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第二部:第二十八章 行いと見返り

(一)囁く声③

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 午後の授業は荒れ地からの畑の作り形と、作物についての実地講義となった。
 土だらけになりながら楽しそうに作業をするエラゼルの姿に、思わずにやけるラーソルバール。
 ファルデリアナもエラゼルに負けじと真面目に作業を行っており、競争意識が良い方向に向いていることを感じさせた。
 特に問題もなく、クラス全体が順調に作業をこなしていく様子は、教師をして「他のクラスより非常に優秀」と言わしめた。

 帰り道。泥だらけになった制服を誇らしげに見せるエラゼルとは対照的に、ラーソルバールの表情はやや暗いものだった。
「どうした?」
 浮かない顔をするラーソルバールを気遣うように、エラゼルは足を止めた。
「うん……今日、時々なんだけど、刺すような視線を感じてね……」
「気のせいでは無いのだろう?」
 ラーソルバールは小さく頷く。
「さっきも校門の所で誰かに見られてた気がする……」
「まだ先日の件で遺恨を持っている人が居るのかな?」
 シェラも神妙な面持ちでエラゼルと顔を見合わせる。その瞬間だった。
「!」
 普段、街中で感じる事の無い程の魔力の動きを感じ、ラーソルバールは慌てて振り返る。だが相手を視認する前に魔法は放たれ、閃光を放つ球がラーソルバールに襲いかかった。
 反応が遅れ、対応が出来ない。避ければ誰かに当たる。いや、それ以前に避けきれない。
 瞬時に判断し、咄嗟に手にしていた鞄を盾がわりにする。
 前を歩いていたエミーナとフォルテシアだけでなく、隣にいたエラゼルもシェラも対応が出来なかった。
 バチバチッと激しい音が周囲に響き、ラーソルバールの悲鳴と混じり合う。
「ラーソル!」
 魔法の威力で後方に弾き飛ばされたラーソルバールに、シェラが慌てて駆け寄る。
「誰だっ……!」
 エラゼルは魔法が放たれた方を睨み、声を荒げる。周囲に居るのは騎士学校の生徒ばかり。騒然となった中でひとり、高笑いをする修学院の女子生徒が居た。
「ふふふふふ……やりましたよ、父上! あの女を殺しましたよ……皆の仇をとることができました! あははははははは……!」
笑い声は周囲に響き、その存在を際立たせた。
「おのれぇ!」
 エラゼルは叫びながら、力一杯地を蹴って一気に女子生徒との距離を詰める。エラゼルの接近など意に介さず、狂ったように高笑いを続ける相手の腹に、怒りに任せた右拳が叩き込まれた。
「ガッ……」
 一瞬だけ声を漏らし、殴り飛ばされて体をくの字に折り曲げたまま、女子生徒は地面に叩き付けられる。その反動で一度地を跳ねたあと、数回転がって止まった。
 女子生徒がぴくりとも動かなくなった事を確認すると、エラゼルは冷静になろうと、大きく息を吐く。
「皆、すまない。その女を捕らえておいてくれ」
 エラゼルの頼みに応えるように、近くに居た騎士学校の生徒達が転がっている女子生徒を拘束する。それを一顧だにせず、エラゼルは急いでラーソルバールのもとへ駆け寄る。
「ラーソルバール!」
 エラゼルの声に、ラーソルバールを抱え上げていたシェラが表情を曇らせた。
「呼んでも全然反応しないの……どうしよう……どうしたら……」
 シェラの目から涙が溢れる。
「ねえ、起きてよ……ラーソル……」
 傍らで、必死にフォルテシアとエミーナが傷を癒そうと魔法をかけている。それでも反応はない。
「僅かだけど、息はある……」
 半泣きになりながらフォルテシアが呟く。
「起きぬか、ラーソルバール! 私の宿敵がこんな所で倒れている場合か!」
 現実を受け入れたく無いのか、その体に触れようとせずに、エラゼルはただ立ち尽くす。こぼれ落ちた大粒の涙が敷石を濡らし、震える手は空を掴む。
「……起きろ、ラーソルバール……」
 弱々しい声は、周囲の喧騒にかき消された。
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