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本編

39話 二人のその後

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 リスター侯爵領。
 王都からケヴィンとセレナが来てから、一月ほどが経った。
 二人は、あれからも勉強やマナーについてを学んでいた。

「リスターきょう、二人のどうですかな?」

「ケヴィンとセレナはよくやっていますよ。二人とも境遇に恵まれなかっただけで、しっかりと教育をしてあげれば、まともに育ったことでしょうね」

 リスター卿ととある貴族が会話をしていた。

「それはそれは、今後が楽しみですな」

「そうですね......」

 二人は、そんなやり取りをしながら会話を続けて行った。


 ◇


 リスター侯爵領にある屋敷。

「セレナお嬢様、お出かけですか?」

「ええ。久しぶりにケヴィン様とお出かけをすることになったのですわ」

「それは良かったですね。楽しんで来てください」

 セレナは、ケヴィンと二人で領内を出歩くことを許されていた。
 来た当初は、しっかりとした監視体制の元で自由に出歩くことさえ許されてはいなかった。

 それが、セレナのこれまでの行いによって、監視は継続はされるが出歩くことは許されていた。

 セレナは屋敷から出ると、領内にある噴水広場まで歩いて行った。
 そこで少し待っていると、一人の男性がやって来る。

「あっ、ケヴィン様っ!」

「やぁセレナ。久しぶりだな......」

 やって来たのは、セレナの婚約者であるケヴィンだった。
 以前までの豊満な体形は打って変わって、引き締まった肉体に日焼けをした好青年になっている。

 二人は、リスター侯爵領に来てからまともに会話をするのは、これが初めてだった。
 今日はセレナがお願いをして、侯爵から会うことを許可されたのだ。

「待たせて悪かったな......」

「私も先程来たばかりですわ」

 ケヴィンは、セレナ服装を見た。
 以前とは違い、装飾は最低限しか施されてはおらず、量産品のドレスを着ている。
 格好だけを見ると、王妃となるはずだった女性とはとても思えないだろう。

「セレナ、こんなことになってしまってすまなかった」

 ケヴィンは、頭を下げてあやまる。
 王太子時代の彼であれば、絶対にすることはない行為にセレナは微笑ほほえんだ。

「ケヴィン様、そんな顔をしないでください。今日は楽しみましょう」

「あ、ああ」 
 
 セレナは、ケヴィンの腕を取ると引っ張って歩き始める。


 ◇


 時間はお昼に近付いて来た。
 二人は、街中を歩き回っては会話をしながら楽しんでいた。

「セレナ、そろそろご飯にしないか?」

「いいですわね。ちょうど私もお腹がすいて来てましたの」

 セレナは、「あっ」と言う。

「でも私、街中のことは詳しくありませんわ......」

「俺に任せてくれ。美味しい焼き鳥がある屋台を知っているんだ」

 ケヴィンは、「こっちだ」と言ってセレナを案内し始める。
 屋台の前まで来ると、ふところから財布を取り出した。

「今日は俺のおごりだ!」

 と言って、財布をゴソゴソとしている。

「ん? あれ?」

 ケヴィンは、焦ったような表情になりあわあわとしている。

「どうしたのですかケヴィン様?」

「いや、その......」

 ケヴィンは、10Cしか入っていない財布を見ながらゴニョゴニョと小さく言う。
 ここの屋台の焼き鳥は、一本10Cなので今の手持ちでは二人分は購入することは出来ない。

「いや、なんでもない。おばちゃん焼き鳥を一本頼む」

「はいよ」

 屋台のおばちゃんは、焼き鳥を焼きながらチラリと見て来る。

「あれ、一本だと一人分ですわよ?」

「俺、ご飯を食べて来たのを忘れてしまってたよ」

 ケヴィンは、小さくグゥっとなるお腹を抑えながら言った。

「はいよ、焼き鳥4本だよ。熱いから気をつけな」

 屋台のおばちゃんは、やれやれと言った様子で焼き鳥を差し出す。

「え? でも焼き鳥一本だけじゃ......?」

「あたしからのおまけだよ。ケヴィンが可愛い子を連れて来たんだ、それくらいはしなくちゃね」

「お、おばちゃん!」

 ケヴィンは、目をうるうるとしながら言う。
 この屋台は、仕事帰りの行きつけの店でもあり、当然おばちゃんとは顔見知りだった。

 おばちゃんは情けないケヴィンを見て、あきれながらおまけをしてくれたのだ。
 セレナを先にベンチまで行かせて、小さな声で言った。

「後で返しに来ます」

「いいよ、あんたの安月給じゃ大変だろう。そのかわり、二人でまた食べに来な」

「分かった!」

 ケヴィンは、おばちゃんとそれだけ会話するとセレナの待つベンチへと走った。

「さぁ、食べようか」

「あ、私お茶を持って来ましたの」

 セレナは、カバンからお茶を取り出して二人分用意する。
 そしてベンチに座りながら、二人は外の様子を見ながら焼き鳥を口にした。

「おいしいですわ」

「ああ、お気に入りの味なんだ」

 ケヴィンは、涙を流した。

「俺のせいで、こんな生活をさせてしまってすまない......いつか必ず、前のように宝石を買えるようにしてみせるから」

 セレナは、そんなケヴィンを見て首を横に振る。
 そして彼の手を取りながら言う。

「いいんですわ。私、宝石なんてほしくないって気が付きましたの。ケヴィン様がとなりにいてくれる、それだけで幸せですわ」

「セレナ......」

 セレナとケヴィンは、二人で見つめ合った——。
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