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第二部:第二十六章 価値
(一)ブルテイラ事件①
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(一)
「誠でございますか!」
「おお、不要な娘はくれてやる。妾でも奴隷でも好きなようにすれば良い」
囚われていた建物から脱出しようとしていたラーソルバール達だったが、男達の声がしたため緊張に顔を強張らせた。
隠れようにも、監禁されていたような小部屋は狭くて戦い難く、入口を塞がれれば何もできなくなる。この人数ではどうにもならなかった。
声がしてから間も無く、何の策も無いまま三人の兵を伴ったデンティーク子爵と遭遇してしまった。
「どういう事だ! 何故、女どもが部屋の外に居るのか」
デンティークの怒気を含んだ声を聞きつけ、警備兵が駆けつけてきた。
(六人……)
ラーソルバールはどうすれば脱出できるかを考える。
兵士を打ち倒すにしても、相手の人数を考えれば、解放した五人の娘を守りながらの戦闘は簡単なことではない。鎧を着た者もおり、生半可なことでは対処できるとも思えなかった。
「デンティーク子爵!」
「あん?」
エラゼルがラーソルバールが思案している間に声を上げた。
「どういうつもりで皆を監禁していたのですか!」
外向きな言葉で、公爵家の令嬢たる風格をもって問い質す。その勢いにデンティークは気圧されたものの、歯を食い縛り睨み返す。
「どうもこうもない、お前らは奴隷で、私の夜伽の相手をさせるだけだ。逃げれば命は無い」
何故、あの娘は初対面であるはずの自分の事を知っているのか。疑問を抱えつつも、表情には出さない。苛立ちを隠すようにデンティークが手で合図をすると、兵士は剣を抜き放ち、女達を威圧する。
「綺麗な娘共だから、手荒な真似はしたくないのだがなぁ」
下卑た笑いを浮かべ、兵士と共にじりじりと距離を詰める。
四人程が並んで歩ける程の幅が有る廊下を、ラーソルバールを中央に、左右にエラゼルとシェラが並び、後ろの娘達を守るように壁を作る。戦闘には不慣れなディナレスは魔法援護のため、ラーソルバールの斜め後ろに控えた。
短剣とナイフは二人に持たせ、ラーソルバールは外した手枷を武器代わりに手にしていた。
「取り押さえろ!」
デンティークの声と共に、兵士三人が飛びかかる。
「聖なる障壁!」
エラゼルとシェラは声を合わせるように、予備詠唱無しで魔法を発動させた。
兵士二人は勢い良く突っ込んだ分、魔法の壁に大きく弾かれた。残った一人だけが壁の間をすり抜け、ラーソルバールへと迫る。
「武器に祝福を!」
ディナレスの声と共に、ラーソルバールの持つ手枷が僅かに光を帯びる。
「これ、武器じゃないよ……」
そう苦笑いしつつ、斬り込んできた兵士の剣を手枷で軽く受け流すと、一瞬で絡めとる。
「なっ……」
あまりの出来事に兵士が驚いた所を、前蹴りで弾き飛ばす。
「ぐぁぁぁ!」
兵士はデンティークの眼前まで転がり、意識を失った。ラーソルバールがそれなりに体内魔力を加えて蹴ったので、しばらくは起き上がる事は出来無いだろう。
「全く、足癖が悪い……」
エラゼルが呆れたように言いながら笑った。
「良く言われます」
前方を睨んだまま剣を拾い上げ、使い終わった手枷を床に置く。更に向かって来ようとする兵士に向かって剣を構えた。
手持無沙汰だったディナレスは、ラーソルバールの置いた手枷をそっと手に取る。そして驚いた。
「なんで木製なのに、あれで傷がついてないの?」
「ん? 魔法付与のおかげじゃないの?」
さも当然のような答えが返ってきたが、そんなはずはない。魔力を纏わせる際に、多少は物質を硬化させるかもしれないが、金属の剣と衝突すれば傷が付かない筈がない。
どれだけの技量に裏打ちされた芸当なのか。
ラーソルバールが二人目の兵士の剣をからめとり、柄で打ち倒した直後。
「旦那様!」
血相を変えて執事が飛び込んできた。
執事が何やら耳打ちすると、明らかにデンティークに動揺の色が見えた。
「こんな時に……分かった、すぐ戻る。お前はこの女達を逃さぬよう、兵を集めろ」
「畏まりました」
デンティークは苛立たしげにラーソルバール達に背を向けると、兵を残して去って行った。
「誠でございますか!」
「おお、不要な娘はくれてやる。妾でも奴隷でも好きなようにすれば良い」
囚われていた建物から脱出しようとしていたラーソルバール達だったが、男達の声がしたため緊張に顔を強張らせた。
隠れようにも、監禁されていたような小部屋は狭くて戦い難く、入口を塞がれれば何もできなくなる。この人数ではどうにもならなかった。
声がしてから間も無く、何の策も無いまま三人の兵を伴ったデンティーク子爵と遭遇してしまった。
「どういう事だ! 何故、女どもが部屋の外に居るのか」
デンティークの怒気を含んだ声を聞きつけ、警備兵が駆けつけてきた。
(六人……)
ラーソルバールはどうすれば脱出できるかを考える。
兵士を打ち倒すにしても、相手の人数を考えれば、解放した五人の娘を守りながらの戦闘は簡単なことではない。鎧を着た者もおり、生半可なことでは対処できるとも思えなかった。
「デンティーク子爵!」
「あん?」
エラゼルがラーソルバールが思案している間に声を上げた。
「どういうつもりで皆を監禁していたのですか!」
外向きな言葉で、公爵家の令嬢たる風格をもって問い質す。その勢いにデンティークは気圧されたものの、歯を食い縛り睨み返す。
「どうもこうもない、お前らは奴隷で、私の夜伽の相手をさせるだけだ。逃げれば命は無い」
何故、あの娘は初対面であるはずの自分の事を知っているのか。疑問を抱えつつも、表情には出さない。苛立ちを隠すようにデンティークが手で合図をすると、兵士は剣を抜き放ち、女達を威圧する。
「綺麗な娘共だから、手荒な真似はしたくないのだがなぁ」
下卑た笑いを浮かべ、兵士と共にじりじりと距離を詰める。
四人程が並んで歩ける程の幅が有る廊下を、ラーソルバールを中央に、左右にエラゼルとシェラが並び、後ろの娘達を守るように壁を作る。戦闘には不慣れなディナレスは魔法援護のため、ラーソルバールの斜め後ろに控えた。
短剣とナイフは二人に持たせ、ラーソルバールは外した手枷を武器代わりに手にしていた。
「取り押さえろ!」
デンティークの声と共に、兵士三人が飛びかかる。
「聖なる障壁!」
エラゼルとシェラは声を合わせるように、予備詠唱無しで魔法を発動させた。
兵士二人は勢い良く突っ込んだ分、魔法の壁に大きく弾かれた。残った一人だけが壁の間をすり抜け、ラーソルバールへと迫る。
「武器に祝福を!」
ディナレスの声と共に、ラーソルバールの持つ手枷が僅かに光を帯びる。
「これ、武器じゃないよ……」
そう苦笑いしつつ、斬り込んできた兵士の剣を手枷で軽く受け流すと、一瞬で絡めとる。
「なっ……」
あまりの出来事に兵士が驚いた所を、前蹴りで弾き飛ばす。
「ぐぁぁぁ!」
兵士はデンティークの眼前まで転がり、意識を失った。ラーソルバールがそれなりに体内魔力を加えて蹴ったので、しばらくは起き上がる事は出来無いだろう。
「全く、足癖が悪い……」
エラゼルが呆れたように言いながら笑った。
「良く言われます」
前方を睨んだまま剣を拾い上げ、使い終わった手枷を床に置く。更に向かって来ようとする兵士に向かって剣を構えた。
手持無沙汰だったディナレスは、ラーソルバールの置いた手枷をそっと手に取る。そして驚いた。
「なんで木製なのに、あれで傷がついてないの?」
「ん? 魔法付与のおかげじゃないの?」
さも当然のような答えが返ってきたが、そんなはずはない。魔力を纏わせる際に、多少は物質を硬化させるかもしれないが、金属の剣と衝突すれば傷が付かない筈がない。
どれだけの技量に裏打ちされた芸当なのか。
ラーソルバールが二人目の兵士の剣をからめとり、柄で打ち倒した直後。
「旦那様!」
血相を変えて執事が飛び込んできた。
執事が何やら耳打ちすると、明らかにデンティークに動揺の色が見えた。
「こんな時に……分かった、すぐ戻る。お前はこの女達を逃さぬよう、兵を集めろ」
「畏まりました」
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