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第二部:第二十三章 剣が語るもの

(一)信用と賭け③

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「お兄様はルシェお姉様が来られてから、落ち着きが無いんですよ」
 エシェスは兄をつつきながら、小悪魔のように悪戯っぽく笑う。
 先に応接室に戻ってきたアシェルタートらはは、冗談を交えつつ和やかに会話をしていた。
「こら、変なことを言うな」
 アシェルタートはガイザの顔をちらりと見た後、妹を嗜める。その視線に気付いたガイザは苦笑を浮かべとと、掌をひらひらと躍らせる。
「ああ、俺に気を遣う必要はないですよ。あいつとはそこそこ長い付き合いだが、そういうのは無いんで」
「あら、あれだけ綺麗な方に興味が無いんですか?」
 兄に嗜められた事も忘れて、ガイザを見つめつつエシェスは不思議そうに首を傾げた。
「はは。何ででしょうね。多分……というか間違いなく、向こうにもそういうのは無いです。良い友人関係ですけどね」
「あら、フォスカさんも素敵な方ですのに……」
 その言葉にガイザは少し困ったような表情を浮かべる。隠している悪魔の尻尾が、楽しそうに揺れ動いているのではないかと思うような、生き生きとした姿に、シェラは笑いを誘われた。
 そんな止まらぬ妹の様子に、アシェルタートは呆れ顔をする。
「お前はもう黙っていろ」
 妹の口を手で塞ぐと、ひとつため息をついた。
「済まない、喧しいのがいて」
 もがくエシェスの様子を見て、シェラは慌てて口元を押さえて笑いを堪えた。

 エシェスがようやく兄の手を引き剥がし、シェラの笑いが堪えられなくなった時だった。部屋のドアがノックされ、ボルリッツの声が室外から響いてきた。
「アシェル、入るぜ」
「どうぞ」
 扉を開け、ボルリッツとラーソルバールが入室してきた。
「アシェル、いきなりですまんが、今日から数日間休みを貰うが、構わないか」
 ソファに腰掛けつつ、ボルリッツが唐突に話を切り出したので、アシェルタートは返答に困った。
「は……? 別に構いませんが、どういうことですか?」
「ちょいとな、嬢ちゃんたちについて行くことにした。仕事っぷりを見に行こうと思ってな」
「はぁ……。まあ、見届け人は居て困る事はないでしょうが」
 アシェルタートの答えにボルリッツは笑顔を浮かべたが、直後に額を押さえ顔をしかめた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
 心配するアシェルタートに、作り笑顔でボルリッツは何とか誤魔化した。

 ボルリッツがラーソルバールに対して申し出たのは、常闇の森への同伴と、隠さずに全力で模擬戦闘を行う事のふたつだった。「寸止めなどはせず、振り抜け」と偉そうに言ったまでは良かったが、ラーソルバールの剣に反応できず、額に一撃を食らっていたのである。
 その後、ボルリッツは悔しさのあまり再戦を申し込んだが、今度は腹部に強烈な斬撃を食らい、戦闘継続を断念するという始末だった。相手と全力で戦ってみたいというのは、戦士の性というやつなのだろう。
 隠す必要が無くなったので、全力で相手をしたのだが、やり過ぎてしまい悪いことをしたかな、と少々反省するラーソルバールであった。

「ボルリッツさんが同行されるなら安心です」
 アシェルタートはそう言ってに微笑むと、ラーソルバールも多くを語らず、「そうですね」とだけ答えて笑顔で返した。
(安心も何も、この嬢ちゃんは心配する必要ないぞ……。俺も年をとったとはいえ、若い頃でもあれは……)
 ボルリッツは心の中で反論する。
「では、ボルリッツさんの支度はすぐに整えさせます。ではマスティオ、そのように……」
「はい、畏まりました」
 恭しく頭を下げると、脇に控えていた執事は速やかに退室していった。
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