだけ話して、帰って行ってしまいました。
 彼の言ったことは、どれもめちゃくちゃで筋が通ってはいませんでした。

 直接屋敷に来ることもそうですし、婚姻関係にない男女が会うことも、良いこととは言えません。
 ですが、エドガーが放った言葉は私の胸に突き刺さったのだけは事実です。

「私は、アレックスさまの隣に立つ資格はあるのでしょうか——」
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