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第二部:第三十章 運命と時は流れるままに
(三)城からの使い②
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翌日、寮に戻ったラーソルバールだったが、玄関近くでエラゼルと偶然鉢合わせてしまった。
「お、おはよ、エラゼル」
「あぁ、おはよう……」
前日に届いた通知のせいだろうか、互いにぎこちない挨拶となってしまった。
「ちょっと、私の部屋に来ない?」
「ん、構わぬが」
荷物を担いだまま、エラゼルを伴って自室に戻る。
入り口に鍵をかけると、二人は椅子に腰を下ろした。落ち着かない雰囲気を嫌ってラーソルバールが口を開いた。
「エラゼル、フォルテシアからお土産受け取ってくれた?」
「うむ、美味しく頂いた」
「モルアールが苦労して保存してくれたおかげだね」
「そうらしいな。今度会ったら礼を言わねばな」
何気ない会話に穏やかな笑みを浮かべ、いつもの二人に戻る。
「ああ、ごめん、お茶淹れるからお湯貰ってくるね」
「すまぬな」
エラゼルは慌てて部屋を駆け出していく友の背を見つめつつ、小さく吐息した。
熱湯の入ったポットを手に急いで戻ってきたラーソルバールは、すぐに茶を淹れてエラゼルに差し出した。
そして一呼吸をおいて、意を決したように口を開く。
「昨日届いた、宰相閣下からの封書の件なんだけど」
「……ふむ、やはりあの件か」
エラゼルは苦笑しつつ、茶の入ったカップに手をやる。
「エラゼルは前から知ってたんでしょ?」
「噂だけはな……。だがそこに誰の名が挙げられているかなどは知らなかった。姉上達か私、そしてファルデリアナあたりは入るだろうとは思っていたが……」
思い出したようにエラゼルは笑い出した。
「何でそこに私が入ってるの?」
「さあ……? 色々な思惑があるのだと思うが、ラーソルバールが入っていても、私は全く変だとは思わない。いや……ラーソルバールを知っているからこそ、当然だとさえ思う。……選ばれたことが嫌なのか?」
エラゼルは落ち着かせるようにカップに口をつけ、視線だけを向かいの友へ送る。茶の香りが波立つ心をゆっくりと癒していくように感じた。
「光栄なことではあるけど、私じゃないとは思う。エラゼルがどう思うかはともかく、私は貴女が一番ふさわしいしと感じるし、貴女がなるべきだと思ってる。……ゴメン、私……エラゼルの気持ちも考えずに……」
「構わない。私は元々公爵家の娘として、そういうことがあっても良いように教育されている。政略婚などというのは当然の世の中だからな」
エラゼルの言葉にラーソルバールは拳を握り締めた。
貴族社会、権力に塗れた家の中でデラネトゥス家は政争とは無縁な存在であり続けてきた。それでも、エラゼルは自由に相手を選ぶことすらできないのだろうか。
「貴女がなるべきとか言っておいて、勝手かもしれないけど。……エラゼルはそれで幸せになれると思う?」
「私の幸せ? ……ああ、あまり考えた事は無かった。ただ、ここで皆と一緒に居るのは楽しいし、これが幸せなのだとも思う。殿下のことはお慕いしているが、それが愛だの恋だのと言われても私には良く分からないのだ」
自嘲気味に語るエラゼルを見ていられず、その手にラーソルバールは自らの手を重ねた。
「私は、貴女に幸せになって欲しいと思っている。ずっと重圧に耐えてきたのだから、この先は幸せに生きて欲しい」
「そういうラーソルバールはどうなのだ? ……と、聞くまでもないか。ルクスフォールの御曹司が居るものな」
ふわりと優しい笑顔を浮かべるエラゼルに対し、ラーソルバールは何も言えず、赤くなって横を向く。
「だが、私は実は嬉しいのだ。ラーソルバールとまた、同じ舞台で競えるのだから」
「そんな事言って……」
「ふふ……私の宿敵であり続けてくれるのだろう?」
「あぁもう、分かりました!」
柔らかな表情でありながら真摯さの混じる瞳に見つめられ、ラーソルバールは逆らうことが出来なかった。
「お、おはよ、エラゼル」
「あぁ、おはよう……」
前日に届いた通知のせいだろうか、互いにぎこちない挨拶となってしまった。
「ちょっと、私の部屋に来ない?」
「ん、構わぬが」
荷物を担いだまま、エラゼルを伴って自室に戻る。
入り口に鍵をかけると、二人は椅子に腰を下ろした。落ち着かない雰囲気を嫌ってラーソルバールが口を開いた。
「エラゼル、フォルテシアからお土産受け取ってくれた?」
「うむ、美味しく頂いた」
「モルアールが苦労して保存してくれたおかげだね」
「そうらしいな。今度会ったら礼を言わねばな」
何気ない会話に穏やかな笑みを浮かべ、いつもの二人に戻る。
「ああ、ごめん、お茶淹れるからお湯貰ってくるね」
「すまぬな」
エラゼルは慌てて部屋を駆け出していく友の背を見つめつつ、小さく吐息した。
熱湯の入ったポットを手に急いで戻ってきたラーソルバールは、すぐに茶を淹れてエラゼルに差し出した。
そして一呼吸をおいて、意を決したように口を開く。
「昨日届いた、宰相閣下からの封書の件なんだけど」
「……ふむ、やはりあの件か」
エラゼルは苦笑しつつ、茶の入ったカップに手をやる。
「エラゼルは前から知ってたんでしょ?」
「噂だけはな……。だがそこに誰の名が挙げられているかなどは知らなかった。姉上達か私、そしてファルデリアナあたりは入るだろうとは思っていたが……」
思い出したようにエラゼルは笑い出した。
「何でそこに私が入ってるの?」
「さあ……? 色々な思惑があるのだと思うが、ラーソルバールが入っていても、私は全く変だとは思わない。いや……ラーソルバールを知っているからこそ、当然だとさえ思う。……選ばれたことが嫌なのか?」
エラゼルは落ち着かせるようにカップに口をつけ、視線だけを向かいの友へ送る。茶の香りが波立つ心をゆっくりと癒していくように感じた。
「光栄なことではあるけど、私じゃないとは思う。エラゼルがどう思うかはともかく、私は貴女が一番ふさわしいしと感じるし、貴女がなるべきだと思ってる。……ゴメン、私……エラゼルの気持ちも考えずに……」
「構わない。私は元々公爵家の娘として、そういうことがあっても良いように教育されている。政略婚などというのは当然の世の中だからな」
エラゼルの言葉にラーソルバールは拳を握り締めた。
貴族社会、権力に塗れた家の中でデラネトゥス家は政争とは無縁な存在であり続けてきた。それでも、エラゼルは自由に相手を選ぶことすらできないのだろうか。
「貴女がなるべきとか言っておいて、勝手かもしれないけど。……エラゼルはそれで幸せになれると思う?」
「私の幸せ? ……ああ、あまり考えた事は無かった。ただ、ここで皆と一緒に居るのは楽しいし、これが幸せなのだとも思う。殿下のことはお慕いしているが、それが愛だの恋だのと言われても私には良く分からないのだ」
自嘲気味に語るエラゼルを見ていられず、その手にラーソルバールは自らの手を重ねた。
「私は、貴女に幸せになって欲しいと思っている。ずっと重圧に耐えてきたのだから、この先は幸せに生きて欲しい」
「そういうラーソルバールはどうなのだ? ……と、聞くまでもないか。ルクスフォールの御曹司が居るものな」
ふわりと優しい笑顔を浮かべるエラゼルに対し、ラーソルバールは何も言えず、赤くなって横を向く。
「だが、私は実は嬉しいのだ。ラーソルバールとまた、同じ舞台で競えるのだから」
「そんな事言って……」
「ふふ……私の宿敵であり続けてくれるのだろう?」
「あぁもう、分かりました!」
柔らかな表情でありながら真摯さの混じる瞳に見つめられ、ラーソルバールは逆らうことが出来なかった。
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