上 下
405 / 439
第三部:第三十四章 背負う責任

(二)編成①

しおりを挟む
(二)

 騎士団についての説明を聞かされたあと、部屋に入ってきたのは、オリウス・ランドルフ第二騎士団長だった。
「よし、面倒臭い説明は終わりだ。これからは、俺の話だ。知っている者も居るかと思うが、俺は第二騎士団の団長、オリウス・ランドルフだ。今後、第二騎士団所属として、皆には頑張ってもらいたい。それでだ……」
 ランドルフはわざとらしく咳払いを挟むと、ちらりと視線を動かした。
「まず、新人のお前さん達の中に例外が一人混じっているが、言わなくても誰のことだか分かるな?」
 ランドルフの言葉に、室内が笑いに包まれる。
「通常、新人は一星官なんだが、一人だけ二星官がいる。そいつには軍務省の方で借りがあって、人格や成績も含めて二星官で問題ないと判断されての事なんだそうだ。まあ、それについて文句がある奴は、この中に居るとは思えないが……」
 確認するように、そこで言葉を止めた。

 同期の騎士学校出身者の中で、好き嫌いこそあれ、ラーソルバールの実力に対して疑念を抱く者は居ない。
 騎士学校に入学した当初は、入学試験の結果に関して懐疑的だったり批判的な態度を取る者も居た。元々、高位の貴族の子女にそうした傾向が強かったが、身分の上下関係なく寄り添うエラゼルの存在や、ラーソルバール本人の実力を幾度となく目の前で見せ付けられ、次第にそうした態度を取る者がいなくなっていった。

 ランドルフは室内にいる新人を見回したが、一人不満げな顔を浮かべている者を除いては、誰も気にしている様子もなかった。
「よし、不満があるのは、本人だけのようだから、次の話だ」
 ランドルフが思いの外すっぱりと話を切り上げたので、あちこちから笑い声が聞こえた。
「ここからはちょっと厄介な話だ。ある事情があって、我々は特に部隊編成を急がにゃならん。各小隊への割り振りが決まっているので、これから読み上げる。指示に従って、各部隊の部屋へ行き、小隊長や中隊長との顔合わせをしておくように。以上だ」
 先程まで騎士団についての説明をしていた担当者が、再び名前を読み上げ始めた。それを確認すると、ランドルフはラーソルバールに目配せをして手招きをする。
 変に特別扱いされると困ると思ったが、上司に対して渋い顔を続ける訳にも行かず、面従腹背で立ち上がって、ランドルフのもとへ歩み寄る。
「あー、続けててくれ。デオール、ちょっとミルエルシ二星官を借りるぞ」
 そう言うと、ランドルフは着いて来いと言わんばかりに、顎で合図する。

 隣の部屋に移動すると、ラーソルバールは促されるままにソファに腰掛ける。
「ミルエルシ嬢……いや二星官。こうやって話すのは、あの時以来か?」
 わざわざ言い直し、記憶を手繰り寄せるように少し首を捻る。
「ランドルフ団長と直接お話させて頂くのは、入学試験の時以来かと思います」
「あの後、お前さんとは、もう二度と剣で戦うものかと思ったものだ……」
 ランドルフは愉快そうに笑う、あの日、剣を交えた時の屈託の無い笑顔が思い起こされる。
「ああ、すまんな。昔話をするつもりで呼んだんじゃない」
 そう言ったランドルフの顔から笑みが消え、その表情は険しいものに変わる。いつもの豪快さは影を潜め、鋭い眼光がラーソルバールに向けられた。
 自分を威圧するためのものではないことはラーソルバールも理解しているが、さすがに団長ともなると、それだけでも射すくめられそうになる。
「部隊編成を急ぐ理由を、お前さんにも伝えておけと軍務省から言われていてな……」
「……はぁ」
 何故、騎士団長自ら伝える必要があるのか。ラーソルバールにはその意図が理解できす、曖昧な返事を返してしまった。
「そう不思議そうな顔をするな。理由は至極簡単だ。近々、我が国はレンドバール王国と一戦交える事になりそうだ」
「はい」
 平然と答えるラーソルバールに拍子抜けしたように、ランドルフは苦笑いをする。
「……驚かんのか?」
「はい、想定のうちですが……」
 国内事情をただの一騎士である自分に、こんな重要情報を伝えるよう働きかけがあったとすると、軍務省の意向というよりジャハネートや軍務大臣が絡んでいるということだろう。ただの小娘を何故巻き込もうとするのか。その手回しの良さに呆れなくもない。
「お話しから察するに、喫緊の問題ということですね。早くてひと月以内……そして第二騎士団も迎撃の任に当たるという事ですか?」
 昨年八月の地震発生後、半年から一年と見積もったが、まさに事態は深刻なところまで来ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...