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第二部:第二十二章 暗き森への誘い
(四)疲労と休息と③
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ガラルドシアに到着すると、足早に伯爵邸へと向かう。
ラーソルバールはこの時点でも逡巡しており、報告という目的が無ければ、ここへはやって来なかったかもしれない。
「ルシェ・ノルアールです。お約束していたご報告に上がりましたと、マスティオ様にお伝え下さい」
門の警護に頭を下げると、シェラから聞いていた執事の名を出す。執事に報告すれば、アシェルタートに会わずに済むのではないか。そんな淡い期待をしていた。
間もなく現れた執事は、三人を邸宅内に案内する。
前回と同じように応接室で待っていると、ラーソルバールの願い虚しく、アシェルタートが若い娘と壮年の男性を伴って現れた。
「お忙しいところ申し訳ありません」
努めて平静を保ち、ゆっくりと頭を下げる。
「いや、丁度暇をもて余していて、妹の相手をしていたところだよ」
「ん? 私が兄様の相手をしていたんですよ」
隣に居た娘は頬を膨らませて怒って見せる。
「ああ、この怒っているのが私の妹で……」
「エシェスと申します」
スカートの端をつまんで優雅に挨拶を行う。
「どこの者とも知れぬような冒険者相手に、わざわざのご挨拶、痛み入ります」
このエシェスという娘は、ラーソルバールよりやや年下に見えた。無邪気な笑顔を見るに十三歳程度だろうか、と想像する。
「すまない、まずは報告を聞こう」
アシェルタートは兄の顔から、領主代理の顔に切り替えた。
「領内の遺跡に関しては、今のところ目ぼしい発見はありません」
「まあ、そこは想定内だな」
表情を変えずにアシェルタートは頷く。
「討伐した怪物や、獣の類ですが、ゴブリンが三十五、オークが十八、ノールが八、狼が十、大蜥蜴が一、大蛇が二というところです。あとは探索を始めたばかりの頃に、更に巨大な蛇がいたと思われますが、探索を優先するために戦闘を避けています。あとは巨大な昆虫を何度か駆除しましたが数えておりません」
「ノールまでいたのか……。しかもたった三日か四日でそんなにか?」
明らかに驚いた様子で問いかける。
「怪物の討伐に関する報酬など一切考慮しておりませんから、証明する物を何も所持しておりません。嘘を言ってはおりませんが、信じるかどうかはお任せします」
「それだけの数、こなせるのなら剣の腕も大したもんだろう」
アシェルタートの隣に立っていた壮年の男が話しに割って入ってきた。男は興味津々といった様子で、ラーソルバールの顔を見る。
「いえ、所詮は冒険者としても中級程度のもの、たかが知れています」
気取られぬよう、萎縮するように否定する。
「ああ、失礼。この人は父の友人のボルリッツだ。以前は傭兵隊の隊長をしていた事もある。今はうちの警護や我々の剣術指南をしてくれている」
「ボルリッツだ。後で剣の腕を見せてくれ」
「はぁ……」
嫌とは言えない雰囲気に、ラーソルバールは曖昧な返事で濁そうとする。
「他の仲間は?」
「フルルカで休息を兼ねて、食糧や消耗品の調達をしております」
アシェルタートは納得したように頷く。
「ということは、すぐにフルルカに戻るのか?」
「そのつもりです」
努めて冷静に振る舞おうとしているのだが、自分の表情は大丈夫だろうか、と心配になる。
「いま用意させているから、昼食くらいは一緒に食べていくといい。怪物退治の礼にもならないかもしれないが」
アシェルタートはそう言って、にっこりと笑った。
ラーソルバールはこの時点でも逡巡しており、報告という目的が無ければ、ここへはやって来なかったかもしれない。
「ルシェ・ノルアールです。お約束していたご報告に上がりましたと、マスティオ様にお伝え下さい」
門の警護に頭を下げると、シェラから聞いていた執事の名を出す。執事に報告すれば、アシェルタートに会わずに済むのではないか。そんな淡い期待をしていた。
間もなく現れた執事は、三人を邸宅内に案内する。
前回と同じように応接室で待っていると、ラーソルバールの願い虚しく、アシェルタートが若い娘と壮年の男性を伴って現れた。
「お忙しいところ申し訳ありません」
努めて平静を保ち、ゆっくりと頭を下げる。
「いや、丁度暇をもて余していて、妹の相手をしていたところだよ」
「ん? 私が兄様の相手をしていたんですよ」
隣に居た娘は頬を膨らませて怒って見せる。
「ああ、この怒っているのが私の妹で……」
「エシェスと申します」
スカートの端をつまんで優雅に挨拶を行う。
「どこの者とも知れぬような冒険者相手に、わざわざのご挨拶、痛み入ります」
このエシェスという娘は、ラーソルバールよりやや年下に見えた。無邪気な笑顔を見るに十三歳程度だろうか、と想像する。
「すまない、まずは報告を聞こう」
アシェルタートは兄の顔から、領主代理の顔に切り替えた。
「領内の遺跡に関しては、今のところ目ぼしい発見はありません」
「まあ、そこは想定内だな」
表情を変えずにアシェルタートは頷く。
「討伐した怪物や、獣の類ですが、ゴブリンが三十五、オークが十八、ノールが八、狼が十、大蜥蜴が一、大蛇が二というところです。あとは探索を始めたばかりの頃に、更に巨大な蛇がいたと思われますが、探索を優先するために戦闘を避けています。あとは巨大な昆虫を何度か駆除しましたが数えておりません」
「ノールまでいたのか……。しかもたった三日か四日でそんなにか?」
明らかに驚いた様子で問いかける。
「怪物の討伐に関する報酬など一切考慮しておりませんから、証明する物を何も所持しておりません。嘘を言ってはおりませんが、信じるかどうかはお任せします」
「それだけの数、こなせるのなら剣の腕も大したもんだろう」
アシェルタートの隣に立っていた壮年の男が話しに割って入ってきた。男は興味津々といった様子で、ラーソルバールの顔を見る。
「いえ、所詮は冒険者としても中級程度のもの、たかが知れています」
気取られぬよう、萎縮するように否定する。
「ああ、失礼。この人は父の友人のボルリッツだ。以前は傭兵隊の隊長をしていた事もある。今はうちの警護や我々の剣術指南をしてくれている」
「ボルリッツだ。後で剣の腕を見せてくれ」
「はぁ……」
嫌とは言えない雰囲気に、ラーソルバールは曖昧な返事で濁そうとする。
「他の仲間は?」
「フルルカで休息を兼ねて、食糧や消耗品の調達をしております」
アシェルタートは納得したように頷く。
「ということは、すぐにフルルカに戻るのか?」
「そのつもりです」
努めて冷静に振る舞おうとしているのだが、自分の表情は大丈夫だろうか、と心配になる。
「いま用意させているから、昼食くらいは一緒に食べていくといい。怪物退治の礼にもならないかもしれないが」
アシェルタートはそう言って、にっこりと笑った。
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