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閑話休題 その三

閑話休題 その三

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閑話休題 その三

 シェラは一年生が訓練に励む様子を見て、自らが一年生だった時分の事を思い出していた。

 本日は晴天。午後の授業は馬上戦闘。
 騎乗訓練も一通り終えたということで、次の段階らしい。
 今日の武器は馬上槍《ランス》ではなく、剣と小型の固定盾《バックラー》を使用したものとなっている。
 ここまではいい。馬上での武器の扱い方をも教えず「素養を見るから教官と模擬戦闘だ」とか、どれだけ無謀なことをやらせようとしているのか、分かっているのだろうか。
 当然、生徒達からは不満の嵐。
「馬上戦闘ね、あはー……」
 なんて言って遠い目をしていたラーソル。
 素早い動きと体術を駆使して戦う彼女にとって、動きが制限される馬上は不得手なのか。と、私は思った。
 地上戦闘では群を抜くラーソルだが、馬上ではどうか。教官にしたら彼女を叩きのめす絶好の機会なわけで、これを利用しない手は無い。予想通り真っ先に、ラーソルが指名された。
 武器を持っての馬上が慣れていないのは当然で、馬を操る姿が何となくぎこちない気がする。いや「何となく」なんです。
 普通なら、明らかに動作がおかしくなるはずなんです、ええ。私も先程試しにやってみたら、どう取り回せばいいのか良く分からず、危うく落馬するところでした。
 何となく、で済むはずがないんです。
 合図と共に馬体を併せての戦闘。ラーソルはふらつきながらも教官の剣を躱すと、反撃。こらこら、今のは誘い込むための仕掛けフェイントですか?
 間一髪で避けた教官は「脚を止めたままの戦闘なら誰でも出来る」とか捨て台詞を吐いて移動しつつの攻撃。実に大人気ない。それを剣で受け流すラーソルもラーソルだが、初心者相手に何してるんですか、教官殿。本気でやらないで下さいね。落馬したら大怪我しますから。
 盾で受けられ、剣で弾かれ、教官が段々と不機嫌になっていくのが分かる。
 試行錯誤していたラーソルも馬を動かし始めた。教官に寄せて行って攻撃。こら、貴女初心者でしょ?
 教官も思わぬ攻撃に、ちょっとバランスを崩した。そりゃあ、初心者相手ですから嘗めてかかっていたのでしょうが……。あ~あ、おかげで教官の目の色変わっちゃったよ。
 今度は教官がすれ違いざまに、二回剣を振るったけれどラーソルに軽く弾かれた。悔しかったのか、今度は勢いをつけて突撃。それ本気だよね、教官殿。本当に大人気ない。
 その突撃を躱すと、ラーソルは反撃。間一髪避けた教官だけど、諦めたのか「見本は終わりだ。次からは順番だ」と切り上げ宣言。ついでに舌打ちしたでしょ、聞こえたぞ。
 でもね、嫌な予感がするよ。ご機嫌斜めな教官殿が何をする気やら。
 戻ってきたラーソルは「難しいね~、私には向かないわ」と苦笑い。こら、どの口がそれを言うか。初回があれで駄目なら、私は絶望ものだよ。
 教官が苛立ってるのは遠くからでも分かるし、少なくとも最初には呼ばれたくないなぁ。

 嫌な予感は的中した。
 私の順番こそまだ来ないが、ラーソルの後に呼ばれた三人が教官に叩きのめされた。素行がよろしくない連中なので、同情はあまりしないが、鬱憤晴らしに使われたようだ。
 そこまでやって我に返ったのだろうか。全然駄目だから、とりあえず基礎からやるぞ、と模擬戦を中断。
 そんなこと最初から分かってますよ。教官殿ができると思った根拠は何ですか。この娘は例外ですからね。

 その後は本当に、武器を手にしたままの騎乗、馬上での素振と、基礎からの練習となりました。家でやった事があると吹聴していた輩も、皆と大差ない様子。やっぱり基本が分からないと出来ないよね。
 ラーソルを見ると、何やらぶつぶつ言いながら試行錯誤している。基礎をやるんだよ、基礎を。あなた応用考えながら基礎をやってるでしょ。今そこで手首の反しとか要らないから!
 剣と乗馬の基礎がしっかり出来ているから、二つを合わせた馬上戦闘もそれなりにできてしまうのかな。あの娘は何でもこなす天才みたいに思われているけど、実際は物凄く基礎をやり込んで下地が出来ているから、応用が上手くこなせているんだろうな。とはいえ、センスが無ければそこまで行かないだろうし、やっぱり普通じゃ無いんだろうな。
 ……ちょっとうらやましいな。

 そんな事を思っていたけれど、今の自分は少し成長したんだろうか。
 よし、今日は寮に戻ったら、初心に帰ってフォルテシアと稽古しようかな……。
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