374 / 439
第二部:第三十一章 騎士になる者として
(四)剣は踊る②
しおりを挟む
ラーソルバールの剣が閃き、暗殺者の剣と交錯して高い金属音を奏でる。
「何人を相手にしているんだ?」
探知の魔法を使いこなせないモルアールは、姿の見えない相手に何もできないもどかしさを感じ、拳を握り締める。
ガイザも気配を察して剣を振っているようだが、空を切り影を捉えるには至らない。
「しまった、中にひとり……!」
剣を振るいながらも、気配を察してラーソルバールが慌てて振り返る。
その間にも、別の暗殺者の剣が執拗にラーソルバールに襲い掛かり、動く事を許さない。苛立ちに虚空をひと薙ぎして、一歩足を踏み出そうとした瞬間だった。
「問題ない」
会場内に踏み込んだと思われる暗殺者が、姿を現し、ぐらりと崩れ落ちた。
そこには純白のドレスに返り血ひとつ浴びることなく、凛と立つエラゼルの姿が有った。
「罠に掛かったとはいえ、復讐にしては手ぬるいな」
エラゼルが暗殺者を見下ろし、吐き捨てるように言った。
「復讐……だと? 何の事だ……?」
床に伏したまま、男はエラゼルの顔を見上げる。
「何……? 誰が狙いだ? 何の為に来た!」
暗殺者を睨みつけ、剣の先を首筋に当てる。
「どうせ……死ぬのだ……。嘘など言ったところで意味は無い……。我々の狙いはお前と、あの赤い服の女だ。俺たちは雇われ、二人が騎士学校以外で揃う今日が狙い目だと言われた。そしてどちらかでも殺せれば良い、とな」
想定とは別の暗殺者が動いているのか。エラゼルは歯軋りしながら、バルコニーの様子を見る。ラーソルバールの剣が暗殺者の剣と交錯して、幾度と無く火花が散るのが見えた。
(我々二人を狙う、まさかとは思うが……)
足元の男は警備に当たっていた者達によって取り押さえられたため、エラゼルは剣を男の首元から外し、バルコニーへと歩き出した。
ラーソルバールは二人の暗殺者を相手にしている。
その事を自身でも理解している。だが、動かない殺気が他にもあることが気になり、中に入れないよう、牽制しつつ戦っていたため。思い切り剣を振るうことが出来ないでいた。
だが、エラゼルがやって来て、その近くにジャハネートが居る事も確認した。
「そっちに行ったらよろしくね」
エラゼルに一瞬視線を送り、ラーソルバールは柄を握り直す。直後、剣が纏う青白い光が、輝きを強める。その光が幻想的にゆらめいた瞬間、ラーソルバールの右斜め上へと、さながら青白い虹を描くが如く閃き、闇を捕らえた。
ガキッという高い金属音と鈍い音がほぼ同時に響き、暗殺者の一人が脇腹を痛撃されて、闇のベールから引きずり出されるように姿を現し、折れた小剣と共に床に叩き落とされた。
「グァ……」
剣の背で殴られたにも関わらず、あまりの衝撃に呼吸もままならぬというように、暗殺者の男は悶絶する。
ラーソルバールはそのまま半歩踏み出すと、左下から剣を振り上げた。片刃の剣の反った切っ先が、闇に紛れていた男の衣服を引っ掛け、その姿を衆目の中に引きずり出した。
「何なんだ、この女は! ただの貴族の娘じゃないのか!」
欄干に立ち、ラーソルバールを見下ろしながら、暗殺者は恐怖に声を荒げた。
「え……?」
予期せぬ言葉に、ラーソルバールは一瞬手を止める。
その隙を突いて逃げようとした暗殺者だったが、モルアールの魔法による網で絡め取られると、そのままバルコニーに引きずり下ろされた。
何故、復讐に来たはずの者が、自分をただの貴族の娘と言うのか。それが意味するもの。「別の暗殺者が何者かの依頼により、自分達を狙っていた」という答えしか無い。
「我々が死んで利する者が居る、という事だ」
背後からエラゼルの声がした。
標的は全く同じでも、別の思惑で動いている。では、その依頼主の意図するところとは……。
「まさか!」
ラーソルバールはエラゼルをちらりと見やる。
「多分、同じ結論だと思う。だが、その話は後回しだ」
そうか、無い話ではないなと、ラーソルバールは頷き、小さく息を吐いて月を仰いだ。
エラゼルは友の無事な様子を見て安堵すると、血の滴る剣をゆっくりと動かして、誰も居ないはずの空を指し示し不敵に笑った。
「さあ、そなたの為に出てきてやったぞ」
「何人を相手にしているんだ?」
探知の魔法を使いこなせないモルアールは、姿の見えない相手に何もできないもどかしさを感じ、拳を握り締める。
ガイザも気配を察して剣を振っているようだが、空を切り影を捉えるには至らない。
「しまった、中にひとり……!」
剣を振るいながらも、気配を察してラーソルバールが慌てて振り返る。
その間にも、別の暗殺者の剣が執拗にラーソルバールに襲い掛かり、動く事を許さない。苛立ちに虚空をひと薙ぎして、一歩足を踏み出そうとした瞬間だった。
「問題ない」
会場内に踏み込んだと思われる暗殺者が、姿を現し、ぐらりと崩れ落ちた。
そこには純白のドレスに返り血ひとつ浴びることなく、凛と立つエラゼルの姿が有った。
「罠に掛かったとはいえ、復讐にしては手ぬるいな」
エラゼルが暗殺者を見下ろし、吐き捨てるように言った。
「復讐……だと? 何の事だ……?」
床に伏したまま、男はエラゼルの顔を見上げる。
「何……? 誰が狙いだ? 何の為に来た!」
暗殺者を睨みつけ、剣の先を首筋に当てる。
「どうせ……死ぬのだ……。嘘など言ったところで意味は無い……。我々の狙いはお前と、あの赤い服の女だ。俺たちは雇われ、二人が騎士学校以外で揃う今日が狙い目だと言われた。そしてどちらかでも殺せれば良い、とな」
想定とは別の暗殺者が動いているのか。エラゼルは歯軋りしながら、バルコニーの様子を見る。ラーソルバールの剣が暗殺者の剣と交錯して、幾度と無く火花が散るのが見えた。
(我々二人を狙う、まさかとは思うが……)
足元の男は警備に当たっていた者達によって取り押さえられたため、エラゼルは剣を男の首元から外し、バルコニーへと歩き出した。
ラーソルバールは二人の暗殺者を相手にしている。
その事を自身でも理解している。だが、動かない殺気が他にもあることが気になり、中に入れないよう、牽制しつつ戦っていたため。思い切り剣を振るうことが出来ないでいた。
だが、エラゼルがやって来て、その近くにジャハネートが居る事も確認した。
「そっちに行ったらよろしくね」
エラゼルに一瞬視線を送り、ラーソルバールは柄を握り直す。直後、剣が纏う青白い光が、輝きを強める。その光が幻想的にゆらめいた瞬間、ラーソルバールの右斜め上へと、さながら青白い虹を描くが如く閃き、闇を捕らえた。
ガキッという高い金属音と鈍い音がほぼ同時に響き、暗殺者の一人が脇腹を痛撃されて、闇のベールから引きずり出されるように姿を現し、折れた小剣と共に床に叩き落とされた。
「グァ……」
剣の背で殴られたにも関わらず、あまりの衝撃に呼吸もままならぬというように、暗殺者の男は悶絶する。
ラーソルバールはそのまま半歩踏み出すと、左下から剣を振り上げた。片刃の剣の反った切っ先が、闇に紛れていた男の衣服を引っ掛け、その姿を衆目の中に引きずり出した。
「何なんだ、この女は! ただの貴族の娘じゃないのか!」
欄干に立ち、ラーソルバールを見下ろしながら、暗殺者は恐怖に声を荒げた。
「え……?」
予期せぬ言葉に、ラーソルバールは一瞬手を止める。
その隙を突いて逃げようとした暗殺者だったが、モルアールの魔法による網で絡め取られると、そのままバルコニーに引きずり下ろされた。
何故、復讐に来たはずの者が、自分をただの貴族の娘と言うのか。それが意味するもの。「別の暗殺者が何者かの依頼により、自分達を狙っていた」という答えしか無い。
「我々が死んで利する者が居る、という事だ」
背後からエラゼルの声がした。
標的は全く同じでも、別の思惑で動いている。では、その依頼主の意図するところとは……。
「まさか!」
ラーソルバールはエラゼルをちらりと見やる。
「多分、同じ結論だと思う。だが、その話は後回しだ」
そうか、無い話ではないなと、ラーソルバールは頷き、小さく息を吐いて月を仰いだ。
エラゼルは友の無事な様子を見て安堵すると、血の滴る剣をゆっくりと動かして、誰も居ないはずの空を指し示し不敵に笑った。
「さあ、そなたの為に出てきてやったぞ」
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる