真実の愛を見つけたからと婚約破棄されました。私も真実の愛を見つけたので、今更復縁を迫っても遅いです

ダイナイ

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5話 真実の愛の行方 エドガー視点

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「真実の愛を見つけたんだ、君との婚約を破棄したい」

 僕は目の前にいる婚約者、ローラ・アシュトンにそう言った。
 彼女ローラとは、家同士が勝手に決めた婚約者だった。
 いわゆる政略結婚というやつで、そこに愛は一切ない。

 ローラは驚いた顔をしているが、政略結婚をなくせて嬉しいのだろう。
 そうに決まっている。
 親たちが勝手に決めた婚約など、ローラも嬉しくはなかったに違いない。

「家はどうなりますの」

 ローラは家のことを聞いてきた。
 公爵家としての立場を気にしているのだろう。
 僕から断ったことだと伝え、ローラには非がないことを知らせる。

 ローラは嬉しかったのか、涙が出そうになっていた。
 なんとか泣かないように耐えているが、それほどこの政略結婚が嬉しかったに違いない。

 僕は見つけた真実の愛を、彼女も早く見つけてほしい——。



 ◇



「エドガーさま~」
「なんだいデイジー」
「うふふ、なんでもないですわ」

 彼女は、デイジー。
 僕が見つけた真実の愛の相手だ。

 政略結婚で無理やり結ばれたローラとは違い、心の底からデイジーのことを愛している。
 彼女も僕の立場や身分などは考えずに、愛していると言ってくれた。

 自ら見つけた真実の愛は、とても良いものだった。
 心の底から充足感に満たされた気分になり、幸せの絶頂にいるのが分かる。



 ◇



「エドガー、聞いているのか!」
「どうしたのですか父上」

 僕の目の前にいるのは、実の父であるクローラ公爵だ。
 その父はとても怒っていた。

「アシュトン公爵家の令嬢と婚約を勝手に破棄したそうじゃないか」

「ええ、僕は真実の愛を見つけたのです」

「何をわけの分からないことを言ってるのだ」

 父は、はぁ、とため息をついている。

「それだけではなく、男爵家の令嬢と仲良くしているそうじゃないか」
「デイジーです。男爵家の令嬢ではなく、彼女はデイジーです。身分は関係ありません」

「エドガー、お前はこの家の跡取りなんだぞ。しっかりとしてもらわないと困る。男爵家の娘とは縁を切るんだ」

「僕たちは真実の愛で結ばれているのです。いくら父上とはいえ、間に入ることは出来ません」

 父上は、まだ何か言っていますが、僕の耳には入って来ません。
 父上と母上は、政略結婚で結ばれたと聞いています。
 真実の愛を知らなければ、僕の気持ちを知らないのも無理はありません。

 父上、クローラ公爵家に迷惑をかけたとは感じています。
 それにアシュトン公爵家、ローラには申し訳ないとは思います。

 でもそれでも、僕はデイジーがいればそれで良いのです。



 ◇



「なんですの、けがらわしい」

 デイジーの声が聞こえたので、何事かと思って近づいた。

「どうしたんだい、デイジー」
「あ、エドガーさま! 聞いてください、この乞食こじきたちがうるさいのです」

 デイジーが乞食こじきと呼んだのは、クローラ公爵領にいる領民たちだった。
 どういうことだ?

「エドガーさま! どうか、どうかお話しを聞いてください。このままでは私たちは終わりです」

「どうしたと言うのだ」

「今年は作物が育たず、不作の年でした。米も出来ず、麦も出来ず、出来たのはごくわずかな作物のみです。このままでは、子供たちが村民たちが飢えて死んでしまいます。どうかお助けを」

 父上から今年は不作だとは知らされていた。
 だがここまでひどいとは聞いてはいなかった。

「何を言ってるのですか。米がなければパンを、麦がなければおやつを食べればいいじゃないですか。作物なんて食べなくても人は生きていけますわ」

「き、貴族さま!?」

「デ、デイジー......?」

 領民たちは青ざめている。
 僕には、デイジーの言ったことが理解出来なかった。
 目の前にいるのは、クローラ公爵領の領民たちだ。

 彼ら彼女らは、とても大切な存在で公爵家になくてはならない。
 領民がいなければ、税を取ることは出来ず、僕たち貴族が生活をすることは出来ない。

 そんなことは、貴族学の基礎中の基礎だ。
 公爵家であれば真っ先に習うことであり、他の貴族でもそれは変わらないはずた。

 彼女は、デイジーはそんなことも知らないのか——。



 ◇



 カチャカチャ

「デイジーさま、食事中に音を立てるのはマナー違反です」

「あらそうですの? それは知りませんでしたわ」

 ズズズ

 デイジーはそう言いながら、音を立てながらスープを飲んだ。

 僕たち公爵家の食事の場に、デイジーもいた。
 反対する父をなんとか説得して、花嫁修行をさせるまでに至ったのだ。
 今日はそんな花嫁修行の初日の、食事のマナーの勉強のはずだった。

 ゲッフ

「あら、失礼しました」

「げ、元気の良いことで......」
「エドガー、後で話があるから私の部屋に来なさい」

 母上と父上は、デイジーの食事姿を見て、見たこともないような表情をしていた。

 真実の愛だけあれば、それだけでいいはずだった——。



 ◇


 僕たちは、アレックス王子主催のパーティーに参加していた。

「辞めるんだデイジー、人前でそんなにくっついてはダメだ」
「いいじゃないですか、エドガーさま~」

 あれからデイジーは、マナーや貴族学について学んでいるはずだった。
 だけど、それが身についているようには思えなかった。

「あらエドガーさま、お似合いですね」

「ありがとうございますわ!」

 知り合いの貴族から声をかけられた。
 デイジーはそれを素直を受け取って喜んでいるが、そうじゃない。
 あれは、マナーを守れよという一種の警告だ。

 周囲を見れば、みんな僕たちの方を見て、こそこそと笑っているのが目に入る。
 来なければ良かったと思い始めた時、彼女が目に入った。
 彼女、ローラがこちらを見ていた——。

 元婚約者のローラは昔と変わらない姿で、いや前よりも美しく見えた。
 僕は......。



「エドガーさま~、ダンス踊りましょう~」

 ダンスの時間になり、先程よりも密着してくるデイジー。
 周囲から、嘲笑の対象となっていることには気が付いてはいないようだった。

 僕はもう耐えられない所まで来ていたけど、なんとかパーティー終了まで待った。
 パーティーが終われば、誰かに声をかけられる前にすぐに公爵領へと帰った。

 デイジーとの真実の愛があれば、それだけで良かったはずだった。
 なのに何だろう、この気持ちは。
 僕は、本当にこれで良かったのだろうか——。
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