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1話 王子さまとの出会い

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 あれからクローラ公爵家を出て、実家のあるアシュトン公爵領へと戻って来ました。
 元々、結婚前の花嫁修行を行うために、一週間だけ宿泊する予定でした。
 それがたった一日で帰ってくることになるとは。

 両親は実家に帰って来た私を見て、とても心配したように話かけて来ました。

「ローラ、どうしたんだい。一週間ほど滞在する予定じゃなかったのか」

 私の父、アシュトン公爵家当主のニック・アシュトン。

「ローラ、何かつらいことでもあったの? 大丈夫?」

 私の母、エミリー・アシュトン。
 二人は本当に心配している様子で、優しく話かけて来ました。

 私は、クローラ公爵家での出来事、エドガーから婚約破棄されたことを言いました。

「なんだと、そんなことはクローラ公爵からは何も聞いていないぞ。どういうことだ」

 私の父は、クローラ公爵と仲がとても良いです。
 その父が聞かされていないと言うことは、婚約破棄はエドガーが独断だったのかもしれません。

「今はローラが無事で帰って来てくれただけでも良いわ」
「ああ、そうだな。ローラ、私がクローラ公爵と話をしよう。ローラはゆっくりと休むが良い」

 両親に言われた通りに、実家のある公爵領で休むことにします。
 一日だけではありますが、花嫁修行に婚約破棄といろいろなことがあって、疲れてしまいました。



 ◇



 それから数日。
 私は、公爵領を一人で馬に乗って移動していました。
 気分転換になれば良いと思って、当てもなく領内を見て歩いています。

 ふと、街道の脇に流れている小川を見つけました。

「あら、懐かしいですね」

 小さい頃によく遊んでいた小川です。
 昔から何も変わってはおらず、当時の記憶が蘇って来ました。
 小さい頃は、何も考えずにただ自由に好き勝手に遊んでいられました。

「あれ、どうして」

 どうして涙があふれでてくるのでしょうか。
 小さい頃の自由を考えていると、目から大量の涙が出て来ました。

 涙が出てくると、悲しい気持ちで胸がいっぱいになります。
 エドガーに婚約破棄をされてしまった。

 確かに政略結婚ではあったけれど、本気で人を愛せそうになったばかりでした。
 誰にでも優しく、周囲から人気のあったエドガー。

 浮気癖はあったけれど、貴族であれば普通のことだと思っていました。
 公爵家ともなれば、愛人や側室は仕方ないです。
 ただ私のことを一番に考えて、最後には戻って来てくれれば、それだけで良かったのです。

 それなのに。

「どうして真実の愛なんて意味のわからないことで、婚約破棄をするのです」

 昔のことを考えている内に、エドガーのことを思い出してしまう。
 その間も涙が止まらずにあふれ出ています。




「どうして泣いているのだ」

 急に声をかけられました。
 声の方には、馬にまたがった一人の男性がいます。
 身なりからして、男性は貴族のようです。

「ど、どなたですの。ここは公爵領と知っているのですか」

 誰もいないと思って、あふれ出る涙をそのままにしていました。
 まさか人に声をかけられるとは思ってもいませんでした。

「ああ、驚かせたようですまない。通行許可は貰っていたのだが......」

 通行許可をもらっていると聞いて、驚きました。
 父からは何も聞いていませんでした。
 普段であれば、公爵領に入る貴族については教えてもらえます。

 もしかしたら、気を使っていたのかもしれません。

「それで、どうして一人で泣いていたんだ?」
「あなたには関係のないことです」

「寂しいことを言ってくれるな。僕からしたら、この国に関係のない人はいないさ」
「この国に? どういう意味ですの」

「あぁ、紹介が遅れたね。僕はアレックス、アレックス・フェルトン。この国の王子さ」
「まぁ」

 アレックス・フェルトン。
 フェルトン王国の王子さまの名前です。

「王子さまとは知らずに、申し訳ございません」
「ははは、気にしなくてもいいよ。僕は公の場に出ることは少なかったからね、知らないのも無理はない」

 王子さまと知ってからには、黙っているわけにはいきません。
 私は、一人で泣いていた理由を話しました。

「婚約破棄か、なるほどね」

 アレックスは、黙って私の話を聞いてくれました。
 話をしている途中で、思い出してしまって、また涙があふれ出て来ました。

「それはとてもつらかったね。今、この場で見たこと聞いたことは全て忘れよう。好きなだけ泣くと良い」

 私は、アレックスの胸を借りて号泣しました。
 アレックスは何も言うことはせず、ただただ黙って背中をさすってくれました。

 しばらくして、気持ちが落ち着いて涙を止まりました。
 溜まっていた何かを全て出し切り、すっきりとした気分です。

「ありがとうございます。みっともない姿を見せてしまいましたね」
「みっともないことなんかじゃないよ。今流した涙は、過去を乗り越えるために必要だったものだ」

 それに僕は何も見ていないしね、と微笑ほほみがら言いました。
 その顔は、とても美しく綺麗に見えました。

 見つめ合っていると、アレックスは照れたように言った。

「君に最悪の思い出と一緒に王都を思い出して欲しくない。今度、僕が主催するパーティーを開催するんだけど、良ければ参加しないかい?」

 私は、少し考えました。
 王都で開かれるパーティーなら、エドガーも参加するはずです。

「それは......」
「なに、すぐに答えを出す必要はない。公爵家の方に招待状を送っておくから、家に帰ってからじっくりと考えてみてくれないか」

 アレックスはそれだけ言うと、馬に乗ってどこかへ行ってしまった。
 私は、どうしたらいいのでしょうか。
 目からあふれ出ていた涙は、すでに止まっていた——。
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