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第二部:第二十三章 剣が語るもの
(四)友と国を守るための剣③
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「まだだ……。まだやり直せる……」
ファタンダールの腕から血が滴り落ちる。
他にも体の各所に裂傷がある。魔法の暴発対策をしていたとはいえ、さすがに無傷という訳にはいかなかった。全身に痛みがあるが、まだ動ける。
調査に使っていた部屋は、先程の石壁で損壊した可能性があるが、まだ盗賊達の小屋に行けば、治癒薬や門石があるはず。
小娘達が追ってくる様子もない。
大丈夫だ……、そう思った時、ファタンダールは足元に、引きずられたような血の痕とともに、盗賊の死体が転がっているのを見つけた。
「何故こんな場所に?」
疑問に思った瞬間だった。突然、石壁の背後から大きな腕が伸びてくると、避ける間もなくファタンダールの脚を掴んだ。
直後に、ゴキッと鈍い音がして脚部に激痛が走る。
「ぐぁぁぁ!」
骨が折れた。ファタンダールは自覚した。
そして視界に入った光景に愕然とする。腕の主は下僕であったオーガ。顔面を焼かれたオーガは、這うように動きながら物音を頼りに獲物を探していたのだった。
そう、エラゼルが盗賊の障害にと、止めを刺さずに放置したオーガである。このオーガは視界を失い、ファタンダールを主人と認識することができずに、ただの獲物として捕らえたに過ぎない。
「離せ、この下等生物が!」
痛みが走り精神も集中できない中、ファタンダールが怒りに任せて腕を振り下ろすと、風が唸りを上げてオーガの指を切り落とした。続けざまに腕を振り上げると、風は再び刃となって、憐れなオーガの首と胴体を切り離した。
「こんな所で死ねるか……私は王になる男だ。ヴァストールも帝国も全て手に入れる……」
オーガの腕から解放されたファタンダールは、脚をひきずりながら、盗賊達の小屋を目指す。その背後を一匹の蛾がふわりと舞った。
「おやおや、貴方の真意はやはりそこでしたか……」
「……! 誰だ!」
突然の声に、ファタンダールは声を荒げる。先程の小娘たちではなく、成人した男の声、それも聞き覚えのあるもの。
「誰だとは、心外ですね」
「その声はカディアか! 何処にいる!」
ファタンダールは声のする方を見るが、誰も居ない。
「おや、今までお気付きでなかったのですか? 大魔法使いを自称される貴方が」
「何?」
挑発され、苛立ちを隠そうともせず空を睨む。その視界の端で蛾が踊り、鱗粉が僅かに風に揺れた。
「私の使い魔であるこの蛾で、時折貴方を監視していました。貴方と話しているのもこの蛾を通しての事。そして先程までの様子も見ていました。ですから……、帝国に害を為そうとする貴方の時間はここで終わりにしなければなりません。……では、さようなら」
「何だ……と……! ……ぐぁ……」
喉を押さえながらもがく様に天を仰ぎ、ファタンダールは何も無い空間を掴むように手を伸ばすと、そのまま絶命し地に倒れた。
掴みたかったのは己の夢か、死へと誘う蛾だったのか……。
石壁を迂回し、ファタンダールの行方を追っていたラーソルバール達が、その遺体を発見したのは、死後間もなくのことである。
「やれやれ、閣下に報告せねばならないな……」
帝都にある建物の一室で、少し冷めかかった茶を口に運ぶと、カディアは憂鬱そうに椅子から立ち上がる。蛾を通して見た男の最後に、何の感慨も無い。
「これから先、奴の尻拭いをしなくて済むだけマシか……。いずれにせよ、今しばらくはヴァストールに手出ししない方が、閣下のご意向に沿えるかな……」
カディアは大きくため息をついた。
ファタンダールの腕から血が滴り落ちる。
他にも体の各所に裂傷がある。魔法の暴発対策をしていたとはいえ、さすがに無傷という訳にはいかなかった。全身に痛みがあるが、まだ動ける。
調査に使っていた部屋は、先程の石壁で損壊した可能性があるが、まだ盗賊達の小屋に行けば、治癒薬や門石があるはず。
小娘達が追ってくる様子もない。
大丈夫だ……、そう思った時、ファタンダールは足元に、引きずられたような血の痕とともに、盗賊の死体が転がっているのを見つけた。
「何故こんな場所に?」
疑問に思った瞬間だった。突然、石壁の背後から大きな腕が伸びてくると、避ける間もなくファタンダールの脚を掴んだ。
直後に、ゴキッと鈍い音がして脚部に激痛が走る。
「ぐぁぁぁ!」
骨が折れた。ファタンダールは自覚した。
そして視界に入った光景に愕然とする。腕の主は下僕であったオーガ。顔面を焼かれたオーガは、這うように動きながら物音を頼りに獲物を探していたのだった。
そう、エラゼルが盗賊の障害にと、止めを刺さずに放置したオーガである。このオーガは視界を失い、ファタンダールを主人と認識することができずに、ただの獲物として捕らえたに過ぎない。
「離せ、この下等生物が!」
痛みが走り精神も集中できない中、ファタンダールが怒りに任せて腕を振り下ろすと、風が唸りを上げてオーガの指を切り落とした。続けざまに腕を振り上げると、風は再び刃となって、憐れなオーガの首と胴体を切り離した。
「こんな所で死ねるか……私は王になる男だ。ヴァストールも帝国も全て手に入れる……」
オーガの腕から解放されたファタンダールは、脚をひきずりながら、盗賊達の小屋を目指す。その背後を一匹の蛾がふわりと舞った。
「おやおや、貴方の真意はやはりそこでしたか……」
「……! 誰だ!」
突然の声に、ファタンダールは声を荒げる。先程の小娘たちではなく、成人した男の声、それも聞き覚えのあるもの。
「誰だとは、心外ですね」
「その声はカディアか! 何処にいる!」
ファタンダールは声のする方を見るが、誰も居ない。
「おや、今までお気付きでなかったのですか? 大魔法使いを自称される貴方が」
「何?」
挑発され、苛立ちを隠そうともせず空を睨む。その視界の端で蛾が踊り、鱗粉が僅かに風に揺れた。
「私の使い魔であるこの蛾で、時折貴方を監視していました。貴方と話しているのもこの蛾を通しての事。そして先程までの様子も見ていました。ですから……、帝国に害を為そうとする貴方の時間はここで終わりにしなければなりません。……では、さようなら」
「何だ……と……! ……ぐぁ……」
喉を押さえながらもがく様に天を仰ぎ、ファタンダールは何も無い空間を掴むように手を伸ばすと、そのまま絶命し地に倒れた。
掴みたかったのは己の夢か、死へと誘う蛾だったのか……。
石壁を迂回し、ファタンダールの行方を追っていたラーソルバール達が、その遺体を発見したのは、死後間もなくのことである。
「やれやれ、閣下に報告せねばならないな……」
帝都にある建物の一室で、少し冷めかかった茶を口に運ぶと、カディアは憂鬱そうに椅子から立ち上がる。蛾を通して見た男の最後に、何の感慨も無い。
「これから先、奴の尻拭いをしなくて済むだけマシか……。いずれにせよ、今しばらくはヴァストールに手出ししない方が、閣下のご意向に沿えるかな……」
カディアは大きくため息をついた。
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