婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

文字の大きさ
上 下
33 / 45
本編

29話 こんな生活も悪くない

しおりを挟む
 森にある小屋。
 その外の入り口付近に、私たちはいた。

「じゃあクライヴ、護衛は任せるぞ」

「お願いねクライヴ」

「おうよ。任せてくれレオン様にシルヴィア様」

 私とレオン王子殿下は、前回約束した山菜採集へと出かけることにしました。
 王国での動きも気になりますが、今は気にしていても出来ることはありません。

 私とレオン王子殿下だけでは、前のような森の獣が出ると危険なので、クライヴに護衛をお願いすることにしました。

「レオン様、シルヴィア様お気を付けてください。クライヴは二人のことを楽しますよ」

「今日は二人が採って来たもので、美味しいものを作りますよ! だからたくさん採って来てくださいね!」

 セバスチャンとサラは、私たちのことを見送ってくれた。


 私とレオン王子殿下とクライヴは、森へと入って行った。
 しばらく入ったところで、クライヴが言う。

「俺は、二人の邪魔にならないように、目に入らないところで護衛でもしてるぜ」

 そう言うとクライヴは、ガサゴソと茂みの中へと消えて行った。

「大丈夫、ですわよね?」

「ああ見えて、クライヴは頼りになるやつだ。俺たちが気がつかないうちに、獣はやっつけてくれるさ」

 私は、前回の記憶を思い出して手が震えた。
 レオン王子殿下は、その震える手を取って言った。


 私たちは、山菜探しを始めました。

「ところでレオン様」

「どうしたんだシルヴィア?」

 探し始める前に、一つ気になることがあったので聞いてみた。

「レオン様は、山菜に詳しいのですか?」

「え?」

「え?」

 レオン王子殿下は、何を言ってるんだとでも言いたげな顔をしている。

「レオン様こそ、私のことを誘ってくれたじゃないですか」

「俺はダメなのは......分かるだろ?シルヴィアが知っているんじゃないのか?」

 この前の毒キノコのことを思い出した。
 レオン王子殿下が山菜に詳しければ、あのミスはなかったでしょう。
 つまり、詳しくはないと言いたいのでしょうね。

「私は詳しくはありませんわ」

「え? この前は食べられる草を持ってきたじゃないか」

「あれは感ですわ!」

 私がドヤっと言い放つと、レオン王子殿下は目をまん丸にした。

「と、言うことは二人とも知らないってことか」

 私とレオン王子殿下は、互いに見つめ合った。

「どうしようか」
「どうしましょう」

 困ったので、どこかにいるであろうクライヴに助けを求めようとすると。

「俺が知ってるわけないだろ」

 どこからか、ガハハハと言う笑い声と一緒に聞こえて来た。

「困っていても仕方ない、シルヴィアの感に任せるとしよう」

「ええ、任せてください!」

 私たちは、何の知識もなく山菜探しを始めました。


 ◇


 しばらく夢中になって、山菜を集めていた。

「レオン様、それはキノコですわ!」

「そうか? 食べられそうな気がするんだが」

 そう言って手に持っているのは、どう見てもヤバそうなキノコ。
 私は、黙ってそれをはたき落とすと、レオン王子殿下はどこか悲しげな表情をしている。

 そんなやり取りを数回繰り返して、カゴいっぱいの山菜を集めた。

「これだけあればいいだろう」

「そうですわね」

 私たちは、カゴいっぱいに入った草を見ながらそう言った。

「それにしても、物音一つしませんでしたわね」

「それだけクライヴが優秀ってことだな」

 辺りは鬱蒼うっそうとした森で、いつ何が出て来てもおかしくはありません。

「さてシルヴィア、暗くなる前に帰ろうか」

「ええ!」

 こうして、私たちは小屋へと帰ることになった。

 小屋が見えるところまで来ると、茂みからクライヴが出て来た。

「ここからは先に行ってくれ。俺は血抜きしてから戻る」

 そう言うクライヴの後ろには、何やら倒した動物と見られるが複数体見えた。
 私たちは、二人で小屋へと戻ることにした。

「おかえりなさい!」
「おかえりなさいませ、おふたりとも無事で何よりでございます」

 外で仕事をしていた、セバスチャンとサラが出迎えてくれた。
 採って来た山菜をサラへと渡して、小屋へと入る。


 ◇


 森の小屋は、来たばかり頃のような何もない状態ではなくて、手作りの家具が置かれている。

「レオン様、今日はありがとうございます。とても楽しい一日でしたわ」

「シルヴィアがそう言ってくれると、俺も嬉しくなるな」

 今日の一日を思い出して、何だかいい感じの雰囲気になってくる。
 私とレオン王子殿下の距離は、少しずつ近づいて行く。

「シルヴィア......」

「レオン様......」

 私たちは、もう手が届くという距離まで近付いた。
 その時、小屋の外からドタバタと音が聞こえて来た。

「もっー! ダメですよ、クライヴさん!」

 外からは、サラの声が聞こえてくる。

「今、いい感じのところ何ですから邪魔したらダメです!」

「何言ってんだお前、レオン様にようがあるからそこどけ」

 どうやら、サラとクライヴが言い合いをしているようです。
 そして、言い争いは終わり急に静かになりました。

「シルヴィア、扉を開けてごらん」

「扉ですか?」

 私は、レオン王子殿下に言われた通りに扉へと近付いた。

「おいサラ、お前もっとそっち行け」

「クライヴさんこそ、そのでかい体どかしてくださいよ」

 小さな声で、二人が話しているのが聞こえて来る。
 私は、扉を開けた。

「何!?」

「わぁっー」

 扉を開けると、サラとクライヴが小屋の中へと倒れこむように入って来た。

「二人とも、何をしていたんですか?」

 私は、静かに笑いながら言う。

「ち、違うんですシルヴィア様。私は止めようとしたのに、クライヴさんが!」

「なっ!? サラお前、俺のせいにするつもりだな!」

 二人のわーわーと言い合いが始まる。

 そんな様子を見て、私は笑った。

「ふふふ」

「シルヴィア?」

 私が笑ったのを見て、他の皆も笑い始めました。
 逃亡先での出来事ではありますが、こんな生活も悪くないと思いました——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...