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本編
18話 シルヴィアの部屋
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シルヴィアが別邸へと移ってから数日。
屋敷内は、いつも通りの静かな日常へと戻った。
「あいつが来てから悪夢ばかり見ていたが、いなくなっても変わらないか......」
第二王子のレオンは、一人自室にいた。
レオンは、婚約者のシルヴィアが来てからと言うもの、過去の夢ばかり見るようになっていた。
それも、見たくないような悪夢ばかり。
「これも、あいつが料理なんて持って来たりするからだ」
ここ数日、シルヴィアは毎日のようにレオンに料理を届けに来ていた。
その全ては、手づくりのものだった。
レオンが何度拒絶しようと、彼女はそれを無視して持ってくるのを辞めなかった。
もうすぐ、お昼の時間になる。
レオンは、扉の方をチラリと見た。
「あぁ、そうだったな。今日からは、食堂で昼飯を食べるのだった」
シルヴィアは、別邸に移ったのだったと思い出す。
レオンは、自分で追い出したのだったなと思いながら、食堂へと歩く。
◇
食堂へとつくと、机の上には何もなかった。
「サラ、ご飯が出ていないぞ」
レオンは、サラの方を見る。
サラは、ふんっとそっぽを向きながら言った。
「レオン様なんて知りません! 私は決めたんです、ストライクしてやるって!」
「サラ、ストライクではなくてストライキですよ」
「あっ! そうでした、セバスさんありがとうございます」
サラとセバスチャンは、間抜けなやりとりをしている。
「まぁ、良い。俺が自分で用意する」
レオンは、サラやセバスチャンに何か言うことはせずに、厨房へと入って行く。
その時、厨房にあるエプロンに目が止まる。
「それは、シルヴィア様のものでございます。ここ数日、レオン様のためにと料理を作っていましたから」
「......そうか」
レオンは、短くそう言うと食堂の方へと歩いて行った。
◇
食事が終わった。
レオンが部屋に戻ろうとしていると、声がかけられる。
「レオン様、シルヴィア様の荷造りのお手伝いお願いします」
「俺がやるのか?」
「元はといえば、シルヴィア様を追い出したのはレオンです。増やした仕事は、やってもらわなければなりません」
「まぁ、仕方ない。それくらいはやってやる」
レオンは、セバスチャンに言われるがままに荷造りをすることになった。
二人は、そのままシルヴィアの部屋へと向かう。
「うんしょ、うんしょ」
部屋に着くと、サラが一人で作業をしているところだった。
「あっ、二人とも来たんですね。必要最低限のものはやっておきましたので、後はお願いしますね」
レオンは、部屋の中を見る。
「随分と寂しい部屋だな。サラ、もう片付けはしたのか?」
「いいえ? 私がしたのは、下着類だけですよ」
「何、どう言うことだ?」
レオンは、シルヴィアの部屋を見て驚いた。
シルヴィアは、アーヴァイン公爵令嬢であり国内でも有数の貴族の娘である。
それが、これだけの荷物しかないとはどう言うことなのかと驚いた。
「セバス、アーヴァイン公爵家から荷が届く予定でもあるのか?」
「いいえレオン様、そのような予定はございません」
「どういうことだ」
レオンは、もう一度部屋を見た。
そこにあるのは、家具は備え付けの机にベッドと衣装ケースのみ。
それ以外には、衣装ケースに入ったドレスや机に置かれてあるごくわずかなものしかない。
「この手鏡は」
「それは、私がシルヴィア様に貸したものですよ」
サラが言う。
「このペンは」
「それは、シルヴィア様が手紙を書きたいとおっしゃったので、私が貸した備品です」
セバスチャンが言う。
「こんなことがあるのか? 嫁入り道具はどこにある」
「シルヴィア様が持って来たのは、ここにあるものが全てでございます。他には何もありません」
レオンは、ひどくショックを受けた。
自身も良い扱いは受けては来なかったが、これほどのものではなかった。
金銭面で困ったこともなければ、最低限のものは全て与えられて来た。
だが、シルヴィアは違う。
彼女は、レオン以上にひどい仕打ちを受けていたのだと知った。
そんな時、机の下に落ちている物に気がついた。
手に取ると、アーヴァイン公爵からシルヴィアへと書かれた手紙だった。
「お前は何もするな、そこで大人しくしているだけで良い。何も期待していないし。こちらから何か希望することはない。今度は手紙も控えるように、手紙はただではないのだからな、だと?」
レオンは、手紙を読んでさらにショックを受けた。
こんなもの、実の娘に書くような内容ではない。
「あいつは、何も言われていないと笑顔で言っていたじゃないか......」
ショックと同時に、強い怒りも覚える。
どうして、平然としていられるのだと。
そんな時、セバスチャンが話しかけて来た。
「レオン様、シルヴィア様が料理をつくる理由は分かりますか?」
「そんなものは分からん」
「前に聞いたのですが。レオン様の、料理のつらい思い出を良い思い出へと変えてあげたい、とシルヴィア様はおっしゃっていました。」
レオンは、それを聞いてさらに怒る。
そして、セバスチャンに言う。
「セバス、馬車を用意してくれ」
「そう言うと思って、すでに用意を済ませております。表の入り口に馬車を停めてあります」
レオンは、それだけ聞くと返事をすることもなく、シルヴィア部屋から出て行った——。
屋敷内は、いつも通りの静かな日常へと戻った。
「あいつが来てから悪夢ばかり見ていたが、いなくなっても変わらないか......」
第二王子のレオンは、一人自室にいた。
レオンは、婚約者のシルヴィアが来てからと言うもの、過去の夢ばかり見るようになっていた。
それも、見たくないような悪夢ばかり。
「これも、あいつが料理なんて持って来たりするからだ」
ここ数日、シルヴィアは毎日のようにレオンに料理を届けに来ていた。
その全ては、手づくりのものだった。
レオンが何度拒絶しようと、彼女はそれを無視して持ってくるのを辞めなかった。
もうすぐ、お昼の時間になる。
レオンは、扉の方をチラリと見た。
「あぁ、そうだったな。今日からは、食堂で昼飯を食べるのだった」
シルヴィアは、別邸に移ったのだったと思い出す。
レオンは、自分で追い出したのだったなと思いながら、食堂へと歩く。
◇
食堂へとつくと、机の上には何もなかった。
「サラ、ご飯が出ていないぞ」
レオンは、サラの方を見る。
サラは、ふんっとそっぽを向きながら言った。
「レオン様なんて知りません! 私は決めたんです、ストライクしてやるって!」
「サラ、ストライクではなくてストライキですよ」
「あっ! そうでした、セバスさんありがとうございます」
サラとセバスチャンは、間抜けなやりとりをしている。
「まぁ、良い。俺が自分で用意する」
レオンは、サラやセバスチャンに何か言うことはせずに、厨房へと入って行く。
その時、厨房にあるエプロンに目が止まる。
「それは、シルヴィア様のものでございます。ここ数日、レオン様のためにと料理を作っていましたから」
「......そうか」
レオンは、短くそう言うと食堂の方へと歩いて行った。
◇
食事が終わった。
レオンが部屋に戻ろうとしていると、声がかけられる。
「レオン様、シルヴィア様の荷造りのお手伝いお願いします」
「俺がやるのか?」
「元はといえば、シルヴィア様を追い出したのはレオンです。増やした仕事は、やってもらわなければなりません」
「まぁ、仕方ない。それくらいはやってやる」
レオンは、セバスチャンに言われるがままに荷造りをすることになった。
二人は、そのままシルヴィアの部屋へと向かう。
「うんしょ、うんしょ」
部屋に着くと、サラが一人で作業をしているところだった。
「あっ、二人とも来たんですね。必要最低限のものはやっておきましたので、後はお願いしますね」
レオンは、部屋の中を見る。
「随分と寂しい部屋だな。サラ、もう片付けはしたのか?」
「いいえ? 私がしたのは、下着類だけですよ」
「何、どう言うことだ?」
レオンは、シルヴィアの部屋を見て驚いた。
シルヴィアは、アーヴァイン公爵令嬢であり国内でも有数の貴族の娘である。
それが、これだけの荷物しかないとはどう言うことなのかと驚いた。
「セバス、アーヴァイン公爵家から荷が届く予定でもあるのか?」
「いいえレオン様、そのような予定はございません」
「どういうことだ」
レオンは、もう一度部屋を見た。
そこにあるのは、家具は備え付けの机にベッドと衣装ケースのみ。
それ以外には、衣装ケースに入ったドレスや机に置かれてあるごくわずかなものしかない。
「この手鏡は」
「それは、私がシルヴィア様に貸したものですよ」
サラが言う。
「このペンは」
「それは、シルヴィア様が手紙を書きたいとおっしゃったので、私が貸した備品です」
セバスチャンが言う。
「こんなことがあるのか? 嫁入り道具はどこにある」
「シルヴィア様が持って来たのは、ここにあるものが全てでございます。他には何もありません」
レオンは、ひどくショックを受けた。
自身も良い扱いは受けては来なかったが、これほどのものではなかった。
金銭面で困ったこともなければ、最低限のものは全て与えられて来た。
だが、シルヴィアは違う。
彼女は、レオン以上にひどい仕打ちを受けていたのだと知った。
そんな時、机の下に落ちている物に気がついた。
手に取ると、アーヴァイン公爵からシルヴィアへと書かれた手紙だった。
「お前は何もするな、そこで大人しくしているだけで良い。何も期待していないし。こちらから何か希望することはない。今度は手紙も控えるように、手紙はただではないのだからな、だと?」
レオンは、手紙を読んでさらにショックを受けた。
こんなもの、実の娘に書くような内容ではない。
「あいつは、何も言われていないと笑顔で言っていたじゃないか......」
ショックと同時に、強い怒りも覚える。
どうして、平然としていられるのだと。
そんな時、セバスチャンが話しかけて来た。
「レオン様、シルヴィア様が料理をつくる理由は分かりますか?」
「そんなものは分からん」
「前に聞いたのですが。レオン様の、料理のつらい思い出を良い思い出へと変えてあげたい、とシルヴィア様はおっしゃっていました。」
レオンは、それを聞いてさらに怒る。
そして、セバスチャンに言う。
「セバス、馬車を用意してくれ」
「そう言うと思って、すでに用意を済ませております。表の入り口に馬車を停めてあります」
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