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第二部:第二十三章 剣が語るもの

(二)心と森と仲間と②

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 翌朝、準備を整えると、一行は早々に宿を後にする。
 昨晩は、夕食後にボルリッツを除き、全員が一部屋に集まって情報の共有を行った。
 まず、ボルリッツに対して国籍や大まかな目的については話したが、身分や本名、そして探索の詳細な目的については話していないこと、ボルリッツが補助以外にも何か目的を抱えているに違いないという事を告げた。
 誰もがそれを淡々と受け止め、異論を挟むことは無かった。それが道中で相互の信頼と結束が強まったという事の証明なのかもしれない。

 街を離れ、森に入ると未探査の遺跡を目指す。半分近くを調べたとはいえ、あくまでも地図に記載されたものだけ。未発見であったり、意図的に記載されていないものが無いとも限らない。
 そういうのが探し出せるような便利な魔法が有れば良いのに、とディナレスがぼやいた直後に、モルアールに頭を軽く叩かれた。都合の良い便利な魔法など有るものか、という事だろう。

 二刻程歩き、三度の戦闘を挟んだ後、小さな遺跡を発見するが、何も目ぼしい物は無く探索を早々に切り上げる。
 そのまま北上して、次の遺跡へと向かう。
「次はガランシャー伯爵領に入る?」
「そうだね。この辺には遺跡は無いから境界を越えるね」
「何故遺跡にこだわる?」
 シェラとラーソルバールの会話を聞いていたボルリッツは疑問を口にする。
「……今は理由を申し上げられません」
「分かった。今は、ってことは終わったら話してくれるんだろう?」
 その問いにラーソルバールは沈黙した。

 そして半刻ほど歩いたところで、足元に切り出されたような石が散らばる場所を発見する。
「遺跡の残骸のようだが、地図に記載は有るのか?」
 石の様子を見ながら、エラゼルが訝しげに首を傾げる。
「無いね……」
「ふむ……」
 周囲を見回していたエラゼルが表情を変える。
「向こうに僅かに何かの光が見える。ランタンは向こうから見えないようにして足元だけ照らして、進むか」
「これ、当たりかもね」
 シェラはランタンの光を絞りつつ、やや興奮気味に言った。
 警戒を強め、光の有る方へと慎重に進む。
「ランタンを消して」
 暗闇の中、足下が見え辛いが、やむを得ない。ゆっくりと進むと、木々の隙間から見えてきたのは、陽光が差し込む空間だった。
 目を凝らすと、何かが僅かに動くのが見えた。
「何かが居る……」
「人か?」
 先頭を歩く二人は警戒の度を強める。
 向こうは先程までのランタンの光に気付いた様子は無い。気配を殺しつつ、ジリジリと近寄る。
「あれは帝国兵では無さそうだな」
「見えるだけで二人。赤いマフラー?」
「赤いマフラーだと?」
 ラーソルバールとエラゼルの会話に、ボルリッツが食い付いた。
「何か?」
「最近この近隣の領内を荒らし回る盗賊共がそんな姿をしていると聞く。盗み、殺し、放火と悪事の限りを尽くす連中で、突然現れたかと思うと、警備兵が駆けつける前に消え失せるという、厄介な奴ららしくてな……」
「……!」
「当たりだ!」
 エラゼルとラーソルバールは顔を見合わせ、同時に頷いた。
 ボルリッツは何事か理解が出来ずに、ラーソルバールの肩に手を乗せる。
「何だ、どいういう事だ?」
「そやつらは恐らく、闇の門と呼ばれる物を利用している。我々が探しているのも同じ物を使う輩でな……」
 エラゼルの顔が険しいものになる。怒りを滲ませ、拳を握り締める。
「奴以外の相手にも手加減は要らぬ、という事だな」
 ラーソルバールは無言で頷く。剣に手を掛け、静かに抜き放つ。
「嬢ちゃん達は、無力化するだけでいい、手を汚す必要はない。始末するのは大人の仕事だ。俺はその為についてきたんだからな」
 ラーソルバールは、驚いたようにボルリッツに振り返る。
「それだけの為に?」
「そのつもりだったんだが、連中は嬢ちゃん達には無関係だろ? 本来は領内を荒らし回る悪党共を退治するのは、俺ら帝国の人間の仕事だ。悪ぃがちっとばかし手を貸してくれ」
 照れ隠しだろうか、ボルリッツは言い終えると、頭を下げた。
「いえ、彼らは恐らく、我々の探している男の護衛だと思います。ですから、きっと私達の仕事の範囲内です。協力をお願いするのはこちらの方です」
 ラーソルバールは剣を一旦鞘に戻すと、右手を差し出し微笑んだ。
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