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第二部:第二十六章 価値

(三)新入生②

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「ときに、シェラやフォルテシアはどうした?」
 朝食を手に配膳カウンターから戻ってきたエラゼルは、不思議そうに問うた。
「いや……、あの二人は私達と違って、もっと早くに来て食べ終わってるでしょ。もう朝食の時間も終わりだし」
「それは納得だが、私は本を読んでいただけで、朝が弱いのはラーソルバールだけなのだから、一緒にしないで欲しい」
 不本意ながら、エラゼルの言う事が正しい。旅の間、最後に起き出してきたのは、ほぼいつもラーソルバールだったからだ。
「うん、朝が弱いのは否定しないよ……」
「良く学校に遅刻しないものだと思うぞ」
「ひひ……。今は慣れてきたけど、入学したての頃はシェラに起こして貰ってた」
 照れ隠しのように笑みを浮かべると、エラゼルが呆れてため息をつく。
「全く……、だから始業前に教室を覗いても居ない事が多かったのか」
 あまりにも意外な言葉に、ラーソルバールは一瞬きょとんとする。
「なに? その頃から気にしてくれてたの?」
「あ……いや、宿敵だからだな、相手の動向を調べるのも……」
 照れ隠しするように下を向くと、パンをちぎって食べる。公爵令嬢という肩書きをどこかに置いてきたような所作を見ていると楽しいし、嬉しい。
「そういえば皆が課外活動を終えて帰ってきたら、学園交流期間というものに入るらしいのだが、知っているか?」
 エラゼルは誤魔化すように話題を変えた。特に前の話にこだわる必要も無いので、その話に乗ってみる。
「期間中は『王国立エイルディア修学院』に通って勉強する事になるって書いてあったよ」
 学院の名を聞いたエラゼルは眉間にしわを寄せ、あからさまに嫌そうな顔をする。
「なに? どうしたの?」
「先日の反乱が有った後だから、今どうなっているかは分からぬが、修学院は上級貴族の子女が仕切る派閥がいくつか有って、幅を利かせていて、時折対立したりすると聞いた事がある」
「うわ、面倒臭そう……。んー、でもエラゼルなら何の心配も要らないでしょ。公爵家の娘なんだから……」
 渋い表情のまま、エラゼルはラーソルバールを見る。
「元々私は公爵家という恩恵のもと、派閥などとは無縁で生きてきた身だからひとりだろうと気にはしない。……だが私は良いとしても、他の者達はどうなる」
 力の無い者ならば派閥間の面倒事に巻き込まれたり、派閥から弾かれて苦労を強いられたりする可能性も否定できない。そこに配慮するようになった分、エラゼル自身が大きく成長している証であるし、またそうした性格の変化は、周囲にも良い影響を与えている。
「あくまでも噂だけだけでしょ。実際はどうか分からないよ。ああ、でも本当ならエラゼルに寄ってくる人も増えそうだね」
「それを言うな。考えただけで気が滅入る」
 面倒事の中心に据えられたりするのも嫌だし、公爵家に擦り寄ってくる人間の相手などしたくは無い、という事だろう。憂鬱そうにする友を見て、ラーソルバールはくっくと笑い、エラゼルは深いため息でそれに応じた。
 交流期間中は救護学園や魔法学院なども一緒なのだろうか。二人に聞いておけば良かったと、少し後悔する。エラゼルに聞こうと思ったが、あまり交流期間の話に触れると可哀想なので、聞くのを止めて話を変える。
「他の生徒が戻ってくるまで十日程有るけど、いつ軍務省から呼び出しが有るか分からないから、何処へも行けないよね」
「それなんだが、私達はその十日間、何をしていれば良いのだ? そもそも休暇なのか?」
 前日に会ったとき、校長は何も言わなかった。元よりこんなに早く戻ってくるとは思っていなかったのだろうが、何も言われないということは疲れを取れという事なのか。
「とりあえず今日明日くらいは休みだろうから、実家に帰還報告しないとね」
 ラーソルバールは、パンの最後のひとかけを口に放り込んだ。
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