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第二部:第三十二章 積み重ねたもの
(二)宴のあと②
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会場は戻ってきた四人の姿を見つけると、大きな拍手で迎えた。
三人の女性に加え、ガイザも戦闘に参加して汚れたため、無理矢理着替えさせられていた。デラネトゥス家としては、もしもに備え戦闘に参加する事のなかった他の四人の分も、替えの衣装を用意していたらしい。
着替えの都合でエラゼルのエスコートをする事になったガイザだが、堂々と入場するエラゼルとは対照的に、困ったような表情を浮かべながら作り笑顔で現れた。
それにジャハネートが続いて入場となる。さすがに場慣れしている様子で、特に気にすることもなく堂々と歩く。そして半歩遅れてラーソルバールが入る。
直前までは緊張していたラーソルバールだったが、普段見ることの無いガイザの表情が余程可笑しかったのか、笑いを堪えながらの入場となった。
エラゼルが壇に上がると、会場の視線はそちらに集中し、ラーソルバール達もようやく面倒な状況から解放されることになった。
ガイザと共に、逃げるように人々の間をすり抜け、壁際に移動する。ほっとしたように大きく息を吐くと、緊張が解け思い出したように手が震え始めた。
自身や友の命を守る為とはいえ、命を奪ったことに変わりはない。剣を突き立てた手の感触もまだ残っている。ともすると滅入りそうになる気持ちを誤魔化しながら、視線を上げてエラゼルの様子を見つめる。その白いドレスの彼女もまた、同じ思いを抱えているのだろうか。
「今日は色々と有難うございました」
不意に隣に立った女性に話しかけられた。振り向くと、そこに居たのはイリアナと、ルベーセの姉妹。ルベーゼは以前に比べると、血色も良く、やや体調を戻したようにも見える。
「イリアナ様、本日はお招きに預かり、誠にありがとうございます。ルベーゼ様もお久しぶりで御座います。以前より顔色もよろしいようで、安心致しました」
ルベーゼは半歩近づくと、ラーソルバールの瞳を見つめ、優しく微笑んだ。
「私もお会いできて嬉しいわ。以前、貴女が呪詛の可能性を指摘して下さったおかげで、原因らしきものが分かってまいりましたの。完全にとは参りませんが、だいぶ良化してきています。感謝の言葉も有りません……」
ラーソルバールの手をとると、ルベーゼは感謝するように小さく頭を下げて瞳を閉じた。健康面が良化したのだろう、動きもしなやかで、病人のような状態からは脱却したように見える。
彼女も本来の美しさを取り戻しつつあり、雰囲気こそ違うものの、さすがはエラゼルやイリアナの姉妹といった感がある。
「後程、母もご挨拶させて頂きたいと言っておりましたので、よろしくお願いしますね」
ルベーゼはそう付け加えると、優雅にお辞儀をしてみせた。
「あ……こ、こちらこそよろしくお願いします」
慌ててラーソルバールも頭を下げた。
この美人三姉妹の母なのだから、間違いなく美貌の持ち主なのだろうと思っている。ようやく面会する機会が訪れたことで、嬉しいような緊張するような、ぎこちない笑顔になってしまった。
会も中盤にさしかかった頃、ラーソルバールは仲間達と歓談していたところ、侍女に呼び止められ、別室に連れ出された。
「旦那様、ミルエルシ様をお連れしました」
「……ああ、有難う。こちらへお連れしてくれ」
侍女の呼びかけに、室内から公爵の応じる声が聞こえた。
扉が開くと、室内のソファに公爵と、美しい女性が並んで座っているのが見え、慌ててお辞儀をして、ゆっくりと頭を上げる。
その容姿を見てひと目で分かる。この女性が公爵夫人、エラゼルの母だと。
「ミルエルシさん、初めまして。私がエラゼルの母でございます」
「初めまして、ラーソルバール・ミルエルシでございます。本日は夫人にお会いでき、誠に光栄でございます」
「ふふ、そんなに緊張しないでくださいな。ただの、友人の母親だと思って頂ければよいのですから」
扇子を手に、嫌味の無い優雅で洗練された動きが、さすが公爵夫人だと思わせる。イリアナの年齢を考えれば、夫人は四十歳前後なのだろうが、年齢を感じさせないその美しさは、社交界に出ても誰に劣ることなく、華として存在するだろう。
「いえ、私などには恐れ多い事でございます」
思わず見とれてしまいそうな姿に、思わず目を伏せ頭を下げた。
「ああ、こちらに来て座って頂きたい。少々話したら、娘達の所に戻らねばならない」
見かねたように公爵が言葉を挟み、笑顔を向けて、手でソファを指し示す。ラーソルバールは言われるがまま、向かい側に腰掛けた。
三人の女性に加え、ガイザも戦闘に参加して汚れたため、無理矢理着替えさせられていた。デラネトゥス家としては、もしもに備え戦闘に参加する事のなかった他の四人の分も、替えの衣装を用意していたらしい。
着替えの都合でエラゼルのエスコートをする事になったガイザだが、堂々と入場するエラゼルとは対照的に、困ったような表情を浮かべながら作り笑顔で現れた。
それにジャハネートが続いて入場となる。さすがに場慣れしている様子で、特に気にすることもなく堂々と歩く。そして半歩遅れてラーソルバールが入る。
直前までは緊張していたラーソルバールだったが、普段見ることの無いガイザの表情が余程可笑しかったのか、笑いを堪えながらの入場となった。
エラゼルが壇に上がると、会場の視線はそちらに集中し、ラーソルバール達もようやく面倒な状況から解放されることになった。
ガイザと共に、逃げるように人々の間をすり抜け、壁際に移動する。ほっとしたように大きく息を吐くと、緊張が解け思い出したように手が震え始めた。
自身や友の命を守る為とはいえ、命を奪ったことに変わりはない。剣を突き立てた手の感触もまだ残っている。ともすると滅入りそうになる気持ちを誤魔化しながら、視線を上げてエラゼルの様子を見つめる。その白いドレスの彼女もまた、同じ思いを抱えているのだろうか。
「今日は色々と有難うございました」
不意に隣に立った女性に話しかけられた。振り向くと、そこに居たのはイリアナと、ルベーセの姉妹。ルベーゼは以前に比べると、血色も良く、やや体調を戻したようにも見える。
「イリアナ様、本日はお招きに預かり、誠にありがとうございます。ルベーゼ様もお久しぶりで御座います。以前より顔色もよろしいようで、安心致しました」
ルベーゼは半歩近づくと、ラーソルバールの瞳を見つめ、優しく微笑んだ。
「私もお会いできて嬉しいわ。以前、貴女が呪詛の可能性を指摘して下さったおかげで、原因らしきものが分かってまいりましたの。完全にとは参りませんが、だいぶ良化してきています。感謝の言葉も有りません……」
ラーソルバールの手をとると、ルベーゼは感謝するように小さく頭を下げて瞳を閉じた。健康面が良化したのだろう、動きもしなやかで、病人のような状態からは脱却したように見える。
彼女も本来の美しさを取り戻しつつあり、雰囲気こそ違うものの、さすがはエラゼルやイリアナの姉妹といった感がある。
「後程、母もご挨拶させて頂きたいと言っておりましたので、よろしくお願いしますね」
ルベーゼはそう付け加えると、優雅にお辞儀をしてみせた。
「あ……こ、こちらこそよろしくお願いします」
慌ててラーソルバールも頭を下げた。
この美人三姉妹の母なのだから、間違いなく美貌の持ち主なのだろうと思っている。ようやく面会する機会が訪れたことで、嬉しいような緊張するような、ぎこちない笑顔になってしまった。
会も中盤にさしかかった頃、ラーソルバールは仲間達と歓談していたところ、侍女に呼び止められ、別室に連れ出された。
「旦那様、ミルエルシ様をお連れしました」
「……ああ、有難う。こちらへお連れしてくれ」
侍女の呼びかけに、室内から公爵の応じる声が聞こえた。
扉が開くと、室内のソファに公爵と、美しい女性が並んで座っているのが見え、慌ててお辞儀をして、ゆっくりと頭を上げる。
その容姿を見てひと目で分かる。この女性が公爵夫人、エラゼルの母だと。
「ミルエルシさん、初めまして。私がエラゼルの母でございます」
「初めまして、ラーソルバール・ミルエルシでございます。本日は夫人にお会いでき、誠に光栄でございます」
「ふふ、そんなに緊張しないでくださいな。ただの、友人の母親だと思って頂ければよいのですから」
扇子を手に、嫌味の無い優雅で洗練された動きが、さすが公爵夫人だと思わせる。イリアナの年齢を考えれば、夫人は四十歳前後なのだろうが、年齢を感じさせないその美しさは、社交界に出ても誰に劣ることなく、華として存在するだろう。
「いえ、私などには恐れ多い事でございます」
思わず見とれてしまいそうな姿に、思わず目を伏せ頭を下げた。
「ああ、こちらに来て座って頂きたい。少々話したら、娘達の所に戻らねばならない」
見かねたように公爵が言葉を挟み、笑顔を向けて、手でソファを指し示す。ラーソルバールは言われるがまま、向かい側に腰掛けた。
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