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第二部: 第二十四章 胸の内にあるもの
(一)ひとつの区切り①
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(一)
「現実というものは、想像とは全く違う結末を迎えるものなのだな……」
エラゼルはファタンダールの死体を見下ろし、感情を抑えたように淡々と言葉にした。
「そうだね……」
ラーソルバールは短く答えると、死体の近くにしゃがみこんだ。二人の思う事は同じ。自分達の手で決着を付けたかった、ということ。
「案外、これは我々を欺くためのもので、本人は何処かで嘲笑っているやもしれぬ」
煮え湯を飲まされ続けた相手だけに、眼前の出来事を素直に信じられない。だが、エラゼル自身、口で言うような事は無いと十分に理解している。
「でも、これでようやく一区切り、かな……」
ラーソルバールは自分に言い聞かせるように呟いた。
区切りであって終わりではない。この男によって辿るべき道を変えられてしまった人々が居る。そう、会って「全て元に戻せ」と言ってやりたいと、何度思ったか知れない。
自分には全てを元の道に戻す力などは無い。だが、少しずつでも戻す手助けをしよう。それが、これからの自分の役目だ。
エラゼルと視線を合わせ、無言で頷く。この相手との因縁はここで終わりだ、と。
「オーガにやられたのか?」
近くに転がるオーガの死体を見やり、モルアールが誰にとは無く問いかける。
「うーん、一因ではあるかもしれないけど、直接の死因は毒かな」
ディナレスは救護院の授業で、死体から死因を読み取る知識を学んでいる。主に流行り病による死者の拡大を防ぐためのものだが、毒薬や中毒性のある物を食した場合などの見分け方も併せて教えられており、その知識が役立つ形になった。
「良く分かるものだ……」
感心したようにフォルテシアが覗き込む。
「毒、という事は、誰かによって殺害されたという事か?」
王になるとまで言った男が、自殺するなどとは考えられない。だが、自分達以外の誰かを見た訳でもないし、逃げた盗賊達の仕業とも思えない。だが、確実に何者かがこの死に関与している。モルアールは背筋に寒いものを感じた。
男を利用していた帝国が、不要になった為に切り捨てたと考えるのが正しいのだろうが……。
「嬢ちゃん達の仕事はこれで終わりか?」
黙って見ていたボルリッツは、頃合いを見計らったようにラーソルバールに問いかける。
「あとはこの男が何をしていたか、です」
「そうか……、分かった。もう少し付き合うか。……と、それはさておき、さっき、エリゼ嬢ちゃんがラーなんとか叫んでたのはどういう意味だ?」
ボルリッツはエラゼルの顔を見る。
「ん? そんな事を言ったか?」
エラゼルも不思議そうに首を傾げる。咄嗟の事だけに本当に覚えていないのか、演技なのか分からないような反応に、ラーソルバールは思わず苦笑してしまった。
「暗くなる前に出来ることはしておきたいが、今は少しだけ休もうか」
ガイザの言葉に皆が頷く。疲労に加え、全員が軽くはない怪我をしており、今は使命感だけで動いている状態だった。
ディナレスも既に治癒を行う余力は無く、騎士学校の面々は日頃の魔法訓練の成果を試されるかのように、治癒魔法を繰り返す事になる。
「逃げた連中が戻ってくるかも知れねえ。ちょっと見てくるわ」
怪我の治療もそこそこに、ボルリッツは土壁の切れ目へと歩いて行った。
「いいの? 一人で行かせて」
シェラはボルリッツを視線で追いながら、尋ねる。
「信用して大丈夫だし、盗賊相手に負けるような人じゃないよ」
疲れを隠すように、ラーソルバールは微笑みながら友に答える。
刀傷はほぼ無いものの、シェラはモルアールの転倒に巻き込まれて頭部を石畳に打ち付けているため、そちらの方が心配だった。その事を口にした時には、自分は何もしていないから、と他人の怪我のばかりを方を気にしてたので、大丈夫かとは聞き辛い。
「そう……。ああ、そうだ、これでようやくラーソルもあの人と向き合う事ができるね」
シェラは少々悪戯っぽく笑った。
「現実というものは、想像とは全く違う結末を迎えるものなのだな……」
エラゼルはファタンダールの死体を見下ろし、感情を抑えたように淡々と言葉にした。
「そうだね……」
ラーソルバールは短く答えると、死体の近くにしゃがみこんだ。二人の思う事は同じ。自分達の手で決着を付けたかった、ということ。
「案外、これは我々を欺くためのもので、本人は何処かで嘲笑っているやもしれぬ」
煮え湯を飲まされ続けた相手だけに、眼前の出来事を素直に信じられない。だが、エラゼル自身、口で言うような事は無いと十分に理解している。
「でも、これでようやく一区切り、かな……」
ラーソルバールは自分に言い聞かせるように呟いた。
区切りであって終わりではない。この男によって辿るべき道を変えられてしまった人々が居る。そう、会って「全て元に戻せ」と言ってやりたいと、何度思ったか知れない。
自分には全てを元の道に戻す力などは無い。だが、少しずつでも戻す手助けをしよう。それが、これからの自分の役目だ。
エラゼルと視線を合わせ、無言で頷く。この相手との因縁はここで終わりだ、と。
「オーガにやられたのか?」
近くに転がるオーガの死体を見やり、モルアールが誰にとは無く問いかける。
「うーん、一因ではあるかもしれないけど、直接の死因は毒かな」
ディナレスは救護院の授業で、死体から死因を読み取る知識を学んでいる。主に流行り病による死者の拡大を防ぐためのものだが、毒薬や中毒性のある物を食した場合などの見分け方も併せて教えられており、その知識が役立つ形になった。
「良く分かるものだ……」
感心したようにフォルテシアが覗き込む。
「毒、という事は、誰かによって殺害されたという事か?」
王になるとまで言った男が、自殺するなどとは考えられない。だが、自分達以外の誰かを見た訳でもないし、逃げた盗賊達の仕業とも思えない。だが、確実に何者かがこの死に関与している。モルアールは背筋に寒いものを感じた。
男を利用していた帝国が、不要になった為に切り捨てたと考えるのが正しいのだろうが……。
「嬢ちゃん達の仕事はこれで終わりか?」
黙って見ていたボルリッツは、頃合いを見計らったようにラーソルバールに問いかける。
「あとはこの男が何をしていたか、です」
「そうか……、分かった。もう少し付き合うか。……と、それはさておき、さっき、エリゼ嬢ちゃんがラーなんとか叫んでたのはどういう意味だ?」
ボルリッツはエラゼルの顔を見る。
「ん? そんな事を言ったか?」
エラゼルも不思議そうに首を傾げる。咄嗟の事だけに本当に覚えていないのか、演技なのか分からないような反応に、ラーソルバールは思わず苦笑してしまった。
「暗くなる前に出来ることはしておきたいが、今は少しだけ休もうか」
ガイザの言葉に皆が頷く。疲労に加え、全員が軽くはない怪我をしており、今は使命感だけで動いている状態だった。
ディナレスも既に治癒を行う余力は無く、騎士学校の面々は日頃の魔法訓練の成果を試されるかのように、治癒魔法を繰り返す事になる。
「逃げた連中が戻ってくるかも知れねえ。ちょっと見てくるわ」
怪我の治療もそこそこに、ボルリッツは土壁の切れ目へと歩いて行った。
「いいの? 一人で行かせて」
シェラはボルリッツを視線で追いながら、尋ねる。
「信用して大丈夫だし、盗賊相手に負けるような人じゃないよ」
疲れを隠すように、ラーソルバールは微笑みながら友に答える。
刀傷はほぼ無いものの、シェラはモルアールの転倒に巻き込まれて頭部を石畳に打ち付けているため、そちらの方が心配だった。その事を口にした時には、自分は何もしていないから、と他人の怪我のばかりを方を気にしてたので、大丈夫かとは聞き辛い。
「そう……。ああ、そうだ、これでようやくラーソルもあの人と向き合う事ができるね」
シェラは少々悪戯っぽく笑った。
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