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本編
8話 王都へ
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アーヴァイン公爵家の屋敷。
私は、自室で何をするでもなく過ごしていました。
「シルヴィアはいるか?」
「お父様? 私はいますわ」
部屋にいると、突然お父様がやって来ました。
いつもであれば、食堂以外では会うことも話すことも滅多にありません。
それがわざわざやってくるなんて、どうしたのでしょう。
私は、部屋の扉を開けてお父様と直接対面しした。
「シルヴィア、王都へ行く用意をしなさい」
「......? 王都なら先日行きましたよ? 婚約だってしましたし、何をしに行くのですか」
私は、お父様から言われたことに疑問を抱いて、質問をしました。
王都での用事なら、先日済ませているのに今更何をするというのでしょうか。
「何って、レオン王子殿下の屋敷に行くに決まっているだろう」
「......へ? 婚約に不備でも見つかったのですか?」
「そんなものはない」
「ならどうしてレオン王子殿下の屋敷に?」
お父様は、何を言ってるのでしょうか。
婚約に不備がないのに、どうして王都に行く必要があるというのですか。
「シルヴィア、お前はこのアーヴァイン公爵家を出て、レオン王子殿下の屋敷でレオン王子殿下と一緒に暮らすんだ」
「え?」
突然の発言に、私は戸惑ってしまいました。
「待って下さいお父様、婚姻前の令嬢が婚約者と同棲するなんてありえませんわ。クライトン王国の貴族マナーとしても、ありえません」
「クライトン王家、国王陛下との話しはすでに済ませてある。お前は荷物を用意して王都に行くだけで良いんだ」
またお父様は、勝手にものごとを決めて決まったようです。
レオン王子殿下の時もそう......事前に私に相談することはありません。
「この家から出るのだから、もう二度と戻って来ることはないと思え。そのつもりですぐに荷物をまとめて、馬車に乗りなさい」
「分かりましたわお父様......。ですが、その前にお母様に報告をさせて下さい」
お父様はムッとした表情になると、「分かった」とだけ短く言いました。
アーヴァイン公爵領、公爵家屋敷の近くにある丘。
屋敷とその周辺を見渡せる、周囲よりも高くなっている場所。
私は、そんな丘に来ていました。
「お母様......私です、シルヴィアです」
私は、丘に置かれて暮石に向かって話し始めました。
ここは、私のお母様が眠っている場所です。
「お母様、私はこのアーヴァイン公爵領から出なくてはいけなくなりました......」
私は、今までの出来事を全て話しました。
レオン王子殿下と婚約をしたこと、そして王都に行って生活をしなければならないこと、全てをお母様に話しました。
「お父様が決めたなら、取り消すことは出来ませんわ。もうここに来るのも難しくなってしまいますわね」
私は、独り言を話しながら涙を堪えました。
「思えば、あの日からアーヴァイン公爵家はおかしくなってしまいましたわ——」
小さいころの記憶を思い出しながら、そう語る。
過去にあったことを思い出しては、今との違いを実感します。
そんなことをしているうちに、結構な時間が経ってしまいました。
「お母様、私、そろそろ行かなくてはいけません」
最後に、涙ではなく笑顔を浮かべながら言った。
「行ってまいりますわ、お母様——」
◇
アーヴァイン公爵家の屋敷前。
そこには私と執事、そして護衛の兵士たちしかいません。
この場には、お父様もセレナもいませんでした。
「では、お願いしますわ」
私は、一人馬車へと乗り込みました。
馬車は中々進まず、どうしたのかと思っていると、執事が中に入って来ました。
「シルヴィアお嬢様......こんなことになってしまうとは申し訳ありません」
執事は、とても申し訳なさそうな顔をしている。
「お嬢様、私にはどうすることも出来ませんが、もしお嬢様がこの婚約をよしと思わないのであれば、これを......」
そう言って執事は、一枚の紙を見せて来た。
「これは?」
「王都にいる旧友の屋敷の地図でございます。レオン王子殿下のうわさは私も存じております。お嬢様が、その意思さえあればここに行って下さい」
「そこには何があるというのです?」
「この屋敷に行けば、お嬢様を他国へと流してくれる手はずを整えてくれるはずです」
執事は、しわくちゃの手を震わせながら言って来た。
こんなことが、外にいる兵士たちに聞かれたらただではすみません。
自分の身の危険さえも承知で、このことを伝えてくれたと思うと、涙が出そうになります。
このアーヴァイン公爵家には、私のことをこんなにも考えてくれている人がいるとは。
思いもしませんでした。
「ありがとう。でも大丈夫ですわ、あなたの気持ちだけでも受け取っておきます」
「で、ですが」
「いいのです、私が逃げる事は許されません。でも、あなたのその気持ちだけで救われましたわ」
「お嬢様......」
執事は、声を震わせて目を伏せながら言った。
「さぁ、早く行って。あまり長い時間待たせると、何か言われてしまうわ」
私がそう言うと、執事は礼をして馬車から出て行った。
それからすぐに馬車は、アーヴァイン公爵領から王都へと進み始める。
特にやることもないので、馬車の小さな窓から外を見ていました。
すると、領民たちが私が乗る馬車に向かって膝をついて頭を地面へとつけている。
たくさんいる領民たちの中に、見覚えのある女性が見えました。
その女性は、私が乗る馬車に気がつくと、側にいた子供の頭を地面へとつけて、自身も同じ体勢になりました。
「ああ、元気になったのですね」
私が乗る馬車は、見送る領民たちを背に王都へと進んで行く——。
私は、自室で何をするでもなく過ごしていました。
「シルヴィアはいるか?」
「お父様? 私はいますわ」
部屋にいると、突然お父様がやって来ました。
いつもであれば、食堂以外では会うことも話すことも滅多にありません。
それがわざわざやってくるなんて、どうしたのでしょう。
私は、部屋の扉を開けてお父様と直接対面しした。
「シルヴィア、王都へ行く用意をしなさい」
「......? 王都なら先日行きましたよ? 婚約だってしましたし、何をしに行くのですか」
私は、お父様から言われたことに疑問を抱いて、質問をしました。
王都での用事なら、先日済ませているのに今更何をするというのでしょうか。
「何って、レオン王子殿下の屋敷に行くに決まっているだろう」
「......へ? 婚約に不備でも見つかったのですか?」
「そんなものはない」
「ならどうしてレオン王子殿下の屋敷に?」
お父様は、何を言ってるのでしょうか。
婚約に不備がないのに、どうして王都に行く必要があるというのですか。
「シルヴィア、お前はこのアーヴァイン公爵家を出て、レオン王子殿下の屋敷でレオン王子殿下と一緒に暮らすんだ」
「え?」
突然の発言に、私は戸惑ってしまいました。
「待って下さいお父様、婚姻前の令嬢が婚約者と同棲するなんてありえませんわ。クライトン王国の貴族マナーとしても、ありえません」
「クライトン王家、国王陛下との話しはすでに済ませてある。お前は荷物を用意して王都に行くだけで良いんだ」
またお父様は、勝手にものごとを決めて決まったようです。
レオン王子殿下の時もそう......事前に私に相談することはありません。
「この家から出るのだから、もう二度と戻って来ることはないと思え。そのつもりですぐに荷物をまとめて、馬車に乗りなさい」
「分かりましたわお父様......。ですが、その前にお母様に報告をさせて下さい」
お父様はムッとした表情になると、「分かった」とだけ短く言いました。
アーヴァイン公爵領、公爵家屋敷の近くにある丘。
屋敷とその周辺を見渡せる、周囲よりも高くなっている場所。
私は、そんな丘に来ていました。
「お母様......私です、シルヴィアです」
私は、丘に置かれて暮石に向かって話し始めました。
ここは、私のお母様が眠っている場所です。
「お母様、私はこのアーヴァイン公爵領から出なくてはいけなくなりました......」
私は、今までの出来事を全て話しました。
レオン王子殿下と婚約をしたこと、そして王都に行って生活をしなければならないこと、全てをお母様に話しました。
「お父様が決めたなら、取り消すことは出来ませんわ。もうここに来るのも難しくなってしまいますわね」
私は、独り言を話しながら涙を堪えました。
「思えば、あの日からアーヴァイン公爵家はおかしくなってしまいましたわ——」
小さいころの記憶を思い出しながら、そう語る。
過去にあったことを思い出しては、今との違いを実感します。
そんなことをしているうちに、結構な時間が経ってしまいました。
「お母様、私、そろそろ行かなくてはいけません」
最後に、涙ではなく笑顔を浮かべながら言った。
「行ってまいりますわ、お母様——」
◇
アーヴァイン公爵家の屋敷前。
そこには私と執事、そして護衛の兵士たちしかいません。
この場には、お父様もセレナもいませんでした。
「では、お願いしますわ」
私は、一人馬車へと乗り込みました。
馬車は中々進まず、どうしたのかと思っていると、執事が中に入って来ました。
「シルヴィアお嬢様......こんなことになってしまうとは申し訳ありません」
執事は、とても申し訳なさそうな顔をしている。
「お嬢様、私にはどうすることも出来ませんが、もしお嬢様がこの婚約をよしと思わないのであれば、これを......」
そう言って執事は、一枚の紙を見せて来た。
「これは?」
「王都にいる旧友の屋敷の地図でございます。レオン王子殿下のうわさは私も存じております。お嬢様が、その意思さえあればここに行って下さい」
「そこには何があるというのです?」
「この屋敷に行けば、お嬢様を他国へと流してくれる手はずを整えてくれるはずです」
執事は、しわくちゃの手を震わせながら言って来た。
こんなことが、外にいる兵士たちに聞かれたらただではすみません。
自分の身の危険さえも承知で、このことを伝えてくれたと思うと、涙が出そうになります。
このアーヴァイン公爵家には、私のことをこんなにも考えてくれている人がいるとは。
思いもしませんでした。
「ありがとう。でも大丈夫ですわ、あなたの気持ちだけでも受け取っておきます」
「で、ですが」
「いいのです、私が逃げる事は許されません。でも、あなたのその気持ちだけで救われましたわ」
「お嬢様......」
執事は、声を震わせて目を伏せながら言った。
「さぁ、早く行って。あまり長い時間待たせると、何か言われてしまうわ」
私がそう言うと、執事は礼をして馬車から出て行った。
それからすぐに馬車は、アーヴァイン公爵領から王都へと進み始める。
特にやることもないので、馬車の小さな窓から外を見ていました。
すると、領民たちが私が乗る馬車に向かって膝をついて頭を地面へとつけている。
たくさんいる領民たちの中に、見覚えのある女性が見えました。
その女性は、私が乗る馬車に気がつくと、側にいた子供の頭を地面へとつけて、自身も同じ体勢になりました。
「ああ、元気になったのですね」
私が乗る馬車は、見送る領民たちを背に王都へと進んで行く——。
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