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本編
4話 呼び出し
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地下牢に入れられてから、しばらく経った頃。
「お......」
何かが聞こえて来た。
「シルヴィアお嬢様」
突然声をかけられて、ハッと意識が覚醒して体を起こした。
目の前には、執事とメイドがいます。
「寝ていませんわ、起きてますわ」
「ええ、分かっていますよ」
いつものように、ベッドで横たわっている内に寝てしまっていたみたいです。
恥ずかしさのあまり、起きていたことにしました。
執事は、微笑ましい顔をしているので私が寝ていたことには気が付いていないようです。
もし気が付いていたら、こんな表情はせずに何か言いたげな顔をしているはずです。
バレていないことに安堵して、本題を聞くことにしました。
いつもは監視だけしている執事が、声をかけて来たのですから、何か用事があるはずです。
「それで、何かようですか?」
「ええ、旦那様がお呼びです」
「お父様がっ!?」
地下牢に入ってから、お父様はたったの一度もこの場所には来ていません。
私が、やさぐれ王子と婚約破棄したいと告げてから、逃げ出さないように地下牢に入れてそれっきりでした。
ここには、毎日の食事と監視のために執事が来るだけで、他にはめったに人も来ることはありません。
そんな一切来なかったお父様が、使いを寄越したと言うことは、何かあるに違いがありません。
今更、婚約破棄をしてくれるとは思えませんし、一体どう言うつもりでしょうか。
「要件は何ですか?」
「それが、旦那様はシルヴィアお嬢様を部屋へと連れて来いと言うだけで、要件はおっしゃっていません......」
「そうですか......」
ますます、お父様がなんのために呼んだのか分かりません。
「お嬢様、お身体をきれいにするので浴室へと案内します」
「ええ、お願いしますわ」
私は、メイドの案内のままに地下牢から出て、浴室へと向かいました。
地下牢に入ってからは、自由に出ることも出来ずに、浴室にも行けませんでした。
そのため、体を拭くだけで我慢する日々を過ごしていたのです。
やっと体をきれいにすることが出来たので、お父様の部屋へと向かいました。
ここまでも逃げられないように、執事やメイドが監視しています。
◇
コンコンコン
お父様の部屋の扉をノックする。
「誰だ」
「お父様、シルヴィアです」
「そうか、入れ」
お父様から許可をもらえたので、扉を開けて室内へと入りました。
公務をするための机と椅子、たくさんの書籍も置かれています。
それに、壁にはお母様が描かれた肖像画があります。
こうして見ると、セレナに瓜二つで、妹だと言われても間違えそうなくらい似ています。
妹がもう少し歳をとれば、見分けるのは難しいです。
「ごほん」
私が、お母様の肖像画に気を取られているとお父様が咳をしました。
そうでした。呼ばれてここに来ていたのですね。
「お父様、何かようでしょうか」
「王家との調整が済んだ。これから王都で、正式にシルヴィアとレオン王子殿下の婚約を結ぶ」
「そうですか......」
私は、お父様からの言葉で婚約は絶対のものだと知り、諦めることにしました。
私が我慢をすれば、うまくいくのでしょうね......。
「それで、いつ王都に行くのです?」
「今すぐにだ。馬車の用意は済ませてあるから、シルヴィアも早く乗りなさい」
今すぐに!?
今までは地下牢に入れられていたので、何の用意も出来ていません。
お父様は、何でもかんでも事を一人で決めてしまって、相談すらしてくれません。
「なに、用意は既に済ませてある。シルヴィアは馬車に乗るだけで良い」
私の焦りが顔に出ていたのか、お父様は用意は必要ないと言いました。
そう言われて、浴室を出た時にメイドが外行きの服を用意していたのを思い出しました。
これは、このためだったのですね。
「シルヴィア、お前にこれを渡そう」
お父様は、真っ白な石を手渡して来た。
一見すると、ただの石にしか見えないけれど、ここでそんな物を渡してくるような人ではない。
「これは......?」
「魔法石だ」
「魔法石ですって! どうしてこんなに高価な物を私に?」
魔法石は、その名の通りで魔法の力が込められた石です。
とても高価な物で、種類によっては石一つで屋敷が建つほどだと言われています。
あの日以来、お父様から私に何かをプレゼントしてもらったことはありません。
妹ではなく、私に渡すのには何か意味があるのでしょうか。
「婚約、いや......結婚祝いにお前に贈ろう」
「お父様が私にプレゼントですか? どうしてですの」
「第二王子とは言え、王族に嫁ぐのだ。何もないのでは、アーヴァイン公爵家の名が泣いてしまう」
そうですよね。
お父様は、私にプレゼントの贈ったのではありません。
アーヴァイン公爵家のために、名に傷を付けないために魔法石を用意したのですね。
「そのほか、ドレスなどの必要となる物は後で用意しよう。今はそれで我慢していてくれ」
「ありがとうございます、お父様。それで、これにはどのような魔法が込められているのです?」
「間違いがなければ、回復魔法が込められているはずだ。困ったら使うと良い」
回復魔法。
それは、怪我を治療することが出来るものです。
魔法石の中でも、比較的高価な部類に入ります。
しかも確か、回復魔法の魔法石は白に近いほど高価で、性能も高くなっていたはずです。
「ありがとう......ございます、お父様......」
お父様は、アーヴァイン公爵家のためとは言え、これだけ高価な物を用意してくれていたのです。
私は、その事実を知って再度、感謝を伝えました。
「礼は必要ない。魔法石を持って早く馬車に乗りなさい」
魔法石を大切に箱へとしまい、お父様の部屋を後にしました——。
「お......」
何かが聞こえて来た。
「シルヴィアお嬢様」
突然声をかけられて、ハッと意識が覚醒して体を起こした。
目の前には、執事とメイドがいます。
「寝ていませんわ、起きてますわ」
「ええ、分かっていますよ」
いつものように、ベッドで横たわっている内に寝てしまっていたみたいです。
恥ずかしさのあまり、起きていたことにしました。
執事は、微笑ましい顔をしているので私が寝ていたことには気が付いていないようです。
もし気が付いていたら、こんな表情はせずに何か言いたげな顔をしているはずです。
バレていないことに安堵して、本題を聞くことにしました。
いつもは監視だけしている執事が、声をかけて来たのですから、何か用事があるはずです。
「それで、何かようですか?」
「ええ、旦那様がお呼びです」
「お父様がっ!?」
地下牢に入ってから、お父様はたったの一度もこの場所には来ていません。
私が、やさぐれ王子と婚約破棄したいと告げてから、逃げ出さないように地下牢に入れてそれっきりでした。
ここには、毎日の食事と監視のために執事が来るだけで、他にはめったに人も来ることはありません。
そんな一切来なかったお父様が、使いを寄越したと言うことは、何かあるに違いがありません。
今更、婚約破棄をしてくれるとは思えませんし、一体どう言うつもりでしょうか。
「要件は何ですか?」
「それが、旦那様はシルヴィアお嬢様を部屋へと連れて来いと言うだけで、要件はおっしゃっていません......」
「そうですか......」
ますます、お父様がなんのために呼んだのか分かりません。
「お嬢様、お身体をきれいにするので浴室へと案内します」
「ええ、お願いしますわ」
私は、メイドの案内のままに地下牢から出て、浴室へと向かいました。
地下牢に入ってからは、自由に出ることも出来ずに、浴室にも行けませんでした。
そのため、体を拭くだけで我慢する日々を過ごしていたのです。
やっと体をきれいにすることが出来たので、お父様の部屋へと向かいました。
ここまでも逃げられないように、執事やメイドが監視しています。
◇
コンコンコン
お父様の部屋の扉をノックする。
「誰だ」
「お父様、シルヴィアです」
「そうか、入れ」
お父様から許可をもらえたので、扉を開けて室内へと入りました。
公務をするための机と椅子、たくさんの書籍も置かれています。
それに、壁にはお母様が描かれた肖像画があります。
こうして見ると、セレナに瓜二つで、妹だと言われても間違えそうなくらい似ています。
妹がもう少し歳をとれば、見分けるのは難しいです。
「ごほん」
私が、お母様の肖像画に気を取られているとお父様が咳をしました。
そうでした。呼ばれてここに来ていたのですね。
「お父様、何かようでしょうか」
「王家との調整が済んだ。これから王都で、正式にシルヴィアとレオン王子殿下の婚約を結ぶ」
「そうですか......」
私は、お父様からの言葉で婚約は絶対のものだと知り、諦めることにしました。
私が我慢をすれば、うまくいくのでしょうね......。
「それで、いつ王都に行くのです?」
「今すぐにだ。馬車の用意は済ませてあるから、シルヴィアも早く乗りなさい」
今すぐに!?
今までは地下牢に入れられていたので、何の用意も出来ていません。
お父様は、何でもかんでも事を一人で決めてしまって、相談すらしてくれません。
「なに、用意は既に済ませてある。シルヴィアは馬車に乗るだけで良い」
私の焦りが顔に出ていたのか、お父様は用意は必要ないと言いました。
そう言われて、浴室を出た時にメイドが外行きの服を用意していたのを思い出しました。
これは、このためだったのですね。
「シルヴィア、お前にこれを渡そう」
お父様は、真っ白な石を手渡して来た。
一見すると、ただの石にしか見えないけれど、ここでそんな物を渡してくるような人ではない。
「これは......?」
「魔法石だ」
「魔法石ですって! どうしてこんなに高価な物を私に?」
魔法石は、その名の通りで魔法の力が込められた石です。
とても高価な物で、種類によっては石一つで屋敷が建つほどだと言われています。
あの日以来、お父様から私に何かをプレゼントしてもらったことはありません。
妹ではなく、私に渡すのには何か意味があるのでしょうか。
「婚約、いや......結婚祝いにお前に贈ろう」
「お父様が私にプレゼントですか? どうしてですの」
「第二王子とは言え、王族に嫁ぐのだ。何もないのでは、アーヴァイン公爵家の名が泣いてしまう」
そうですよね。
お父様は、私にプレゼントの贈ったのではありません。
アーヴァイン公爵家のために、名に傷を付けないために魔法石を用意したのですね。
「そのほか、ドレスなどの必要となる物は後で用意しよう。今はそれで我慢していてくれ」
「ありがとうございます、お父様。それで、これにはどのような魔法が込められているのです?」
「間違いがなければ、回復魔法が込められているはずだ。困ったら使うと良い」
回復魔法。
それは、怪我を治療することが出来るものです。
魔法石の中でも、比較的高価な部類に入ります。
しかも確か、回復魔法の魔法石は白に近いほど高価で、性能も高くなっていたはずです。
「ありがとう......ございます、お父様......」
お父様は、アーヴァイン公爵家のためとは言え、これだけ高価な物を用意してくれていたのです。
私は、その事実を知って再度、感謝を伝えました。
「礼は必要ない。魔法石を持って早く馬車に乗りなさい」
魔法石を大切に箱へとしまい、お父様の部屋を後にしました——。
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