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第二部: 第二十四章 胸の内にあるもの

(二)報告と……②

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 探索についての一連の報告を終えると、略奪品回収の段に移る。
「で、回収するのに、庭に出てきてどうするんだい?」
 アシェルタートは状況が飲み込めず、首を傾げるばかりだった。
「ここと常闇の森の遺跡を繋ぐ門を開きます。その門を通り、必要な物を回収していただきます」
「門?」
「遺跡にあった古代の術なのですが、これを盗賊達が悪用していました。今後、同じような事件が起きぬよう、今回の使用を最後に破棄させていただきます。ですから、これから行う事は忘れてください」
 ラーソルバールの説明に、隣に立つボルリッツは黙って頷いた。
「では、回収は、僕と、ボルリッツと、マスティオ、それから、警護兵の二人で行う。それで良いかい?」
「はい、私共が混ざれば、回収すべき品を着服してしまうかもしれませんので」
 ラーソルバールは悪戯っぽく笑う。その様子に思わずアシェルタートは見とれてしまった。
「そんな事をするくらいなら、わざわざ報告しないんじゃないかな?」
 動揺を隠すように、ラーソルバールから顔を背ける。
「ふふ、もう頂いているかもしれませんよ」
「だとさ、アシェル。どうする?」
「どうもしません。ボルリッツさんも一緒に居たくせに意地の悪い事を言いますね。冗談はいらないので、始めてください」
 からかい過ぎると可哀想だと思ったのだろう、ボルリッツはモルアールに目で合図を送る。同じくラーソルバールも無言で頷くと、モルアールは闇の門を開いた。

 ボルリッツの案内の下、速やかに略奪品の回収と、盗賊の死体の確認が行われた。
 その間、言葉通りラーソルバール達は何もせず、邸宅の庭でただ座って待っていた。
「思ったよりも多くて驚いたよ。彼らはこれだけの金や貴金属といった財を集めてどうするつもりだったのか……」
 全て運び終えた後、アシェルタートが口にした言葉はラーソルバールが抱いた疑問と同じだった。
「さあ、何でしょうね。自分達の国……楽園ですかね?」
 門を閉じ、石を回収するモルアールの姿を目で追いつつ、ラーソルバールは自分の出した答えを口にする。
「金と奴隷をかき集めて、国……か? 確かに答えとしてはそれが一番しっくりくるな。だが……もしそうだったとしたら、彼らは国や領地というものを随分と軽く考えていたのだろな」
 目の前にある貴金属を見つめつつ、アシェルタートは憐れむような表情を浮かべる。
 金があり、人が居れば国は形成される。だが、それだけで国の体を成して行くはずもない。恐怖による隷属を国民に強いるような、心を置き去りにした国家などはすぐに滅ぶ。その事は領主の代行をしている上で見に染みているのだろう。
 アシェルタートの横顔を見つめていたラーソルバールだったが、微笑んだ後で心を整理するように小さく息を吐いた。
「さて、馬もお返ししましたし、この一件も片付きました。解放した方々の件も、安心できるお言葉を頂きました。私共は、これで失礼させて頂きますね」
 ラーソルバールの言葉に、エラゼルとシェラが驚いたように振り向く。声には出さなかったが、「何も言わずに帰るつもりか」と顔に出るほどの反応だった。
 だが、制止をしたのは二人ではなかった。
「いや、待ってくれ。何を言っているんだ、領内を苦しめる盗賊を退治してくれたばかりか、この街への被害も未然に防いでくれた恩人を、ただ黙って帰したとあっては、我が家は何と恥知らずな者達よと笑いものにされてしまう。数日でいい、我が家に逗留していってくれないか」
 言い終わると、アシェルタートは頭を下げた。
 門石がこの街にも有り、もしかしたら襲われていたかもしれないと、ボルリッツに教えられた時にはアシェルタートは背筋に寒いものを感じた。他の街なら良いのかという訳ではないが、やはり目の前で生まれ育った街が荒らされるというのは、きっと耐え難い苦痛に違いない。それを未然に防いでくれた事には感謝しかない。
 加えて、目の前の人物に去って欲しくないという、個人的な我が儘でもあった。
「ずるいですよ……ご領主を代行する方に頭を下げられたら、断れる訳が無いじゃないですか……」
 僅かに逡巡する様子を見せたものの、ラーソルバールは微笑みを浮かべつつ、その要望に応えた。
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