婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

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本編

10話 やさぐれ王子

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レオン王子殿下の屋敷に来た翌日。
私は、アーヴァイン公爵領の屋敷から持って来た、数少ない私物を広げていました。
とは言っても、持って来たのはドレスしかありません。

そのドレスを、普段使いするものとそうでないものにわけて、使わないものは仕舞います。

「うーん、これも仕舞っちゃいましょう」

お気に入りのもの以外は仕舞い、広げていたドレスを片付けました。

コンコンコン

そんなことをしていると、扉を叩く音が聞こえて来ました。

「シルヴィア様、セバスでございます」

「入っていいわよ、セバスチャン」

セバスチャンは、「失礼します」と扉を開ける。

「朝食の用意が出来ました。食事はどちらでお食べになりますか。お部屋に持って来ることも出来ますが......」

「なら部屋にお願い。今日は部屋で食べるわ」

「分かりました、シルヴィア様。すぐにお持ちします」

この屋敷の勝手もわからないので、今日は部屋に食事を持って来てもらうことにします。
セバスチャンが、部屋を出て行こうとしたところを引き止める。

「セバスチャン」

「はいシルヴィア様、どうしましたか」

「一つ、お願いがあるのだけれども——」

私は、セバスチャンにあるお願いをした。

「ええ、分かりました。それでしたら、食後に案内をしましょう」

「ならお願いね」

セバスチャンは私のお願いを聞くと、部屋から出て行きました。
私は、机の上を片付けて食事が届くのを待ちました——。






食後、私はセバスチャンの案内でとある場所に向かっていました。

「シルヴィア様、ここがレオン様のお部屋になります」

「ありがとう、セバスチャン」

そう。
私がセバスチャンにお願いしたのは、レオン王子殿下へのあいさつです。
婚約者であり、これからこの屋敷に住ませてもらうことになるのです。

屋敷の主である彼には、しっかりとあいさつをしなければなりません。

「レオン様には、シルヴィア様が来ることを話してありますので、安心したください」

私が緊張しているのを感じ取ったのか、セバスチャンが安心させようと言ってきました。
そして、部屋の扉をノックしました。

「レオン様、シルヴィア様が来ました」

「入れ」

中からレオン王子殿下の声が聞こえて来て、入ることを許してくれる。
部屋の中に入ると、椅子に座ったレオン王子殿下がいました。

「レオン様、婚約者のシルヴィア・アーヴァインです」

「そうか」

「昨日からこの屋敷に住ませてもらうことになりましたわ」

「話しは聞いている」

レオン王子殿下は、素っ気ない態度で言った。

「セバスからが用があると聞いたのだが、それだけか?」

「え、ええ......お世話になるのだからと、あいさつに来たのです」

「そうか、なら済んだのなら早く出て行け」

私は、この前会ったレオン王子殿下と、今目の前にいる人物が別人ではないかと疑いました。
ですが、目の前にいる彼は、どこからどう見ても第二王子のレオン王子殿下に間違いありません。

一体、どういうことなのでしょうか。

「あ、あのレオン様......」

「なんだ、何か他に用か?」

「これからこの屋敷に住ませてもらうのですが、何か私に出来ることはありませんか」

例え、婚約者とはいえただで泊めてもらうわけにはいきません。
前例のない婚約者の家での同棲。
せめて、私に出来ることをしようと思い、そう言いました。

「ない」

レオン王子殿下は、短くそれだけ言った。

「え?」

「ないと言っている。お前には何も求めないし、期待もしていない。だからお前も俺に構うな」

彼は、めんどくさそうな態度でそう言って、私を拒絶して来る。

「あの、レオン様? 前とはその、随分ずいぶんと様子が......」

私は、思い切って聞いてみることにしました。
目の前にいるのが、前回王都で会った人と同一人物なことを信じられなかったので、聞かずにはいられません。

「ああ、期待させたならすまない。前回は父上からの監視もいたからな」

「そ、そうですか......」

つまり、前回は猫を被っていた、ということなのでしょう。
本来の姿はこうである、と言いたげな表情をしています。
はぁ、とため息をつきながら言いました。

「安心しろ、仕事はしっかりとしてやる」

「仕事、ですか?」

「ああ、血が欲しいのだろう? アーヴァイン公爵に聞いておけ、子供は何人必要か、と」

私は、レオン王子殿下に言われたことの意味が分かると、胸が痛くなって来ました。

「もう用は済んだだろう、セバス」

「はいレオン様」

セバスチャンは、レオン王子殿下に言われると私の方を向いて言った。

「シルヴィア様、レオン様はお忙しいようです。今日のところはこれで退室しましょう」

「え、ええ......」

そしてそのまま、誘導されるがままに部屋から出た。

「シルヴィア様、申し訳ございません」

「え?」

「レオン様は悪い方ではないのです。ただ、少しだけひねくれているだけで、根は優しい方でございます」

廊下を歩いていると、セバスチャンはそう言って来た。
少し、捻くれている? あれのどこが少しなのですか。

私は、セバスチャンの言ったことの意味が分からないまま、部屋へと戻って行きました——。
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