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第二部:第二十三章 剣が語るもの

(一)信用と賭け②

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 ボルリッツと二人、邸庭に取り残されたラーソルバールに緊張が走る。口を一文字にして、ボルリッツの顔を見据える。
 そんな様子を見透かしたかのように、ボルリッツが口を開く。
「そんなに身構えなくてもいい。ルクスフォール家に害を為さねえってんなら、何もしやしねえよ」
 ラーソルバールは無言でボルリッツの顔を睨む。
「怖い目をするなよ。嬢ちゃんのアシェルに対する感情が本物なら、疑う必要もない事だ」
「え?」
「嬢ちゃんは、アシェルに惚れてるんだろ? だから、ここから先の話は誰にも言わねえと約束しよう。……まず、嬢ちゃん達はシルネラの人間じゃねえだろ?」
「!」
 見抜かれていた。まさか、シルネラ国民では無いことまで悟られるとは思っていなかっただけに、ラーソルバールは動揺は隠しきれなかった。
「何かを隠しながらの剣だろうという事は分かった。誤魔化し騙しながら、あれぐらいの剣が使えるなら、冒険者として名が売れていても良さそうなもんだが、中級程度というのがおかしい。実を言うとな……、前の二人は嬢ちゃんほど隠すのが上手くなかった。あれは正規の訓練を受けている者の剣だ」
 ラーソルバールは観念したように、「ふぅ」とため息をついた。

「どこまでお察しですか?」
「んー。……その年だと、騎士というよりは見習いだな。そういった養成がしっかりしている所と言えば、この辺りじゃ帝国かヴァストールくらいなもんだ。だからヴァストールの騎士見習いあたりだろうと考えた。だが、ここに何の理由があってやって来たか、それが分からねえ」
「誰にも……あの方にも言わないと?」
「ああ、信じてくれていい」
 たかが口約束だ。それを信じるということは賭けに近い。一瞬迷いが生じたが、拳を握り締めると腹を括った。
「私はお察しの通り騎士見習いの学生です。詳しくは話せませんが、帝国がヴァストールに戦争を仕掛けようとしているのを止めるために送られた、と理解しています」
「……帝国が戦争を?」
「おそらく西方戦線が一段落すれば、次はヴァストールという事でしょう」
「やれやれ……、アシェルに対して素直になれないのはそういう事か」
 ボルリッツは頭を掻きながら、苦笑する。そして一瞬、躊躇したあと右手をラーソルバールの頭の上に乗せ、優しく撫でた。
「そんな泣きそうな顔をするな。嬢ちゃんが戦争を無くせば、大手を振ってアシェルと一緒に居られるんだろう?」
「……はい」
 僅かに微笑みを浮かべるラーソルバールの苦悩の全ては、ボルリッツには分からないかもしれない。だが、この娘が背負っているのが、二つの国というとてつもなく大きな存在だということも、その身にかかる重圧も理解できる。そして国を守りたいという心と、アシェルタートに対する想いの板挟みで苦しんでいるという事も。

「俺は元々流れ者の傭兵なんでな、正直言うと帝国がどうなろうと知った事じゃねえ。ただ、ルクスフォール伯爵には恩が有るんで、それは返したい」
「恩ですか……」
「ま、色々とな。だから、俺もできる限り協力しよう。可愛い弟子のために、少しくらい手を貸してやっても罰は当たらんと思うからな……」
 ボルリッツは軽快に笑った。ラーソルバールの抱える悩みを軽くしようと思っての事かもしれない。
「それでな、ひとつ知りたい事があるんだが…」
 ボルリッツは茶目っ気を交えた笑顔で言った。
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