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第二部:第三十一章 騎士になる者として
(二)仕掛け②
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一般的な貴族の令嬢であれば、自らの晴れ舞台とも言える場を汚されることを良しとしない。エラゼルらしいと言ってしまえばそれまでだが、自分の誕生祝の会を罠にするなど、よく考えるものだとラーソルバールは感心する。
暗殺者を捕らえてどうするつもりなのだろうか。
エラゼルの言葉通りなら、捕縛してそのまま国家警備隊に引き渡すという事は無い。捕らえた後は、過去の仕事を吐かせて引き渡す、くらいの事はするだろう。
デラネトゥス公爵が清濁併せ吞む人物であれば、報告の際に伏せるかも知れないが、清廉な人柄として知られるだけにそれは有り得ない。
公爵にとって一番良い形は、暗殺者をその場で始末してしまうことなのだろうか。
「それで、その決戦のお誘いには誰をお呼びするの?」
ラーソルバールとしても純粋な興味があった。
誕生会という名目もありつつ、暗殺者を迎え撃つ仲間という事になる。
「無論、会は会として旅の仲間は呼びたい。父上にはラーソルバール以外に呼べる友が居るのかと馬鹿にされたが……」
「あはは、去年は私だけだったもんね。それも友人枠ではなく、宿敵枠で」
「それを言うな。今でも姉上に言われているのだから」
気恥ずかしそうに顔を伏せつつ、ラーソルバールの口元に手をやる。その白く美しい手を軽く掴むと、してやったりとばかりにラーソルバールは笑った。
「生死を友にした仲間とはいえ、相手が暗殺者だけにどう出るか分からず、危険は大きいのでな……」
「その言い方……もしかして、ジャハネート様をお呼びした?」
「先日、屋敷に伺った際に『もしかしたら』とお願いしていたのだが、正式にご出席をお願いしている。遅くなったが、皆でブルテイラの礼もしたいし、少々暴れる場所が欲しかろうと思ってな」
ラーソルバールは思わず失笑した。ジャハネートが暴れる場所が欲しいと言った訳でもあるまい。先だって面会した折に、彼女の鬱屈しているものでも感じ取ったのだろうか。
「はい、じゃあ、その日は動きやすいドレスで参上します」
「無ければ、用意しておくが……」
「貴女の体形だと、私に合わないんですっ!」
「ふむ……そうか?」
軽口を叩いてはいるが、命のやりとりの話であるだけに、不安が無いはずがない。
正面をきっての戦いであれば良い。だが相手の数も分からず、あの時のように暗殺者の技能を駆使して立ち回られては、どうなるか分からない。
話が一旦途切れたところで、エラゼルは机の上で拳を握り締めた。
「ラーソルバール……」
「ん?」
「……付き合わせてすまぬ」
エラゼルは真剣な表情のまま、静かに頭を下げた。
そこに友だからという甘えは無い。申し訳なさそうに目を伏せ、拳を震わせる。
「何言ってるの、狙われているのはむしろ私でしょ?」
「いや、例えそうだとしても、姉上の件が発端なのだから……迷惑をかけているのはこちらだ」
今にも泣き出しそうな顔をするエラゼルの姿が痛々しく見え、ラーソルバールは自らの掌を、そっとエラゼルの拳の上に重ねた。そして瞳を見つめると、優しく微笑んだ。
「気にしないで……。イリアナ様を助けられて良かったと思っているし、不謹慎かもしれないけど……、私はあの時、貴女と一緒に戦えて嬉しかったんだよ」
「な……?」
「真っ白なドレスで、危ないところを格好良く颯爽と助けに来てくれて、近くて遠い存在だった貴女との距離が少し近くなった気がしたの。私の中の大事な一日……」
「よくもそんな恥ずかしい事を真顔で……」
エラゼルは照れながら、それを隠すように苦笑してみせた。
仕草が可愛いな、と思いつつも、ラーソルバールは口には出さない。
「……そ、そうだ、今度は母上も参加される予定になっている。まだ紹介していなかったと思うので、是非会って欲しい。いつもはルベーゼ姉様にかこつけたり、具合が悪いと嘘をついて社交界の場には出てこないのだが、今回は逃がさないつもりだ」
エラゼルが誤魔化すように切り出した話。
意外にもラーソルバールとしても興味のある話だった。この美人三姉妹の母親とはどんな人物なのだろうか、と。
「うん、楽しみにしてる」
エラゼルに借りだの申し訳ないだのと思われることは本意では無い。ここは誤魔化しに乗っておこう、ラーソルバールは笑顔で応えた。
暗殺者を捕らえてどうするつもりなのだろうか。
エラゼルの言葉通りなら、捕縛してそのまま国家警備隊に引き渡すという事は無い。捕らえた後は、過去の仕事を吐かせて引き渡す、くらいの事はするだろう。
デラネトゥス公爵が清濁併せ吞む人物であれば、報告の際に伏せるかも知れないが、清廉な人柄として知られるだけにそれは有り得ない。
公爵にとって一番良い形は、暗殺者をその場で始末してしまうことなのだろうか。
「それで、その決戦のお誘いには誰をお呼びするの?」
ラーソルバールとしても純粋な興味があった。
誕生会という名目もありつつ、暗殺者を迎え撃つ仲間という事になる。
「無論、会は会として旅の仲間は呼びたい。父上にはラーソルバール以外に呼べる友が居るのかと馬鹿にされたが……」
「あはは、去年は私だけだったもんね。それも友人枠ではなく、宿敵枠で」
「それを言うな。今でも姉上に言われているのだから」
気恥ずかしそうに顔を伏せつつ、ラーソルバールの口元に手をやる。その白く美しい手を軽く掴むと、してやったりとばかりにラーソルバールは笑った。
「生死を友にした仲間とはいえ、相手が暗殺者だけにどう出るか分からず、危険は大きいのでな……」
「その言い方……もしかして、ジャハネート様をお呼びした?」
「先日、屋敷に伺った際に『もしかしたら』とお願いしていたのだが、正式にご出席をお願いしている。遅くなったが、皆でブルテイラの礼もしたいし、少々暴れる場所が欲しかろうと思ってな」
ラーソルバールは思わず失笑した。ジャハネートが暴れる場所が欲しいと言った訳でもあるまい。先だって面会した折に、彼女の鬱屈しているものでも感じ取ったのだろうか。
「はい、じゃあ、その日は動きやすいドレスで参上します」
「無ければ、用意しておくが……」
「貴女の体形だと、私に合わないんですっ!」
「ふむ……そうか?」
軽口を叩いてはいるが、命のやりとりの話であるだけに、不安が無いはずがない。
正面をきっての戦いであれば良い。だが相手の数も分からず、あの時のように暗殺者の技能を駆使して立ち回られては、どうなるか分からない。
話が一旦途切れたところで、エラゼルは机の上で拳を握り締めた。
「ラーソルバール……」
「ん?」
「……付き合わせてすまぬ」
エラゼルは真剣な表情のまま、静かに頭を下げた。
そこに友だからという甘えは無い。申し訳なさそうに目を伏せ、拳を震わせる。
「何言ってるの、狙われているのはむしろ私でしょ?」
「いや、例えそうだとしても、姉上の件が発端なのだから……迷惑をかけているのはこちらだ」
今にも泣き出しそうな顔をするエラゼルの姿が痛々しく見え、ラーソルバールは自らの掌を、そっとエラゼルの拳の上に重ねた。そして瞳を見つめると、優しく微笑んだ。
「気にしないで……。イリアナ様を助けられて良かったと思っているし、不謹慎かもしれないけど……、私はあの時、貴女と一緒に戦えて嬉しかったんだよ」
「な……?」
「真っ白なドレスで、危ないところを格好良く颯爽と助けに来てくれて、近くて遠い存在だった貴女との距離が少し近くなった気がしたの。私の中の大事な一日……」
「よくもそんな恥ずかしい事を真顔で……」
エラゼルは照れながら、それを隠すように苦笑してみせた。
仕草が可愛いな、と思いつつも、ラーソルバールは口には出さない。
「……そ、そうだ、今度は母上も参加される予定になっている。まだ紹介していなかったと思うので、是非会って欲しい。いつもはルベーゼ姉様にかこつけたり、具合が悪いと嘘をついて社交界の場には出てこないのだが、今回は逃がさないつもりだ」
エラゼルが誤魔化すように切り出した話。
意外にもラーソルバールとしても興味のある話だった。この美人三姉妹の母親とはどんな人物なのだろうか、と。
「うん、楽しみにしてる」
エラゼルに借りだの申し訳ないだのと思われることは本意では無い。ここは誤魔化しに乗っておこう、ラーソルバールは笑顔で応えた。
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